核情報

2007.7.12

ACT: 米印核取引──第2ラウンド


米国ACT誌巻頭コラム

米印核取引──第2ラウンド(原文) 『アームズ・コントロール・トゥデー』2007年5月号

ダリル・キンボール

「核不拡散条約(NPT)」は、NPT未加盟国に対する優遇措置というやっかいな重荷がなくとも既に十分な困難に直面している。ところが、昨年12月にジョージ・W・ブッシュ政権が議会の承認を得た無分別な核貿易法案は、米国及び世界の核拡散防止の規則に穴を開けるものになりかねない。法案は、インドが1970年代にやったように、米国の核技術を悪用して核兵器を作ることを防ぐために作成された米国の法律に関して、インドだけを免除することを認めるものである。

しかし取引はまとまったわけではない。米国とインドは、公式の原子力協力協定を締結しなければならないし、米国の指導者らは、45ヶ国からなる「核供給国グループ(NSG)」――包括的保障措置を受け入れない国々との貿易を制限している――のガイドラインの変更についてコンセンサスによる承認を得なければならない。

これから数週間あるいは数ヶ月の交渉の中で、米国側は、核不拡散体制の損傷をさらに悪化させる譲歩をしてはならない。他の指導的な立場の政府も、この取引の深刻な欠陥の修正を助け、全ての国にもっと高い不拡散・軍縮の基準を守らせるようにする責任を負っている。

インドのとの原子力貿易の制限解除に手を貸すとのブッシュの約束と引き替えに、インドのモンマハン・シン首相は、核実験を再開しないとのインドの誓約を繰り返し、2014年までに国際的査察を受け入れる原子炉を増やすことに同意した。しかし、インドは、少なくとも8基の他の原子炉と、インドの膨大な軍事的核施設群を立ち入り禁止のままとすることに固執しており、また、核兵器用のプルトニウムとウランの製造の中止を拒否している。

このような状況の下では、部分的な保障装置は、シンボルに過ぎず、中身を伴わない。さらに悪いことに、米国のウランの供給は、量的に限られたインドの国内産ウランを核兵器用の供給に回すことを可能にし、NPTの第一条の下での米国の法的義務――インドの核兵器計画を助けてはならない――に違反するものである。

ブッシュ政権は、これらの反対を一蹴したが、取引の計画を狂わせそうな新たな問題が浮上している。米国とインドの交渉者らは、原子力協力協定案の作成で対立しているのである。核エスタブリッシュメントの圧力の下で、インドの担当者らは、説明責任を減らすとともに民生及び軍事用計画の能力を高めるさらなる譲歩を求めている。しかし、このような譲歩は、昨年、米国議会が定めた米印原子力貿易の最低限の条件と矛盾するものである。

現在の米国の法律は、インドが核実験を再開するか、その他のかたちで協定に違反した場合には、米国の提供物は返還されなければならないと規定している。ところが、ニューデリーは、協定からこれらの規定に関する文言を削除し、商業的原子力契約は、その基礎となる協定の違反があっても存続するよう保障することを望んでいる。他の177ヶ国と異なり、インドは包括的核実験禁止条約に署名することを拒否しており、実験をしないといういかなる法的な義務を負っていない。同時に、ニューデリーは、インドがまた核実験で世界に挑戦すれば、他の国々の側も、インドを助けるという点でいかなる法的あるいは政治的な義務も負っていないと言う現実を直視しなければならない。

米国議会はまた、インドの「民生用」核施設及び米国供給物質に対する保障措置は、永続的で、国際原子力機関(IAEA)の基準に従ったものでなければならないと規定している。インドは、包括的保障措置を拒否している一方で、6基の古い原子炉に対する施設ごとの保障措置は永久的なものを認めている。しかし、ニューデリーは、外国の燃料の供給が絶たれた場合には停止するという「インド特例」の保障措置を求めている。このようなオプションの前例も保障措置計画も存在しておらず、IAEAにとって、あるいは、その35ヶ国からなる理事会にとって、このような中身のない協定を承認するのは極めて無責任なこととなる。

昨年の法律は、機微な核技術――ウラン濃縮及びプルトニウム分離機器を含む――のインドへの輸出を明確に禁止している。法律はまた、米国期限の物質の濃縮あるいは再処理については米国の承認を必要とするとしている。インドは、これに猛烈に反対している。しかし、これまでのところ、米国側交渉者らは抵抗している。これは、一つには、インドがその再処理及び濃縮施設と、プルトニウム生産用の高速増殖炉に対する永久的な保障措置に反対しているためである。

最後になったが、取引は、NSGのコンセンサスによる承認を得なければならない。米印両国の外交官らからの大きな圧力にもかかわらず、多くのNSG諸国は、取引について懐疑的または反対の姿勢である。しかし、全ての詳細を見るまで、公式には、その判断を保留している。一方、中国及びフランスの担当者らは、NSGが「インド特例」の規則ではなく、「基準に従った」貿易ガイドラインを採択することを提案している。これは、中国の同盟国パキスタンと、そして、場合によってはイスラエルとの原子力貿易の道を開くもので、新たな核不拡散のリスクをもたらすことになる。

インドあるいは他の国々に対する原子力援助が核兵器の生産の手助けをすることにならないようにするため、NSGの責任ある国々は引き下がってはならない。少なくとも、NPT非加盟国に対する濃縮あるいは再処理技術に関連した原子力貿易を認めるものは拒否し、核兵器用核分裂性物質の生産を続けたり、核実験を再開したりするNPT非加盟国との原子力取引は、禁止しなければならない。

核兵器の拡散及び維持に対する継続中の闘いは、指導的な国々が、多くの国に対し遵守を説く一方で、友好国に対しては例外を設けるようでは、困難になるだけである。インドは、その核兵器を増やし改良したいという欲求を克服できれば、世界の原子力技術市場へのアクセスを得ることができる。他の国々にとって、提案は、21世紀の核のコントロールに対するもっと普遍的で、責任のあるアプローチへの取り組みについてのテストを意味している――落第することのできないテストである。


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