核情報

2007.11

米国の対イラン戦略再考の時


米国ACT誌巻頭コラム

米国の対イラン戦略再考の時(原文) 『アームズ・コントロール・トゥデー』2007年11月号

ダリル・キンボール

イランの指導者らが2年前に同国のウラン濃縮計画を中止させるためのインセンティブをまとめた多国間パッケージを拒否して以来、欧米諸国は、目標を定めた制裁措置という戦略をとってきた。しかし、この努力は、イランの最も憂慮すべき核計画の進展を鈍化させる効果を上げていない。

ブッシュ政権は、イランとの間に広範なかたちの対話を進める方針をとらず、イランが核計画を停止するようにとの国連安保理の呼びかけに従った場合にのみ交渉すると言ってきた。同時に、大統領及び副大統領は、イランが「核兵器製造の知識を獲得する」のを防ぐために軍事力を行使する用意があると示唆している。

これは、失敗の処方箋である。イランの指導者らは、戦術については意見が分かれているが、ウラン濃縮を追求し重水炉を作るということでは、以前にもまして決意を固めている。テヘランは、これらの施設は、エネルギーと医療用アイソトープ製造のためだけのものだと主張しているが、同じ施設で兵器級の核分裂性物質を作ることもできる。イランの指導者らは、彼らの挑戦的態度は自らの威信や他国との和解の可能性を危うくするということを理解すべきである。

もっと効果的なアプローチが必要である−−そして早急に。米国その他の安保理の主要メンバーは、イランの指導者、軍部及びエネルギー関係権益、外国からの投資などに的を絞ったこれまでより厳しい制裁措置を科そうとしているが、同時に、イランの指導者との包括的で持続的な直接対話を進めなければならない。

ヨーロッパ主導の努力は2005年に失敗に終わりはしたが、自己抑制的行動のもたらす利益を拡大し、厳しい国際的制裁措置を解除する可能性を作り出す新しい強力なパッケージを米国が支持するかたちで出せば、イランの濃縮能力の範囲を制限するのに成功する可能性がある。欧米の指導者達は、機微な核燃料サイクルの活動を停止し、国際原子力機関(IAEA)との協力を拡大すれば、さらなる政策措置を実施しないと呼びかけることによって交渉を始めることができるだろう。

核燃料サービスと共同研究の機会をロシアの施設で提供するとの以前のモスクワの提案を復活させるべきである。米国の政府関係者や大統領候補は、軍事攻撃についての発言を慎むべきである。軍事攻撃で得られるのはイランの核計画の遅延だけであり、それは、同時に、中東におけるより広範な戦争をもたらし、イランの世論を核兵器製造支持の方向の動かしてしまうだろう。

米国の外交官は、むしろ、イランが本格的濃縮をせず、IAEAのアクセスの拡大を認め、秘密に覆われていた実験について未解決となっている疑問に完全に答えれば、イランの核施設に先制攻撃をかけるようなことはしないとの保証をする可能性の方を示してみせるべきである。

南アフリカを含む主要非同盟国は、核技術は威信を高めるものであり、イランは濃縮能力を追求する「権利」を有しているというような誤った考え方を強化するのではなく、イランの計画を抑制するために協力する責任を持っている。「核不拡散条約(NPT)」の下では、非核保有国は、「核エネルギーを平和目的のために利用」して良いが、それは、NPTの保障措置の約束を守った場合だけである。イランはこれを守っていないのである。

このような戦略は、成功を保証するものではない。しかし、米・イランの軍事衝突または核武装国家イラン、あるいはその両方が出現するのを避ける唯一のアプローチのようである。欧米諸国の外交官は、より厳しい制裁措置に対する支持を国連安保理から得ることができるかもしれない。しかし、イランの核計画は、これを止めようとする努力よりも早く進んでいる。1年前、イランでは、300機のガス遠心分離器が設置されていた。現在、その数は3000近くに達している。

イランがそのウラン濃縮用遠心分離器を増やして行くに従い、力関係はイランに有利になり、「停止」の価値は下がってしまう。イランが、ウラン濃縮の研究段階から生産レベルに進み、さらに核兵器へと進めば他の幾つかの中東国家も同じ道を進まざるを得ないと感じるかもしれない。

まだ、交渉による危機の解決が可能かどうか試す時間はある。しかし、それは、もっと真剣なイニシアチブが追求された場合にのみである。IAEAの推定によると、イランは、3−8年の間に手に入れる物質で、その気になれば核爆弾を1個作ることができるという。

残念ながら、ブッシュ政権は、直接交渉はイランに正当性を与えるだけで、何も得られないとの恐れから、以前あった外交的機会を拒否してしまった。ジョージ・W・ブッシュ大統領は10月4日に述べている。「交渉のための交渉は、しばしば間違ったシグナルを送ってしまう。結果を得るための交渉は、実施するに値する。」

その通りである。しかし、ブッシュ自身が指摘した通り、ブッシュ政権は、ピョンヤンが原子炉と核兵器用のプルトニウムを再処理する施設を運転していたにも関わらず、北朝鮮との6ヶ国協議に参加した。この戦略の結果、不完全ではあるが極めて重要な取り決めを達成できた。北朝鮮の主要施設を検証可能なかたちで閉鎖し、核計画の解体をもたらす可能性のある取り決めである。

ある政策が良好な結果をもたらせない場合、ほとんどの政治家や外交官は、同じ政策をもっと提唱するというのではなく、政策を調整するという良識を持っている。ワシントン、テヘラン、その他の場所の指導者達は、彼らの現在の戦略を再考し、解決に向けた最初の一歩を踏み出す勇気を持たなければならない。


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