核情報

2008. 4

核廃絶について現実的になる


米国ACT誌巻頭コラム

核廃絶について現実的になる(原文) 『アームズ・コントロール・トゥデー』2008年4月号

ダリル・キンボール

40年近く、米国の各大統領は、1968年の核拡散防止条約(NPT)の下での「核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置」を遂行するうえでの米国の義務を果たす意図を表明してきた。

しかし、この目標を本気で考えた大統領はほとんどおらず、本気で考えた大統領も、核のない世界に近づく歴史的機会を逸してしまった。次期大統領から、これは変えることができるし、変えなければならない。そうしなければ、核戦争の危険性を減らし、拡散を抑え、壊滅的なテロリズムを防ごうという世界的な試みは失敗に終わるだろう。

ジョージ・シュルツ、ウイリアム・ペリー、ヘンリー・キッシンジャー、サム・ナン、そして、他の二十数人に上る元共和・民主両政権関係者が、ウォール・ストリート・ジャーナルのエッセイで、我々は、「核の劇的拡散の瞬間」に近づきつつあると述べている。

ワシントンが核廃絶について真剣にならなければ、核を持たない多数派にいる各国は、新しい措置──核兵器用物質の拡散を規制し、検証体制を改善し、NPTを各国に遵守させるためのもの──に抵抗し続けるだろう。シュルツらが米国に対し、核兵器のない世界という目標を再確認し、その目標に向けて即座に措置を講じることを提案している主な理由の一つはそこにある。

現在残っている三人の主要大統領候補は、核廃絶のための米国の新たな行動についてレトリック的支持を表明している。核拡散防止に関する米国の正当性を再確立するためには、次期大統領は、三つの主要分野において、これらの言葉を劇的で意味のある行動に変えなければならない。

まず、合わせて1万発以上ある米ロの核兵器の劇的で逆行不能の削減を進めなければならない。ホワイト・ハウスとクレムリンは、1991年の「戦略的核兵器削減条約(START)」とその検証条項──2009年12月に失効──に代わる措置について合意できていない。これは、主として、ジョージ・W・ブッシュ大統領が、配備戦略核を1700−2200より減らそうとのロシア側の提案に抵抗しているためである。予測されても特定されてもいない脅威に対して備える「ヘッジ」として、ブッシュは、ミサイル削減を条約で規定することに反対し、さらに、新しい核弾頭を作ることや、米国の核兵器製造施設群を強化することを目指している。

しかし、冷戦が終わった今、米ロの指導者らが何千もの戦略核を高度な警戒態勢においておくことを正当化するもっともな理由はない。一時間以内に国全体を壊滅させることのできる大量の兵器というのは、プラス面よりもマイナス面の方が大きい。なぜなら、他の国々の間に不信を招き、最悪の事態を想定させると共に、偶発的なあるいは許可されていない発射の危険性を存続させるからである。

新しい思考によって、米ロのあらゆるタイプの核弾頭を劇的に削減し1000発以下とすると同時に、戦略ミサイルの上限を低くする新たな条約を結ぶことが可能であり、そうすべきである。START型の簡素化された検証体制を持つ新しい条約は、両国が核弾頭やミサイルを単に倉庫に貯蔵しておくというのではなく、実際に解体するとの信頼を回復することができる。また、過失を防ぐために、両国は、核攻撃をかけるのに必要な時間を長くするための措置をとることができるだろう。

第二に、シュルツらが提案している通り、次期大統領は、先頭に立って、「包括的核実験禁止条約(CTBT)」を早期に再検討し批准するための新たな超党派的取り組みを進めなければならない。CTBTの核拡散面の価値と検証可能性、そして、永久的CTBTの下で現存の核兵器を維持する能力について上院を説得するのは、難しくはあるが可能である。

残念ながら、CTBTの目的を台無しにしてしまうような不必要な妥協措置を提案している者がいる。ハロルド・ブラウン元国防長官やジョン・ドイッチ元CIA長官などだ。CTBTに懐疑的な者の支持を得るために、新たないわゆる「信頼性のある」代替核弾頭を作るという、ブッシュの高くつく計画を受け入れることを提案している。

このよう提案は、政治的にリスクが高く、近視眼的なものである。既存の核兵器を維持する上での米国の能力は十分以上であるし、また、新しい世代の核弾頭の製造は、新しい設計について実験をせよとの要求をもたらす可能性があり、核廃絶やNPTにとってのCTBTの主要な価値を損なわせてしまうう。このような道を進めば、他の国々は、米国はCTBTの裏をかいているとみなし、CTBTから得られるものはほとんどないと結論づけてしまうだろう。

第三に、次期大統領は、核兵器の役割について再評価し、根本的にそれを減らさなければならない。今日、核を持っていない敵国と戦うために米国の核兵器を使うことを正当化するような状況は考えられない。戦闘における核兵器の役割を主張する政策は、核拡散のリスクを高めるだけである。次期大統領は、米国は、核兵器を先に使ったり、核兵器を持っていない国に対してこれを使うことはないと宣言すべきである。

冷笑家たちや、核の現状の支持者らが、核のない世界への行動は、願望的思考に基づく行為と考えるというのは驚くに値しない。しかし、本当の意味での現実離れした幻想は、米国の側で核廃絶に向けた大胆な行動を起こさずにおいて、他の国々の側で核の自制や核拡散防止のさらなるコミットメントがなされると期待することである。

参考


核情報ホーム | 連絡先 | ©2008 Kakujoho