核情報

2010. 3

ACT:NATOの核の遺物をなくせ


米国ACT誌巻頭コラム

NATOの核の遺物をなくせ 『アームズ・コントロール・トゥデー』(原文)『アームズ・コントロール・トゥデー』2010年3月号

ダリル・キンボール

50年近く前、米国は、いわゆる戦術核をヨーロッパにおけるNATO戦力に導入した。ソ連による陸上攻撃を抑止し、必要となれば、これに対して使用するためである。その後まもなく、ソ連もそれに従った。

いまや米ソの軍事競争は終わっている。しかし、両国とも、大量の戦術核兵器の残存物を維持している。150〜250と推定される米国の自然落下型の核爆弾が5つのNATO諸国の6基地に残っている──ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコである。ロシアは、約2000発の戦術核兵器を所有していると推定されている。これらの使用準備レベルは様々である。

21世紀においては、戦場用の核兵器は、ヨーロッパあるいはロシアの防衛にとって意味のある軍事的役割は果たしていない。そして、これらの兵器の喪失、盗難の可能性は、受け入れることのできない核テロリズム・リスクをもたらしている。これらの兵器は、その破壊力と逃れようのない付随的影響のため、非核ターゲットに対する手段としては不適当なものとなっている。NATOは、戦術核兵器を単にNATOの兵器の一部として扱うのではなく、今こそ米国の前進配備を取り除くことに合意すべきである。そうすれば、ロシアに対し、その米側より多い戦術核兵器を集中管理し、検証可能な形で解体するよう促すことができる。

ヨーロッパの指導者らは、やっとNATOの時代遅れの防衛ドクトリンの変更を求め始めている。このドクトリンは、ヨーロッパにおける米国の前進配備の核戦力が「欠かすことのできない政治的・軍事的リンクを提供している」としているのである。ベルギー、ドイツ、ルクセンブルグ、オランダ、ノルウェーの外相らが2月26日のNATO事務総長宛ての書簡において、「核軍縮に向けた今後の措置における非戦略核兵器」の扱いも含め、核軍備管理に関する行動についてのNATOの支持を呼びかけた。NATOは、その「戦略概念」を11月までに改訂することになっている。

5人の外相の書簡は、NATOの核政策の変更を求める米欧のトップレベルの指導者らの一連のステートメントの最新のものであるに過ぎない。昨年4月、ドイツの当時の外相フランク=ヴァルター・シュタインマイヤーは、同国の『シュピーゲル』誌に「これらの兵器は、今日、軍事的に時代遅れだ」と述べ、残っている米国の核弾頭が確実に「ドイツから撤去される」ようにするための措置を講じると約束した。現外相のギド・ヴェスターヴェレは、10月25日、ドイツ新政権は「ドイツにまだ配備されている核兵器──冷戦時代の遺物──の最後のものが撤去されるように同盟国との協議に入る」と述べた。

2月1日、ポーランドのシコルスキー外相とスウェーデンのビルト外相が、インターナショナル・ヘラルド・トリビューンに掲載された共同執筆の投稿において、米ロに対して「非戦略核兵器の大幅削減について早期に成果」を上げるよう呼びかけた。目を見張らせるようなモダンな表現で、二人は、こう述べている。「我々は、今日及び明日のヨーロッパにおいて安全保障上の課題にまだ直面している。しかし、どのアングルから見ても、これらの課題を解決するうえで核兵器の使用が果たすべき役割はない。」

ポーランドのような東側に位置する同盟国は、まだ、ロシアによる強制の可能性や同国にまだ残っている戦術核兵器について憂慮している。今日まで、モスクワは、その戦術核兵器の移動についての議論を拒否してきた。ロシア側は、自国の国境沿いに配備されたNATOの核兵器とロシア側から見た通常戦力の不均衡をその理由に挙げている。

このため、シコルスキーと米国の高官らは、今では、米国とNATOはロシアに対し、その米側より多い戦術核兵器を集中管理し、削減するよう働きかけるために、ヨーロッパにおける比較的少数の時代遅れの戦術核兵器を交渉によって手放す用意がなければならないと理解しているようである。ヒラリー・ロダム・クリントン国務長官は、2009年1月、米国は、ロシアとの将来の軍縮交渉過程においてすべての種類の核弾頭──配備、非配備、戦略、非戦略核兵器──に関して削減を追求すると述べている。

しかし、未だに1960年代時代の考え方を持っているものがいる。前進配備の米国の核兵器は、トルコのような同盟国が自分たちの核兵器能力を取得しようとするインセンティブを減らすというのである。実際は、米国とNATOの安全保障のコミットメントがトルコの防衛に対するこれらの兵器のプレゼンスを無用のものにしており、トルコが核兵器計画を持てば、それは、トルコの安全を高めるのではなく低下させることになる。さらに、トルコ政府は、軍縮プロセスの中に、「削減と廃棄を目指して」「すべて非戦略核兵器を含める」ことを公式に支持している。

NATOの外相らは、4月にエストニアで会合を開く。重要な核不拡散条約再検討会議のわずか数日前のことである。外相らは、この機会を捉えて、NATOの核共有は同盟の防衛にとってもはや必要でないと宣言することにより、核兵器の重要性を下げるべきである。そうすれば、米国にとって、ロシアに対し、次のもっと包括的な削減交渉ラウンドの一環として、過剰な戦術核兵器の核弾頭の数的管理と検証可能な解体についての協定の交渉を呼びかけることができるようになる。

シコルスキーとビルトが述べているように、「これらの兵器は、危険な過去の危険な遺物である──これらの兵器が我々の共通の将来を危険に曝すことを許してはならない。」すべての国が核不拡散と核テロリズムの脅威に直面していることからすると、何もしないのは、責任のあるオプションではない。


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