核情報

2007.7.24

米国専門家ら、米国議員へ呼びかけ−−インドとの原子力協力の制限を

米国専門家ら、米国議員へ呼びかけ−−インドとの原子力協力の制限を 2007年5月14日

2007年5月14日、米国の14人の専門家(3人の元米国核不拡散問題担当高官−−ジョージ・バン、ハル・ベンゲルズドルフ、フレッド・マクゴールドリック−−を含む)が、米国の上下両院の議員に対し、米国政府がインドと交渉中の米印原子力協力協定案において、2006年12月に議会の定めた法律を無視してインドに譲歩することを許さないように訴える書簡を出した。

インドとの原子力協力と法律の一貫性を確保せよ

(原文 pdf) 2007年5月14日

この書簡の目的は、昨年12月にヘンリー・ハイド米印平和利用原子力協力法 (pdf)で認められたインドとの民生用原子力協力の再生措置に付与された一連の中核的条件・制限をブッシュ政権に守らせるよう議員に求めることである。

インドとの貿易を始めるには、米国とインドは、原子力協力につい公式な協定を結ばなければならない。そして、この協定は、議会の承認または拒否の対象となる。さらに、ヘンリー・ハイド法は、45ヶ国からなる「原子力供給国グループ(NSG)」が、コンセンサスによってそのガイドラインを変更することに合意しなければならないとしている。このガイドラインは、現在、国際原子力機関(IAEA)の包括的保障措置を受け入れていない国(インドを含む)との貿易を制限している。

この数週間、米国とインドの政府関係者は、原子力協力協定案の条件を巡って相当の意見の相違があることを認める発言を行っている。米国の交渉の立場は、ヘンリー・ハイド法及び原子力法 (pdf)の関連部分(原子力協力協定に関するセクション123及び米国原子力協力の停止に関するセクション129を含む)において規定された要件に基づいている。

核エスタブリッシュメント及び野党からの圧力の下で、インド政府は、幾つかの重要な部分においてブッシュ政権からさらなる譲歩を得ようと働きかけている。今月(2007年5月)初め、米印政府関係者は、交渉の「進展」について報告し、ニコラス・バーンズ国務次官(政治問題担当)が交渉を「完了」させるために5月21日にニューデリーを訪問すると発表した。

ブッシュ政権が、幾つかの分野でインドの立場に譲歩することによって交渉をまとめることになれば、その結果は、説明責任の低減、インドの核兵器製造能力の増大、米国の拡散防止努力の信頼性に対するさらなるダメージ、そして、議会によって法的に定められた貿易の最低条件と矛盾する原子力協力協定案をもたらすことになる恐れがある。

米国の法律及び民生用原子力協力に関する他の米国の確立された政策で定められた全ての要件を明示的に満たしていない米印原子力協力協定案には反対するということをホワイトハウスに伝えて頂きたい。

●核実験と米国の援助の停止

米国の現行法は、インドが核実験を行った場合、あるいは、IAEAの保障措置協定を停止するか、これに違反した場合には、原子力貿易は終わり、協定の対象となる核物質及び機器の返還を要求する権利を米国は持つものとすると定めている(原子力法セクション123(a)(4)参照。)NSGガイドラインも、核不拡散の義務に違反した国に対する供給の一時停止または原子力協力の終止を規定している。インドのマンモハン・シ首相が、インドは核実験についての一方的モラトリアムを続けると2005年7月18日に約束しているのであるから、これらの要件は問題ないはずである。それにもかかわらず、ニューデリーは、たとえインドが核実験を再開し、基礎となる協定違反があっても、商業的な原子力契約が続くとの保証を欲しがっている。

他の177ヶ国と異なり、インドは、これまで、包括的核実験禁止条約(CTBT)への署名を拒否しており、残念ながら、核実験をしないという法的な義務を負っていない。同時に、ニューデリーは、そうすることを選ぶ場合、インドがまた核実験で世界に挑戦すれば、他の国々の側も、インドを助けるという点でいかなる法的あるいは政治的な義務も負っていないと言うことを理解しなければならない。いかなる誤解も残らないようにするために、米印原子力協力協定は、インドによる核実験の再開は、米国の原子力援助の終焉をもたらすと明確に述べなければならない。

●民生用施設及び物質に対する永久的かつ無条件の保障措置

議会は、また、インドとの貿易についての現行の規制について大統領が免除措置を講じる前に、インドとIAEAが「IAEAの基準、原則、及び、慣行に従った永続的保障措置」を適用する計画について締結し、IAEA理事会がこれを承認しなければならないと定めている(ヘンリー・ハイド法のセクション104(b)(2)及び、原子力法セクション123(a)(1)参照)。インドは、包括的保障措置を拒否しているが、6基の古い原子炉については施設ごとの永続的保障措置を認めている。そして、2014年までに保障措置の下におくというさらに8基の原子炉については、インドは、「インド限定」の保障措置を求めている。外国の燃料の供給に支障が生じた場合、一時適用停止となるような保障措置である。

このようなオプションを認めるIAEAの保障措置協定というのは前例がなく、米国政府にとって、このような中身のない取り決めに合意するのは極めて無責任である。他の原子力協力協定の中にも、協定の対象となる物質に対してIAEAが保障措置を実施していない場合、あるいは、将来実施しないことになっている場合、協力相手と二国間の保障措置の取り決めを定める米国の権利を含むものがある。

●再処理及び濃縮の禁止

議会は、また、限られた状況の下におけるもの以外は、機微な原子力技術−−ウラン濃縮、プルトニウム分離、重水生産関連機器を含む−−のインドへの移転を禁止している(ヘンリー・ハイド法セクション104(d)(4)参照)。インドはこの禁止についても免除を求めている。30年以上に渡って、米国の不拡散政策は、機微な原子力技術−−核兵器用物質の生産に使うことができるもの−−の拡散を思いとどまらせることを追求してきた。ユーラトム、日本、南アフリカ、中国などの協力相手との原子力協力協定は、このような技術の移転を明確に禁止している。インドは、いかなるかたちであれ、この重要な政策の例外となってはならない。

議会はまた、米国の協定の対象となる核物質の再処理、あるいは、形態または内容の変更について米国の同意を必要とすると定めている(原子力法セクション123(a)(7)参照)。インドの政府関係者は、これに強く反対し、米国が米印協定の対象となる核物質の再処理について事前の長期的同意を米国が与えるよう要求している。米国は、これまで、少数のケースにおいてのみ、再処理の長期的な同意を与えている。すなわち、日本やヨーロッパの密接な関係の同盟・友好国の場合である。インドに対してこの追加的例外を認めることは、賢明ではない。なぜなら、インドは(日本やユーラトムの国々と異なり)所有するどの再処理・濃縮施設について永続的保障装置に合意していないからである。それどころか、プルトニウムを生産する高速増殖炉−−核兵器用物質を作るのに使える−−でさえ保障措置を受け入れていない。

ヘンリー・ハイド法において、議会は、インドに対する包括的(フルスコープ)保障措置の要求や、過去の核実験についてのペナルティー適用の可能性について、免除することを認めた。他の原子力協力相手国との協定にある基本的な不拡散条件を入れないというかたちでさらに例外を認めるのは賢明ではない。そのようなことをすれば、それは、インド−−非NPT加盟国−−に対して、NPT加盟国に与えていない優遇的扱いを認めることになる。とりわけ重要なのは、インドが最も機微な核不拡散分野において救済措置を求めていると言う点である−−すなわち、核実験、プルトニウム分離、濃縮・再処理の協力である。米国が、機微な燃料サイクル活動の規制について真剣であるのなら、今は、インドについて例外を認めるべき時ではない。

議会に提出される米印原子力協力協定が、法律で定められた要件の文言と精神を完全に尊重するものであることが極めて重要である。この条件を満たしていないいかなる協定も拒否するよう要請する。

  • ハル・ベンゲルズドルフ
    元エネルギー省不拡散政策局ディレクター、元国務省核問題オフィス・ディレクター
  • ジョージ・バン(元大使)
    スタンフォード大学国際安全保障・協力センター顧問教授*、初代米国軍備管理軍縮局法務責任者及びNPT交渉者
  • ジョセフ・シリンシオーネ
    「米国進歩センター(CAP)」副会長(国家安全保障・国際政策担当)
  • ジャン・デュプレーズ
    不拡散問題センター国際組織・拡散防止プログラム・ディレクター
  • ラルフ・アールII(元大使)
    元米国軍備管理軍縮局ディレクター
  • フランク・フォンヒッペル
    プリンストン大学科学・世界安全保障プログラム公共・国際問題教授
  • ジョン・D・アイザック
    「住むことのできる世界のための協議会(CLW)」会長
  • ダリル・キンボール
    「軍備管理協会(ACA)」事務局長
  • ローレンス・コーブ
    「米国進歩センター(CAP)」シニア・フェロー、元米国国防省次官補(マンパワー・予備問題・施設・ロジスティックス担当)
  • フレッド・マクゴールドリック
    コンサルタント、元国務省不拡散・輸出政策ディレクター
  • テリー・ロッジ
    「軍備管理提唱共同行動」コーディネーター
  • ケリー・モルツ
    核軍備管理ウィスコンシン・プロジェクト副ディレクター
  • ウイリアム・C・ポター
    モントレー国際問題研究所教授
  • ローレンス・シャインマン
    不拡散問題研究センター名誉教授、元米国軍備管理軍縮局副ディレクター
  • レン・ワイス
    スタンフォード大学国際安全保障・協力センター・シニア科学フェロー

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