核兵器の数を追い続けている専門家として著名な「米国科学者連合(FAS)」のハンス・クリステンセンと「自然資源防護協議会(NRDC)」のロバート・ノリスによると、現在世界にある核兵器の数は、約1万7000発です。1986年の約7万発という数と比べると、相当少なくなってはいますが、オバマ大統領の2009年4月のプラハ演説の影響は数の上ではあまり見られません。
国名 | 戦略核 | 戦術核 | 予備/非配備 | 保有核 | 総数 |
ロシア | 1800 | 0 | 2700( 戦術 2000) | 4500 | 8500 |
米国 | 1950 | 200 | 2500 ( 戦術 300) | 4650 | 7700 |
フランス | 290 | ─ | ? | 300 | 300 |
中国 | 0 | ? | 180 | 250 | 250 |
英国 | 160 | ─ | 65 | 225 | 225 |
イスラエル | 0 | ─ | 80 | 80 | 80 |
パキスタン | 0 | ─ | 100-120 | 100-120 | 100-120 |
インド | 0 | ─ | 90-110 | 90-110 | 90-110 |
北朝鮮 | 0 | ─ | <10 | <10 | <10 |
合計(概数) | 4200 | 200 | 5800 | 1万200 | 1万7300 |
上の表は、FASのサイト(Status of World Nuclear Forces)にクリステンセンが載せているものです。世界の核兵器は、実際に配備されているもののほか予備などを含む「軍用保有核」が約1万200発、退役して解体待ちのものを入れると、総数約1万7300発という推定です。解体待ちの状態の退役核は、米国が約3000発、ロシアが約4000発です。米国は他に、核弾頭の芯の部分(プルトニウム・ピット)を1万5000個以上保管しています。
世界の「保有核」1万200発のうち、約4400発が運用状態にある「配備核」です。このうち、米ロ合わせて約1800発が数分で発射可能な「高い警戒態勢」(ハイ・アラート)状態に置かれていると、二人は見ます。両国の核兵器は、今も一触即発の状態にあるのです。英仏も、レベルは下がりますが、短時間で使用可能な状態の核兵器を維持しています。この4ヶ国を合わせると2000発近くになるこの範疇の核弾頭をなくす事が重要です。
ロシア、1550発の新START規定達成
ロシアは、2018年までに戦略核弾頭を1550発以下にするとの新戦略兵器削減条約(新START)の規定を、同条約が発効した2011年2月5日の時点ですでに達成していました。これは、新条約の数え方のためでもあります。核搭載可能重爆撃機は各1発搭載と計算する新ルール(実際は1機に6〜20発搭載可)の計算方式を使うと、2010年初頭の米ロの戦略核は、それぞれ次のように減るとクリステンセンが指摘していました。米国 2100 → 1650。ロシア 2600 → 1740。いずれにせよ、米国は削減の速度を上げるとともに、ロシア側より圧倒的に多い配備運搬手段(ミサイルや重爆撃機)の数を減らす措置を講じるべきです。
国名 | 2013年3月 | 2012年9月 | 2011年2月 |
米国 | |||
配備運搬手段(700) | 792 | 806 | 882 |
関連の核弾頭(1550) | 1654 | 1722 | 1800 |
運搬手段総数(800) | 1028 | 1022 | 1124 |
ロシア | |||
配備運搬手段(700) | 492 | 491 | 521 |
関連の核弾頭(1550) | 1480 | 1499 | 1537 |
運搬手段総数(800) | 900 | 884 | 865 |
日米の運動でゼロとなった米海軍戦術核
米国の配備核は2012年とほぼ同じで、2010年と比べても大差ありません。変わったのは、配備戦術核の数が500から200に減ったことです。これは、海軍用の核付きトマホーク用弾頭300発が退役となったためです。これらのミサイルは、1991年9月27日にブッシュ(父)大統領が、水上艦船及び攻撃原潜から核兵器を撤退すると宣言した後、陸上保管されていました。
2009年、オバマ政権の核態勢の見直しに関連して、トマホークを維持しないと日本が不安に感じ、核武装すると主張する勢力が日本の外交官による「維持要請」を利用しているとクリステンが警告しました。これを受けた日米の運動やマスコミ報道の結果、岡田克也外相(当時)は、同年12月24日、米国務・国防両長官に書簡を送り、そのような要請があったとすれば「それは核軍縮をめざす私の考えとは明らかに異なる」と伝え、退役決定に重要な役割を果たしました。
2012年10月のパンテックス工場報告書が、トマホーク用核弾頭W80-0の解体終了と記しています。日本に寄港する艦船に載せる核弾頭はなくなりました。戦略核を積んだ戦略原子力潜水艦は、寄港しません。
残る戦術核は、欧州配備のB61型核爆弾約200発(+米国内予備300)で、5ヶ国(ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコ)の6基地に配備されています。オバマ大統領は、6月19日にベルリンで米ロの配備戦略核を1000発ずつに減らそうと提唱しました。米国に対し、核の唯一の役割を核攻撃の抑止に限り、欧州ミサイル防衛面でも譲歩するなど、迅速な核軍縮に向けて動くよう求めることが必要です。核態勢の見直しの際に、「唯一の役割」策を支持する岡田外相がいたのは幸運でした。この考えを日本政府のものとするという課題が残っています。