4月29日から5月10日までニューヨークの国連ビルで「核不拡散条約(NPT)」2020年再検討会議準備委員会が開かれます。以下、その参考のために、世界的に定評のある「米国科学者連合(FAS)」の『世界の核戦力の状況』(2018年11月更新)のデータを見ておきましょう。ハンス・クリステンセンとロバート・スタン・ノリスが米国核専門誌『ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ(BAS)』の連載記事「ニュークリア・ノートブック」や「ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)」の年鑑で提供したデータを整理し、適宜更新しているものです(ノリスは、昨年10月、「自然資源防護協議会(NRDC)」時代以来31年間かかわってきたBAS誌連載記事共著者としての活動に終止符を打ちました)。
FASは、世界の核弾頭の総数を約1万4485発と推定しています。この93%が米ロのものです(上の図参照)。1986年のピーク、約7万300発と比べると減っていますが、まだ非常に高いレベルにあると言えます。政府関係者は大幅削減だと強調するが、削減の圧倒的な部分は1990年代に起きているとFASは指摘しています。旧ソ連崩壊前後のブッシュ大統領(父)の核削減イニシアチブによるものです。
下の表にあるように総数のうち、実際に配備されているもののほか予備などを含む「軍用保有核」が約9335発、残りは退役して解体待ちのものです。解体待ちの状態の退役核は、米国が約2650発、ロシアが約2500発です。(米国は他に、核弾頭の芯の部分(プルトニウム・ピット)2万個以上、水爆部分のセット約4000発分をそれぞれテキサス州パンテックス工場とテネシー州Y-12工場に保管しています。)
世界の「軍用保有核」のうち、約3750発が運用状態にある「配備核」です。このうち米、ロ、英、仏の合計約1800発が短時間で発射可能な「高い警戒態勢」(ハイ・アラート)状態に置かれています。大半は米ロのものです。米国の配備非戦略核(戦術核)というのは、欧州5ヵ国(ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコ)の6基地に配備されているB61型核爆弾(約150発)を指します。
世界の核兵器(FAS)2018年11月
国名 配備戦略核 配備戦術核 予備/非配備 軍用保有核 解体待ち
退役核(*)総数 ロシア 1600 0 2750 4350 2500 6850 米国 1600 150 2050 3800 2650 6450 フランス 280 ─ 20 300 ─ 300 中国 0 ? 280 280 ─ 280 英国 120 ─ 95 215 ─ 215 イスラエル 0 ─ 80 80 ─ 80 パキスタン 0 ─ 140 -150 140 -150 ─ 140 -150 インド 0 ─ 130 -140 130 -140 ─ 130 -140 北朝鮮 0 ─ ? 10-20 ─ 10-20 合計(概数) 3600 150 5565 9335 5150 14485
(*退役核の欄は核情報による挿入 )
追補 この記事掲載の数日後にFASのデータ "Status of World Nuclear Forces" が下のように更新されました。
世界の核兵器(FAS)2019年 5月
国名 配備戦略核 配備戦術核 予備/非配備 軍用保有核
[左3欄計]解体待ち
退役核(*)総数 ロシア 1600c 0d 2730e 4330 2170 6500f 米国 1600g 150h 2050i 3800j 2385 6185k フランス 280l ─ 20l 300 ─ 300 中国 0m ? 290 290 ─ 290m 英国 120n ─ 95 215 ─ 215 イスラエル 0 ─ 80 80 ─ 80o パキスタン 0 ─ 140 -150 140 -150 ─ 140 -150p インド 0 ─ 130 -140 130 -140 ─ 130 -140q 北朝鮮 0 ─ ? 20-30 ─ 20-30r 合計(概数)s 3600 150 5555 9330 4560 13890 この表の見方: 「配備戦略核」は、大陸間弾道弾に搭載のものと、重爆撃機の基地に置かれているもの。「配備非戦略核」は、運用状態にある短距離運搬手段の置かれた基地に配備されているもの。「予備/非配備」核は、発射装置に搭載されておらず、貯蔵されているもの(爆撃機基地にある核兵器は配備されているとみなす)。「軍用保有核」は、軍の管理下にあり、就役運搬手段に割り当てられた活性(アクティブ)及び非活性(イナクティブ)の核弾頭を含む。「総数」は、軍用保有核に加えて、退役していてもそのままで解体を待っている核弾頭も含む。
さらに細かくは、表に付けられた注を参照 (注:推定はアップデートされるので、下に示す印刷物のものとは異なるかもしれない。)
* 今回の更新:2019年5月。すべての数字は、大まかな推定で、さらに細かくは、『ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ』誌に掲載されている我々のFASニュークリア・ノートブックや、SIPRI年鑑の『世界の核戦力』概観で説明されている。さらに追加的報告書がFAS戦略安全保障ブログで発表されている。これらの発行物と異なり、このウェブ・ページは、新しい情報が得られ次第、継続的に更新されている。
a「軍用保有核」の核弾頭は、軍の管理下に置かれ、軍部用に割り当てられているものと定義されている。
b「総数」は、軍用保有核に加えて、退役となりながら、そのままで解体を待っている核弾頭も数えている。
c この数字は、新START条約の下における集計データより高くなっている。なぜなら、この表では、爆撃機基地にある爆撃機用兵器も配備として勘定しているからである。2019年現在のロシア軍の詳細な概観はこちらに。[Russian nuclear forces, 2019(pdf)]
表の数字は、その後の変化を反映して更新されている。
d これらはすべて集中貯蔵施設にあると宣言されている。退役となった数先発の非戦略核弾頭が解体を待っている。
e 900発と推定される戦略核弾頭と1830発の非戦略核弾頭が含まれる。
f 軍用保有核に入る4325発の核弾頭に加えて、2170発と推定される退役核弾頭が解体を待っていると考えられる。詳細情報は少ないが、我々は、年間200~300発の退役核弾頭を解体していると見る。2019年のロシアの核戦力概観はこちらを参照。[Russian nuclear forces, 2019(pdf)]
g この数字は、新START条約の下で発表されたデータ[After Seven Years of Implementation, New START Treaty Enters Into Effect]の集計より高くなっている。なぜなら、この表では、爆撃機基地にある爆撃機用兵器も配備として勘定しているからである。2019年現在の米国核戦力の詳細な概観はこちらに。[United States nuclear forces, 2019(pdf)]
h 約150発のB61 型核爆弾がヨーロッパの5カ国(ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコ)の6基地に配備されている。詳細は、こちら[US tactical nuclear weapons in Europe, 2011(pdf)]とこちら[NATO Nuclear Weapons Security Costs Expected to Double](近々更新)に。
i 非配備予備は、集中貯蔵されている推定1970発の戦略核弾頭と80発の非戦略核弾頭を含む。
j 米国は、2018年3月、同国の2017年9月現在の保有核の数を3822発と発表した。[ Despite Rhetoric, US Stockpile Continues to Decline ]
その後、少数の核弾頭が退役となり、残っている保有核は3800発と推定される。k 約3800発の軍用保有核に加え、約2385発の退役核弾頭が解体を待っている。さらに、解体された核弾頭から取り出された約2万個のプルトニウムの芯(ピット)と約4000個の セカンダリー[水爆の第二段階部分]のセット(Canned Assemblies))がテキサス州パンテックス工場とテネシー州Y-12 工場で貯蔵されている。米核戦力の詳細な概観についてはこちらを参照[United States nuclear forces, 2019(pdf)]
l フランスが一隻だけ保有する空母用の核兵器は、通常は船に搭載されていないが、短期間で搭載できる。一部の潜水艦用ミサイルにおける核弾頭の搭載数は、目標設定の柔軟性を増すために減らされている。フランス核戦力の詳細な概要はこちらを参照。[French nuclear forces, 2019(pdf)]
m 中国は、「数百発の核弾頭」[ STRATCOM Commander Rejects High Estimates for Chinese Nuclear Arsenal ]を保有していると考えられる──一部にある1600から3000発という説よりずっと少ない数だ。これらの核弾頭は、どれも、完全に配備されてはおらず、集中貯蔵状態にあると考えられる。中国の非戦略核の存在は不確かだ。中国の核兵器は、DF-31A/41型及び DF-26型ミサイル用の新しい核弾頭の製造により、増えている。中国の核戦力の詳細な概要については、こちらを参照。[Chinese nuclear forces, 2018(pdf)]
[訳注:最新データはこちらにChinese nuclear forces, 2019(pdf)]n 英国のそれぞれの潜水艦に搭載されている核弾頭の数は、48発から40発に削減された。このため、「作戦運用可能な」核弾頭の数は、160発から120発に減った。2020年代半ばまでに、保有核の数は、「180以下」に下がる。この削減計画はすでに進行中だ。英国の核戦力の詳細な概観はこちらに。[The British nuclear stockpile,1953 - 2013(pdf)]
o イスラエルは、核弾頭100~200発分のプルトニウムを生産しているが、運搬手段の数や、米国情報コミュニティーによる推定から、保有核は約80発程度と考えられる。2014年のイスラエルの核戦力の詳細な概観は、こちらに。[Israeli nuclear weapons, 2014(pdf)]
p パキスタンの核弾頭は、どれも、配備されておらず、集中貯蔵状態に──ほとんどが南部の地域で──おかれていると考えられている。核弾頭の製造が続いている。詳細な概観はこちらに。[Pakistani nuclear forces, 2018(pdf)]
q インドの核弾頭は配備状態にはなく、集中貯蔵されている。核弾頭の製造が続いている。インドの核戦力の詳細な概要はこちらに。[Indian nuclear forces, 2018(pdf)]
r 北朝鮮は、6回の核実験──10~20キロトン規模2回と200キロトン以上1回を含む──を経て、10~20発の核弾頭を製造したかもしれないと我々は推定する。運用状態については、評価が難しい。北朝鮮の核能力の詳細な概観はこちらに。[North Korean nuclear capabilities, 2018(pdf)]
s 四捨五入や、4つの小規模核兵器国の運用状態の不確実性、そして、5つの最初の核兵器国のうちの3カ国の総数の規模に関する不確実性などのため、この数字は、項目の合計に一致しない場合がある。
それぞれの国に関して得られる情報は、もっとも透明性の高い核保有国(米国)から、もっとも不透明なくに(イスラエル)まで、大きく異なっている。そのため、米国に関する推定は、「実際の」数字に基づいているが、他の核保有国のいくつかに関する推定は、不確実性が極めて高い。
(*退役核の欄、[ ]内は核情報による挿入 )
米ロの核戦力制限の条約消滅?
米国は2月2日、米ロによる射程500〜5500kmの地上発射弾道・巡航ミサイルの生産・実験・保有を禁じた1987年「中距離核戦力(INF)」全廃条約の破棄をロシアに通告しました。ロシアの地上発射巡航ミサイル「9M729」が条約に違反しているからというのが米国の説明です。ロシアも同日破棄の意向を表明しており、同条約は規定に従い6か月後の8月に失効と見られています。
また、配備戦略核を制限した新「戦略兵器削減条約(START)」(2011年発効)が21年2月に失効します(上限:運搬手段700基、弾頭1550発)。5年間の延長が可能ですが、残された期間は2年足らずです。その間に同条約のような相互査察などの検証措置を定めた新たな条約が締結できる見込みは乏しく、条約延長もできないとなると両国間の核戦力に関する法的拘束力を持つ制限がない状態になると懸念されています。そうなれば、1972年以来のことです。米国は条約延長に積極的な態度を示してなかったのですが、ポンペオ米国務長官が4月10日、上院の公聴会でロシアと延長のための予備協議を始めたと述べています。延長交渉を本気で進め、延長後の新たな条約締結も狙うという話なのか、実際は米国の一方的な主張に基づく新たな条約の提唱で終わるのか、協議の行方が注目されます。
参考のために、下にFASによる米国の核兵器のデータを載せておきます。2018年3月のデータなので、上の表「世界の核兵器(FAS) 18年11月」にある米国のデータと若干異なります。なお、図表類の翻訳・転載については、FASから承諾を得ています。
米国の核兵器(FAS)2018年3月
カテゴリー/名称 運搬手段数 配備年 搭載能力個数
弾頭名 x 威力kt核弾頭数 ICBM
ミニットマンIIIMk-12A 200 1979 1-3 W78 x 335(MIRV) 600 Mk21/SERV 200 2006 1 W87x300 200 合計 400 800
(注1)SLBM
トライデントII D5Mk-4 1992 1-8 W76-0 x 100 (MIRV) 216 Mk-4A 2008 1-8 W76-1 x
100 (MIRV)1320 Mk-5 1990 1-8W88 x 455
(MIRV)384 合計 240 1920
(注2)爆撃機 B-52H
ストラトフォートレス87/44 1961 ALCM/W80-1 x 5-150 528 B-2A
スピリット20/16 1994 B61-7, -11,
B83-1452 合計 107/60
(注3)980
(注4)戦略核計 3700 非戦略
(戦術)核B61-3, -4 爆弾 ─ 1979 0.3 -170 300
(注5)保有核総計(概数) 4000 解体待ち退役核 2550 解体待ちを含む総数 6550 保管中のピット(注6) 20000
以上
- 注1:このうち400が実際に運用配備。残りは長期的貯蔵状態。
- 注2:このうち約945が発射管搭載のミサイルに運用配備。
- 注3:最初の数字は総機数(訓練・実験・予備用を含む)/次の数字は主要ミッション用
(戦争時用)機数のうち核ミッションに割り当てられていると見られる機数。- 注4:実際に爆撃機基地に配備されているのは約300発。ALCM 約200発と核爆弾約100発。
残りの680発は長期的貯蔵状態
[新START 条約では1 機= 1 発という特殊な計算方法を採用]- 注5:約150 発のB61-3 及び4 がヨーロッパに配備。残りは米国で集中的に保管。
- 注6:解体で取り出されたプルトニウムの芯の部分。テキサス州パンテックスで保管。
- ICBM =大陸間弾道ミサイル
- SLBM =潜水艦発射弾道ミサイル
- MIRV =複数目標多弾頭
- ALCM =空中発射巡航ミサイル
- 出典:United States nuclear forces, 2018, Bulletin of the Atomic Scientists: Vol 74, No 2