核情報

2021.11. 5

プルトニウム
 ──原子力の夢の燃料が悪夢に

プルトニウム──原子力の夢の燃料が悪夢に
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緑風出版(含目次)
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フランク・フォンヒッペル 田窪雅文 カン・ジョンミン(姜政敏)(田窪雅文訳)緑風出版

専門誌などで高い評価を得た原著の改訂・翻訳版

夢の燃料として喧伝されたプルトニウムの利用計画が、実は見果てぬ夢であり、核拡散・テロの危険を引き起こすだけの「悪夢」となっている状況を説明。日本が、核兵器6000発分近いプルトニウムをため込んでしまっている状況を描く。解決策として、再処理を中止し、5年以上プールで冷やした使用済み燃料を空冷式の乾式貯蔵に移し、最終処分まで中間貯蔵することを提案。

原著序文はモハメッド・エルバラダイ元国際原子力機関(IAEA)事務局長
推薦文はロバート・ガルーチ元米国側対北朝鮮交渉責任者(1994年)とエドワード・マーキー米国上院議員(核軍縮・核不拡散の第一人者)

国内専門家らも同様に評価

山口幸夫 原子力資料情報室・共同代表

今後、この本なしでは、プルトニウム問題を語れないでしょう。大学の理工系だけではなく、広く、社会学や法学、政治学、経済学などの文系の学生にも必読の本になっていると思います。

鈴木達治郎長崎大教授/パグウォッシュ会議評議員/元原子力委員会委員長代理

核兵器の材料でもあるプルトニウムが、当初は夢の燃料として期待されていたが、それがいまや世界の安全保障の脅威となるほど、蓄積されてきた経緯とその理由を、各国の事例などを踏まえて詳細に描いた力作です。プルトニウムのすべてがわかります。

川崎哲ピースボート共同代表、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員

自民党総裁選で河野太郎氏が「手じまい」にすべきだと述べていた日本の 核燃料サイクル政策とも深く関わるプルトニウム 問題の全体像を描いた一冊

@kawasaki_akira Akira Kawasaki 川崎哲 Twitter

自民党総裁選の「核燃料サイクル論争」を理解するカギがここに
 ──核兵器6000発分近いプルトニウムをため込んだ日本の進む道は?

岸田文雄候補

核燃料サイクルを止めるとプルトニウムが積み上がり国際問題に

再処理すると廃棄物の処理期間は300年、直接処理すると10万年かかる

河野太郎候補

再処理をやめるのは一日も早い方がいい。六ケ所村などの将来展望を描くのがベスト

どちらが正しい?


原著の書評

アームズ・コントロール・トゥデー誌 米NGO「軍部管理協会(ACA)」発行

本書の経済的及び科学的分析は、コンパクトで、十分に根拠が示されていて、素人にも明瞭だ。本書は、政策立案者や公衆に対し、元々主張されていた恩恵が雲散霧消する一方で、危険性だけが不気味にとどまってる「夢」の現実を示して見せる。

ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ誌 ,

技術的苦闘と最終的失敗、そして、不可欠のエネルギー資産との見方から永遠に消えない厄介な廃棄物へと変わるプルトニウムの旅に関する素晴らしい研究

Journal of Peace and Nuclear Disarmamentジャーナル・オブ・ピース・アンド・ニュークリア・ディスアーマメント誌 『平和と核軍縮』長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)編集

説得力のある本。読者を技術的・政治的・社会的・経済的議論を通じて著者らの結論に巧みに導く:プルトニウムの分離が禁止されれば世界はより安全になる。

共著者

フランク・フォンヒッペル

プリンストン大学上級研究物理学者、公共・国際問題名誉教授。

1974年のインドの核実験後、再処理政策見直しのためにカーター政権が設置した委員会のメンバー。同政権による再処理推進策撤回の決断に大きく貢献。

同大学の「科学・国際安全保障プログラム」を1975年に共同創設し、30年に亘り共同議長を務める。2006年、「国際核分裂性物質パネル(IPFM)」を共同創設し、最初の9年間共同議長を務める。1983〜90年、ゴルバチョフ大統領のアドバイザーだったエフゲニー・ベリホフと協力し、核実験の停止、核兵器用プルトニウム及び高濃縮ウランの製造停止、余剰核兵器用物質の処分などについて数々のイニシャチブを策定し成功に導いた。カーター政権以来、米国の政権や議会に対し核セキュリティー問題に関し助言。1993〜94年、ホワイトハウス「科学・技術政策局」国家安全保障担当次官として核脅威削減のための米ロ共同イニシャチブ策定に寄与。

カン・ジョンミン(姜政敏)

元韓国原子力安全委員会(NSSC)委員長。原子力エンジニア。米国のプリンストン大学、スタンフォード大学、ジョン・ホプキンズ大学、自然資源防護協議会(NRDC)や、韓国の韓国科学技術院(KAIST)で研究職を得て活動。日本と同じ再処理の権利を認めよと米国に迫る韓国の事情に詳しいだけではない。東京大学の原子力工学博士号を持ち、日本の再処理政策を熟知している。鈴木篤之(元日本原子力研究開発機構理事長)・鈴木達治郎(元原子力委員会委員長代理)の両氏と、原子力発電所の使用済み燃料から取り出したプルトニウムで核兵器ができることを示した論文を日本原子力学会の英文誌(2000年)で発表している。

推薦文(裏表紙から)

モハメッド・エルバラダイ 国際原子力機関(IAEA)事務局長(1997ー2009年)

国際的に有名な核問題専門家のフランク・フォンヒッペル、カン・ジョンミン(姜政敏)、田窪雅文の3人は、本書をまとめることにより、重要な貢献を果たした。本書は、今日私たちが「プルトニウム時代」と呼んでいるものを歴史的かつ包括的に取り扱っている。著者らは、プルトニウム経済の危険性に関する彼らの考え方を明確かつ簡潔に示し、民生用燃料サイクルにおけるプルトニウムの分離と使用の禁止を提唱する。核拡散及び核セキュリティー上のリスクと経済的正当性の欠如に鑑みてのことである。

*本書序文も同氏

エドワード・マーキー 核軍縮・核不拡散の第一人者 米国下院議員(1976-2013年)及び米国上院議員(2013年-)

1960年代にあった「プルトニウム経済」という夢は、豊富な低コストのエネルギーをもたらすことにはならず、代わりに世界にもたらされたのは核拡散・放射能の恐怖と核テロの実際的な可能性だ。フォンヒッペル、カン、田窪は、力強く、明晰にこれらの危険を減らすにはどうすればいいかを説明する。国内の原子力研究開発機関が未だにプルトニウムの夢を追い続けている国々の政府は耳を傾けるべきだ。

ロバート・ガルーチ 米国側対北朝鮮交渉責任者(1994年)マッカーサー財団理事長(2009-2014年)

著者らは、プルトニウムに関連したリスクに関する透徹した分析と、いかなる目的のためであれ使用済み燃料からプルトニウムを分離する活動を中止すべきという極めて説得力のある議論を一カ所にまとめることによって非常に貴重な貢献を果たしている。本書は核燃料についての考え方の発展の歴史をわかりやすく説明し、世界の原子力の現実を解き明かしている。そして、これが最も重要と言ってもいいかもしれないが、原子炉から生じる使用済み燃料を何十年、何世紀にも亘って扱うための明確な代案について論じている。

訳者あとがきから

原子炉の技術、そして、その使用済み燃料を化学的に再処理してプルトニウムを取り出す技術は、マンハッタン計画の中で長崎型原爆を作るために開発された。計画に関わった科学者の一部は、当時、なんとか、自分たちが生み出した原子炉技術を豊富なエネルギーの供給に使うことはできないかと考えを巡らせた。だが、現在一般的に利用されるようになっている普通の原子力発電技術では不可能だとの結論に達した。

「燃えるウラン235」は天然ウランに0.7%しか含まれていない。これを使う普通の原子炉に頼っていたのではウランが枯渇する。原子炉の運転の際に「燃えないウラン238」から生まれるプルトニウムの利用が必要だというのである。こうして考案されたのが、使った以上のプルトニウムを生み出す「夢の原子炉」高速増殖炉だ。増殖炉の最初の燃料には、普通の原発の使用済み燃料を再処理して取り出したプルトニウムを使う。

ところが、ウランは枯渇せず、高速増殖炉の技術も難しいということが判明する。1970年代になると、ウランの既知資源量は1000倍に増えた。だがウラン枯渇予測を基に原発先進国米国が立案した再処理推進政策が、当の米国の撤退後も一部の国々で続けられた。このため、世界の民生用プルトニウムが増え続け、冷戦終焉後に頭打ちとなった軍事用プルトニウムの量を超えてしまった。増殖炉で何千年にも亘ってエネルギーを供給する夢は、長崎型原爆にして何万発分ものプルトニウムが民生用核燃料サイクルによって流通することになるという悪夢にとって代わられた。

もう一つの悪夢が、軽水炉の使用済み燃料はすべて早期に次々と再処理工場に送られるとの想定がその通り進んでいないために生じた。現在、使用済み燃料は、元々の想定の何倍もの密度で原子炉の貯蔵プールに詰め込まれるようになっている。プールの水が何らかの理由で失われていくと大規模な放射能汚染を伴うプール火災が生じる可能性がある。福島第一原発4号機ではまさにそのような事態になることが恐れられた。「キリン」やヘリコプターによる放水を日本中の人々が固唾を飲んで見守っていたのはそのためだ。稠密貯蔵をしてもプールはいずれ満杯になる。このため、日本では、プールのスペース不足が早く六ヶ所再処理工場を運転するようにとの圧力となっている。本書はこの問題に対処するために、5年以上プールで冷やした使用済み燃料を早急に、空冷式の乾式貯蔵に移すことを提案している。乾式貯蔵の方が安全であることは、福島第一原発にあった乾式貯蔵施設が津波で破損しても、施設内の貯蔵キャスクが無事だったことが示している。

日本は、非核保有国で唯一再処理計画を維持している。増殖炉計画がとん挫したため、再処理で分離したプルトニウムをウランと混ぜて混合酸化物(MOX)燃料として無理やり普通の原子炉で燃やす計画だが、これもうまくいっていない。このため英仏に委託した再処理などにより、保有プルトニウムは、2020年末現在、約46トンに達している。1発8キログラムという国際原子力機関(IAEA)の計算方法で6000発分に近い。福島事故後に運転再開しているMOX使用炉は4基しかない。

それでも、日本は六ヶ所再処理工場を動かそうとしている。1993年に4年後に完成の予定で建設を開始したが、2021年夏現在の完工目標は2022年度上期となっている。これもさらに遅れるだろうと見られている。環境汚染を悪化させるだけで、経済性もない再処理をなぜ続けるのか。本書が、立ち止まって考えるための一助となれば幸いである。


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目次
プルトニウム
 ──原子力の夢の燃料が悪夢に

序文 モハメッド・エルバラダイ

謝辞

  1. 概観
    1. プルトニウム増殖炉の夢
    2. 増殖炉の不都合な点
    3. 当初予想よりもずっと多く発見されたウラン、そしてずっと低かった需要の伸び
    4. 発電用原子炉の使用済み燃料の再処理
    5. インドの核実験の警鐘
    6. 軽水炉用のプルトニウム燃料
    7. 放射性廃棄物管理のための再処理?
    8. 悪夢
    Ⅰ部 夢
  2. 夢 プルトニウムを動力源とする未来
    1. 二重目的炉
    2. プルトニウムの生成
    3. 軽水炉とウラン濃縮
    4. プルトニウム増殖炉
    Ⅱ部 悪夢
  3. 民生用プルトニウム分離と核拡散
    1. 核拡散
    2. 「スマイリング・ブッダ(微笑む仏陀)」の警鐘
    3. カーター政権による米国増殖炉プログラムの見直し
    4. 電力消費の伸びの鈍化と原子力の停滞
    5. 消えゆく増殖炉の夢
    6. 失敗に終わった増殖炉の夢が残したもの
  4. 増殖炉不在のまま続くプルトニウム分離
    1. フランス:軽水炉でのプルトニウム・リサイクル
    2. 英国:再処理プログラムついに閉幕へ
    3. 日本──再処理プログラムを持つ唯一の非核兵器保有国
    4. ロシア:増殖炉開発の継続
    5. 「原子炉級」プルトニウムの兵器利用の可能性
    6. 民生用再処理の頑固な継続
  5. 実際よりずっと深刻な福島事故の可能性 稠密貯蔵状態の使用済み燃料プールでの火災
    1. 使用済み燃料プールにおける火災の懸念
    2. セシウム137による地表の汚染
    3. 米国における規制の検討
    4. 韓国における使用済み燃料プール火災の影響予測
    Ⅲ部 進むべき方向
  6. 早期の乾式キャスク貯蔵 稠密貯蔵プールと再処理の両方に対するより安全な代替案
    1. 乾式貯蔵
    2. コスト面での利点
    3. 安全面の利点
    4. 集中貯蔵
    5. 乾式貯蔵の耐久性
    6. 輸送
    7. 結論
  7. 使用済み燃料の深地下直接処分
    1. 再処理と核拡散
    2. 使用済み燃料処分場が環境に及ぼす危険性にわずかしか寄与しないプルトニウム
    3. 再処理は放射性廃棄物処分場の大きさを意味のある程度に縮小できるか?
    4. 再処理の危険性
    5. 結論
  8. プルトニウム分離禁止論
    1. 核分裂性物質カットオフ条約(FMCT)
    2. 民生用プルトニウム保有量制限の試み
    3. 高濃縮ウランの使用を制限しようとする同時並行的試み
    4. プルトニウム分離の禁止

訳者あとがき


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