核情報

2010. 2.1

先制不使用問題3報告書比較:キャンベラ委員会・東京フォーラム・ICNND

ICNNDの報告書が、核兵器国は──特に米国はその核態勢見直しにおいて──保有する核兵器の「唯一の目的」は、他国の核兵器の使用の抑止にあると宣言すべきと勧告したことは重要。だが「同盟国には、特に生物・化学兵器を含め、その他の兵器による容認できない危険にさらされることはないという強固な保証を供与する」との文言が挿入されているのは日本チームの抵抗のためか。さらに、先制不使用宣言の達成目標を2025年にしてしまっているのが問題だ。

ICNNDの委員の一人ウイリアム・ペリー元米国防長官は、昨年10月21ー22日に笹川平和財団─ウッドロー・ウィルソン国際学術センター共催の「『核のない世界』に向けた日米パートナーシップ」と題された日米共同政策フォーラムで、「唯一の目的」宣言と先制不使用宣言は基本的に同じだと説明していた。先制不使用を喧伝していたソ連が実は先制使用を考えていたことを示すことが明らかになったこともあって、米国では先制不使用と言う言葉に対する抵抗が強い。だからオバマ政権には、代わりに「唯一の目的」宣言を要請した方が現実的だとの説明だった。

戦略家の中には、敵の核攻撃による被害を最小にとどめるために、攻撃をかけてきそうな敵の核兵器に対して先に核攻撃をかけることを容認すべきだとの考えがある。これを「抑止」機能の一つとするというものだ。このような先制使用の考え方を25年まで容認するかに受け取られかねない達成目標期限の設定がなされたのは残念だ。

キャンベラ委員会報告書(1996年)が先制不使用の合意を早急に実効することを呼びかけてから13年後の報告書としてはとりわけそういわざるを得ない。以下、キャンベラ委員会、東京フォーラム(1999年)とICNNDの先制不使用・唯一の目的宣言関連部分を並べて比較してみよう。

参考




キャンベラ委員会 1996年

核保有国は、互いに先制使用をせず、あるいは核兵器使用の威嚇を行わず、そして非核保有国との如何なる紛争に際しても核兵器を使用せず、使用の威嚇をしないことに同意し、公言すべきである。このような合意は、早急に実行に移すべきである。

東京フォーラム 1999年

核兵器先制不使用の誓約は、それが核兵器の突出した役割を低減し、他の大量破壊兵器の使用を促すことにならない限り有益であろう。しかし、米国の同盟関係とロシアの軍事的難局、とりわけNATOとロシアが核ドクトリンにおいて先制使用のオプションを維持している限り、その誓約に関する交渉は複雑なものとなろう。さらに、過去行われた先制不使用の誓約の中には信頼できないものがあった。核ドクトリンが変更され、透明性の一層の向上と警戒態勢の緩和を確認しうる検証可能性が強化されなければ、誓約のみでは信頼性を欠くであろう。NATOは先制不使用のオプションを見直す体制をとりつつあるが、効果的な先制不使用のコミットメントを実現させるためには、詳細な協議と更なる努力が必要となろう。東京フォーラムはそのような努力を賞賛する。

ICNND 2009年 (報告概要 外務省訳pdf

C. 核軍縮の課題への対応:主要政策

・・・

* 核政策 最終的な核兵器廃絶に至るまでの間、すべての核武装国は、可能な限り早期に、かつ遅くとも2025 年までに、明確な「先制不使用」宣言を行うべき。[ 17.28]

* 現時点でそこまで進む用意ができていない国は、特に米国はその核態勢見直しにおいて、少なくとも、核兵器保有の「唯一の目的」は、自国又はその同盟国に対し他国が核兵器を使用することを抑止することである、という原則を受け入れるべき。

* このような2 つの宣言によって影響を受ける同盟国は、生物・化学兵器によるものも含め、他の容認できない危険にさらされることがないという強固な保証を与えられるべき。[17.28-32]

* すべての核武装国は、NPT を遵守している非核兵器国に対して核兵器の使用は行わないという新しくかつ明白な消極的安全保証(NSA)を、拘束力のある安全保障理事会決議に裏付けられた形で与えるべき。[17.33-39]

p.6


包括的行動計画

2012 年までの短期的行動計画:初期の指標の達成

・・・

* 核ドクトリンに関する早期の進展。少なくとも、すべての核武装国は、保有する核兵器を維持する「唯一の目的」は、他国が、自国又はその同盟国に対して核兵器を使用することを抑止するためであるということを宣言する。(同時に、当該同盟国には、特に生物・化学兵器を含め、その他の兵器による容認できない危険にさらされることはないという強固な保証を供与する。)

* すべての核武装国は、NPT を遵守している非核兵器国に対して、核兵器の使用は行わないという強固な消極的安全保証を、拘束力のある安全保障理事会決議に裏付けられた形で与える。

p.14


参考

東京フォーラムの方が後退していることは明らかです。ただし、先制不使用政策は圧倒的軍事力を持つ米国が一方的に宣言し、それに従って核政策を見直すことが重要なのであって、合意をするというような問題でないというのは先に指摘した通りです。その点で、キャンベラ委員会の文章より前述の米国のNGOの提言の方がすっきりしています。キャンベラ委員会は、国際的委員会として、各国を平等に扱うことにこだわったことから上のような文言になってしまったのでしょう。それが結果的に、「誓約に関する交渉は複雑なもの」になるからしばらくは実現不可能とする東京フォーラムの大幅後退の口実を与えることになったのは残念です。先制不使用について条約を結ぶ作業を今からして、それまでなにもできないというのでは、時間がかかるだけで意味がないでしょう。日本の軍縮・反核運動は、同じような思考の罠に陥ることなく、米国の同盟関係にある国の運動として、米国の核の傘をどうとらえるかという点に焦点を当てて、米国の、あるいは、日米共同の一方的宣言を要求すべきです。


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