核情報

2005.5.24

六ヶ所再処理工場運転の無期限延期の呼びかけ 発表会見における発言

2005年5月24日

国連ビルでの「核不拡散体制強化のための日本のリーダーシップを求める要請
──六ヶ所再処理工場運転の無期限延期の呼びかけ」発表セミナー/記者会見における発言

ハロルド・ファイブソン
プリンストン大学科学・世界安全保障プログラム上級研究政策科学者

再処理の危険

プルトニウムを分離するための再処理には、二つの本来的な危険が伴う。一つは、テロリストの脅威、もう一つは、核を持つ国が増えるという意味の核拡散である。

第一に、プルトニウムは、使用済み燃料の中にある放射性の核分裂生成物から分離されてしまうと、転用がずっとしやすくなる。使用済み燃料の中にある間は、プルトニウムは、非常に強烈な放射線によって、転用から守られている。例えば、加圧水型原子炉(PWR)の燃料集合体から人が浴びる線量率を、集合体からの距離との関係で見てみよう。典型的なPWRの燃料集合体は、重さ約0.5トン、燃焼度は、3万5000メガワット・日/トンで、約5キロのプルトニウムを含んでいる。このような集合体の場合、原子炉から出されてから15年経った時点でも、1メートルの距離で、数分のうちに致死量を浴びてしまう。5メートル離れると、致死量に至る時間は、2時間ほどになる。原子炉から出されて一年後以降は、照射量は、30年で半分の割合で減衰していく。(日本は、現在、使用済み燃料の中に約100トンのプルトニウムを保有している。)

分離済みプルトニウムは、この自己防衛手段を何も持っていない。これは、再処理の生産物としてウランと混ぜられて出てくる場合も変わらない。ウランからのプルトニウムの分離は、放射性の核分裂生成物からの分離という遙かに難しいステップと比べ、ずっと簡単かつ安全に行うことができる。

分離されたプルトニウムの唯一の短期的使用方法は、軽水炉において混合酸化物(MOX)燃料としてリサイクルするというものである。再処理施設、分離済みプルトニウムの貯蔵区域、MOX燃料製造施設へのプルトニウムの輸送、同施設でのプルトニウムのMOX燃料への製造、MOXの原発サイトへの輸送、原発サイトにおける使用までのMOXの貯蔵、これらはすべて、特別の物理的防護体制を必要とする。

現在、民生用の使用済み燃料から分離されたプルトニウムが世界全体で250トンに達している。核兵器用に製造された以上の量である。毎年、さらに、18〜20トンが分離されていき、おそらくその3分の1がMOXの製造に使われ、軽水炉でリサイクルされる。

第二の危険 潜在的核拡散

核兵器の核爆発用材料を作るのには二つの道があり、一つが、ウランの濃縮、もう一つが、原子炉の使用済み燃料を再処理して燃料の中にあるプルトニウムを分離するというものである。国家が濃縮施設か再処理施設を手に入れれば、核兵器製造能力を望む場合、それに非常に近い位置に到達したといえる。遠心分離の濃縮能力を開発しようとするイランの決意を巡り巻き起こっている議論の中に、このような潜在的拡散能力に向けて各国が進むことに伴う問題の一端をかいま見ることができるだろう。

基本的には、濃縮は、再処理よりも複雑な問題を提起する。なぜなら、濃縮は、軽水炉用の燃料の供給に必要だからである。軽水炉の燃料は、ウラン235の含有率を3〜5%に濃縮する必要がある。核兵器用として好ましい90%にするのではない。しかし、前者の濃縮のできる遠心分離施設は、後者を実施する目的のものに迅速に転換することができる。

再処理の不経済性

一方、プルトニウムを分離する再処理の方は、民生用の正当化の理由が存在しない。だから、再処理及びリサイクルに伴う危険は、まったく必要性のないものなのである。再処理が非経済的であることは、明白であり、議論の余地がない。しかもその程度はひどいものである。分離済みプルトニウムの用途ということになっているものが二つあり、それらは(すでに触れたとおり)軽水炉の中でMOX燃料としてリサイクルするというのと、プルトニウム増殖炉で使うというのとである(増殖炉が開発されたとしてだが、これは怪しい仮定である。)しかし、これらの方法のどちらにしても、経済的に意味をなすものとなるためには、ウランの価格が、これまでに例を見ないレベルにまで高騰しなければならない。軽水炉におけるプルトニウムのリサイクルに関して、このことを示すもっとも簡単な見方は、こういうことである。すなわち、プルトニウムがただだとしても(つまり、再処理のコストをまったく無視しても)、今日のウラン価格のレベルでは、そのプルトニウムを使って作った1kgのMOX燃料は1kgの低濃縮ウラン燃料よりも、数百ドルも高くなってしまうのである。しかし、もちろん、再処理のコストはゼロではない。再処理のコストが使用済み燃料1kg当たり2000ドルとすると、ウラン金属の価格は、kg当たり1000ドル近くまで上がらなければリサイクルは経済的にはならない。kg当たり40ドルという現在のウラン価格の25倍である。六ケ所における費用として予測されている数字(4000ドル/kgHM(重金属))では、ウラン価格は1800ドル/kgという信じられないレベル以上にならなければならない。

場合によっては、再処理とリサイクルは、地層処分場における放射性廃棄物の最終処分の費用を幾分下げることがあるが、それは最善の場合でもごくわずかであり、おそらくは、まったくそうはならないだろう。まず、現在のように、プルトニウムのリサイクルが一度だけ行われ、使用済みMOX燃料が再処理されることなく処分場に送られるのであれば、処分費用の節約はまったく生じない。さらに、処分場における永久処分のコストのいかなる節約分も、まず間違いなく、再処理で生じる中及び低レベルの廃棄物の処理にかかる余分な費用によって相殺されるか、マイナスとなってしまうだろう。使用済み燃料は、再処理しないで、300ドル/kgHM程度の低コストで何十年も貯蔵しておくことができる。

再処理の支持者は、使用済み燃料に含まれているプルトニウムがいずれ潜在的拡散者にとって入手可能になってしまうリスクを指摘する。核分裂生成物が持つ放射能の障壁が100年で10分の1というレベルで減衰するからである。従って、使用済み燃料が送られる地層処分場がプルトニウム鉱山になってしまう可能性があるというわけである。しかし、処分場を掘るというのは簡単な作業ではない。その時点で進行中の原子力プログラムから取り出すのよりはずっと難しい。いずれにせよ、数百年あるいは数千年先のリスクを減らすために短期的な転用及び拡散のリスクを大幅に高めるというのは、愚の骨頂である。そして最後に言うなら、現在計画されているように使用済みMOX燃料が地層処分場に送られるのであれば、再処理の潜在的利点というのは当てはまらないことになる。

結論

民生用使用済み燃料の再処理の世界的モラトリアムは、核拡散防止にとって、重要な措置である。再処理は、経済的にまったく意味をなさないし、放射性廃棄物の合理的な処分にとっても必要でない。民生用使用済み燃料の再処理は、すでに、世界全体で、250トン以上もの分離済みプルトニウムの蓄積をもたらしている。このプルトニウムは、厳密・厳重な保安体制及び保障措置の下におかなければならない。六ケ所再処理工場の運転を開始しないとの日本による決定は、まずは新たな再処理の、そして、ひいては、すべての再処理の世界的モラトリアムに向けた不可欠で重要な一歩となるだろう。


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