核情報

2004.3.9

MOX燃料輸送と核拡散 ─ 原子炉級プルトニウムでできる核兵器

田窪雅文 『軍縮問題資料』 1999年5月号より

プルトニウムとウランを混ぜた混合酸化物(MOX)燃料をヨーロッパから日本に運ぶ輸送計画について、日本政府は1月28日米国と正式交渉に入った。これは、日本の使用済み燃料を英国とフランスで再処理して得られたプルトニウムをMOX燃料の形にして日本に運ぶためのものである。1992年に世界を騒がせた「あかつき丸」のプルトニウム輸送以来の初めてものである。関西電力では、今年4月下旬に予定されている高浜原発4号機の定期検査の際にMOX燃料を装荷することとし、それに合わせた輸送を計画していた。ところが、昨年10月に発覚した輸送容器の中性子遮蔽材のデータ改竄もあって計画が遅れている。関電では、12月、すでに得ていた設計承認書を返却し、遮蔽材の実際のデータに合わせて設計承認申請をし直した。現在の計画では、関西電力用の燃料は秋に東京電力の福島第1原発3号機用の燃料と一緒に送られることになっている。だが、時期はさらにずれ込む可能性もある。送られてくるプルトニウムは、米国起源の濃縮ウランから得られたものである。このため、米国が輸送計画を承認しなければ輸送はできない。2隻の貨物輸送船で互いに防衛しながら輸送を行うという今回の計画では、核兵器に利用可能な物質の保安措置として不十分だとの声が米国議会でも出ている。ここでは、この核兵器への利用可能性という点を中心に輸送計画に絡む問題を検討する。

『原子力eye』誌(1999年4月号)は、その特集記事「プルサーマル始動へ」の中でつぎのように述べている。

「核兵器の製造には、燃えるプルトニウム239が93%以上という純度の高いプルトニウムが必要とされるが、軽水炉の使用済み燃料にはプルトニウム239はせいぜい70%程度となっている。しかも、プルトニウムは、ウランを混ぜたMOX燃料として使うため単独で核兵器に転用される心配はないとされている。」

以下日本にあるこのような主張とそれに対する批判とを見ていくが、議論の具体的な例を紹介するために長い引用が多くなることをあらかじめお断りしておきたい。

 プルトニウムにはいろいろな同位体がある。原子力発電所でウラン燃料を長期間燃やすと、プルトニウム239以外に、プルトニウム240、241、242などが増えてくる。上記の記事はこの組成の違いを問題にしている。奇数番号を持つ239や241が「核分裂性の」あるいは「燃える」プルトニウムと呼ばれるのは、通常の発電炉で利用される遅い中性子(熱中性子)でも分裂するという意味である。核爆弾の場合に利用される高速中性子に関していえば、すべての同位体が分裂性である。1976年に行われた「原子炉級プルトニウムと核爆発装置」と題された説明会で、ロスアラモス国立研究所のロバート・セルデン氏は、「プルトニウム240は原子炉では明らかにまったく望ましくない。・・・見落とされているのは、高速中性子による分裂システムでは、プルトニウム240はまったく問題がないという点である。」と述べている。なお「せいぜい70%程度」というのは、おそらく239だけではなく239と241を合わせた数字だろう。
 プルトニウム型爆弾では、臨界量に近いプルトニウムを化学爆薬で包む構造になっている。臨界量というのは、連鎖反応を維持できる最少量を意味する。多方向から一気に爆薬に点火し、爆発の圧力で圧縮することによってプルトニウムを臨界、さらに、超臨界の状態にする。その際何らかの形で中性子を発生させ、連鎖反応を導いて核爆発を起こす。だが、プルトニウム240は、外からの作用がなくても自然に自発核分裂を起こして中性子を発生させる。これが圧縮が十分進まない内に起きると、予定された通りの威力が得られない。プルトニウム240が多いとこのような「失敗」の確率が高くなる。だが、「失敗」の場合も、最低でも1キロトンにはなるとセルデンは述べている。その破壊半径は、広島の場合の3分の1から2分の1に達する。
 国際原子力機関「IAEA」のハンス・ブリックス事務局長(当時)は、1990年に核管理研究所への書簡の中でつぎのように述べている。

「当機関は、高度燃焼の原子炉級プルトニウム、それに、一般にいかなる同位体組成のプルトニウムも・・・核爆発装置に使うことができると考える。当機関の保障措置部門にはこの点に関して論争はまったくない。

また、MOX燃料については、『IAEA保障措置用語集(1987年版)』は、「あかつき丸」で運ばれた酸化プルトニウムと同じ範疇のものとして扱っており、その「転換時間(異なった形態の核物質を核爆発装置の金属構成部分に転換するのに要する時間)」を週のオーダー(1〜3週間)としている。

『原子力eye』誌は、以前、「原子力未来研究会」による「21世紀の原子力」という連載記事を掲載しているが、同研究会は、1998年9月号でつぎのように述べている。

「ここでよく指摘される問題が『原子炉級』と『兵器級』プルトニウムの違いである。同位体組成の違いにより、過去、原子炉級プルトニウムで現実に核兵器を製造した国はないという事実を根拠に、『原子炉級プルトニウムは現実の核兵器に使えない』とか、『その核拡散リスクが(アメリカの核戦略、反プルトニウム政策のために意図的に)誇張されている』という主張がいまだになされることがある。しかし、この主張はもはや世界の常識ではない。例えば、再処理・プルトニウム利用を否定していないイギリスの王室科学アカデミーが1998年2月、『分離プルトニウムの管理』と題する報告書を発表、英国に蓄積する民生用プルトニウムの管理について提言を行った。・・・『信頼性、性能面で原子炉級プルトニウムは兵器級に劣るが、経験のある兵器設計者であれば、十分信頼性を持つ設計が可能である。従って、テロリストや、核兵器製造をたくらむ国家にとって、原子炉級プルトニウムも目標となりうる』と明確に述べている。」

連載記事が『どうする日本の原子力』(日刊工業新聞社)として出版された際に、研究会のメンバーが元電力中央研究所経済部エネルギー研究室長で東京大学教授の山地憲治氏や同研究所の上席研究員で東京大学客員助教授の鈴木達治郎氏など業界内部の人々からなることが明らかになった。
 「いまだになされている主張」の実例を挙げてみよう。例えば、元動燃理事の栗原弘善氏は、1992年に開かれた核拡散問題の会議において、述べている。

「多くの日本の専門家は、原子炉級プルトニウムは実用的な核兵器には使うことができないとの意見を表明している。原子炉級プルトニウムを使って核爆発装置を作ろうとすれば、それは、核の花火にしかならない。つまり、まぶしい光と大きな音を出すが、核爆弾の大きな壊滅的な効果をもたらしはしない。」(原文英語)。

また、元軍縮大使の今井隆吉氏は、原子燃料政策研究会発行の『プルトニウム』誌(93年9月)において、「あかつき丸」で輸送されたプルトニウムは、

「原子炉から出たプルトニウムですから、まさに原子炉級であって、兵器に使うプルトニウムとはまるで質が違うというのが一つのポイントです。・・・細かいことは別にしまして、爆弾にするには非常に具合の悪いプルトニウムです。」

 両氏は国際的にも著名な人々であり、さまざまな国際会議に出席している。(実は、上記のセルデン氏の説明会は米国原子力産業会議と米国原子力学会の年次総会の場で外国人を対象に行われたもので、日本からは今井氏が参加していた。)例えば、今井氏は、「冷戦後の軍備管理・核拡散防止に関する日米研究グループ」の日本側共同議長を務めている。同グループの報告書『米国・日本と核兵器の将来』(1995年刊)にはつぎのようにある。

「日本のメンバーらは、すべてのプルトニウムが爆発を起こすという立証された事実については異議を唱えなかった。だが、彼らは、民生用の原子炉では軍事用の生産炉よりも長時間核燃料を照射する必要があり、最も粗雑なタイプの核兵器にしか適しないと主張した。米国側の見解は、兵器級プルトニウムの方が使いやすいが、原子炉級プルトニウムは、軍事的に意味のある兵器に使うことができるというものだった。この問題についての発表されたステートメントのほとんどは安全保障上の理由のため不完全であるため、研究グループは、判断を下す立場にないと考えた。しかし、この問題の解明に役立たせるため、日米の専門家からなる諮問委員会が1995年5月の研究グループの次回会合の前に会議を開くこと、そして、そのメンバーには、機密情報のアクセスを持つ米国の元核兵器設計者らを含むことで合意があった。」

その元核兵器設計者との会合を経て出された報告書(96年)には、この問題を検討した作業部会Bのつぎのような結論がでている。(この作業部会Bのメンバーは、栗原弘善、東京大学の鈴木篤之、麻布大学の石井恂、元米国原子力規制委員会(NRC)委員のビクター・ギリンスキーの諸氏だった。)

「参加者は、技術的問題として、幾分かの追加的労力があれば、いかなる種類のプルトニウムを使っても、よく知られた技術を使って核兵器を作ることができるとの合意に達した。日本側の参加者は、生産過程において、また、軍事的状況において、原子炉級プルトニウムの使用が不利であることからすれば、原子炉級プルトニウムは通常の政府による核兵器用使用の候補にはなりそうにないと述べた。彼らはまた、このような目的のためには、信頼のできる既知の威力を持つ一群の弾頭を所有することが望まれるだろうし、また、生産ラインのような形で生産できる材料を持つことが望まれるだろうと述べた。参加者の間では、いかなるプルトニウムでも、それを核兵器の製造に使う可能性がいかに小さかろうともある以上、国際原子力機関(IAEA)の保障措置のような国際的管理が適用されるべきだとの合意があった。しかし、参加者は、プルトニウムの核兵器への転用を抑止するために国際社会が、IAEAの保障措置に加えて、追加的な国際的措置を検討し提案すべきだと合意した。」

 核兵器開発関係者を含む米国主体の報告書の結論はもっとはっきりしている。例えば、米国科学アカデミー(NAS)の「国際的安全保障及び軍備管理に関する委員会(CISAC)」の報告書『余剰兵器用プルトニウムの管理と処分』(1994年)はいう。

「要するに、潜在的な核拡散者にとって、簡単な設計を使って、1ないし数キロトンの威力を保証できる核爆発装置を作ることは十分に可能である。もっと進んだ設計を使えばもっと大きな威力を保証できる。兵器級であれ原子炉級であれ、分離済みプルトニウムの盗難は、深刻な安全保障上のリスクをもたらす。」

これは、マイケル・メイ(ローレンス・リバモア国立研究所元所長)、リチャード・ガーウィン(1950年以来ロスアラモス国立研究所やサンディア国立研究所の核兵器関連研究に関与)らがロスアラモス国立研究所とローレンス・リバモア研究所がCISAC用に行った秘密研究をも参照しての結論である。また、米国原子力学会特別パネル報告書『プルトニウムの防護と管理』(1995年)は、

「兵器級プルトニウムから核爆発装置を作る能力を持つ国あるいはグループは、すべて、原子炉級プルトニウムからも作る能力を持つとみなさなければならない。」

と述べる。ハロルド・アグニュー氏(マンハッタン計画に携わり、ロスアラモス国立研究所の所長を10年務めた)などからなるこの委員会に今井氏は国際メンバーとして参加していた。
 ガーウィン氏は、「原子炉級プルトニウムは強力で信頼性のある核兵器を作るのに使うことができる」という論文を「米国科学者連合(FAS)」のホームページに載せている。氏は、原子炉級プルトニウムの核兵器利用の可能性についての事実が最初に広範な形で入手できるようになったのは、1993年にカーソン・マーク氏の「原子炉級プルトニウムの爆発特性」という論文が『科学と世界の安全保障』誌に発表されてからだと述べる。マーク氏は、ロスアラモス国立研究所の理論部の部長を47年から72年まで務めた人物である。論文は、核管理研究所(NCI)のために90年に執筆した同様の題名の論文を敷衍したもので、セルデン氏の説明を詳しくした内容となっている。
 ガーウィン氏はこれらの「事実」をつぎように整理する。

  • 1)原子炉級のプルトニウム(燃焼度3万3000MWd/トン)の裸の球形の臨界量は約13キログラム、兵器級のそれは約10キログラムである(共にアルファ相の金属の場合)。前者で核兵器を作るのには30%ほど余分な量が必要ということである。この差はそれほど大きくない。(長時間燃焼のものでも、臨界量はプルトニウム240の臨界量40kgより小さくなる。これは兵器級ウランの52kgより小さい。裸というのは中性子を跳ね返す反射材を使わなかった場合ということで、数インチ(1インチは2・4センチメートル)の反射材を使えばこの量は半分ほどになるとマーク氏はいう。)
  • 2)アルファ放射能による発熱量は、原子炉級プルトニウムの場合kg当たり10・5ワット、兵器級は2・3ワットである。この熱が点火用の化学爆薬に影響を与えるが、アルミの伝熱材を使うなどの対処法がある。
  • 3)自発的核分裂で出る中性子は、原子炉級はグラム当たり毎秒360。兵器級はグラム当たり毎秒66である。爆縮の過程で最悪のタイミングで中性子が入ってきた場合、初期のモデルでは1〜2キロトンの爆発となる(理想的な場合は約20キロトンとなる)。米国は、新型のモデルではどんなタイミングで中性子が入ってきても威力が小さくならないことを1972年に発表した。
  • 4)1メートルの距離で6キログラムのプルトニウムから浴びる放射線量は、原子炉級は毎時30ミリレム、兵器級は毎時5ミリレムである。これは、核兵器製造工場での労働者の被曝に関わる問題である。
 

これらからマーク氏自身はつぎのような結論に達する。

「簡単なタイプの効果的な設計を開発する難しさは、原子炉級プルトニウムを使った場合も、兵器級プルトニウムを使った場合に直面するものと比べそれほど大きくない。」

ガーウィン氏のこの論文の執筆の背景にあるのは、英語版の『プルトニウム』誌(1997年秋)の今井氏の論文のようである。両者のやりとりが、日本語版『プルトニウム』誌(98年夏)に載っている。原子炉級プルトニウム問題が「良識のある結論に達していない」との今井氏の主張に対し、ガーウィン氏は、「あなたが個人的にそのような主張をすることによって混乱を引き起こしている」のがその主な理由の一つだと応じている。
 これまでの議論の結論は、MOX燃料は、核兵器利用可能物質として厳重に護衛しなければならないということである。「あかつき丸」の輸送に合わせて建造された巡視船「しきしま」は、25ノット(46キロメートル)以上の速度で、前後に35ミリ機関砲と左右に20ミリ機銃を装備していた他、2機のヘリコプターと高速艇2隻を搭載していた。これでも不十分だとの批判があった。2月11日、米国下院国際関係委員会のベンジャミン・ギルマン委員長は、国務長官に宛てた書簡でつぎのように述べている。

「この代案輸送計画が、1988年日米協定で定められた核物質防護措置の規定を満足するものでも、それと同等のものでないことを憂慮している。私の考えでは、最小限の武装をし、最高速度13ノットの[貨物船による相互防衛]では、軍艦や沿岸警備艇のような機動性や速度はもちろん、十分な防衛・抑止能力を持たないと思われる。武器に関しては、護衛船として提案される船は、レーダー誘導の対ミサイル防衛システムを含むべきと考える。」

海洋汚染の可能性という観点からの輸送反対の声も上がっている。2月25日、高レベル廃棄物を積んだ「パシフィック・スワン」がシェルブールを出発したのを受けて、廃棄物輸送とプルトニウム輸送両方を批判する声明がルート沿いの国々から出された。3月2日、南太平洋フォーラムは、「16カ国からなるフォーラムの指導者らは、この地域を通過するプルトニウム及び放射性廃棄物の輸送は憂慮すべきことと考える」と述べ、事故の際の補償責任について日英仏と交渉を行っていると発表した。また3月4−5日に首脳会議を開いていたカリブ共同体は、その声明の中で、カリブ共同体の各国首脳は「いかなる事故でも海域の諸国民やカリブ海の生態系に壊滅的な結果をもたらすことを十分に認識し、カリブ海をこのような核物質の輸送に使うことを完全に拒否する」と述べている。
 原子力資料情報室では、今回の輸送で運ばれるプルトニウムは、約450キログラムと推定している。英仏両国にある日本のプルトニウムの総量は約45トン。今回の輸送は今後何回にも渡って行われる予定の輸送の前例になる重要な意味を持つものとして国際的な注目を浴びているのである。



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