核情報

2005.4.24

NPT会議に向けて日本の課題 ─ 核兵器廃絶と再処理問題

田窪雅文 『ふぇみん』用原稿

 5月2日から27日までニューヨークで五年に一度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議が開かれる。2000年の会議以後に起きた北朝鮮やイランの核疑惑問題の浮上、闇市場の発覚、同時多発テロなどを背景に、国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長は、核兵器の材料を作れるウラン濃縮施設及び再処理施設の建設凍結を同会議で決めるべきだという。そこで世界の目が向けられているのが使用済み燃料を使った試運転に年内に入る予定の六ヶ所再処理工場だ。

 NPTは、非核兵器国が核兵器を持たないと約束する一方で、英米ロ仏中の五つの核兵器国が核廃絶の交渉を約束すると同時に非核兵器国の原子力開発に協力することを保証した条約だ。加盟国はほぼ全ての国といえる189カ国。非加盟は核兵器を持っているイスラエルと印・パの三国だけだ。2003年に脱退を表明した北朝鮮の地位は不確かだ。

 ウラン濃縮工場では、天然ウランに0.7%しか含まれないウラン235の含有率を高める。原発ではこの核分裂を起こしやすいウランの含有率を3〜5%にしたものを使う。核兵器では、90%程度だ。原子炉の中では、ウラン235が核分裂を起こしてエネルギーを提供する一方、分裂を起こしにくい方のウラン238が、プルトニウムに変わる。使用済み燃料を切断して溶かし、化学的にプルトニウムを取り出すのが再処理工場だ。このプルトニウムは核兵器の材料にすることも、ウランと混ぜて燃料にすることもできる。

 つまりこれらの工場は、原子力発電の燃料の生産に使うことも、核兵器の材料の生産に使うこともできる。だが、濃縮工場は少数の国が持っているだけで世界の原発の燃料を提供できるし、再処理は原発に必要ない。取り出されたプルトニウムは燃料用にただで提供しても、ウランを買って燃料を作った方が安上がりだ。それで凍結案がでている。 

 六ヶ所では、年に長崎型原爆1000発分のプルトニウムを作る計画だ。すでに日本は再処理を委託してきた英仏と国内合わせて5000発分のプルトニウムを持っている。

 日本が再処理に固執するのは核武装計画があるからだとの主張がある。日本政府は、日本はIAEAの規則を守っている優等生だから、再処理を許されるべきだと主張する。だが、問題はそういうことではない。

 非核保有国における初めての商業規模の再処理工場である六ヶ所工場の運転が始まると他の国で濃縮・再処理工場が建設されるのを止められなくなる。これは優等生が鉛筆を削るのに刃渡りの長いナイフを教室に持ち込むのを許すかどうかという問題だ。優等生が実は暴力的な性格を隠しているから許してはいけないというのが日本核武装論。優等生はいつか変貌を遂げるかもしれないというのが、日本の長期的核武装の可能性を心配する発想。優等生に許せば、他の生徒にもナイフを持たせることになり、教室が危険になるというのが、世界的核拡散を憂える発想だ。

 核武装の可能性どころか実際の核兵器を合計約三万発も持っている八つの国が核廃絶に向かうべきは明らかである。それが核が重要との考えを変えさせる。だが、核拡散が進めば、核廃絶も難しくなる。アナン国連事務総長が述べているとおり、「核軍縮と核拡散防止の両面における進展が極めて重要であり、どちらも他方の人質となってはならない」。

 六ヶ所工場運転中止は核拡散防止の鍵だ。


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