核情報

2005.10.14

12月の六ヶ所再処理工場運転開始阻止こそ被爆60周年の課題

原爆の材料の生産を許してはならない──
 12月の六ヶ所再処理工場運転開始阻止こそ被爆60周年の課題

『ピースピア』用原稿

 青森県の六ヶ所再処理工場で実際の原発の使用済み燃料を使ったプルトニウム分離試験が始まろうとしている。プルトニウムは、言うまでもなく長崎に投下された原爆の材料になった物質だ。試験という名前だが、2007年の操業開始までプルトニウムを約4トン(長崎型原爆500発分以上)抽出しようというものである。事実上の運転開始だ。

 六ヶ所再処理工場は、非核保有国としては初めての商業用規模で、年間8トンもプルトニウムを取り出す計画だ。長崎型原爆1000発分に当たる。政府自身が経済性が無いと認めているこの施設が運転を開始してしまえば、核武装の意図を持った他の国が平和利用の名の下に同様の施設をつくる際の口実になってしまう。日本に倣って核物質の製造能力を持った国が、将来、核不拡散条約(NPT)を脱退して核武装に向かう可能性がでてくる。また、生産量の一%ぐらいは、「行方不明」になっても、計算・計測上の問題なのか、国家が隠しているのか、テロリストが盗んでいるのか分からない。

 再処理を認めるか否かは、原発の賛否とは別の問題だ。ウラン濃縮工場や再処理工場は、原子力発電の燃料の生産に使うことも、核兵器の材料の生産に使うこともできる。だが、濃縮工場は少数の国が持っているだけで世界の原発の燃料を提供できる。一方、原発の運転の過程で発生するプルトニウムを使用済み燃料から取り出す再処理は原発にまったく必要ない。取り出されたプルトニウムは燃料用にただで提供しても、ウランを買って燃料を作った方が安上がりだ。再処理してでてくる廃棄物は、どこかに処分しなければならない。再処理をしない場合は、使用済み燃料自体を廃棄物として処分することになる。処分場が必要なのはどちらの場合も同じである。

 元々、使用済み燃料を再処理して、プルトニウムを利用するという発想は、1960年代から70年代初めにかけての産物だ。ウランの埋蔵量の推定値の低さと原子力発電の急成長の予測を背景に、高速増殖炉という特殊な原子炉でプルトニウムを燃料として燃やす一方で、消費されたよりも多くのプルトニウムを生み出すという「夢」が生まれた。ところが、その後ウランの埋蔵量は当初予想よりも遙かに多いことが判明し、原発の方は当初予想ほど伸びなかった。一方、高速増殖炉の開発は進まず、欧米各国がこぞって計画から撤退していった。高速増殖炉計画がとん挫する中で、日本は主として英仏両国に委託した再処理の結果、既に、国内外に40トン以上のプルトニウムを溜め込んでいる。しょうがなくこれを普通の原子炉で燃やそうということになったが、その計画も進んでいない。高速増殖炉が本命ならば今六ヶ所を無理に動かさなければならない理由はない。

 2000年のNPT再検討会議以後に起きた北朝鮮やイランの核疑惑問題、闇市場の発覚、米中枢同時テロなどを背景に、ウラン濃縮工場や再処理工場の建設凍結を求める声が高まっている。今年5月の再検討会議でも原子力推進と核拡散防止の番人の両方の役目を担う国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長やアナン国連事務総長が、ウラン濃縮と再処理のモラトリアムや規制の強化の必要性を訴えた。アナン国連事務総長は、会議の初日の演説で次のように述べている。ウラン濃縮と再処理という「燃料サイクルのもっとも機微な部分を何十もの国が開発し、短期間で核兵器を作るテクノロジーを持ってしまえば、核不拡散体制は維持することができなくなる。そして、もちろん、一つの国がそのような道を進めば、他の国も、自分たちも同じことをしなければと考えてしまう。そうなればあらゆるリスク──核事故、核の違法取り引き、テロリストによる使用、そして、国家自体による使用のリスク──が高まることになる。」」

 5月5日には、アメリカのNGO「憂慮する科学者同盟(UCS)」が、日本に対して六ヶ所再処理工場の稼動の無期限延期を求める要請文を発表した。要請文には、4人のノーベル賞受賞者やウイリアム・ペリー元国防長官を含む米国の専門家ら27人が署名している。5月24日には、世界各国の平和団体の代表者など約150人(現在約180人)が署名した同様の要請書が発表された。後者には、原水禁、原水禁、被団協の関係者の他、本誌に関係の深い吉田嘉清・服部学両氏も署名している。また、先日亡くなったロートブラット・パグウォッシュ名誉会長も6月13日に署名している。氏の遺言となった。

 韓国では、9月12日、落選運動で知られる参与連帯など6団体が、六ヶ所再処理工場の運転開始は朝鮮半島の非核化の障害になるとの声明を発表した。なぜ日本だけ再処理が許されるのかとの不満が南北の両方で強くなるからだ。

 六ヶ所再処理工場が稼働し始めれば、世界的モラトリアムの可能性は消える。現在再処理施設を持っているのは核保有国だけだ。日本は、以前の南アで名誉白人であったように、核クラブの名誉会員になろうというのか。核保有国と日本だけに再処理を認めるという体制は維持のしようがない。六ヶ所再処理工場の運転開始は、第二の核時代──大規模核拡散の時代──への扉を開くことになりかねない。

 日本が運転無期限延期を発表すれば、世界的モラトリアムに向けた大きな一歩となる。運転開始阻止は、日本の反核運動が核廃絶のために直接貢献できる類い希な課題である。日本では、NPT再検討会議が失敗に終わった今こそ日本から核廃絶の声をという主張の中で核拡散問題が軽視される傾向がある。だが、アナン国連事務総長が3月の国連改革に関する勧告で述べているように、「軍縮と核拡散防止の両面における進展が極めて重要であり、どちらも他方の人質となってはならない」。六ヶ所再処理工場運転阻止こそ被爆60周年の日本の核廃絶運動の最大の課題と捉えるべきだ。12月の運転開始を許せば世界の反核運動は失望するだろう。残された時間は少ない。日本の運動の正念場である。


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