核情報

2005.2.8

事務総長「脅威、挑戦、変革に関するハイレベル委員会」レポート

より安全な世界へ − 私たちの協同責任

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我々は、原子力は民間が利用できる重要な電力源であり、化石燃料への依存と温室効果ガスの排出を削減することを目指した世界的な努力の文脈において、さらに重要になるかも知れないと多くの人が考えていることを承知している。同時に、より効果的な核不拡散体制を構築する目標と、すべての核不拡散条約締約国が持っている民生用原子力産業を発展させる権利との間の緊張の激化に目を向け、これを和らげる必要がある。
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核不拡散条約第4条は、平和目的の原子力の研究、生産、利用の権利をその締約国すべてに保障している。この権利は擁護されなければならない。条約はまた、この権利は第1条と第2条に従うかたちで行使されなければならないと明記している。この義務もまた尊重されなければならない。近年、ウラン濃縮および使用済み燃料再処理の核拡散リスクが大きく、また増加していることが明白になってきた。特にこれら2つの工程は、条約に反した−−核兵器能力の取得のオプション当該国に与えるための−−活動を条約締約国が秘密裏に追及できる(そして、いくつかの場合には、追求した)抜け道となっている。
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二つの是正策が必要である。第一に、1990年代半ばまで国際原子力機関(IAEA)の基礎となっていた査察・検証規則が適切性をますます失っていることが判明している。IAEAはモデル追加議定書によって、以前より厳格な査察規則を導入したが、議定書を批准しているのは核不拡散条約締約国の三分の一にすぎない。IAEA理事会は、モデル追加議定書がIAEA保障措置の今日の基準であることを認めるべきである。そして、安全保障理事会は、不拡散および保障措置基準違反の深刻な懸念が発生した場合には、行動する用意があるべきである。
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第二に、IAEA憲章第3条と第9条の現行の条項に基づいて、民生用原子力利用者への核分裂性物質の供給の保証者となるための取り決めに関する交渉を遅滞なく行い、これを早期に締結するようわれわれはIAEAに強く求める。このような取り決めにおいては−−当該施設で保障措置あるいは査察手続き違反がない限りは−−IAEAが、自らの認可した供給者を通じて、市場価格で、核燃料(低濃縮ウラン)の供給と使用済み燃料の再処理とに対する需要を満たし、これらのサービスの間断ない供給を保証できるようにする必要があるだろう。
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この取り決めの交渉が続けられている間、各国は、NPTの下で認められたこのような施設を建設する権利を放棄することなく、自発的に、これ以上の濃縮・再処理施設の建設に関する期間を限定したモラトリアムを設定すべきである。現在の供給者が市場価格での核分裂性物質の提供を保証するのと引き替えにモラトリアムを約束するものである。
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A・Q・カーンのネットワークの活動に関する最近の経験は、核兵器計画の部品の違法な秘密貿易を阻止するための措置の必要性とその価値の両方を示して見せた。この問題は、現在、「拡散対抗安全保障構想(PSI)」が自発性の原理に基づいて対処しているところである。われわれは、すべての国にこの自発的イニシアチブに参加するよう奨励すべきだと考える。
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核・生物・化学兵器およびその物質の違法貿易に対する国際的な法制を強化するため、「国際海事機関(IMO)」で進行中の1988年「海上航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約」改正の交渉をタイムリーな形で終結すべきである。条約の交渉の進展が満足のいくものでない場合には、安全保障理事会は、強制的措置を講じる用意がなければならないかもしれない。
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核不拡散条約には、条約の脱退の権利についての条項があるが、各国には脱退しないよう要請すべきである。脱退するものは、条約に加盟していた間に犯した違反について責任を負わされるべきである。核不拡散条約からの脱退の通告があった場合−−必要があれば、安全保障理事会による命令により−−条約の遵守についての検証が直ちに行われるべきである。違反があった場合には、IAEA理事会は、IAEAの提供する援助をすべて引き上げるとの決定を行うべきである。
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テロリストによる核・放射性・化学・生物兵器の使用の可能性に対抗するため、緊急の短期的措置が必要である。危険性のある物質を集結し、安全に保管し、可能であれば、処分するとともに、効果的な輸出規制を実施することに高い優先順位を置かなければならない。この目的のために、われわれは、「地球的脅威低減イニシアチブ(GTRI)」を歓迎する。このイニシアチブは、(a)世界の高濃縮ウランのストックの低減、(b)HEUを使った研究炉の「拡散抵抗」型の原子炉への転換、(c)既存のHEUの「ダウンブレンディング」を促進するものである。GTRIの実施のために提案されているタイムラインは、10年から5年に半減すべきである。
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安全保障理事会は、その決議1540(2004年)の下で、保安、追尾、非合法化措置、輸出管理のためのモデル法制を各国に提示し、2006年までに国連加盟国による実施の最低基準を作成することができる。この目標を達成するには、理事会決議1540(2004年)実施委員会は、IAEA、「化学兵器禁止機関(OPCW)」および「原子力供給国グループ(NSG)」との恒久的連携を樹立すべきである。
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IAEA加盟国は、放射性物質の場所を特定し安全に保管することに役立ち、また、各国が関連国内法規を制定する助けとなるプログラムのためにIAEAの資金を増やすべきである。さらに、軍縮会議(CD)は、これ以上の遅延なく、検証可能なカットオフ条約−−設定されたスケジュールに従い兵器用のみならず非兵器用の高濃縮ウランの製造をも終わらせるもの−−の交渉に進むべきである。


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