エネルギー省の研究が、技術によって核拡散・テロリズムのリスクを減らすことはできないと示している
(原文)
憂慮する科学者同盟(UCS) (米国ワシントンDC)
上級スタッフ科学者
エドウィン・ライマン博士
背景
ブッシュ政権は、2007年度予算において、原発の使用済み燃料を再処理するプログラムの手付け金として2億5000万ドルを要求している。使用済み燃料は、放射能が非常に強いものである。再処理は、この使用済み燃料を放射能の非常に強いものにしている元素からプルトニウムを分離する複雑な化学処理工程である。分離されたプルトニウムは、新しい原子炉の燃料を作るために使うことも、核兵器を作るために使うこともできる。このため、再処理施設は、それがどこに置かれていても、核兵器を作るための材料を求めているテロリストにとってその入手源となりえ、また、これらの施設は核兵器計画を開始しようとする国家にとってその道を容易にするとの懸念が以前からある。このような懸念のために、米国は、1970年代にその再処理計画を放棄したのである。
ブッシュ政権は、同政権が使うことになる再処理技術は、「核拡散抵抗性のある」物質だけを生み出すものだと主張する。だから、そこで得られるプルトニウムは、核兵器を作ろうとしているテロリストにとって、アクセスができず、また、望ましくないものとなるというのである。下に見るように、この主張は、真実ではない。
直接処分 核拡散抵抗性の基準
エネルギー省(DOE)はこれの技術が他のいくつかの国々で今日使われている再処理技術──ピューレックス法と呼ばれる──との比較において「核拡散抵抗性」があると主張しているのだということを理解することが重要である。このピューレックス法では、使用済み燃料の他のすべての元素からプルトニウムを分離する。DOEは、現在の米国における慣行──使用済み燃料の直接処分──と新しい再処理技術を比べてはいないのである。エネルギー省が提唱しているどの再処理技術も、使用済み燃料を再処理せずに貯蔵して地層処分場で処分する燃料サイクルほど核拡散やテロリストによる奪取に対して抵抗性があるわけでは決してない。
プルトニウムは、巨大で重く、放射能の強い使用済み燃料「集合体」の中に閉じこめられていて、盗むことはまず不可能である。しかも、原子炉から取り出された後、何十年も経っても、強固な遮蔽物で囲んでいない限り、数フィート離れたところにいる者に対し、1時間以内に致死量の線量を浴びせる。使用済燃料は、1メートルの距離で1時間当たり100ラド以上の放射線を出せば、「自己防衛的」であると見なされる。使用済に燃料は、100年以上、そういう状態にあり続ける。最終的に、使用済み燃料集合体は、深い地下の「地層」処分場に置かれることになる。集合体は、そこで、何万年も環境から隔離されたままになる。このため、プルトニウムは、使用済み燃料の放射線のバリヤが朽ちてしまった後も、非常にアクセスの難しい状態に置かれ続けることになる。
核拡散抵抗性に関するDOEの研究
エネルギー省は、同省が開発する再処理技術(UREX+1a)は、通常の再処理(PUREX)ほど核拡散をもたらしやすくないと主張する。二つの理由が挙げられている。第1に、プルトニウムは、プルトニウムより放射能の強い他の「超ウラン」元素(ネプツニウム、アメリシウム、キュリウム)と混ざってでてくる。第2に、このプルトニウムの混合物は、核兵器を作るのに適していない。だが、これらの主張は、どちらも、DOEの研究結果と矛盾している。
DOEの「先進燃料サイクル・イニシアチブ(AFCI)プログラム」のE・D・コリンズ博士が最近行った発表は、これらの超ウラン元素が生み出す放射線は、1メートルの距離で1時間当たり1ラド以下の線量を発生させることを示している。これは、1メートルの距離で1時間当たり100ラドという自己防衛の基準の100分の1、また、原子炉から取り出して50年の使用済み燃料の線量率の1000分の1である(1)。コリンズ博士の研究は、このプルトニウム混合物の出す放射線は、それを盗んだテロリストに即座に害をもたらさないほど低いものであることを示している。これはピューレックス(PUREX)で作られる純粋なプルトニウムと同じことである。
コリンズ博士の発表は、また、意味を持つほどに放射能を高めるためには、プルトニウムを使用済み燃料の核分裂生成物と混ぜなければならないことを示しているが、そうすると、「燃料製造や輸送のコストが相当上がってしまう」ことになる。この研究の重要な意味の一つは、プルトニウム混合物は強固な遮蔽やロボット型の器具の遠隔操作を必要とせずに処理できるから、プルトニウムを盗みだした後、通常の広く知られた技術を使って混合物の他の元素から分離し、核兵器の製造に使うことが簡単にできるということである。
さらに、ローレンス・リバモア国立研究所のブルース・グッドウィン博士の発表(1999年のワークショップの要約の中で説明)は、使用済み燃料内の超ウラン元素(他のアクチニド)は、核兵器の製造に使えると結論づけている。「さまざまなサイクルや核兵器設計の専門家の意見について検討した結果、『核不拡散保証』の核燃料サイクルは存在しないとの結論に至った。『爆発性核分裂可能物質(EFM)』[核爆発を起こすことのできるすべての核分裂可能物質]は、ほとんどのアクチニドとその酸化物を含む。(2)」グッドウィン博士は、「核兵器の設計及びエンジニアリングの専門能力と十分な技術的能力とが合わさって、世界に広がって行くにつれて、核兵器に利用するのが技術的に難しい核分裂可能物質のなかでも利用可能となるなものが増えていく。」と述べている(3)。言い換えると、ユーレックス+で作られたプルトニウムと他のアクチニドの混合物で核兵器を作る能力を得ないと想定することはできないということである。
核兵器物質へのテロリストのアクセス
エネルギー省の科学者らの研究が明らかにしている通り、検討されている再処理技術も、盗難を抑止するほど放射能が強くなく、また、核兵器に利用することのできる物質を生み出すということである。残っている問題は、内部にいるものがこの物質を盗むことがどれほど難しいかというものである。商業的な再処理工場は、このプルトニウム混合物を年間10トン程度扱うことになる──粗野な作りの核兵器1000発分以上である。液状や粉末状にされるから、この物質を正確に測定し、再処理工場での行方を追い続けることは難しい。数ヶ月あるいは数年に渡って、10個あるいはそれ以上の核兵器を作るのに十分な量の所在を確定することができないという事態が、これまでに外国で数件起きている。この期間、盗難が起きているのかいないのか、確認することが不可能だったのである。
DOEの提案にある改良型の再処理技術は、この問題をさらに悪化させる。なぜなら、プルトニウムと他の元素の混合物は、正確に測定することがさらに難しくなるからである。ロスアラモス国立研究所の科学者らによると、「プルトニウム混合物の中にあるMA(マイナーアクチニド)が少量でも集中して存在すれば、適切に考慮されていなければ、プルトニウムの測定の正確さを複雑なものにする。従って、プルトニウムの保障措置が影響を受けうる。(4)」
- 1. E.D. Collins, Oak Ridge National Laboratory, "Closing the Fuel Cycle Can Extend the Lifetime of the High-Level-Waste Repository," American Nuclear Society 2005 Winter Meeting, November 17, 2005, Washington, D.C., p. 13. See http://www.ornl.gov/~webworks/cppr/y2005/pres/124397.pdf
- 2. "Proliferation-Resistant Nuclear Power Systems: A Workshop on New Ideas," Center for Global Security Research, Lawrence Livermore National Laboratory, March 2000, p.7. See http://www.llnl.gov/tid/lof/documents/pdf/238172.pdf
- 3. ibid, p. 15.
- 4. J.E. Stewart et al., "Measurement and Accounting of the Minor Actinides Produced in Nuclear Power Reactors," Los Alamos, LA-13054-MS, January 1996, p. 21. See http://www.sciencemadness.org/lanl2_a/lib-www/la-pubs/00255561.pdf
(核情報訳)