9月8日からのIAEA理事会用に作成された新しいIAEA事務局長報告『イラン・イスラム共和国におけるNPT保障措置協定の実施状態』GOV/2003/63(2003年8月26日付け:配布制限)がカーネギー国際平和財団のサイトに載せられた(pdf)ので、そこからいくつかの情報を拾っておく。この報告書は、理事会前にマスコミにリークされたので、すでに報道されていることも多い。
まず、6月の事務局長報告以後明らかになった点を以前のイランの主張との関連で簡単に整理しておく。
- 申告されていない施設の査察や環境サンプリングなどをルーティーン的に行うことを可能にする追加議定書をIAEAとの間に交わしていない。
- 8月24日、ウイーン駐在のイラン代表が、IAEA事務局長に「追加議定書について[IAEA]と交渉を始める用意がある」と告げた。
- 8月24日、ウイーン駐在のイラン代表が、IAEA事務局長に「追加議定書について[IAEA]と交渉を始める用意がある」と告げた。
- イスファハンで建設の進められている「ウラン転換施設(UCF)」では、実際にウランを使った実験はいっさい行っていないとイランは説明してきた。ウランを使った実験は、IAEAに報告しなければならない。
- 8月19日付の書簡で、イランは、1990年代初めにウランを使った小規模の転換実験を行ったことを認めた。
- 8月19日付の書簡で、イランは、1990年代初めにウランを使った小規模の転換実験を行ったことを認めた。
- テヘランの「Jabr Ibn Hayan多目的研究所(JHL)」のUF4のサンプル中に検出された未申告の劣化ウランの存在
- 8月19日付の書簡で、1977年に輸入した劣化UO2を使ってUF4を製造する小規模実験を1990年代に「テヘラン原子力センター(NRC)」で行ったことが判明したと、イランは説明した。
- 8月19日付の書簡で、1977年に輸入した劣化UO2を使ってUF4を製造する小規模実験を1990年代に「テヘラン原子力センター(NRC)」で行ったことが判明したと、イランは説明した。
- 「テヘラン原子力センター(NRC)」と「モリブデン・ヨウ素・キセノン放射性アイソトープ製造施設(MIX施設)」のサンプル中に検出された未申告の劣化ウランの存在。
- 8月9−12日の会合で、イランは、他国から輸入した遮蔽コンテイナーから来ているかもしれないと説明。IAEAの専門家は、その可能性があると結論。
- 8月9−12日の会合で、イランは、他国から輸入した遮蔽コンテイナーから来ているかもしれないと説明。IAEAの専門家は、その可能性があると結論。
- ウラン濃縮計画においてウランを実際に使った実験は、2003年6月25日まで行ったことがないとイランは主張してきた。ウランを使った実験を行った場合は、IAEAに報告しなければならない。
- 2003年3−6月にナタンツのPFEPでIAEAが採取した環境サンプルの中に2種類の高濃縮ウランが検出された。
イランは、輸入した遠心分離器の部品からくる汚染によるものだろうと説明。
- 2003年3−6月にナタンツのPFEPでIAEAが採取した環境サンプルの中に2種類の高濃縮ウランが検出された。
- イランは、ウラン濃縮計画は、1997年から始まったと説明してきた。
- 8月9−12日の会合で、イランは、計画着手の決定は、1985年に行われ、87年頃に実際に着手したと説明した。
- 8月9−12日の会合で、イランは、計画着手の決定は、1985年に行われ、87年頃に実際に着手したと説明した。
今回の報告書で明らかになった各種施設についての追加情報を下に整理しておく。
- ウラン転換施設
新しい報告書は次のように説明:
「イランは、2003年2月から7月にかけて何度も、「ウラン転換施設(UCF)」では、核物質(UO2、UF4、及びうF6)を使った研究開発は、実験室レベルにおいても、行われておらず、転換や他のいかなる核物質の生産もされていないと述べている。IAEAは、UCF工程の基本設計や、これらの工程の各種実験報告書が外国から得られたと告げられた。「イラン原子力庁(AEOI)」によると、この情報は、UCFの機器の詳細設計と製造をイランが独自に完成させるのに十分だったという。」
「しかし、イラン当局は、2003年8月19日付け書簡で、1990年代初めに、「ベンチスケール(小規模)」のウラン転換実験が行われたことを認めた。」
- 金属ウラン製造
イランは、中国から輸入したUF4のほとんどを金属ウランの製造に使ったと説明している。建設中の計画中の重水炉では、金属ウランは使われないため、兵器用の研究を行っているのではないかと疑われている。イランは、遮蔽用と説明してきた。
新しい報告書によると:
イランは、2003年7月23日付の書簡で、JHL(テヘランのJabr Ibn Hayan多目的研究所)で金属ウラン製造に関する113の実験を行ったと述べた。イランはさらに次のように述べた。1990年代「初めに原子力プログラムを再検討することを決めた際、われわれは、それが、CANDU炉、マグノックス炉、軽水炉のどれになるか分からなかった。それで、「ウラン転換施設(UCF」において遮蔽用物質の製造にも使える金属ウラン生産ラインを含むことにした。」
マグノックス炉では、金属ウランを使う[北朝鮮で問題になっているのはこの型の炉]。
- ウラン濃縮
1997年から始まったウラン濃縮開発においては、核物質をまったく使用していないとイランは、説明してきた。パイロットプラント(「パイロット燃料濃縮プラント(PFEP)」)の建設に入る前にウランを使った実験をまったくしないはずがないというのが、大方の専門家の意見で、たとえばテヘランのカライ電気会社の施設でウランを使った実験を行ったのではないかと見られている。ウランを使った実験を行う際は、IAEAに報告しなければならない。
新しい報告書によると:
イランを訪れたIAEAの専門家は次のような結論に達した。- ナタンツのPFEPの機械は、初期のヨーロッパの設計と認識できる。
- 濃縮技術の開発を、公開された情報やコンピューター・シミュレーションだけで、UF6を使った工程実験を実施することなく、ナタンツで見られるようなレベルまで、行うのは、不可能である。
遠心分離濃縮プログラムに着手する決定は、実際は、1985年に行われた。イランは、遠心分離器の設計図を外国の仲介者から1987年頃に入手した。プログラムは、3つの段階からなっている。
8月9−12日のイラン訪問の際、カライ電気会社のワークショップ(作業場)で環境サンプリングが行われたが、2003年の最初の訪問の時と比べ相当の改修が行われており、このことは、サンプリングの正確さや、以前にどのような活動が行われていたかについて検証するIAEAの能力に影響を与えるかもしれない。
第一段階:1985−1997年
活動は主としてテヘランの「イラン原子力庁(AEOI)」の施設内。
第二段階:1997−2002年
活動は主としてテヘランのカライ電気会社
第三段階:2002年−現在
組み立て活動は、ナタンツに移動
第一段階では、部品が、外国の仲介者を通じて、あるいは直接イランの機関によって外国から入手された。だが遠心分離器の組み立てや訓練の提供という点では、外国からの援助は得られていない。
2003年6月25日、イランは、UF6を単一機械テストのために導入し、8月19日に、UF6を使った10台の小規模カスケードの実験を始めた。(これは、IAEAの保障措置の下で行われている)
2003年3−6月に、ナタンツのPFEPでベースライン・サンプリングが行われた。イランは、このサンプリング以前には、濃縮はまったく行っておらず、「パイロット燃料濃縮プラント(PFEP)」への核物質の導入は行われていないと説明してきている。
2003年6月11日にイランに提供したサンプリングの結果は、高濃縮ウランの粒子の存在を示している。IAEAは、7月10−13日、8月9−12日にも、さらに詳しい結果をイランに提示した。
8月の会合で、イランは、輸入した遠心分離器の部品からくる汚染によるものだろうとの結論に達したと、イラン説明した。
2種類の高濃縮ウランが検出されている。単一機械テスト用に設置された遠心分離器ケーシングの表面のサンプルに差が見られる。
- 重水炉
重水炉は、プルトニウムの生産に適しているため、核兵器開発用ではないかと疑われている。
新しい報告書によると:
7月13日、イランは、アラクで計画中の重水炉(IR40)について次のように説明した。
2004年に建設開始の予定。
基本設計段階から詳細設計段階へ移行しつつある。
テヘランの研究炉に代えるために、医療用及び工業用のアイソトープの製造と研究開発のための研究炉を外国から入手しようと試みたが失敗に終わったため、重水炉を作ることにした。イスファハンのUCFで製造するUO2とジルコニウム製造工場を利用できる。
8月19日の書簡では、イランは、つぎのように説明した。
研究開発の開始の決定は、1980年代初期に行われた。
1980年代半ばに、イスファハン原子力技術センターで実験室レベルの重水製造実験が行われた。
1990年代半ばに、重水炉建設の決定。
重水の製造は、来年開始予定。