核情報

2004.3.8

イランの核開発に関するIAEA報告

(2004年2月24日)

3月8日からのIAEA理事会用に作成された新しいIAEA事務局長報告『イラン・イスラム共和国におけるNPT保障措置協定の実施状態』GOV/2004/11(2004年2月24日付け:配布制限)がカーネギー国際平和財団のサイトに載せられています(pdf)。前回の報告書(pdf、2003年11月10日付け)と比べ新しい情報をまとめておきます。


前回の報告書(2003年11月10日付け)

 イランは、2003年10月21日の書簡で、ウラン濃縮・再処理活動の中断を宣言するともに、以前に秘密裏にウランを使った遠心分離器による濃縮実験とレーザ濃縮実験、そして、プルトニウム抽出実験を行っていたことを認めた。同書間にはつぎのようにある。「1998年から2002年にかけ、1991年に輸入した6フッ化ウランを使ってカライ電気会社で遠心分離器の実験を行った。1991年から2000年まで、[ラシュカール・アバドで]レーザー濃縮プログラムを実施していた・・・1988年から92年にかけて、7kgの2酸化ウランを照射し、[テヘラン原子力研究センターで]少量のプルトニウムを抽出した。」

しかし、イランは、ナタンツやカライ電気会社(テヘラン)で検出された濃縮ウランについては、輸入機器に付着していたものだとする主張を変えていない。輸入先の情報をイランから得たIAEAは、この主張の裏付け調査を進めている。

前回の報告書は、このような新しい状況について説明したものだった。


今回の報告書(2月24日付け)

今回の報告書は、イランが、IAEAの要求する施設へのアクセスを認めて積極的に協力していること、そして、ウラン濃縮の「中断」の定義の範囲を広げたことなどを評価しつつ、いくつかの重要な問題点があることを指摘している。

主要なポイント

未解決の疑惑

ウラン濃縮・再処理計画の状況

評価

「P−2型遠心分離器の設計図面の所有と、それに関連した研究、製造、機械的テスト活動について2003年10月21日の書簡でイランがまったく触れていないことは、重大な関心事である。とりわけ、これらの活動の重要性と機微な性格とを考えるとそうである。」

「IAEAは、カライ電気会社の作業部屋、ナタンズ及び関連施設で検出された低濃縮ウラン及び高濃縮ウランの汚染に関連した未解決もの問題を解決しなければならない。この問題が満足のいくまで解決されない限り、IAEAにとって、未申告の核物質・活動が存在しないと確認することは難しい。」


未解決の疑惑の詳細

1)抽出されたプルトニウムの量
 イランは、1988年から92年にかけて、7kgの2酸化ウランを照射し、そのうち3キログラムから200マイクログラムのプルトニウムを抽出したと報告しているが、IAEAは、申告された照射条件からして、それより相当多い量のプルトニウムが抽出されたと判断している。

2003年、イランは、「イスファハン核技術センター(ENTC)」で準備した劣化二酸化ウラン・ターゲット(7kg)をテヘラン研究炉(TRR)で照射、一部「テヘラン核研究センター(TNRC)」のグローブボックスで再処理していたことを認める。

7kgの二酸化ウランのうち、3kgを再処理して、プルトニウムを分離、残りの4kgは、TNRCのサイトでコンテイナーに入れて埋めたと説明。

(前回報告書アネックス1,パラグラフ27−33)

グローブボックスは、解体して、ENTCの倉庫に貯蔵。

2003年11月〜12月、グローブボックス及び機器から環境サンプル採取。現在分析中。

固化廃棄物は、コンクリートと混ぜてアナラク廃棄物貯蔵施設に輸送、液体廃棄物は、クォムQOMに送って、処分、と説明。

2004年1月、IAEAの要望で、アナラクの廃棄物をテヘランの多目的研究所(JHL)に移動。

2003年11月8日 2本の小さな瓶に入れたプルトニウム溶液をIAEAに提示。
(一本は、上部詰め物入りコンテイナーの中で漏れ。)溶液のサンプル収拾して、分析中。

イランは、溶液中のプルトニウムの量を、200マイクログラムと推定。
分析中だが、申告された3kgが照射条件からすると、それより相当高いとIAEAは推定。

2003年11月8日、イラン、テヘランの多目的研究所(JHL)の査察中のIAEAに、4kgの未処理ターゲットが入っているという4つのコンテイナーを提示。一つを選んで分析。これが照射済みターゲットの特徴を示すことを確認。
2)ポロニウム210製造実験の目的
2003年9月、IAEAは、ウランの照射実験が行われたのと同じ1989年〜93年頃に、ビスマス金属サンプルを照射していることを示す文書に気づく。ビスマスを照射すれば、ポロニウム210が出きるはずなのでイラン側に説明を求めた。ポロニウム210は、アルファ粒子を放出する放射性物質で、RI(放射性アイソトープ)熱発電機に使える他、ベリリウムと合わせて使用すると、原爆の核分裂を始めさせる中性子発生装置にすることが出きる。

イランは、2003年11月13日の書簡でRI熱発電機用のポロニウム210の製造・使用のフィージビリ・ティースタディーの一環だったと説明。

2004年1月、ビスマス実験に関わった二人にインタビュー。二人は次ぎのように説明。
二つのビスマス・ターゲットを照射。その一つからポロニウムの抽出を試みたが失敗。
もう一つは、捨てた。実験の目的は、ポロニウムの化学的分離とRI熱発電機用利用。

2004年2月、イランは、ビスマスの照射は、民生用の中性子発生源についての研究の一部でもあったと説明。民生用中性子用発生源がイランに対する輸出規制のために手に入らないからだが、残っている文書がほとんどないので、そのことを実証できないという。
3)環境サンプリングで検出された濃縮ウランの起源
前回の報告にある通り、IAEAは、ナタンズとカライでのサンプリングで、天然ウラン、低濃縮ウラン、高濃縮ウランの粒子を検出。

IAEA、輸入元の国に同国施設の環境サンプリングのアクセスを要求。

2003年10月21日、イランは、国内生産の遠心分離器の部品の工場についての情報を提供。「ほとんどのワークショップ(作業場・工場)は、軍事産業組織に所有されている。」
2004年1月、イランは、サンプリングを一部で許可。分析中。

前のサンプリングの結果が前回報告(パラ34−35 アネックス38−40、53)の結論を指示。

国内生産の遠心分離器部品は、主として低濃縮ウランに汚染
輸入分離器部品は、低濃縮ウランと高濃縮ウランの両方の汚染。
両者の間にこのような差があることは、イランが言うとおり、汚染が輸入部品から来るものだけとすると説明が付かない。

さらに、カライで発見された汚染のタイプとナタンズのタイプとが違う。

濃縮度36%のウランの汚染は、ほとんど、カライの一つの部屋だけで検出。(36%というのは、イランにはない型の研究炉に利用される濃縮度)輸入部品からはほとんど検出されていない。

これらの事実と、1.2%にだけしか濃縮していないとのイランの説明との矛盾。
4)P−2型遠心分離器の存在
IAEAは、イラン側との話し合いや、他の国での検証活動の結果、イランはP−2の設計情報を持っているかもしれないと考えた。

2004年1月初め、IAEAは、この可能性についてイラン側に質問。

2004年1月20日、イラン側は、つぎのように説明:
外国のソースから1994年にP−2の図面を入手。核物質は使わないで、国内製のローターを使った実験を実施。本体や部品は輸入していない。(イランが提示した図面類から、特殊鋼(マルエージ)を使ったヨーロッパ型のものと類似とIAEAは確認。)
1999年か2000年にイラン原子力庁(AEOI)がテヘランの私企業に、Pー2型遠心分離器の開発を委託。

2004年1月28日に、上記企業のオーナーは、IAEAにつぎのように説明:

設計図にあった特殊鋼(マルエージ)の遠心分離器は製造できず、短いsubcritical carbon composite rotorを使うことに決定。さまざまなサイズの7つのローターを製造。2003年6月以後は中止。機器はすべて、カライ電気会社の子会社(Pars Trash Company) に移動。

2003年10月21日の申告にP−2の情報がまったく入っていなかった理由について、イランは、時間的な制約のため、入れ損なったと説明。

しかし、P−2関連機器をテヘランのPars Trash Companyに移動したのは、イラン原子力庁(AEOI)の指示に基づくもの。この施設には、2003年春に解体されカライのP−1関連機器も保管されていた。イランは、2003年10月初めには、カライのP−1は、廃棄されたと説明していたが、最終的には、これをPars Trash Companyからナタンズに移動し、10月30−31日、IAEAに提示した。
(前回報告書アネックス1 パラグラフ41)

イランは、2004年2月には、つぎのように説明:

10月の報告には、P−1の件も入っていない。(実は入っているとIAEAは指摘)
保障措置協定で報告し損なったものだけ報告した。
保障措置協定の下では報告の必要がない。

IAEAは、それでも、P−1型遠心分離器についてIAEA報告したときに、なぜP−2型の部品の存在や、イラン原子力庁との契約の下での作業、2003年6月以後のPars Trashへの移転などについてIAEAに報告しなかったのか、疑問は残るとしている。


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