田窪雅文
(反原発新聞2003年2月号原稿:詳しくは『世界』2003年3月号「北朝鮮の核開発とはどのようなものか」)
一月三一日付の『ニューヨークタイムズ』紙は、北朝鮮が使用済み燃料をトラックで移動しているところを米国の衛星が捉えたと報じた。北朝鮮は、核武装への道を突っ走っているのか、そう見せることによって米国を交渉に引き入れようとしているだけか。前者の場合、核武装自体が目的か、一度核武装宣言をすることによって交渉上の立場を良くしておいて、核武装を放棄する引き換えに何かを獲得するのが目的か。いずれにせよ米国が交渉を積極的に進める姿勢を示さなければ、北朝鮮はこのまま進みそうな勢いだ。
ここでは、北朝鮮のどのような施設が問題になっているのか整理しておきたい。北朝鮮が一九九二年五月四日に国際原子力機関(IAEA)に提出した「冒頭報告」には、次のような施設が挙げられている。
- 1)研究用原子炉(IRT2000−−プール型軽水冷却・減速。ロシアが一九六五年に提供)、
- 2)臨界実験装置、
- 3)電気出力五〇〇〇キロワット実験用原子炉(黒鉛減速ガス冷却。北朝鮮が英国のコールダーホール型炉をモデルに独自に開発。八六年運転開始)、
- 4)燃料製造工場、
- 5)放射化学実験室(建設中の再処理施設)、
- 6)電気出力五万キロワット黒鉛減速炉(建設中)
- 7)電気出力二〇万キロワット黒鉛減速炉(建設中。)(最後の二基はフランスの黒鉛減速・ガス冷却炉がモデル)。
最初の六つの施設は、平壌(ピョンヤン)から北に約九〇キロメートルの寧辺(ヨンピョン)に、7)は、泰川(テチョン)にある。
米国の「科学・国際安全保障研究所(ISIS)」のデイビッド・オルブライトは、IAEAの資料などを分析した結果、1)と3)を使って最大、六・七〜一〇・七キログラムのプルトニウムがすでに抽出された可能性があると推定している。核兵器一個を作るのに必要なプルトニウムを五キロとすると、最大二個分となる。
また3)からは一九九四年に約五〇トンの燃料すべてが取り出されているが、その中に含まれるプルトニウムの量をオルブライトは約二五〜三〇キログラムと推定する。(前述の記事は、炉の近くに保管されていたこの燃料に関するものだ。)これは、核兵器五〜六個分に当たる。
3)が運転再開となると、年間六キロ、原爆一個分ほどのプルトニウムが原子炉にたまる。凍結されていた6)と7)の建設が再開され、運転開始となると、三基合わせて年間二一〇〜二八〇キログラム、核兵器四〇〜五五個分のプルトニウムがたまる。
5)は、年間燃料一一〇トンの処理能力をもつ。現在ある使用済み燃料を数ヶ月で処理できる能力だ。ほとんど完成しているとされる第二系統も使えば年間最大二五〇トン(上の三基分全量の処理は難しそうだ)。実際の能力は動かしてみないとわからない。
今回の事態のきっかけとなったウラン濃縮施設は場所も特定されていないが、未完成との見方が一般的だ。
北朝鮮の核兵器の設計・製造能力は不明だ。米中央情報局(CIA)は、二〇〇一年一二月の報告書で、「北朝鮮が、一個、ひょっとしたら二個、核兵器を製造したとの判断を一九九〇年代半ばに下した」と述べているが、九四年のCIA係官の次の発言がことの本質を表しているのではないだろうか。「CIAは北朝鮮が核兵器を持っていると五一%信じている。」
上述の九四年の使用済み燃料の取出しは、緊張を一気に高め、米国は攻撃態勢を整えつつあったと言われる。このときカーター元大統領がピョンヤンに飛んで事態を収拾し、その後の米朝間でできたのが、軽水炉および重油の提供と引き換えに、黒鉛減速炉や再処理施設を凍結するという「合意枠組み」だ。今回また、その使用済み燃料が問題となってきた。(この燃料は、長期保存に向いていない。米国の技術者が現地に行って、アルゴンガスを注入した缶詰状態にしてあるが、長くはもたない。二〇〇三年の軽水炉の完成とともに国外に運び出して再処理する予定だった。放っておくと深刻な汚染・被曝問題となる。)
北朝鮮の安全保障と核計画の完全放棄とを確保するための交渉が急がれる。