6月15日、米国のワシントン・ポスト紙のが、パキスタンのカーン博士の「核の闇市場」関係者がミサイルに搭載可能な核兵器の設計図を持っていたと報じました。この記事は、米国のNGO「科学・国際安全保障研究所(ISIS)」のデイビッド・オルブライト所長の報告書のドラフトに基づくものです。同報告書が翌16日、ISISのサイトに載りました。
報告書『スイスの密輸業者らは進んだ核兵器の設計図を持っていた』 (2008年6月16日, pdf)には、スイス政府が5月28日午前にこの件に関して発表した声明のリンクとその英語の要約(pdf)もあります。オルブライトISIS所長は、イラクで国際原子力機関(IAEA)の査察官として調査に当たったこともある人物です。
以下、これらの文書の内容の要約を略年表の形で載せました。*が付いているのは、スイス政府の文書からの部分です。
参考
- 小型核設計図、闇市場に流出 中距離弾に搭載可能と米紙(6/16)
- カーン博士、核拡散の関与を一転否定「拡散は米のせい」(6/17)
- 国際密輸グループ、小型核兵器の設計書入手…米紙報道(読売新聞 16日11時15分)
- 闇市場・リビア核開発関係資料 核情報
核兵器設計図発見の経緯
- 2003年
- リビアのカダフィ、核計画について発表。
米英及びIAEA調査官、同国に入るのを許される。発見された単純なつくりの核兵器設計図はIAEA保管後、米国に移される。
設計図は、1996年実験の中国製もので、1980年代初期にパキスタンがこれを入手。 - 2003年?
- CIA、ティネル家に対し協力するよう圧力
ティネル家は、カーン・ネットワークの遠心分離機関係の情報及び部品は提供したが、核兵器の設計図については、告げなかった模様。
ウルスは1990年代末あるいは2000年代初頭にCIAに協力開始との報道あり。
(CIAはこれらについてワシントン・ポスト紙にコメント拒否。) - 2004年
- スイス調査官ら、ティネル家親子3人(父フリードリッヒと兄弟のマルコ及びウルス)のコンピューターファイルと文書類を押収。
- 2006年
- スイス調査官ら、暗号化された1000ギガバイトの中から、リビアで発見されたものより小型で進んだ核兵器の設計図(複数)解読。(パキスタンの開発した設計と推測される。イランや北朝鮮のミサイルに搭載可能。ファイルはいくつもコピーされた可能性大。誰の手に渡ったか?)
核兵器の専門能力のないスイス政府は、IAEAに相談。
設計図を見たIAEAは、核兵器国5ヶ国に連絡すべきと勧告。
IAEAは、パキスタンにも設計図の存在について知らせる。
この年の春から米国はスイスにファイル提供を求めたと見られる。 - *(?)
- スイス当局は、ティネル家の件の取り扱い過程で、核兵器、ウラン濃縮用遠心分離機、ミサイル誘導システムの製造のための図面を含む機微な文書を入手。IAEAの代表らにこれらの文書の分析に関して相談。
- *2006年
- スイス政府は、核兵器国5ヶ国が設計図の存在について知っていることを認識。IAEA、ファイルへのアクセスを要請。
- *10月
- スイス政府は、公式にIAEAとの協力を許可。
- 2007年秋
- 米国、少なくともファイルの一部を入手(と推測される)
- *11月14日
- スイス政府、IAEAの監督の下ファイルを廃棄。
(非核兵器国が核兵器の設計図を持っているというNPT違反状態を解消するため。スイス議会監視委員会には状況を知らせてある。) - 2009年
- ティネル親子の裁判開始予定。
ウルスとマルコは、収容中。
父のフリードリッヒは、釈放。
裁判の証拠書類となるファイルをスイス政府が破棄したため、起訴の撤回となる可能性も。兄弟が自由の身になったらどう動くか?