核情報

2012. 4. 6

韓国の人工衛星搭載ロケット、北朝鮮と同様のコースで10月に3回目打ち上げ予定──両者の違いは?米国の専門家が分析

4月12日から16日の間にロケット銀河3号を使って人工衛星「光明3号」を打ち上げると3月16日に北朝鮮が発表したのを受けて、日本政府は、この打ち上げの失敗によりロケット本体あるいは破片が落ちてきた場合にこれを打ち落とすためとして、弾道ミサイル迎撃ミサイルSM-3搭載のイージス艦を沖縄周辺に2隻、日本海に1隻配備し、地対空誘導弾PAC3を沖縄本島、宮古島、石垣島、さらには首都圏にも配備すると発表し、実際に配備計画を進めています。不規則な動きをしながら本体や破片が落ちてきた場合にこれを打ち落とすことができるかという問題と別に、注意すべきことがあります。それは、今回の北朝鮮の打ち上げロケットの飛翔経路が南に向かうもので、これまで2回失敗し、10月に3度目が予定されている韓国の衛星打ち上げロケットのものとほぼ同じで、しかもそれより西寄りだということです。

この問題についてどう考えるべきかについて、米国の「憂慮する科学者同盟(UCS)」の専門家、デイビッド・ライトとやり取りをしているうちに、ライトは分析結果を記事にしてUCSのサイトに載せるに至りました。『北朝鮮の打ち上げ──針の穴を通して』(英文)です。以下、南北朝鮮の人工衛星打ち上げ計画について概観した後、ライトこの記事を訳出します。




  1. 東コースを避けて、安全な南コースに
  2. 南コースも危ない?
  3. 危ないならPAC3を首都圏に配備?
  4. 北朝鮮の打ち上げ──針の穴を通して 2012年4月1日 デイビッド・ライト
  5. 参考 韓国ロケット打ち上げについての外務省報道官説明 2009年4月



ライトは、2011年2月23日に発表した記事『北朝鮮の新しい打ち上げ基地』(英文)で、今回使われる北朝鮮北西部の新しい基地の衛星写真による発射台の高さの分析に基づき、北朝鮮が将来大型の人工衛星を発射する計画を持ち、この基地から南に打ち上げるつもりだろうと推測していました。そして、「要するに、北朝鮮は、その新しい打ち上げ基地を弾道ミサイルの開発のために使うかもしれないが、その発射台の場所も大きさも、その目的のために最適化されたものではないということだ。実際、これらはどちらも、宇宙開発用発射台としての使用と辻褄のあったものである」と結んでいました。

ただし今回の打ち上げについては、核情報へのメールで次のように述べています。

今回の衛星はあまりたいしたことはしないだろう。衛星の主たる役割は、北朝鮮が何かを軌道に乗せられるということを示すこと、そして、衛星と地上の通信の練習の機会を与えるということだろう。何らかのカメラを搭載するようだ。解像度は非常に低いだろうが、写真のダウンロードを試みることはできるだろう。


東コースを避けて、安全な南コースに

2009年4月5日の銀河2号による「光明2号」の打ち上げの際は、ロケットは北朝鮮の東海岸の舞水端里(ムスダンリ)から東に向かって飛びました。これは、地球の自転を使って速度を稼ぐためですが、東には日本があり、問題になりました。これに対し、韓国の羅老(ナロ)1号(2009年8月25日)と2号(2010年6月10日)は、韓国南海岸の羅老宇宙センターから南に向かって飛びました。本州を横切る形にはならないので、こちらの方が日本にとっては安心です。しかし、それでも、九州南西沖から沖縄本島周辺の上空を通過となります。

北朝鮮の打ち上げから約2週間後の4月21日の外務省報道官会見において、報道官は、約4ヶ月後に予定されていた羅老1号の打ち上げについて、平和目的なので問題にしないと説明しました。

南コースも危ない?

今回の北朝鮮の打ち上げは、北朝鮮北西部の東倉里(トンチャンリ)基地から行われます。銀河3号は、韓国のロケットのコースとほぼ並行に、南に飛びます。しかも、銀河3号のコースの方が西側にあります。北朝鮮のロケットが危ないなら、韓国のロケットも危ないと言うことになります。

北朝鮮が、核兵器とそれを搭載するためのミサイルを開発しており、人工衛星打ち上げ実験が、ミサイル発射実験の意味合いをも持つと言うことと、その実験に使われる「ロケット」本体または残骸が日本に落ちてくる可能性があるから危険だというのは別の話です。

北朝鮮が核兵器やミサイルの開発を完全に放棄した後、人工衛星の打ち上げをしたいと考えた場合には、北朝鮮の地理的位置から言って、やはり、この基地の辺りから南に飛ばすしかないでしょう。南北朝鮮の打ち上げ計画の背景には、一〇番目の衛星打ち上げ国の地位の獲得競争という側面があるとの指摘があります。

危険性だけで論じるなら、韓国の打ち上げも同じ基準で考える必要があります。実際、日本が問題にしないことにした羅老1号の打ち上げは失敗に終わり、第2段ロケットのエンジンの破片と見られるものがオーストラリアのダーウィン近郊に落下しています。羅老2号は、離陸後137秒で通信が途絶え、爆発。宇宙センターから南に約470キロの海域で破片が回収されました。

危ないならPAC3を首都圏に配備?

このような「実績」から言って、今年10月に予定されている羅老3号の打ち上げの際、日本はどうするのでしょうか。各地にイージス艦やPAC3を配備して対応するのでしょうか。韓国がロケットを南に飛ばすと言っているのに、コースから全く外れている首都圏にまでPAC3を配備するのでしょうか。羅老号は、第1段がロシア製、第2段が韓国製です。ロシアは、第1段の破片が韓国に分析されることも禁じていますから、事態は相当複雑となります。

失敗して落ちてくる場合、ロケット本体も破片も、不規則な回転をしながら落ちてきます。ミサイルや弾頭で言うなら、極めて高度な回避行動をとっているようなものです。それを打ち落とせると日本政府は考えているのでしょうか。そんな練習をしたことがあるというのでしょうか。

ライトの記事は、これらの問題について考える際の科学的視点を提供してくれます。

北朝鮮の打ち上げ──針の穴を通して 2012年4月1日 デイビッド・ライト

北朝鮮の打ち上げ──針の穴を通して
2012年4月1日


デイビッド・ライト

北朝鮮の予定飛翔経路の初期段階

図1.北朝鮮の予定飛翔経路の初期段階

東倉里(トンチャンリ)打ち上げ基地から南に向けて打ち上げることによって、北朝鮮は、飛行中に大きな陸地地帯の上を飛ぶのを避けることができる。東海岸にある舞水端里(ムスダンリ)基地から打ち上げたこれまでの飛行では、ブースト段階で日本の上を飛んだ。しかし、南に飛ぶ軌道では、地図が示すように、狭い回廊に従って進むことになる。図1及び2の白い線は、北朝鮮が発表した最初の2段の着水水域に基づいて示した飛翔経路の地上通過コースである。ここから、発射が付近の陸地地域にどのようなリスクを意味するかについての議論が生じている。最終的には、これは、様々な要素によるが、幾つかの考察を次に示す。

北朝鮮の2009年4月の打ち上げでは、ロケットは、予定通りの飛翔経路に従い、各段は、計画された着水水域に落下した。これは、北朝鮮がロケットの飛翔経路を制御する一定の能力を持っていることを示している。あの時は、第3段は、着火に失敗したようで、第3段と搭載されていた衛星は、第2段の着水地域に落下した。

主たる問題は、北朝鮮が打ち上げ後、ロケットの制御を失い、ロケットが予定の飛翔経路から外れた場合どうなるかである。北朝鮮は、発射状況を詳細にモニタリングするだろう。液体燃料のロケットだから、エンジンは、打ち上げに当たるエンジニア等が問題を探知した場合──この問題が同時にロケットの通信の遮断をもたらさない限り──迅速に停止することができるだろう。各段は、自爆用爆薬を備えているかもしれない。その場合、地上に落下する前に大きな塊を粉砕することを試みることになる。

打ち上げ時点で、「銀河」は、80〜85トンの質量を持っている。この質量のため、ロケットは、最初の約2分間は、比較的ゆっくりと加速していく。ここで第1段の燃焼が終わり、上部の段から切り離される。すべてが上手くいけば、第1段は、図1の赤い長方形の水域に着水する。それまでに何か問題が起きれば、ロケットは、北朝鮮の領土か、韓国の西側の海域に位置することになる。従って、打ち上げのこの段階が周辺諸国に与える脅威は、比較的わずかしかない。

第1段は、ロケットの質量の約80%を占める。約65トンである。従って、この段が落下した後、加速状態にあるのは、元のロケットの質量のわずか20%でしかない。図1及び2が示すように、これらの上部の段は、韓国と中国の間を通り、その後、沖縄と台湾の間、そして、日本の南琉球諸島の上を飛ぶ。この時点で、計画通りに行っていれば、ロケットは、高度数百キロメートルに達している。第1段と同じく、第2段が予定飛翔経路を離れれば、エンジンを止め、横に向けた速度が大きくなるのを防ぐことができる。

北朝鮮の予定飛翔経路と発表された第2段着水水域

図2 北朝鮮の予定飛翔経路と発表された第2段着水水域

しかし、第2段は、燃焼が終わった後、さらに1000秒ほど弧を描いて宇宙を飛んでから着水となる。第2段が燃焼終了段階で飛ぶ方向が横に数度外れていると、予定された飛翔経路から横に外れて飛び、予定された第2段着水水域から横に数百キロメートル離れた場所に落下することになり得る。図2が示すように、これは、第2段がフィリピンを直撃するのに十分な距離である。燃料を除いた第2段の質量は、約1.5トンである。これは、大気圏に再突入する際に、ばらばらになるか、部分的に燃える可能性がある。

第3段は、計画通りに行くと、「軌道速度」に達し、第3段と衛星は、地球を回る軌道に乗ることになる。図3は、この二つが飛ぶ飛翔経路の地上コースを示している。フィリピン及びインドネシアの島々、そして、オーストラリアの上を飛ぶことになる。第3段の操作の比較的初期の段階で問題が起きると、その速度がわずかだけ上がり、この地域に落下することになるかもしれない。そうでなければ、第3段は、これらの地域の上を高度約500kmで飛ぶことになる。

北朝鮮の予定飛翔経路

図3.北朝鮮の予定飛翔経路

韓国の打ち上げとの比較

韓国は、2度衛星打ち上げを試み失敗している。2009年8月25日と2010年6月10日である。これらの打ち上げと、北朝鮮の打ち上げ計画を比較してみるのは、興味深いことである。北朝鮮の技術の信頼性の欠如がリスクをもたらすと論じる人々がいるが、韓国の打ち上げも問題を伴うものとなった。

韓国のKSLV-1は、二段式の140トンのロケットで、ロシア製の液体燃料の第1段と、韓国製の固体燃料の第2段からなる。羅老(ナロ)基地から打ち上げられたロケットは、南に向け、北朝鮮の計画された打ち上げと同様のコースを飛ぶ。図4及び5は、大体の飛翔経路を示している。ロケットは、飛行の初期段階において、日本の九州から200km以内、九州の西にある福江島(五島列島)からは100km以内の所を通り過ぎる。飛翔経路は、その後、沖縄の上、そして、オーストラリア及びその北方の島々の上を辿る。


図4 右の黄色の経路は、韓国の打ち上げが辿った大体の地上コース。赤い丸は、2010年の韓国の打ち上げの破片が発見されたと報じられている場所を示す。


図5 北朝鮮(白)と韓国(黄)の飛翔経路の比較

2009年の韓国の打ち上げの初期段階は、計画通りに行ったようである。しかし、第2段のエンジンが燃焼している段階で、衛星を覆っている「衛星フェアリング[空気抵抗を軽減し、空力加熱から保護する]」の切り離しで問題が生じ、ロケットが制御を失い、回転しながら地上に落ちてきた。第2段のエンジンの破片の一つと考えられているものがオーストラリアのダーウィン近郊に落ちた(図5参照)。

2010年の打ち上げの際、オペレーター等は、ロケットとの通信を発射後2分ほどで失った。この時点でのロケットの高度は約70km。ロケットはその後爆発したと考えられている。韓国海軍は、打ち上げ基地から南に470kmの場所で残骸を発見したと報じられている(図4参照)。

韓国は、今年10月までに3度目の打ち上げを試みる予定である。前回の打ち上げの爆発は第2段の自爆用爆薬に関係しているというのが一つの考え方であるため、韓国は、昨年12月、これらの爆薬を次回の打ち上げでは取り外すと述べている。この安全システムの欠如は、打ち上げにまた問題があった場合に、懸念材料となり得る。

参考: 韓国によるロケット打ち上げについての外務省報道官説明 2009年4月


韓国によるロケット打ち上げ

(問)韓国が、7月末に「KSLV-1」型ロケットを打ち上げるということですが、外務省として把握している事実関係と、あと日本の領土、領海の上空を飛んでいくのかという2点についてお願いします。

(報道官)まず事実関係ですけれども、韓国政府は、今月の16日付けで韓国政府の教育科学部から、本年7月末に打ち上げを予定していることを公表したと承知しております。韓国政府は現在建設中である羅老(ナロ)宇宙センターにおいて、ロケットの初めての打ち上げを計画していると聞いております。二つめの点ですけれども、このロケットは打ち上げ後、我が国の上空を通過することから、これまで韓国政府と日本政府との間で累次非公式協議を行っておりまして、安全対策等について意見交換を行ってきています。

(問)領空というのは、沖縄県の上空ですか。

(報道官)領空を通過することは想定されている訳ですので、安全対策等について、当然しっかり意見交換をしているということです。非公式に協議ということですので、この時点で具体的にどこを通過するということは、まだ発表を差し控えさせていただきたいと思います。

(問)北朝鮮がミサイルの発射をした際は、日本の領土上空を通過するということに対して、けしからんと反対をされていたと思いますけれども、今回の韓国については、けしからんというお考えなのでしょうか。

(報道官)北朝鮮のミサイル発射については、国連安保理決議第1695号、第1718号によって禁止をされている行為です。他方、韓国のロケットの打ち上げについては、そのような安保理決議は存在しておりませんし、我々として、非公式協議を通じても平和目的であることは明らかです。今やろうとしていること、これまでもやってきたことは、ロケットが打ち上げられ、日本の上空を通過する際に、安全が確保されるように十分な安全面での協力を行っていくということだと思っております。

(問)日本の上空を通っていっても、問題はないと。

(報道官)そういうことです。

(問)事故等で落下の可能性が当然あると思うのですが、その場合、迎撃をするというとは。

(報道官)安全対策について、しっかり意見交換をしていき、政府として安全面でしっかり責任を果たしていくということに尽きると思います。

(問)領空というのを上空と仰いましたけれど、一般的に国会答弁では、領空というのは100キキロメートルくらいですが、今回の場合は領空内に入るのでしょうか。

(報道官)現在、得られている情報から試算をすると、このロケットは正常に飛行した場合、我が国の上空160キロメートルを超えるところを通過する予定だと考えられます。ご指摘の国際法上の領空の上限は明確に定まっている訳ではないと承知しております。従いまして、領空の上限を仮に高く設定する考え方をとったとしても、上空160キロメートル超であれば、領空の上限より上であると考えられると思います。また、100キロメートル以上ということですので、航空機の運航等に影響は無いと考えられるということです。

(問)韓国側の通告にあるロケットの種類等、詳しいデータを教えていただけませんか。

(報道官)まだ、非公式協議ということですので、日本政府の方から具体的に発表することは差し控えたいと思います。いずれにしても、時期が来ればきちんと情報を開示して準備をすることだと思います。

(問)何を目的としているのでしょうか。

(報道官)初めての平和目的のロケットの打ち上げだということで、このアイデアそのものは数年前からこの打ち上げについては追求されてきたと聞いております。

(問)ICAOとか、IMOにはまだ通報はないのでしょうか。

(報道官)その点について、私は承知しておりません。いずれにしても、日本政府として一番関係のある韓国政府としっかり協議を続けていくということです。

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