W88が400発しかないのは、そのピット(プルトニウムからなる芯の部分)の生産中の1989年に、コロラド州ロッキーフラッツのピット製造工場が安全性・環境などの問題で閉鎖されてしまったからです。この工場の閉鎖によって、米国はあらゆる弾頭のピットの生産能力を失いました。この後新しい核兵器の開発を行っていませんから、必要でもありませんでした。計画数を満たせなかったのはW88だけです。
1990年代末にニュー・メキシコ州にあるロスアラモス国立研究所のTA55という施設で小規模のピット生産が開始されました。今年4月22日にロスアラモス国立研究所は、89年以来、初めて、実用の規定を満たすピットを生産することに成功したと発表しましたが、それはこのW88のピットです。TA55では、これまで18個のピットを作っていますが、完全に認証されたプロセスを使って作ったピットは今回のもの(Qualー1)が初めてです。今後このピットについてさまざまなテストを行って、実際の核兵器の基準を満たしていることを認証し、2007年までに年間10個の実用ピット生産体制を整える計画です。この生産能力は年間50個に上げられる可能性もあります。
これとは別に本格的な「最新型ピット生産工場(MPF)」を作る計画があります。年間20個程度の暫定的能力では、将来予想される生産量、さまざまな種類のピットを同時に製造する能力などの要請に答えることはできないというわけです。今年6月2日、米国エネルギー省は、MPFのEIS草案を発表しました。1日1シフトとして、年間125個、250個、450個の生産能力の可能性について検討することになっています。2シフトとすれば、生産能力はそれぞれ倍となります。場所は、5地点の中から選択される予定です。最終的EISに従って、エネルギー省長官は、来年4月までにMPFの計画を進めるかどうかの決定をすることになっています。計画実施となれば2020年頃生産開始となる計画です。米国が、場合によっては年間900個もピットを作ることを検討することは、他国に核の有用性を訴えるようなもので、核拡散防止の努力に悪影響を与えます。