核情報

2008. 6

NPT:過去、現在、未来


米国ACT誌巻頭コラム

NPT:過去、現在、未来(原文) 『アームズ・コントロール・トゥデー』2008年6月号

ダリル・キンボール

「核拡散防止条約(NPT)」は、その40年間の歴史において、欠くことのできない、しかし、不完全な、一連の互いに絡み合った不拡散と軍備撤廃の義務と基準を確立してきた。NPTが署名開放された1968年7月の段階で、核兵器国の数は将来数十になると予測されていたが、現在元の5ヶ国の他に核兵器を持っているのは4ヶ国だけである。一方、数ヶ国が核兵器計画を放棄した。

NPTは、核輸出規制及び保障措置システムに支えられ、非核兵器国が核兵器を取得したり、作ったりするのを、ずっと難しくしている。それと同時に重要なことは、NPTの6条が、米、ロ、英、仏、中の各国に核軍備撤廃の達成を約束させていることである。

しかし、今また、核不拡散体制は、重要な局面にある。中東、南アジア、北朝鮮の核・ミサイル計画、そして、核テロリズムの可能性が地域的・国際的安定を脅かしている。数ヶ国が新たにウラン濃縮及びプルトニウム再処理ビジネスを始め、実質的な核保有国となってしまうかもしれない。

冷戦の終焉以来、戦略核は削減されているが、核兵器国はすべてその核兵器に依存し、これを近代化している。ワシントンは、1995年と2000年の再検討会議でなされた核軍備撤廃の約束を反故にし、NPT非加盟国インドをはじめとする同盟国について規則の特別免除を勝ち取ろうとしてきた。

その結果、「NPTは不公平な形で適用されている。核保有国はNPTの[核軍備撤廃と引き換えに核不拡散を約束するという]取引において彼らの側がした約束を守る気がないのだ」と考える国が増えている。このため、非核保有の多数派は、条約及び核不拡散体制を強化する更なる措置への同意に乗り気でなくなってきている。

システム修復に必要な米国の核不拡散リーダーシップを再構築するには、[米国の]次期大統領は、即座に行動して、いまだに多すぎる米ロの核兵器を検証可能な形で削減し、1996年包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准し、新たな核弾頭の追求を停止しなければならない。ワシントンその他の指導者らは、また、NPT体制の侵食を防ぐために、次のような核時代の基本的教訓を認識しなければならない。

一部の国による核兵器の保有は、他の国による核開発をもたらす可能性がある。核の持てる国と持たざる国の世界は、無期限に続けることはできない。核兵器は、誰の手にあろうと、危険である。ほとんどの国は、核兵器を作る手段もその動機も持ち合わせていないが、いくつかの国は、核兵器が脅迫・威嚇のために使われている限り、念のためにと考える。

核兵器の圧倒的な破壊力は、国家に対してであれ、非国家アクターに対してであれ、その軍事力としての有用性を失わせる。核兵器は、例え「低威力」兵器でも、受け入れがたい、無差別的被害をもたらす。核兵器は、存在するとしても、他国による使用を抑止するためのものであるべきである。従って、どの国であれ、このような兵器を多くても、数百発以上持つ必要はない。主要国がその核兵器を検証可能で、逆行しえない形で廃絶するために行動するのが早ければ早いほど、核不拡散タブーは強くなる。

核不拡散のためには、国家間の係争を解決するための持続的な外交が必要である。核兵器は、脅威を受けているとか抑圧されているとか感じる者にとっての方が魅力的に見える。NPTは、それだけでは、長年にわたる対立関係や不公平感を解消することはできない。解消のためには、米国を始めとする国々は、紛争の原因を取り除き、非大量破壊兵器地帯のための条件を確立するのに役立つ包括的な対話を行わなければならない。

NPT非加盟国に対しては、NPT加盟国に期待されている要件を満たすように奨励しなければならない。NPTに加盟していない3カ国(インド、イスラエル、パキスタン)が近い将来にそうするということはありそうにない。しかし、核拡散を防ぎ、他の国とともに自国の核兵器計画の進行を停止し、逆転させるうえでのこれらの国々の責任を無視するのは間違いである。まず、インド、イスラエル、パキスタンに対して――中国に対しても――CTBTを批准し、核分裂性物質の生産を公式に中止することによって、主流に加わるよう働きかけるべきである。

原子力は、機微な技術を拡散させるようなかたちで推進してはならない。1968年以来、新たな国々が、4条の下で保障されている「平和的」核プログラムによって核兵器物質を作る能力を獲得してきた。転用リスクを減らすには、核燃料サイクル施設を多国間あるいは国際的コントロールの下に置くことが極めて重要である。また、原子力供給国は、より広範な機微技術へのアクセス制限を強化すべきである。透明性と信頼を改善するために、すべての国が1997年モデル追加議定書の下での、より効果的保障措置に同意すべきである。

NPTは、失敗が確実というわけではない。以前の問題に対処するために、主要国が力を合わせて体制を強化してきた。しかし、今世紀も長い間生き延びるためには、各国は、NPTでの取引の約束を新たにし、強化し、そして、遂行しなければならない。それも、早急に。


核情報ホーム | 連絡先 | ©2008 Kakujoho