核情報

2009. 1-2

核兵器の役割の再評価


米国ACT誌巻頭コラム

核兵器の役割の再評価 (原文)『アームズ・コントロール・トゥデー』2009年1-2月号

ダリル・キンボール

1月20日から米国の核兵器政策は変えることができるし、変わらなければならない。何万発もの核兵器をもたらした米ソの対決は終わったが、核兵器の所有とその使用を正当化するために作られた政策はほとんどそのままになっている。

冷戦後の米国の核態勢を最新のものにするためになされてきたこれまでの試みは、極めて不十分に終わっている。配備された核兵器の数は半分にはなったが、米ロは、まだ、約5000発ずつの核弾頭を保有している。主として、相手側の奇襲を抑止するためである。現在の政策は、米軍及び同盟国を、通常兵器の攻撃から守り、また、疑われる化学・生物兵器の脅威に対処するためにも、核兵器を使う可能性を伴うものとなっている。

昔日の核ドクトリンは今日の現実にはもはや適さないという点では、広範な合意が成立している。バラク・オバマ大統領が米露の核兵器を「劇的に削減」し、不拡散体制を強化するのに必要なリーダーシップを回復し、核兵器の全廃を「米国の核政策の中核的要素」とするとの約束を果たそうとするなら、核兵器の役割について再定義し、これを根本的に減らすべきである。

核兵器以外の脅威に対処するために核兵器を使用することを必要とする、あるいは、そのような使用を正当化する状況として、考えられるものはない。米国の通常軍事力の優位と、拡散とテロリズムという双子の脅威とから言って、核兵器は、安全保障にとってプラスというより、むしろマイナスとなっている。

著名な米国科学アカデミーのパネルが10年以上前に結論付けた通り、「冷戦後の時代において米国の核兵器の役割としてなお弁護できる唯一のものは『中核的抑止』である。すなわち、他の核保有国が米国またはその同盟国に対し、核兵器を使って攻撃をかけたり、強要したりするのを抑止するために、報復するとの威嚇を利用するというものである。」

オバマ政権になってホワイトハウスの新しい科学アドバイザーに選ばれたジョン・ホルドレンも入っていたこのパネルによれば、このアプローチは、また、「新しい目的のための新しいタイプの核兵器を開発・実験する」いかなる必要をも無くすことにもなる。

もしオバマが、議会の定めた「核態勢の見直し」を、この「中核的抑止」の役割に基づいて行うようペンタゴンに指示すれば、ワシントンとモスクワは、それぞれの核戦力を、核弾頭の総数にして1000発あるいはそれ以下にまで削減することができる。そうすれば、オバマにとって、「意味のある削減、そして、最終的な核兵器の全廃に向けて如何にして動くかについて、宣言済み核兵器国すべての間でのハイレベルの対話」を開始するとの彼の選挙公約を果たす道が開かれる。

残念ながら、核態勢の見直しについてオバマに助言するために昨年形成された議会の超党派委員会は、「旧式思考」から抜け出せないでいるようである。委員会が2008年12月に出した中間報告は、核抑止の価値についての時代遅れの発想を受け入れており、米国はその核兵器を維持する能力を今にも失いそうになっていると示唆している。

米国の耐久的核兵器を維持するプログラムが「驚くべき成功を収めている」ことを認めながらも、中間報告は、「このプログラムの支持は危険にさらされており」、時間とともに、「実施がより難しくなる」と、誤った示唆をしている。

実際は、米国が最後の核実験を行った1992年以来、議会は、活力のある核兵器維持管理プログラムを支持してきており、同プログラムのコストは年間約60億ドルに達している。通常爆薬や非核部品の定期的な監視や向上によって、主要な核弾頭タイプのそれぞれは、安全で信頼性があると毎年認定されてきている。

議会は、それぞれの核弾頭タイプを新しく設計された核弾頭に変えるという費用の嵩む何十年にも及ぶ計画をブッシュ政権が打ち出したことについては、これを拒否したが、中核的な核兵器維持管理活動に対する政治的支持は強い。オバマ政権は、議会がCTBTについて「現実的に可能な限り早く」再検討し、これを支持するよう望んでいるが、独立した技術的評価によると、新しい代替核弾頭は、包括的核実験禁止条約(CTBT)の下で米国の核兵器の信頼性を維持するのには必要ではない。

核実験を再開することなく、現在より少量の核兵器を維持するためには、ホワイトハウスと議会は、十分な資源が中核的維持管理タスクに集中されるようにしなければならない。また、核兵器研究所は、改修過程において既存の核兵器に不必要な変更を加えないようにしなければならない。

委員会の中間報告は、また、米国が世界の数十の同盟国に核抑止の傘を提供しなければ、これらの国々の指導者たちが「自分たち自身の核兵器を作るようにとの強大な圧力を感じるだろう」と主張している。この主張は、このようなアプローチの価値を誇張し、そのリスクを無視するものである。

たとえば、冷戦が終わった今、ヨーロッパに置かれている米国の戦術核は、NATOの共同防衛にとって何の実質的役目も果たしえない。さらに、米国の同盟国が核兵器を持つとの決定をしないように働く要因はいろいろある──たとえば、米国が提供することができ、また、提供するであろう外交や通常軍事力の面での支持である。また、米国に敵対する核保有国の側も、その同盟国の安全保障のためと称して、核攻撃するとの威嚇をする可能性があるという問題がある。

「米国の戦略態勢に関する議会委員会」が核兵器政策についてもっと良い指針を提示できないとすれば、不幸なことである。新しい、もっと現実的な核リスク低減・全廃戦略を導入するのに必要なリーダーシップをオバマが提供しないとするなら、それは、重大な過ちを犯すことになる。


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