核情報

2003.11.6

ロシアで今も働く自動核報復システム「死の手」

読売新聞が、11月2日、「米国の先制核攻撃で国家指導部が全滅した場合、ほぼ自動的に、残る核ミサイルを米国に向け発射する旧ソ連の核報復システム「死の手」が現在も稼働中であることが1日までに、複数のロシア軍部筋の証言で判明した。」(記事リンク)と報じました。これは、「米国防衛情報センター(CDI)のブルース・ブレアー(元戦略空軍ミサイル発射要員)が、今年の春に、2本のコラムで触れていたものです。今年夏に発行された原水禁のパンフでは、「ロシアの新しい地下司令部用施設が南ウラルのコスビンスキーで稼働を始めたのが、地中貫通型核爆弾への関心の高まりの背景にあるのかもしれないとブレアーはいいます」と彼の分析を紹介しています。

 米ロが双方の核兵器を瞬時に発射できる態勢においていることの危険性を論じた4月23日のコラム(原文)では、ブレアーは、次のように述べています。

「米国の核攻撃に耐えられるようにウラルに建設された二つの巨大な指導部の指揮所がもうすぐ稼働しようとしている。ロシアは、このうち、コスビンスキー山にある方に、『死の手』へ無線で信号を送る地下アンテナを設置している。米国の核攻撃によって核の指揮系統が機能不能に陥った際に、半自動的にロシアによるミサイル報復を保証するべく設計されたロケットに発射命令を送るためである。」

ロシアが壊滅状態になっても、このロケットだけは飛び立って、そこから、発射信号を各地の核ミサイルに送ろうというわけです。
(1997年4月1日付けのワシントンタイムズの記事は、CIAの秘密報告書を引用して、二つの山中の施設が、ともにモスクワから、東に850マイルの所にあるとしています。)

ブレアーは、5月25日付けのワシントン・ポスト紙掲載のコラムで、地中貫通型の核兵器との関連で、このシステムについてさらに詳しく説明しています。

「頑固な核戦争プラナーらは、実際、ロシアと中国の攻撃目標のことを考えている。その中には、ミサイル・サイロや、地下司令部施設も含まれる。これらのプラナーにとって、冷戦は、終わっていないのだ。彼らにとって、ロシアの二つの最大の目標物は、中央ウラル及び南ウラルにあるヤマンタウとコスビンスキーの山の中にある。どちらも、1970年代末に建設の始まったものだ。米国の核兵器が、とくに共産党司令部施設をねらっていたときのことである。機能不能をもたらす攻撃を恐れて、ソ連は、これらの遠隔の地のサイトに何千人もの労働者を送り込んだ。米国のスパイ衛星は、1990年代末にまだ工事をしている様子を捕らえている。ヤマンタウは、もうすぐ稼働を始める。

1990年代末に、『戦略空軍(SAC)』の幹部が私にくれた表やメモによると、ヤマンタウの司令センターは、石英でできた岩の山の中、頂上から3000フィート(900メートル)の所にある。これは、ロシアの政治指導部が戦争時に移動するための施設であって、司令部というよりも避難所である。なぜなら、施設のコミュニケーション・リンクが比較的脆弱だからである。石英は、山の中から発せられる無線信号に干渉することが判明したのである。

したがって、主要なコミュニケーション・リンクは、ケーブルか、センターの外側から発信する無線装置である。これらは、既存の米国の核兵器による攻撃に耐えられるものではない。使われる核兵器が新しいバンカー・バスター(地下施設破壊兵器)だとさらにそうである。

コスビンスキーは、米国のターゲット設定者らによって、戦争時におけるロシアの核司令システムとして最も大事なものと考えられている。なぜなら、この施設は花崗岩の山を通して、ロシアの広範な地域の戦略軍とコミュニケーションがとれるからである。超低周波(VLF)の信号を使うのである。VLFは、核戦争の環境の中でも、通り抜けていくことができる。この施設は、「死の手」というロシアのコミュニケーション・リンクの重要な部分をなすと考えられている。壊滅的な攻撃を受けた際にも、半自動的な報復を保証するように設計されたものである。

このドゥームズデー(運命の日)装置は、レーガン時代の核の緊張のさなかの1984年に稼働し始めたもので、創造的エンジニアリングの驚くべき離れ業というべきものである。モスクワ近辺の無線システムを使って、通信ロケットを遠隔操作で打ち上げる。そして、このロケットが、人間の介入なく、ロシアのほとんどすべてのミサイルを発射する。しかし、モスクワの地域の無線ノードは、この20年間の間に脆弱になってきた。コスビンスキーは、報復攻撃を実施する上でのロシアの確信度を回復するものである。

コスビンスキーは、最近、稼働し始めた。新しい核のバンカー・バスターに米国が関心を持っている一つの理由かもしれない。ターゲット・リストに新しいものがあれば、米国の戦略は、それを破壊する兵器を必要とする。『堅固な地中貫通型核兵器』(バンカーバスターの別名)をもってしても、コスビンスキーを破壊するというのは、簡単なことではない。司令センターは、約1000フィート(300メートル)の花崗岩で守られている。さらに重要なことに、ロシアがもう敵でないとするなら、なぜわれわれは、破壊することを望むのだろうか。

冷戦時代の核戦争プラニングのもう一つの宇宙においては論理的なことであったとしても、これらの山中の要塞を脅かすために新しい兵器を作っても、われわれの安全を高めることにはならない。ブッシュの核ガイダンスは、間違いなく、ペンタゴンに対して、ヤマンタウとコスビンスキーの破壊を計画するように指示しているだろう──ロシアの他の2000の目標、そして、中国の数百の目標とともに。(参考:SIOP) しかし、このような目標の破壊には、非常に高い威力の核兵器が必要である。1945年に日本に落とされたものの10−100倍程度である。ここにあるのは、何億人もの人々を殺す全面的核戦争の一環として、ヤマンタウとコスビンスキーが攻撃されるというドゥームズデー(運命の日)計画の話である。このような破壊の恐ろしさはさておくとしても、ロシアが「悪の帝国」でなくなった今、このような戦争は、ますますありそうもないものになっているにもかかわらずである。」

ブレアーは、このような施設の破壊のために新しい兵器を開発するというのは、仕事のなくなった核兵器関係者の延命策だといいます。

問題は、瞬時に発射できる態勢に置かれた核ミサイルが偶発的なかたちで発射され、それに対処するために「死の手」が発射されて、人類が滅亡するというSFのような世界が現実のものとなる可能性が、冷戦が終わった今も続いているということです。

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