2007年9月19日付けの東奥日報及び日本経済新聞は、それぞれ「06年末プルトニウム保有量、日本は約30トン」、「プルトニウム保有量、06年末で30トン・文科省など報告」と報じました。ところが、2005年末の保有量については、例えば、電気新聞(2006年9月6日付け)は、「05年末のプルトニウム保管量、国内外あわせ約44トン」と報じています。1年で14トン減ったわけではなく、この見かけの減少の原因は、政府が種類の違う数字を使ったことにあります。
- 記事の内容は?
- 核分裂性プルトニウム?
- 核分裂性プルトニウムと全プルトニウム、どちらを使うべきか?
- 45トンは核兵器にすると?
- 2005年末と2006年末のデータを整理すると?
- 2007年9月発表のデータで、英仏で分離されたプルトニウムの保管量の数値が僅かに減少しているのは?
- 海外保管分の経年変化は?
- 2006年末の全プルトニウムの量が約45トンという計算は?
- 六ヶ所再処理工場でこれまで製造された製品に含まれるプルトニウムの量は?
- 2007年のプルトニウム製品製造量は?
記事の内容は?
東奥日報の記事(2007年9月19日)の本文には次のようにある。
▲ページ先頭へ内閣府と文部科学、経済産業両省は十八日、日本が国内外で保有する、使用 済み核燃料から分離した核分裂性プルトニウムの量は二〇〇六年末時点で約三〇トンだったと原子力委員会に報告した。
核分裂性プルトニウム?
2006年末の約30トンというのは、普通の原発でも燃えやすい「核分裂性プルトニウム(fissile plutonium)」(プルトニウム239や241)の量を示すもの。2005年末の44トンの方は、全プルトニウム(total plutonium)の量だ。2006年末の保有量は、全プルトニウムの量で示すと約45トンとなる。
普通の原発の原子炉の中では、燃えるウラン235に中性子が当たって核分裂を起こす一方、燃えないウラン238が中性子を吸い込んでプルトニウム239に変わる。このプルトニウム239の一部が核分裂を起こす一方、一部はさらに中性子を吸い込んで、プルトニウム240となる。このような形でウラン238は次々と、プルトニウム239、240、241、242と変わっていく。これらをすべて合わせたのが全プルトニウム(total plutonium=totalPu)の量だ。政府や原子力業界は、普通の原子炉で燃えやすい核分裂性プルトニウム(fissile plutonium=fissilePu)の量を使いたがる。プルトニウムの量を意図的に小さく見せようとしているのだろうか。燃料を炉で「燃やす」時間にもよるが、後者は前者の60%ほどになる。
▲ページ先頭へ核分裂性プルトニウムと全プルトニウム、どちらを使うべきか?
高速増殖炉での利用を唱えてきた経緯からも、核拡散防止の観点からも全プルトニウムの量を示すべき。
「燃えにくい」プルトニウムも実は高速増殖炉や核兵器では「燃える」。
そもそも、再処理計画は、プルトニウムを高速増殖炉で使うために考え出されたものだ。保有量の発表に日本政府はなぜ、核分裂性プルトニウムの量を使うのか。核拡散防止の観点から問題となるのは、当然、全プルトニウムの量であり、こちらの数字を示すべきだ。これまでも、政府は、六ヶ所再処理工場でのプルトニウム製造能力年間約8トンについて5トン弱という数字を使って混乱をもたらしてきた。8トンは全プルトニウムの量、5トン弱は核分裂性プルトニウムの量だ。
「六ヶ所で分離するのは、8トン?5トン?──少ない数字を使う政府の目くらまし」 核情報(2006年3月31日)で
余ってしまったプルトニウムを普通の原発で無理矢理燃やすプルサーマルを考える際に原子力業界が核分裂性プルトニウムの量を内部で計算するのは「自由」ですが、製造量や余剰量を公表する数字では、IAEAに対してそうしているように、全プルトニウム量を示さなければなりません。
と指摘したが、今回は、IAEAに対しても、ヨーロッパで保管されている日本のプルトニウムを核分裂性プルトニウムの量だけで報告した。 (pdf)
▲ページ先頭へ45トンは核兵器にすると?
5600発分以上
45トンというのは、プルトニウムが8kg(=有意量)見つからなければ、原爆が1個出来ていると思えとする国際原子力機関(IAEA)の考え方で単純に計算すると、原爆5625発分となる。有意量は、プルトニウムの組成に関係なく定められた数字であり、「燃えにくい」プルトニウムの比率の高くなった「原子炉級」プルトニウムでも8kg。長崎に投下された原爆に入っていたのは、「兵器級」プルトニウム約6kg。まったく同じ設計だと、原子炉級プルトニウムは8kgほど必要ということになるが、高度な設計にすると必要量は小さくなる。
▲ページ先頭へ2005年末と2006年末のデータを整理すると?
政府による『我が国のプルトニウム管理状況』の2005年末のデータ(pdf, 2006年9月5日発表) と2006年末のデータ (pdf, 2007年9月18日発表)を比較すると下の表のようになる。
発表時期 | 2006年9月5日 | 2007年9月18日 | ||
対象期間 | 2005年末 | 2006年末 | ||
国内 | 全Pu合計 うち核分裂性Pu | 5,923 (5,710) 4,188 (4,045) | 全Pu合計 うち核分裂性Pu | 6,753 (5,923) 4,761 (4,188) |
海外 | 英国回収分全Pu | 16,582(15,703) | 英国回収分核分裂性Pu | 11,363 (11,395) |
仏国回収分全Pu | 21,270(21,385) | 仏国回収分核分裂性Pu | 13,966 (14,022) | |
全Pu合計 うち核分裂性Pu | 37,852(37,088) 25,417(24,992) | (海外全Pu合計推定) 核分裂性Pu合計 | 約38トン 25,329 (25,417) |
|
内外合計 | 内外核分裂性Pu合計 | 約29.6トン | 内外核分裂性Pu合計 | 約30.1トン |
内外全Pu合計 | 約44トン | 内外全Pu合計推定 | 約45トン |
2007年9月発表のデータで、英仏で分離されたプルトニウムの保管量の数値が僅かに減少しているのは?
2006年にはヨーロッパでは、日本の燃料の再処理も、プルトニウムの日本への輸送も行われていないから、この僅かな差は、「核的損耗」*によるもの。『我が国のプルトニウム管理状況』(2006年9月5日)が次のように説明している。
「海外に保管中の分離プルトニウム量」については、これまで各電気事業者間でプルトニウム241(半減期約14.4年)の核的損耗の考慮の有無等が統一されていなかったが、このうち再処理施設内に保管されているプルトニウム量については、今回[2006年]の報告から、英国分、仏国分ともに核的損耗を考慮した値に統一した。
- * 核的損耗:核燃料物質の自然崩壊の結果、他の元素へ転換することにより損耗(減少)した核燃料物質の量。
海外保管分の経年変化は?
『我が国のプルトニウム管理状況』(2006年9月5日)は、
平成17年[2005年]末報告から、再処理施設に保管されているプルトニウムについては、Pu241の核的損耗を考慮した値での報告に変更。また、過去の報告値は、同様に核的損耗を考慮すると以下のとおりになる。
と述べ、ヨーロッパ保管分の全プルトニウムの量を次のような表にして示している。(平成表記を西暦に変更)。
97年末 | 98年末 | 99年末 | 00年末 | 01年末 | 02年末 | 03年末 | 04年末 | (05年末) |
18,900 | 24,200 | 27,300 | 31,900 | 32,200 | 33,000 | 34,900 | 37,100 | (37,900) |
2006年末の全プルトニウムの量が約45トンという計算は?
全プルトニウムの量も、上の核的損耗による僅かな差しか生じていないから、2006年末の英仏の全プルトニウムの量は、2005年末と同じ約38トンとなる。これと国内の約7トンを合わせて、合計約45トンが日本のプルトニウム保有量である。
▲ページ先頭へ六ヶ所再処理工場でこれまで製造された製品に含まれるプルトニウムの量は?
2006年3月末のアクティブ試験開始から2007年12月までの累積で約1.8トン
六ヶ所再処理工場でのプルトニウム製品(ウラン・プルトニウム混合酸化物=MOX)のなかの金属プルトニウム+金属ウランの累積生産量は、日本原燃のホームページの「安全協定に基づく定期報告書」で見ることができる。この2007年12月の■をクリックすると出てくる「六ケ所再処理工場に係る定期報告書(平成19年12月及び平成19年度第3四半期報告)」 (pdf)から2007年12月までの累計製造量が 3,559kgであることがわかる。
同文書の(注3)に
「プルトニウム製品量は、ウラン・プルトニウム混合酸化物の金属ウラン及び金属プルトニウムの合計質量換算とする。」
とあることから、累計製造量の半分、つまり、約1.8トンが金属プルトニウムだということになる。
▲ページ先頭へ2007年のプルトニウム製品製造量は?
約1.7トン
2007年分の製造量は、累計製造量3,559kgから、2006年12月までの累積製造量 (pdf)の212kgを引いた3,347kg。この半分がプルトニウムだから、2007年に製造された製品に含まれるプルトニウムは、約1.7トンとなる。
ただし、これは政府のデータに入れられる「硝酸プルトニウム等(溶解されてから、酸化プルトニウムとして貯蔵容器に貯蔵される前の工程までのプルトニウム)」というのが入っていない。2007年末のプルトニウム保有量を求めるのにはこの数字が必要となる。また、上記1.7トンの一部は、前年に硝酸溶液になっていたものだから計算には注意を要する。
六ケ所再処理工場に係る定期報告書(平成18年12月及び平成18年度第3四半期報告) (pdf)は、2006年の再処理量が91トン、「六ケ所再処理工場に係る定期報告書(平成19年12月及び平成19年度第3四半期報告) (pdf)は、2007年12月までの累計再処理量が308トンであることを示している。
使用済燃料の重量の約1%がプルトニウムの分だから、これらの数値は、それぞれ約0.9トン、3トンのプルトニウムが分離された事を意味する。
これらの量の一部は製品にされたもの、一部は、硝酸溶液のままのものである。