少ない数字を使う政府の目くらまし
六ヶ所再処理工場のプルトニウム製造能力の数字として、年間8トンと年間5トン弱とが使われていて、混乱を呼んでいます。5トン弱というのは、普通の原発でも燃えやすいプルトニウム239や241の量を示すもので、全プルトニウム量だと8トンが正解です。「燃えにくい」プルトニウムも高速増殖炉や核兵器では「燃え」ます。核拡散防止の観点から量を問題にするのは当然全プルトニウム量であり、そのため、国際原子力機関(IAEA)への報告では全プルトニウム量が使われています。少ない方の数字を使うのは、余剰プルトニウムを少なく見せようとする政府や原子力業界の目くらましといわれてもしょうがありません。
使用済み燃料に含まれるプルトニウムの量は、約1%で(全プルトニウム量)で、燃焼度によりますが、その約60%が核分裂性プルトニウムとなります。六ヶ所再処理工場の使用済燃料の処理能力は、年間800トンとなっていますから、年間8トンのプルトニウムが抽出され、その約60%、つまり、4.8トン = 5トン弱が核分裂性プルトニウムということになります。
新計画策定会議(第3回 2004年7月16日)資料第3号「核燃料サイクルの主要要素に係る基礎資料」は、六ヶ所再処理工場で「回収される核分裂性プルトニウムは年間約5トン弱(※3)」であり、「※3非核分裂性プルトニウムを合わせた回収されるプルトニウムは約8トン」であるとしています。
普通の原発の原子炉の中では、燃えるウラン235に中性子が当たって核分裂を起こす一方、燃えないウラン238が中性子を吸い込んでプルトニウム239に変わります。このプルトニウム239の一部が核分裂を起こす一方、一部はさらに中性子を吸い込んで、プルトニウム240となります。このような形でウラン238は次々と、239、240、241、242と変わっていきます。政府や原子力業界は、このうち、普通の原子炉(軽水炉)で燃えやすい(核分裂性)プルトニウム239と241の量だけを使っています。
しかし、速度を減速した中性子を利用する軽水炉と違い、高速中性子を利用する高速増殖炉や核兵器では、プルトニウム240はまったく問題なく燃えます。
高速増殖炉懇談会の第3回懇談会(1997年4月15日)に提出された科学技術庁資料は、
・FBRでは中性子が高速なので、炉の中で生じる燃えにくいプルトニウム240,242やマイナーアクチニド等も効率良く燃やすことが可能
と述べています。
余ってしまったプルトニウムを普通の原発で無理矢理燃やすプルサーマルを考える際に原子力業界が核分裂性プルトニウムの量を内部で計算するのは「自由」ですが、製造量や余剰量を公表する数字では、IAEAに対してそうしているように、全プルトニウム量を示さなければなりません。
参考
1)「MOX燃料輸送と核拡散─原子炉級プルトニウムでできる核兵器」(田窪雅文 『軍縮問題資料』1999年5月号)
核爆弾の場合に利用される高速中性子に関していえば、すべての同位体が分裂性である。1976年に行われた「原子炉級プルトニウムと核爆発装置」と題された説明会で、ロスアラモス国立研究所のロバート・セルデン氏は、「プルトニウム240は原子炉では明らかにまったく望ましくない。・・・見落とされているのは、高速中性子による分裂システムでは、プルトニウム240はまったく問題がないという点である。」と述べている・・・
プルトニウム型爆弾では、臨界量に近いプルトニウムを化学爆薬で包む構造になっている。臨界量というのは、連鎖反応を維持できる最少量を意味する。多方向から一気に爆薬に点火し、爆発の圧力で圧縮することによってプルトニウムを臨界、さらに、超臨界の状態にする。その際何らかの形で中性子を発生させ、連鎖反応を導いて核爆発を起こす。だが、プルトニウム240は、外からの作用がなくても自然に自発核分裂を起こして中性子を発生させる。これが圧縮が十分進まない内に起きると、予定された通りの威力が得られない。プルトニウム240が多いとこのような「失敗」の確率が高くなる。だが、「失敗」の場合も、最低でも1キロトンにはなるとセルデンは述べている。その破壊力が及ぶ範囲は、広島の場合の3分の1に達する。
国際原子力機関「IAEA」のハンス・ブリックス事務局長(当時)は、1990年に核管理研究所への書簡の中でつぎのように述べている。
「当機関は、高度燃焼の原子炉級プルトニウム、それに、一般にいかなる同位体組成のプルトニウムも・・・核爆発装置に使うことができると考える。当機関の保障措置部門にはこの点に関して論争はまったくない。