核情報

2012. 2. 16

政策見直しの間、再処理関連作業再開を待つべき──伴英幸原子力政策大綱策定会議委員

電力会社は原子炉等規制法との関連で再処理を義務付けらているとの判断を原子力委員会が示しており、六ヶ所再処理工場の建設もその解釈に基づいて進められて来ていますが、現在この政策の見直しが進められています。また、1月31日に原子力規制庁新設に関連して閣議決定された同法改正案は、再処理は義務だとの判断の根拠となっていた文言を削除するものとなっています。このような状況を背景に、新原子力政策大綱策定会議の伴英幸委員(原子力資料情報室)は、2月7日、「原子力政策を白紙で見直す作業をしている」中、「六ヶ所再処理の試験ならびにMOX加工工場の建設の再開を待つべき」との意見書を同会議に提出しました。

  1. 国策としての再処理を強調する電力会社
  2. 「再処理義務」に言及する東京電力
  3. 原子力委員会による「再処理義務」の確認
  4. 無理のある近藤駿介原子力委員会委員長の論法
  5. 「再処理義務」の根拠となった原子炉等規制法の条項の削除案
  6. 原子力委員会が事業者に再開を待つよう呼びかけるべきだと伴委員
  7. 事業者にも工事再開凍結を呼びかける伴委員
  8. 伴委員意見書の該当部分

日本原燃の筆頭株主が東京電力であり、社長も東京電力出身者であることからすれば、その東京電力が様々な公的支援を受けている現状では、当然、通常の事業者の事業推進の権利が優先されるべきではありません。ただし、ホット試験によりすでに生じてしまっている高レベル廃液は、出来るだけ早く安定した形状にすることが望ましいので、この目的のための作業を認める場合には、六ヶ所再処理工場自体の竣工に向けた動きとは峻別することが重要です。

以下、「再処理の義務」を巡る議論について簡単にまとめました。

国策としての再処理を強調する電力会社

電力会社はこれまでこの再処理が国策であることをいろいろな形で強調してきた。例えば、電気事業連合会は、2006年7月、『原子力発電四季報』で次ぎように述べている。

国策として進めている原子燃料サイクル

 原子力発電の燃料であるウランは、発電により3〜5%程度しか消費されません。残りの95%〜97%程度には消費されなかったウランと新しく生まれたプルトニウムといった貴重な資源が含まれています。そこで、これら資源を有効利用するために再処理を行い、再び原子力発電所の燃料としてリサイクルする流れ「原子燃料サイクル」の確立を目指しています。日本では原子力の研究・開発を始めた当初から「原子燃料サイクル」の確立を進めてきており、昨年10月に閣議決定した「原子力政策大綱」でもその方針が改めて確認されています。また、原子力発電は発電に伴う二酸化炭素を排出しないため、地球温暖化防止に重要な役割を果たします。

 現在、この原子燃料サイクルの要(かなめ)である再処理工場を日本原燃(株)が青森県六ヶ所村に建設中で、2007年8月の操業開始に向けて、最終段階の試験を行っています。

出典 特集 Part 1エネルギーの安定供給、資源の節約に向け原子燃料サイクルを進めます

「再処理義務」に言及する東京電力

東京電力は、2001年、むつに中間貯蔵所を作る計画について、搬出先がないとそのまま置かれることになるのではとの懸念について、次のように答えている。

「国の計画では二〇一〇年から第二再処理工場の建設を検討することになっている。全量再処理が義務づけられているので、最終処分地化はあり得ない

出典 曲がり角の核燃料サイクル 東奥日報 2001年7月22日

原子力委員会による「再処理義務」の確認

「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(原子炉等規制法)における原子炉設置許可と再処理の扱いについて、再処理が義務か否かを明確に説明するよう求められた原子力委員会は、2004年11月、次のように述べて、電力会社が、再処理を義務付けられているとの見解を示した。

結論

行政庁は、発電の用に供する原子炉の設置・変更の許可に当たっては、[原子炉等規制法にある]「原子力の開発、利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないこと」の具体的な解釈として、核燃料サイクル政策の基本的な考え方を定めたエネルギー基本計画(閣議決定文書)、「当面の核燃料サイクルの推進について」(閣議了解文書)、原子力長期計画などを総合的に踏まえ、民間事業者が再処理することを確認しているところである。法律上、具体的な内容が明定されていない許可基準の解釈・運用に当たり、政府全体の方針である上記閣議決定、閣議了解なども総合的に勘案し、再処理の確認を行うこととしているのは合理的であると考える。

出典 新計画策定会議委員からいただいた御意見に対して 平成16年11月1日 新計画策定会議(第11回)資料第3号 (pdf) 16−20ページ

無理のある近藤駿介原子力委員会委員長の論法

上のような確認をした後、原子力委員会は、2005年10月、再処理推進政策を再確認する原子力政策大綱をまとめた。その直後、近藤委員長は、原子力委員会や国には最終責任がないかのように述べているが、前年に示した解釈からいって、論理的に無理があるだろう。

ポイントは,再処理をやめなさいとかやりなさいとか決めたわけではないということです。また,誘導策を講じるといっても,通常の企業活動と同程度の事業リスクに対してまで手当てをするべきといっているわけではない。

再処理に関しては,国は東海再処理工場を作ってこれまで誘導してきたわけですが,事業者は,自らの考え方でこれと一線を画して事業を設計・推進してきたのです。ですから,政策大綱は,再処理事業者には倒産,破産のリスクを抱えていることを片時も忘れず,企業家精神を発揮し,効果的な事業リスク管理のもとで効率的な事業を行うことを期待している。

出典 日本原子力学会誌, Vol. 48, No. 1(2006)巻頭インタビュー

「再処理義務」の根拠となった原子炉等規制法の条項の削除案

2012年1月31日の閣議決定された炉規法改定案では、設置許可規定から問題の文言「原子力の開発、利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないこと」が削除されており、「再処理の義務」は宙に浮いてしまうこととなる。(ただし、特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律は、使用済み燃料の再処理で生じたものを最終処分場に入れることを規定しており、これを変更して使用済み燃料そのものを入れられるようにしないと、再処理義務が完全になくなったことにはならない。)

改正案

(許可の基準)
第二十四条  環境大臣は、第二十三条第一項の許可の申請があつた場合においては、その申請が次の各号のいずれにも適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。
 原子炉が平和の目的以外に利用されるおそれがないこと。
 その者(原子炉を船舶に設置する場合にあつては、その船舶を建造する造船事業者を含む。)に原子炉を設置するために必要な技術的能力及び経理的基礎があり、かつ、原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること。
 原子炉施設の位置、構造及び設備が核燃料物質(使用済燃料を含む。以下同じ。)、若しくは核燃料物質によつて汚染された物(原子核分裂生成物を含む。以下同じ。)又は原子炉による災害の防止上支障がないものであること。

現行

(許可の基準)
第二十四条  主務大臣は、第二十三条第一項の許可の申請があつた場合においては、その申請が次の各号適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。
 原子炉が平和の目的以外に利用されるおそれがないこと。
 その許可をすることによつて原子力の開発及び利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないこと。
 その者(原子炉を船舶に設置する場合にあつては、その船舶を建造する造船事業者を含む。)に原子炉を設置するために必要な技術的能力及び経理的基礎があり、かつ、原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること。
 原子炉施設の位置、構造及び設備が核燃料物質(使用済燃料を含む。以下同じ。)、核燃料物質によつて汚染された物(原子核分裂生成物を含む。以下同じ。)又は原子炉による災害の防止上支障がないものであること。

出典「原子力の安全の確保に関する組織及び制度を改革するための環境省設置法等の一部を改正する法律案」及び「原子力安全調査委員会設置法案」の閣議決定について

 ・新旧対照条文(PDF形式:1,669KB)

原子力委員会が事業者に再開を待つよう呼びかけるべきだと伴委員

ここで改めて、六ヶ所再処理試験再開・MOX燃料工場の工事再開について、政府が政策を白紙から見直しているときに、トラブル続きで止まっている使用前施設の試験や進捗率がほぼゼロの工事の再開について、その結論が出るまで、中断状態を続けるべきとのメッセージを原子力委員会が出すべきと考える。

出典 2012年2月7日原子力委員会 新大綱策定会議(第13回)議事次第

資料第3号 新大綱策定会議メンバーからの提出資料(PDF:1.2 MB)

事業者にも工事再開凍結を呼びかける伴委員

また、電気事業者はこれまで「再処理は国策」と言ってきたのだから、これが白紙から見直されている最中、トラブル続きで止まっている使用前施設の試験や進捗率がほぼゼロの工事の再開を、自主的に待つというべきではないか。

「再処理は国策」と言いながら、事業者のリスクで試験を再開するというのは、再処理継続という結論を強いるものと市民には映る。真摯に見直しの議論に参加するべきである。

伴委員意見書の該当部分

第13回新大綱策定会議意見書

2012.2.7
伴英幸(原子力資料情報室)

1. 六ヶ所再処理の試験ならびにMOX加工工場の建設の再開を待つべき原子力政策を白紙で見直す作業をしているのに、六ヶ所再処理工場の試験再開が計画され、またMOX加工工場の建設が再開されようとしている。これに関して、原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会の席上、六ヶ所再処理工場の運転再開を待つように原子力委員会は何らかのメッセージを出すべきではないかと問いかけた。これに対して以下のような見解が示された。

それぞれ事業者は自分が正しいと思う事業を行っているわけですので、それに対して、国として方針が決まればその方針に従って国は施策をとりますけれども、その施策がとられるまでの間は現在の施策に従ってそれぞれが活動を行っていくと理解してございます。事務局としては、政府として工事再開を止めるための指示をすべきだとは今考えてございません。

私は、順調に稼働しているものを止めて待てと言っているのではなく、2008年からトラブル続きで止まっている上に、使用前検査に合格していない施設の試験再開を結論が出るまで待つべきだと主張したのである。

その後、1月31日に、ガラス固化溶融炉で、溶融ガラスを抜き出す作業ができなくなるトラブルが発生した。日本原燃の川井吉彦社長「原因は分からない」としたうえで、原因の特定には「相当の時間がかかる」としながらも、試験再開時期は「変えるつもりがない」と同日の記者会見で述べている。

今回トラブルを起こしたのは、2008年にトラブルを起こしたA炉でなく、「まっさらな状態」のB炉の方でのトラブルだ。つまり、2つある溶融炉の2つともがトラブルで停止したことになる。

その後、MOX燃料工場の建設再開の意向も伝えられる。同工場は2010年10月に着工したばかりの施設だ。東北地方太平洋沖地震によって工事が中断している。進捗率はほぼゼロだ。

その地震によって福島第一原発が爆発し、原子力政策の白紙からの見直しが進んでいるところである。

ここで改めて、六ヶ所再処理試験再開・MOX燃料工場の工事再開について、政府が政策を白紙から見直しているときに、トラブル続きで止まっている使用前施設の試験や進捗率がほぼゼロの工事の再開について、その結論が出るまで、中断状態を続けるべきとのメッセージを原子力委員会が出すべきと考える。

また、電気事業者はこれまで「再処理は国策」と言ってきたのだから、これが白紙から見直されている最中、トラブル続きで止まっている使用前施設の試験や進捗率がほぼゼロの工事の再開を、自主的に待つというべきではないか。

「再処理は国策」と言いながら、事業者のリスクで試験を再開するというのは、再処理継続という結論を強いるものと市民には映る。真摯に見直しの議論に参加するべきである。

また、電気事業者は、三村申吾青森県知事が2004年9月第8回新計画策定会議の折

にも求めた再処理政策の変更に伴う使用済み燃料の持ち帰り、を聞いていた。再処理工場の建設中およびウラン試験後の数々のトラブルを考えれば、当然、使用済み燃料を持ち帰っても原子力発電が停止することのないように危機管理対策を進めているはずである。その現状をご説明願いたい。もし、持ち帰れないのであれば、それは事業者が負うリスクであり、政策変更に伴い原発が停止すると言うべきでない。

上記、危機管理対策に関連して、事務局には使用済み燃料の現状の貯蔵量と余裕、リラッキングによる容量増強の可能性などのデータを求めているが、いまだに出てこない。ここで改めて、電気事業者に資料提供の協力をお願いしたい。

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