2005年原子力政策大綱策定の議論を2004年にした際、直接処分の方が再処理よりも安いとの結果が出たにも関わらず、政策変更をすると立地地域の信頼関係が壊れ、「原子力発電所からの使用済燃料の搬出や中間貯蔵施設の立地が滞り、現在運転中の原子力発電所が順次停止せざるを得なくなる状況が続く可能性が高い」から火力発電で代替するしかなくなるとして、そのコストを政策変更コストとして直接処分コストに加算し、これによって直接処分の方が高くなるとの結論が出されました。この足し算が間違いだったと4月12日ので原子力委員会小委員会で近藤原子力委員会委員長が指摘しました。
参考
*原子力委員会の定員内職員(12名)の出身別は次の通り。文科省6名、経産省5名、民間企業1名。このほか10名弱の民間出身者がさまざまな肩書で勤務している。
- 今になって足し算の間違いを指摘する近藤委員長──同じ指摘を2004年に明確にしていた吉岡斉委員
- 今回はどうなる?
- 2004年の「勝手な足し算」
- 政策変更コストの項目 2004年9月3日
- 近藤委員長による政策変更コストについての説明 2004年9月3日
- 2012年4月12日原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会第11回会合での近藤委員長発言
- 足し算をしたがる事務局
- 代替火力の足し算は入れすぎとの意見 2004年10月7日
- 異質な数字の足し算は無意味との指摘 2004年10月7日
- 政策変更コストを生み出した者の責任はここでは問わない:原子力委員会事務局 2004年11月1日
- 過去の政策判断、企業トップの判断の責任はどこで論じるか?
- 核燃サイクル方針当面凍結──民主党内「原子力バックエンド問題勉強会」グループの答え
- 具体的対策を考えるために個別に検討すべき各地の原発のプール状況
今になって足し算の間違いを指摘する近藤委員長──同じ指摘を2004年に明確にしていた吉岡斉委員
原子力委員会「原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会」第11回(4月12日)でのことです。近藤委員長が「これは、前の時も私も何回も申し上げたんだけど、皆さん勝手に足し算しちゃったんですね。政策変更コストというのは、金銭換算して難しさのマグニチュードを表現しただけのものなんですね。そこの区別が大事なんで・・・足し算がいいということであれば、プロバビリティーを掛けなければいけない。そう言う性格のものであると言うこと」と述べています。重要な指摘ですが、「皆さん」とは誰でしょうか。原子力委員会事務局のように聞こえます。事務局が論理的に間違った足し算をしたのを、内部の会合で近藤委員長が指摘していたということのようです。2004年の議論と比べて見るとデジャブの感がしますが、異質な数字の単純な足し算が無意味であることを策定会議で明確に指摘していたのは、吉岡斉委員(現九州大学教授・副学長:科学史専攻)です。
今回はどうなる?
近藤委員長も吉岡委員と同じ見解を持っていたにも拘わらず、事務局による間違った足し算の提出を抑えられず、策定会議自体でも吉岡委員を強力に支持することもなく、その間違った足し算の結果に基づいて再処理政策続行という決定がなされたということでしょうか。偽証に基づく判決のようなものなのでしょうか。問題は、原子力村が、再処理工場を運転しないと使用済み燃料の行き場なくなるのが絶対的事実であるかのように主張し、前回のような足し算をしたがっていることです。近藤委員長は、今回は、使用済み燃料の行き場を確保するための措置を2005年の大綱決定後も本気で講じて来なかった人々の責任を問うのでしょうか。積極的な措置を講じないでこんな主張を繰り返す側の無責任さを指摘するのでしょうか。再処理で出てきたプルトニウムを活用するはずの高速増殖炉の開発が遅延を続けているにも拘わらず再処理政策を推進し続けたのはなぜか、と言う点などについても検討すべきと強く主張するのでしょうか。
以下、政策変更コスト問題を概観した後、2004年策定会議の議論と現在の小委員会の議論の一部を比較し、最後に、六ヶ所を凍結して政策の見直しをすべきとの結論を下した民主党内バックエンド問題勉強会の第一次提言の関連部分を抜粋して載せておきます。
2004年の「勝手な足し算」
冒頭に述べたように、2005年原子力政策大綱の策定過程で次の4つのシナリオの間でコストを比較して、全量直接処分が安いと結論が出た。
シナリオ1:全量再処理の後処分 | 1.6円/kWh |
シナリオ2:一部再処理・一部直接処分 | 1.4〜1.5円/kWh |
シナリオ3:全量直接処分 | 0.9〜1.1円/kWh |
シナリオ4:当面貯蔵後決定 | 1.1〜1.2円/kWh |
ところが、再処理擁護のために次のような議論が持ち出された。
これまで再処理を前提に進められてきた立地地域との信頼関係を再構築することが不可欠であるが、これには時間を要し、その間、原子力発電所からの使用済燃料の搬出や中間貯蔵施設の立地が滞り、現在運転中の原子力発電所が順次停止せざるを得なくなる状況が続く可能性が高い
出典
- 核燃料サイクル政策についての中間取りまとめ (pdf) 2004年11月12日
そこで「政策変更コスト」として、原子力発電の電力を火力で代替した場合のコストを約0.7〜1.3円/kWhとはじき出し、これに六ヶ所再処理工場コストの回収不能分約0.2円/kWhを足して、合計約0.9〜1.5円/kWhを政策変更コストとして加算した結果、シナリオ3と4の方が高くなるとの結論が導き出された。
まず、可能性が高いと論じ、次にそれが確実に起きる事象であるかのように、そのコストが単純加算されてしまった。
その一方で、高速増殖炉が必ず実現するとの前提で巨額開発費を投じ続け、結局失敗に終わった場合、再処理で出てきたプルトニウムが軽水炉でMOX燃料として使い切れるのか、使用済みMOX燃料の処分をどうするのかというような問題は考えられていない。高速増殖炉の実用化予測時期はすでに80年ほど遅れている
政策変更コストの項目 2004年9月3日
政策変更により追加コストが発生する可能性がある事項
我が国の原子力政策は、当初から再処理・リサイクルの方針を念頭に構築されている。
この方針を変更すると、以下の追加コストが発生するのではないか。
(1)プロジェクト中止に伴い発生する回収不能費用の補償
- 六ヶ所再処理工場の建設への既投資額の回収
- 六ヶ所再処理工場(既にプールは使用開始)の廃止措置費用
(2)原子力研究開発面への影響
- 核燃料サイクルに係るこれまでの研究開発の成果の活用先喪失
- 直接処分に係る新たな研究開発の必要性
(3)立地自治体との間の信頼関係の喪失に伴う既定事業の継続が困難になる影響
- 使用済燃料の中間貯蔵施設の立地遅延
- 六ヶ所再処理工場へ搬入済の使用済燃料の取扱い及び使用済燃料の貯蔵場所がない原子力発電所の停止
- この停止に伴う代替火力の焚き増し、これに伴って強化されるべき温暖化対策の費用
- 返還廃棄物の貯蔵管理施設、低レベル放射性廃棄物処分施設の確保の必要性
- 高レベル放射性廃棄物処分場の立地活動の遅延、法律・計画の見直し
(4)海外との関係
- 英仏との間の信頼関係の喪失に伴う問題(返還廃棄物の早期受入れ要請の発生)
※なお、上記の中には現実化しない限り定量化が困難な部分がある可能性がある
出典
近藤委員長による政策変更コストについての説明 2004年9月3日
(伴委員)
・・・それから、資料第3号の政策変更により追加コストの発生する可能性、この1枚目をめくったところに幾つかわからないことがあるんですが、(3)の3番目「この停止に伴う代替火力の焚き増し」というのがどうしてここに出てくるのか。核燃料サイクル政策の変更をすると代替火力の焚き増しが出るということが理解できないので、もうちょっと補足してほしい。・・・
(近藤委員長)(3)の「停止に伴う代替火力の焚き増し」のところだけ言いますと、原子力発電所の停止、その停止に伴う代替火力、そういう意味なんです。多分、停止期間が長くなるという前提で、そのためには必ず代替の発電設備が必要だろうということを念頭に置いて書いたものと思いますが、そういう意味でなら、ご理解いただけるかもしれない。
(伴委員)そうすると、この部分は原子力発電の停止という政策変更……
(近藤委員長)立地地域との関係で、使用済燃料の行き場がなくなるとすれば、発電所をとめなければなりませんので、さすればということです。
2012年4月12日原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会第11回会合での近藤委員長発言
(注:現在は原子力委員会のサイトに音声しか出ておらず、聞き取りにくいものなので、以下は必ずしも正確な再現ではない)
又吉由香委員 (モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社ヴァイス プレジデント)
万が一政策を変更したことによって、原子力オペレーションに影響が出て、火力のバックアップが必要なるとか、そう言うのは将来コストになるのですか。
鈴木座長
それが必ず起きると言うことであれば 計算しますが、蓋然性であると言うことであれば、例えば、最悪シナリオとして、これぐらいコストがかかるかもしれませんと言うことになりますが、その辺は我々の中で、シナリオとしてこれは必ず起きるという風に書けるかどうか、ちゃんと検証しながら。
ただご指摘の点は、前回の政策大綱の時にもありましたので、最悪の場合に発電所が止まって火力発電所に置き換えたときに,これぐらいかかると言うのはあり得るシナリオとしては計算はできると思うのですが、それが政策変更コストというとこれが起きるんだという形では、たぶん今回は出せないだろうと、と言うことを今日はまず御議論していただきたいと。
要するにですね、1,2,3のシナリオで、政策変更と言ってしまった時に、どれが今の政策かと言うことになっちゃうんで、それはなかなか難しいんで、1の時に掛かる費用、2の時に掛かる費用というのを計算しましょうと言うことでやりたいと。
で3の時に、今ご指摘したのは、直接処分のシナリオの時に、いまは、1と2では六ヶ所を動かしますが、3は六ヶ所を止めますよね。六ヶ所を止めた時にどういう費用が発生するか言うことについて、きちんと検証しましょうと。そのときに、今ご指摘のようなシナリオが必ず起こりそうだというんであれば、それは計算します。で、よろしいでしょうか。
近藤委員長
これは、前の時も私も何回も申し上げたんだけど、皆さん勝手に足し算しちゃったんですね。政策変更コストというのは、金銭換算して難しさのマグニチュードを表現しただけのものなんですね。そこの区別が大事なんで。
極端なことを言うとそれぞれの変更がアプルーブされるプロバビリティーを掛けて、そっちは累計して・・
足し算がいいということであれば、プロバビリティーを掛けなければいけない。そう言う性格のものであると言うこと。・・
総費用という言葉を使うときに、どうしても、それを含めて総費用を出したいというのであれば、まさにプロバビリティーを入れた格好で、総費用の式を作って計算するしかない。
出典
足し算をしたがる事務局
事務局は政策変更がいかに難しいかを強調したがり、例えば次のような表現をする。
むつRFSは再処理を前提とした貯蔵施設であるため、利用できない。また、六ヶ所再処理施設への貯蔵はできない。
出典
資料第1−4号「政策変更または政策を実現するための課題」(PDF:816 KB)がその根拠として、青森県やむつ市との覚え書きを挙げている。
これには、柔軟派の委員から、「利用できない」と言い切るのはおかしい、そんなことを言っていたら政策変更なんていつまでたってもできないとの批判がでた。利用できないかどうかは交渉してみなけれあば分からない。
代替火力の足し算は入れすぎとの意見 2004年10月7日
渡辺光代委員 日本生活協同組合連合会理事
それから3点目ですが、今回の政策変更コストでは、原子力発電がとまって、代替火力の分までも含めておりますが、これはちょっと入れ過ぎの感じがします。この政策変更コストはシナリオ1でもシナリオ2でも、もし仮に再処理工場がトラブルで動かなくなった場合にはかかるわけで、むしろ何らの準備もないまま原子力発電所の停止という事態になるリスクを抱えこんでいることではないでしょうか。そのリスクがゼロでない以上、代替的な選択肢のための準備は常にしておかなくてはいけないと思います。
出典
異質な数字の足し算は無意味との指摘 2004年10月7日
吉岡斉委員
5.「経済性について(暫定版)」へのコメント
5−1.政策変更コストについて評価することは重要なことです。しかし「経済性について(暫定版)」における、政策変更コストの取り扱いには、ひとつの致命的欠陥があります。22ページの総括表「算定結果のまとめ」が、該当個所です。
- 上記吉岡委員言及資料の誤記改訂版がここに(pdf) 22ページを下に引用
算定結果のまとめ
−割引率2%の場合−
- ○現在のウラン価格などの状況の下では、直接処分した方が再処理するよりも核燃料サイクルコスト(注:発電コスト全体の2〜3割の部分)は約0.5〜0.7円/kWh低い。
- ○政策変更に伴う費用のうち定量化できるもの(六ヶ所再処理工場関連及び代替火力関連の費用)を59年間の発電量で均等化したものは約0.9〜1.5円/kWhになる。
(単位:円/kWh)
@全量再処理 A部分再処理 B全量直接処分 C当面貯蔵 発電コスト※1 約5.2 約5.0〜5.1 約4.5〜4.7 約4.7〜4.8 核燃料サイクルコスト 約1.6 ※2 約1.4〜1.5 ※2 約0.9〜1.1 ※2 約1.1〜1.2 ※2 うち@フロントエンド 0.63 0.63 0.61 0.61 うちAバックエンド 0.93 0.77〜0.85 0.32〜0.46 0.49〜0.55 政策変更に伴う費用※3 ー ー 約0.9〜1.5 うち@六ヶ所再処理施設関連 ー ー 約0.2 うちA代替火力発電関連 ー ー 約0.7〜1.3 ※4 (参考値)発電コスト※1+政策変更に伴う費用※4 約5.2 約5.0〜5.1 約5.4〜6.2 約5.6〜6.3
- ※1 発電コストと核燃料サイクルコスト(前頁)の差分は、総合エネ調電気事業分科会コスト等検討小委員会の試算(H16.1)を活用。設備利用率80%,割引2%の場合で、発電コスト5.1円/kWh、核燃料サイクルコスト1.53円/kWhとなっており、その差分(5.1-1.53≒)3.6円/kWhをシナリオ@〜Cの核燃料サイクルコストに加算して発電コストを算定。
- ※2 今回の使用済燃料の直接処分コストの算定ではいくつかの不確実性については取り扱っていない。このため、現時点のコストの不確定幅は今回の算定結果よりも大きいと考えるのが妥当である。
劣化ウラン及び回収ウランはシナリオにより処分又は貯蔵していずれ使用されることとなるが、これら物質の経済的価値及び費用(注)は算定していない。プルトニウムの経済的価値はゼロとする。- (注)再処理工場における回収ウランの貯蔵費用は、再処理費用の中に含まれている。
- ※3 政策変更に伴う課題としては、立地地域との信頼関係を損なう可能性など様々な項目が存在するが、ここでは、一定の仮定の基に定量化が可能なものについて算定結果を求めた。
- ※4 政策変更により原子力発電所が停止する蓋然性については確定的なことは言えないが、代替火力発電関連のコスト算定の際の政策変更後の運転再開時期は、@2015年、A2020年とした。これは、再処理を前提にしない中間貯蔵施設の立地やサイト内貯蔵容量の大幅増といった対策がこれだけの時間をかければ立地地域の理解を得て実現できると仮定しておいたものである。
そこでは、事業シナリオ3(全量直接処分)および事業シナリオ4(当面貯蔵)について、「使用済核燃料の貯蔵能力増強が一切なされず、かつ六ヶ所村再処理工場で受け入れた約1000トンの使用済核燃料が発生元に返還される結果、原発に併設された使用済核燃料貯蔵プールが順次満杯となり、それにより原発が順次停止し、火力発電所の新設によってその喪失分を代替する」という事態が発生した場合の追加コストを、原子力発電コストに単純に加算した数字が、「参考値」として示されております。
5−2.しかしながらこの「プール満杯による原発大量停止」は、必ず起こる事態ではなく、確率論的事象です。その発生確率を評価し、それを推定追加コスト(ハザードに相当)に掛け合わせて、リスクの数値をはじき出す必要があります。その数字ならば、原子力発電コストに加算することも可能です。
しかし資料では、「貯蔵プール満杯による原発大量停止」というハザードについて、確率論的リスク評価(イベントツリー、フォールトツリーを立てた個別原発ごとの評価を、全て足し合わせた評価)は行われていません。それを行わない以上、2つの数字は性質が異なるのですから、加算は無意味です。
5−3.強いて表の形にしたいのならば、政策変更コストのうち、火力発電所の新設による代替分を、約0.9〜1.5ではなく、0.0〜1.5とするのが適切です(下限の合理的推定ができない以上、下限を0.0とするのが適切です。資料では合理的推定なしに上限を1.5としていますので、それとの整合性の観点からも下限を0.0とするのが妥当です)。その結果として、事業シナリオ3の「参考値」は、約5.4〜6.2ではなく約4.7〜6.2となります。事業シナリオ4の「参考値」は同様に、約4.9〜6.3となります。この表記ならば、間違いとまでは言えません。
5−4.私は、「貯蔵プール満杯による原発大量停止」リスクについて、精密なリスク評価をおこなっていませんが、直観的に小さいと判断します。その最大の理由は、「原発と共生する強い意思をもつ都道府県は、一般的にいって、原発の廃止に直結するおそれの高い事態の発生を、放置するとは考えにくい」というものです。代替火力発電所が大量に建設された場合、原発は熾烈なコスト競争を強いられ、その多くが廃止されると予想されるからです。角を矯めて牛を殺す結果となります。
なお代替火力発電所の多くは、独立系発電事業者が建設することとなるでしょう。それにより独立系発電事業者のシェアと競争力が増し、九電力会社の市場支配力が弱まり、自由な電力市場の発展にとって好ましい効果がもたらされます。
5−5.六ヶ所村再処理工場が凍結又は廃止された場合、約1000トンの使用済核燃料が返還されるという仮定は、適切ではありません。そのようなルールがないからです。類似ケースに公害防止協定があります。それは単なる紳士協定ではなく、法的効力のある
(裁判で効力を発揮する)「契約」であると、最近は認められるようになってきていますしかし「誠実協議条項」のような抽象的なものは、法的効力がないと解するのが妥当ですそのようなものを根拠に日本原燃が使用済核燃料の搬出に同意しても、電力会社はそれを受け入れる法的義務はありません。(大塚直・北村喜宣変『環境法学の挑戦』、第2−2章、日本評論社、2002年)。無理強いすれば電力会社が日本原燃に対し、差止請求を行い、損害賠償を求めることとなるでしょう。
5−6.ハザードの発生確率はともかくとして、プール満杯問題を招くリスクを背負う形で、電力会社が原子力発電事業を進めていたことは、重大な問題です。政府が中間貯蔵施設の建設のための法令整備をなかなか進めないなど、電力会社のリスク回避対策実施を遅らせてきたことは、さらに大きな問題です。電力会社と政府はみずから「安定供給」を損なうような政策展開・事業展開をしてきたことになります。早くから状況変化に柔軟に対応できるような仕組みを作っておくべきだったといえます。
5−7.青森県知事は第8回会議(9月24日)の席上、私の質問に答えて、次のような趣旨のことを述べました。「再処理工場があまり稼働せず、大量の使用済核燃料が蓄積したあとで、工場の廃止が決まった場合、蓄積した使用済核燃料の県外搬出に関する協議が行われることとなろう。」
もちろん1998年の「覚書」(協定書)には法的効力はありませんので、かりにそうした事態が生じたとしても、日本原燃には県外搬出の法的責任はありません。しかし大量に六ヶ所村再処理工場に使用済核燃料を溜め込めば、道義的責任は重くなります。そしてそれを果たそうとすると、電力安定供給に赤信号が点滅します。
電力安定供給の観点からは、使用済核燃料をこれ以上、六ヶ所村再処理工場に搬入しないのが適切です。1年分程度を上限としてはどうでしょうか。
なお上記のような事態は、政策変更によっても起こりますが、1回の中小事故によっても起こります。構造的欠陥を疑わせる事故を起こした場合には、たとえ人身事故ではなくても、5〜10年の停止は十分に起こりうることです(もんじゅの前例があります)。
六ヶ所村再処理工場は日本唯一の商業再処理工場ですので、その長期停止は再処理そのものの長期停止、つまり事業シナリオ1又は2の破綻を意味します。それほど脆弱な事業シナリオだということに留意すべきでしょう。
5−8.この計算で注目すべき点は、追加コストが純粋にバーチャルな性格のものだという点です。リアルな追加コストではありません。だからそれは電力料金値上げや、政府による電力会社への損失補填の根拠とはなり得ません。リアルな追加コストが、そもそも発生するか否かを、検討する必要があります。もし原子力発電コストが火力発電コストよりも高いのであれば、追加コストは発生しません。
これに関連して言えば、コスト等検討小委員会の評価(2004年1月)は、以下の3
点において、原子力発電コストを過小評価しています。第1は、超長期のコスト評価を本来目的としていない現在価値換算という手法を使っていることです。第2は、政府の原子力関係予算(原子力発電会社にとっては外部費用)をコスト計算からすべて除外していることです。第3は、原発のみに固有のものではないが原発にとくに重くのしかかる各種のインフラストラクチャーコスト−−揚水発電施設の建設・維持費、長距離送電網の建設・維持費、立地関係費など−−を全て勘定に入れていないことです。リアルな追加コストを評価するには、これらのコストを評価した上で、コスト等検討小委員会の評価に加算するのが適切です。
5−9.ジャーナリストの関心は、キロワットアワー当たりの数字よりも、金額そのものにあります。ところで資料によれば、事業シナリオ3のサイクルコストについては、0.94〜1.07円という数字が出ています。それを使えば、直接処分コストは、11兆5500億円から13兆1500億円となります。事業シナリオ1との差額は、7兆3300億円から5兆7300億円となります。
出典
政策変更コストを生み出した者の責任はここでは問わない:原子力委員会事務局 2004年11月1日
経済性
全量再処理と使用済核燃料直接処分のコスト比較をめぐっては、10年前の1994年に一度検討されながら、その議論が明らかにされず、再処理にメリットがあるという根拠もあいまいなまま今日まで進められた経緯がある。シナリオB、Cに課せられている政策変更コストは、この不透明な経緯によって生まれたものであり、この損失を生み出したものの責任も問うべきである。
シナリオB,シナリオCにおける政策変更コストは、シナリオ間の相対評価のために定量化が可能な範囲でその大きさを試算したものです。過去の政策判断の責任といった問題はシナリオ間の相対評価作業の範囲には入らないと考えます。
出典
過去の政策判断、企業トップの判断の責任はどこで論じるか?
今回もこの責任問題を問わないまま、判断を間違った人々が、使用済み燃料の貯蔵場所の確保をしていないから、再処理をするしかないと主張して終わりとなるのか。
あるいは、ひとまず再処理工場を凍結して、その間に政策決定のありようについても議論することになるのか。
核燃サイクル方針当面凍結──民主党内「原子力バックエンド問題勉強会」グループの答え
民主党内「原子力バックエンド問題勉強会」(会長・馬淵澄夫元国土交通相)は、2012年2月7日の「第一次提言」で次のように述べている。
原子力委員会において、原子力政策大綱の見直しが進められているものの、原子力委員会の構成や事務局体制が3.11以前と変わっていないことから従来路線の踏襲となりがちであり、バックエンド問題についても、ゼロからの見直しは期待しにくいことに留意する必要がある。・・・・
六ヶ所再処理施設の当面中断/核燃サイクル方針当面凍結
- 前述のとおり、国が中心となって責任保管体制を整備することを明確にした上で、六ヶ所村の再処理施設は、稼働を当面中断し、日本原燃株式会社のあり方・国の関与のあり方を含め、ゼロベースで検討する。これに伴い、プルサーマル計画も当面中断する。
- 「もんじゅ」については、研究終了に向けた実行計画を策定し、その後の扱いについては国際共同研究の可能性も含めて専門家による白紙からの議論を開始する。
- 核燃サイクル施設立地自治体への財政支援及び雇用対策、国際的な研究機関の設置(後述)を含む特措法を制定し、地元に対し最大限の真摯な対策を講じる。
- 使用済核燃料を資産計上している点については、電力会社の財務状況を見つつ、必要な対応を検討する。
出典
具体的対策を考えるために個別に検討すべき各地の原発のプール状況
各原子力発電所(軽水炉)の使用済燃料の貯蔵状況について
(原子力を巡る状況について(資料2)(pdf) 46ページより)
(1) 原子力発電所は、使用済燃料を各発電所内(使用済燃料プール等)に貯蔵。
(2) 一部では貯蔵余地がひっ迫。短いもので数年程度で使用済燃料の置き場がなくなる。
(3) こうした観点からも、六ヶ所再処理工場や中間貯蔵施設の役割が位置づけられてきた。
(2011年9月末時点)【単位:トンU】 電力会社 発電所名 1 炉心(tU) 1 取替分(tU) 貯蔵量
(B)管理容量
(C)管理余裕
(C)-(B)管理容量を超過する
までの期間(年)
((C)-(B)) / ((A)*12/16)北海道電力 泊 170 50 380 1,000 620 16.5 東北電力 女川 260 60 420 790 370 8.2 東通 130 30 100 440 340 15.1 東京電力 福島第一 580 140 1,960 2,100 140 1.3 福島第二 520 120 1,120 1,360 240 2.7 柏崎刈羽 960 230 2,300 2,910 610 3.5 中部電力 浜岡 410 100 1,140 1,740 600 8.0 北陸電力 志賀 210 50 150 690 540 14.4 関西電力 美浜 160 50 390 680 290 7.7 高浜 290 100 1,180 1,730 550 7.3 大飯 360 110 1,400 2,020 620 7.5 中国電力 島根 170 40 390 600 210 7.0 四国電力 伊方 170 50 590 940 350 9.3 九州電力 玄海 270 90 830 1,070 240 3.6 川内 140 50 870 1,290 420 11.2 日本原子力
発電敦賀 140 40 580 860 280 9.3 東海第二 130 30 370 440 70 3.1 合計 5,070 1,340 14,200 20,630 6,710 (注)1.管理容量は、原則として「貯蔵容量から 1 炉心+ 1 取替分を差し引いた容量」。なお、中部電力の浜岡 1・2号機の管理容量は、1・2号機の運転終了により、貯蔵容量と同量。 2.中部電力の浜岡は、1・2号機の運転終了により、「1炉心」、「1取替分」を3~5号機の合計値としている。
参考:六ヶ所再処理工場の使用済燃料貯蔵量: 2,834トンU(最大貯蔵能力:3,000トンU)
むつリサイクル燃料貯蔵センターの使用済燃料貯蔵量: 0トンU(最大貯蔵能力:3,000トンU(※))
※平成24年7月操業予定。将来的に5,000トンUまで拡張予定。
出典
右端の「管理容量を超過するまでの期間」は、伴委員が各社の見積もりを出すよう原子力委員会事務局に求めたが出てこなかったもの。この基本問題委員会に提出された資料では、単純に、定期検査終了後の運転開始から次の定期検査開始までの期間を13ヶ月、定期検査に要する月数を3ヶ月とし、合計16ヶ月に1 回燃料交換がされると想定して、後何年保つかを計算している
(1取り替え分÷16)x12を1年間の平均排出量として、この値で管理余裕量(実質的に余ったスペース)を割って算出。
プールのスペース問題が一番深刻となっていたのは、福島第1と福島第2だった。