核情報

2019. 4. 3

福井県知事、県内乾式貯蔵検討と―崩れる再処理正当化論


福島第一原発の乾式貯蔵施設は津波で破損したがキャスクは無事だった

関西電力の3つの原子力発電所を抱える福井県の西川一誠知事は、3月7日、知事選(4月7日投開票)に向けた政策発表の記者会見で、原子力発電所の使用済み燃料を空冷式の貯蔵容器に入れて敷地内を含む県内で保管する可能性も検討すると明らかにしました。これは、原発の貯蔵プールの空き容量不足のため再処理をするしかないとの議論の根拠を崩すものです。

追補:当選した杉本氏の選挙日直前アンケートの回答

使用済み燃料の貯蔵や放射性廃棄物の処分は県外で対処すべきと考える。県外搬出までの保管方式については湿式、乾式等様々(さまざま)あり、地元市町や県議会、専門家の意見も十分伺いながら、安全を第一に議論していく。エネルギー問題は重要な国策であり、国が明確な方針を示し、責任を持って取り組むべきである。

出典:知事選 候補者アンケート/下 /福井 毎日新聞 2019年4月5日 地方版

  1. 関電の県外搬出約束と知事選
  2. 「大きな議論が必要」と原子力規制員会委員長
  3. 関連資料

再処理推進派は、2005年の原子力政策大綱策定時以来、次のような論法で再処理の正当化を図ってきました。「まもなく各地の原発の使用済み燃料プールが満杯になる。原発現地の市町村や県は使用済み燃料の地元外搬出を求めていて、地元での乾式貯蔵を認めてくれない。搬出先は六ヶ所村再処理工場の受け入れプールしかない。これも満杯。早く工場を動かし、燃料を再処理してこのプールに空きを作るしかない。でないと原発のプールが満杯になって原発は運転停止になる。だから工場の早期運転を!」福井県は、1990年代末以来、使用済み燃料は県外に搬出するよう求めてきました。西川知事も再三、県外搬出を主張してきました。

関電の県外搬出約束と知事選

2017年11月27日に知事が大飯原発3、4号機の再稼働に同意した際、県外保管施設について「2018年中に具体的な計画地点を示す」と関電は約束しています。20年に候補地を確保、30年頃操業という計画です。ところが、昨年12月16日に関電は、2018年中の計画地点提示断念との方針を知事に伝えます。20年に確保の計画には変わりないとのことです。同28日の定例記者会見で知事は、原発停止などの罰則を与える必要ないとの考えを示しました。

知事の3月7日発表の『元気ビジョン2019』には「使用済燃料の中間貯蔵施設の立地地点の確定を国・事業者に強く要請。中間貯蔵施設搬出までの安全な保管方法について地元市町とともに検討」とあります。知事による2015年3月16日の『福井ふるさと元気宣言』は、「使用済燃料の中間貯蔵施設の県外立地を国・事業者に強く求める」とだけ述べていました。この変化をもたらした背景として、上述の関西電力の提示断念の事態、対立候補の杉本達治前副知事の方針、そして、原発受け入れ自治体の首長らの発言が挙げられます。

記者会見で知事は「(県外に)中間貯蔵施設ができるまでの若干の期間、一時保管するという議論も並行して起こりうる。乾式貯蔵を含め、そういう議論はする」と説明しています。西川知事の下で副知事を務めた杉本氏は「物事を決めつけてやりきることがいいこととは思わない。(乾式など)何が安全か、立地、準立地自治体を含めてよく話をしながら進めていく」との考えを示していました(福井新聞2018年12月7日)。

選挙に重要な影響力を持つ立地自治体首長の昨年の発言は次のようなものです(明記以外は福井新聞から)。野瀬豊高浜町長「県内での貯蔵を俎上(そじょう)に載せてもいいのかなと思う」(11月30日)。中塚寛おおい町長「町を預かるものとして、地域住民の安全確保が第一」「(乾式貯蔵は)選択肢の一つであることは間違いない」(8月29日)「住民の安心安全を考えたとき、乾式貯蔵も一つの選択肢となり得る」(12月14日。中日新聞)。山口治太郎美浜町長「(乾式貯蔵を)前向きにとらえて練る必要がある」「乾式貯蔵の方が発電所の安全性が高まるという話なので」(12月4日)。(美浜町では山口町長が勇退し、2月19日の選挙で戸嶋秀樹前副町長が「後継者」として無投票当選。)

また、日本原子力発電の敦賀原発を抱える敦賀市の渕上隆信敦市長(全国原子力発電所所在市町村協議会(全原協)会長)は、今年1月4日の記者会見で「安全性を高める点で乾式貯蔵もあり得る、との議論になってくるのではないか…規制委員長が安全と明確に発言したので、敷地内での乾式貯蔵の導入に対してはあまりナーバスにならなくてもよくなってきた」と述べています。

「大きな議論が必要」と原子力規制員会委員長


2011年3月24日福島第一原発4号機
写真:東京電力ホールディングス

福井新聞は、原子力規制委員会の更田豊志委員長が昨年11月28日の定例会見で、「サイト内で貯留されているケースにおいては、使用済燃料プールの貯蔵量が多くなるよりは…むしろ乾式キャスクでの貯蔵を望みたい」と改めて述べたことが最近の首長らの発言の背景にあると指摘しています。規制委の2012年9月の発足以来、当時の田中俊一委員長と更田委員長代理は、たびたび、プール貯蔵より乾式貯蔵の方が安全だとし、5年から10年ほどプールで冷やした燃料は乾式貯蔵に移すべきだと発言してきました。これは、2011年の福島第一原発の事故の教訓だと言います。4号機のプールでは火災が心配されたが、同原発の乾式貯蔵施設(日本で導入された二つの乾式貯蔵施設一つ)の方は津波に襲われながら容器自体や燃料は健全だったからとの説明です。規制委は、このような考え方から、乾式貯蔵促進のために、3月13日、申請手続きを簡素化し、建屋なしの貯蔵も認める規則改正案を正式決定しました。

福島事故以前に乾式貯蔵を導入していたもう一つの原発は東海第二原発。事故後原子力規制委に申請をしているのは以下の通りです。中部電力2015年1月26日申請(新基準の下での建屋なし貯蔵検討中)、四国電力伊方原発(2018年5月25日申請)、九州電力玄海原発(2019年1月22日申請)。

更田現委員長は、2月13日の記者会見で、再稼働の現状からすると六ヶ所再処理工場は無用な施設になるのではないかと問われ、「大きな議論が必要」と答えています。田中元委員長は、3月1日都内での講演会で、再処理政策について「個人的にはやらない方がよい」、本格稼働すれば保有量増大と指摘しました。2021年の再処理工場竣工予定を控え大きな議論を巻き起こせるでしょうか。

初出 平和フォーラム/原水禁・News Paper 2019. 4. 9


関連資料

福井知事選 選挙マニフェスト

原子力規制委員会関連

  • 前原子力規制委員長、国策に異論 「核燃サイクル、やらない方が」 福島民報 2019年3月1日

    [田中俊一前原子力規制委員長が1日]原発の使用済み核燃料を化学処理(再処理)してプルトニウムを取り出し、燃料に再利用する核燃料サイクル政策について「個人的にはやらない方がよい」と述べ…日本原燃の再処理工場(青森県)が本格稼働すれば日本の保有量がさらに増加すると指摘した

  • 原子力規制委員会記者会見録(pdf) 2019年2月13日

    [六ヶ所再処理工場の運転とプルトニウムがたまりすぎるという問題についての感想を聞かれて]

    更田委員長これは感想というより、やはり事業全体、原子力産業全体としての議論が基本として必要なのだと思います。そこには歴史的に見ても非常に大きな議論があって、利用がどうあるべきか、これはおそらく原子力の境界を越えた話もあるのだろうと思います。

    原子力規制委員会の最も重要なのは、そういった議論に左右されないということで、推進や事業、産業のための事情を斟酌(しんしゃく)することなしに、私たちは各施設が与えるリスクに集中をして、私たちの判断を進めていくということが基本ですので、そういった意味では、むやみに感想をお伝えするのも余り好ましいことだとは思いませんし、ただし、日本原燃という組織、それから、六ヶ所再処理施設にとって、より大きな議論が必要だということは、これはおっしゃるとおりなのだろうと思います。

  • 原子力規制委員会記者会見録(pdf) 2018年11月28日

    更田委員長 これは規制当局として特定の見解を持つとか、委員長として意見を申し上げるようなことではなくて、あくまで事業者と自治体との間の問題であろうと思います。ごく一般論を言えば、使用済燃料や、あるいは廃棄物といったものが先々どういくのかという見通しが持てるというのはいいことではあるけれども、使用済燃料に関して言えば、規制当局として望むのは、サイト内で貯留されているケースにおいては、使用済燃料プールの貯蔵量が多くなるよりは、サイト内にとどまるのであれば、むしろ乾式キャスクでの貯蔵を望みたいと考えています。それから、サイトから出ていく場合に関しては、先ほどお答えしたように、あくまで事業者と自治体との間の協議、判断で定まっていくものと思います。

  • 高浜原発「乾式貯蔵方式を推薦」 使用済み燃料の保管で委長 /福井 毎日新聞2017年7月7日 地方版

    高浜町を訪れた田中俊一原子力規制委員長は6日午後…「(特殊な金属製容器に入れて保管する)乾式貯蔵を電力会社に勧めている」と答えた。

電力会社乾式貯蔵申請関係

参考

福井知事選・乾式貯蔵関連報道

  • 注1 福井新聞と沖縄タイムスによる原発と基地のニュースサイト「フクナワ」は公開を終了

  • 核情報ホーム | 連絡先 | ©2019 Kakujoho