核情報

2006.6.8

『新・国家エネルギー戦略』──実現の可能性の乏しい「原子力立国計画」

5月31日、経済産業省は『新・国家エネルギー戦略』(pdf)を発表しました。65ページの文書のうちの5ページ分(44−48)を占める「原子力立国計画」は、原子力発電は「運転中にCO2を排出しないクリーンなエネルギー源」だとし、「2030年以降においても、発電電力量に占める比率を30〜40%程度以上とすることを目指す」と述べるとともに、米国の国際原子力パートナーシップ(GNEP)構想などに触れながら、2045年頃の第二再処理工場の操業開始、高速増殖炉実証炉の2025年頃までの実現、商業炉の2050年よりも前の操業開始など、実現の可能性の乏しいプルトニウム利用計画の推進を謳っています。

この文書については、同日開かれた経済財政諮問会議で二階産業経済大臣が報告(pdf)しました。その内容は、7月にまとめられる小泉政権の「骨太の方針2006」に組み入れられる予定になっています。

プルサーマル・再処理・高速増殖炉に関する主要部分を抜粋したものを以下に掲げておきます。なお文書の目次は抜粋部分の下に載せてあります。

『新・国家エネルギー戦略』「原子力立国計画」抜粋

世界的に見ても、米国が原子力発電の発展と核不拡散の両立を目指した国際原子力エネルギー・パートナーシップ(GNEP)構想を提唱し、欧州各国においても地球温暖化対策やエネルギー安全保障の観点から原子力発電を評価する気運が高まるなど、核燃料サイクルを含む原子力発電を推進する動きが急激に進展しつつある。

事業環境の整備

原子力発電に特有な投資リスクの低減・分散(2006年度中の第二再処理施設向けの企業会計上の手当、官民によるリスク分散の対応策の検討など)

[2] 現在の軽水炉を前提とした核燃料サイクルの早期確立

i) プルサーマルの推進等

六ヶ所再処理工場の操業の開始(事業者は2007年を計画)、プルサーマル導入(電気事業者は全国で16〜18基の導入を目指す)の推進等核燃料サイクルの確立に向けて、必要性・安全性等に関する国民との相互理解促進活動を強化する。

ii) 技術開発及び新技術の導入推進

2010年度頃の新型遠心分離機の導入、2012年の軽水炉MOX燃料加工工場操業開始などに向け、技術開発を推進する。

[3] 高速増殖炉サイクルの早期実用化

i) 高速増殖炉サイクル実用化に向けた移行シナリオの早期策定

高速増殖炉サイクルの実用化に向け、移行シナリオを早期に策定し、実証・実用化段階への円滑な移行のための研究開発側と導入者側の協議を速やかに開始する。

「もんじゅ」の運転を早期再開し、ナトリウム取扱技術の確立等を図るとともに、マイナーアクチニドの混合抽出など必要な技術開発を進める。

・・・

ii) 移行シナリオにおける国の役割の明確化

高速増殖炉サイクルの実証段階における軽水炉発電相当分のコストとリスクは民間負担を原則とし、それを超える部分は相当程度国の負担とするなど、移行シナリオにおける国の役割の明確化を図る。

iii) 戦略的な国際協力の推進

高速増殖炉サイクルを支える基盤となり、かつ世界をリードしうる技術に集中した戦略的開発を行うとともに、これを集約したシステムの世界市場での採用を通じた国際標準化など、高速増殖炉サイクルのフロントランナーを目指して戦略的な国際協力を推進する。

・・・

[4] 原子力発電拡大と核不拡散の両立に向けた国際的な枠組作りへの積極的関与

我が国は、これまで一貫して核燃料サイクルを含む原子力発電を推進し、この分野において世界の最先端を進んできた。GNEP構想や原子力供給国グループ(NSG)45ヶ国による原子力関連資機材・技術の輸出管理強化など、核不拡散と原子力の平和利用の両立に向け始動しつつある新たな国際的枠組作りの動きに対して、これまでの経験や技術を最大限に活かし、積極的に協力・貢献を行う。

・・・

[7] 放射性廃棄物対策の着実な推進

i) 最終処分地の候補地選定に向けた取組の強化

2030年代中頃の最終処分の開始を目指し、2006年度から、地域支援の充実、国の全国各地における重点広報の強化を行うなど、高レベル放射性廃棄物の最終処分地の候補地選定に向けた取組を早急に強化する。


目 次

I.現状認識と課題
1.現状に対する基本認識
(1) エネルギー需給の構造変化
(2) 政情不安等の市場混乱要因及び混乱増幅要因の多様化
(3) 各国で進むエネルギー戦略の再構築
2.新・国家エネルギー戦略の構築
(1) 戦略によって実現を目指す目標
(2) 戦略策定に当たっての基本的視点
(3) 戦略実施に際しての留意事項
(4) 数値目標の設定
II.実現に向けた取組
1.戦略を構成する具体的なプログラムと位置付け
2.省エネルギーフロントランナー計画
3.運輸エネルギーの次世代化計画
4.新エネルギーイノベーション計画
5.原子力立国計画
6.総合資源確保戦略
7.アジア・エネルギー環境協力戦略
8.緊急時対応の強化
9.エネルギー技術戦略の策定
10.「新・国家エネルギー戦略」の実現に向けて

参考

●経済産業省資源エネルギー庁ホームページより:

経済財政諮問会議ホームページより

●関連記事


新・国家エネルギー戦略(全文) (PDF)より引用

5.原子力立国計画

(1) 考え方

原子力発電は、供給安定性に優れ、また、運転中にCO2を排出しないクリーンなエネルギー源である。

この原子力発電を、安全の確保を大前提に核燃料サイクルを含め着実に推進していくことは、エネルギー安全保障の確立と地球環境問題との一体的な解決の要であり、我が国エネルギー政策の基軸をなす課題である。

世界的に見ても、米国が原子力発電の発展と核不拡散の両立を目指した国際原子力エネルギー・パートナーシップ(GNEP)構想を提唱し、欧州各国においても地球温暖化対策やエネルギー安全保障の観点から原子力発電を評価する気運が高まるなど、核燃料サイクルを含む原子力発電を推進する動きが急激に進展しつつある。他方、国内においては、電力需要の伸びの低迷や電力自由化の進展といった環境下で、中長期にわたる計画的な遂行と巨額の投資が必要とされる原子力発電の新・増設、高速増殖炉を含む核燃料サイクルの早期確立・実用化、高レベル放射性廃棄物の最終処分場の確保などの課題に適確に対応していくことが大きな課題となっている。

このため、国内的には、国は、電気事業者、メーカなど関係者との共通認識を醸成しつつ、こうした課題に対し積極的な役割を果たす。また、国際的には、我が国でこれまでに蓄積された技術的な強みなどを発揮して、世界的な原子力発電の推進に先導的な役割を果たす。加えて、国、事業者等は、原子力発電推進の大前提となる、万全の安全確保や立地地域などの理解と協力を得るため、最大限の努力を行う。

(2) 目 標

世界最先端のエネルギー需給構造を実現するという観点から、原子力発電を将来にわたる基幹電源として位置付け、2030年以降においても、発電電力量に占める比率を30〜40%程度以上とすることを目指す。

また、現在の軽水炉を前提とした核燃料サイクルの着実な推進、高速増殖炉の早期実用化などの諸課題に計画的かつ総合的に取り組むとともに、核融合エネルギー技術の研究開発を推進する。

(3) 具体的取組

[1] 電力自由化環境下での原子力発電の新・増設、既設炉建て替えの実現

電力自由化の進展や需要の伸びの低迷が見られる中で、原子力発電の当面の新・増設や2030年前後からと予想される既設炉の本格的な建て替えが円滑に実現できるよう、以下のような事業環境の整備を進める。なお、今後の電気事業制度の在り方の検討に当たっては、原子力投資に及ぼす影響に十分配慮して慎重に議論を行う。

  • 初期投資などの負担平準化(新・増設、既設炉建て替え促進に向けた2006年度中の企業会計上の手当など)
  • 原子力発電に特有な投資リスクの低減・分散(2006年度中の第二再処理施設向けの企業会計上の手当、官民によるリスク分散の対応策の検討など)
  • 原子力発電のメリットの可視化(2006年度中のCO2排出係数の統一的な算定方法の策定など)
  • 広域的運営の促進(連系線の建設・増強円滑化などに向けた事業者間費用負担ルールの柔軟な取扱など)

[2] 現在の軽水炉を前提とした核燃料サイクルの早期確立

i) プルサーマルの推進等

六ヶ所再処理工場の操業の開始(事業者は2007年を計画)、プルサーマル導入(電気事業者は全国で16〜18基の導入を目指す)の推進等核燃料サイクルの確立に向けて、必要性・安全性等に関する国民との相互理解促進活動を強化する。

ii) 技術開発及び新技術の導入推進

2010年度頃の新型遠心分離機の導入、2012年の軽水炉MOX燃料加工工場操業開始などに向け、技術開発を推進する。

[3] 高速増殖炉サイクルの早期実用化

i) 高速増殖炉サイクル実用化に向けた移行シナリオの早期策定

高速増殖炉サイクルの実用化に向け、移行シナリオを早期に策定し、実証・実用化段階への円滑な移行のための研究開発側と導入者側の協議を速やかに開始する。

「もんじゅ」の運転を早期再開し、ナトリウム取扱技術の確立等を図るとともに、マイナーアクチニドの混合抽出など必要な技術開発を進める。

また、実証炉及び関連サイクル実証施設の2025年頃までの実現を目指すこととし、商業炉を2050年よりも前を目指して開発する。

第二再処理工場は、六ヶ所再処理工場の操業終了時頃(2045年頃)の操業開始を目指して、必要な技術開発を進める

(注)マイナーアクチニド

原子番号89のアクチニウムから103のローレンシウムまでのアクチノイド元素のうち、アクチニウムを除いた元素群はアクチニドと呼ばれている。使用済燃料の中に生成するアクチニド元素のうち、生成量の比較的多いプルトニウムを除いた、生成量の比較的少ない元素。ネプツニウム、アメリシウム、キュリウムなどが含まれ、いずれも放射性核種である。

再処理により使用済燃料からマイナーアクチニドをウラン、プルトニウム等とともに回収し、高速増殖炉により燃焼させることによって、放射性廃棄物の放射能や潜在的有害度を低減して環境適合性を向上し、また、プルトニウム等の核燃料物質への近接を困難にして核拡散抵抗性を向上させることができると考えられている。

(注)混合抽出

混合抽出とは、マイナーアクチニドをウラン、プルトニウム等から分離することなく、硝酸等の溶液から一括して抽出する方法をいう。

ii) 移行シナリオにおける国の役割の明確化

高速増殖炉サイクルの実証段階における軽水炉発電相当分のコストとリスクは民間負担を原則とし、それを超える部分は相当程度国の負担とするなど、移行シナリオにおける国の役割の明確化を図る。

iii) 戦略的な国際協力の推進

高速増殖炉サイクルを支える基盤となり、かつ世界をリードしうる技術に集中した戦略的開発を行うとともに、これを集約したシステムの世界市場での採用を通じた国際標準化など、高速増殖炉サイクルのフロントランナーを目指して戦略的な国際協力を推進する。

[4] 原子力発電拡大と核不拡散の両立に向けた国際的な枠組作りへの積極的関与

我が国は、これまで一貫して核燃料サイクルを含む原子力発電を推進し、この分野において世界の最先端を進んできた。GNEP構想や原子力供給国グループ(NSG)45ヶ国による原子力関連資機材・技術の輸出管理強化など、核不拡散と原子力の平和利用の両立に向け始動しつつある新たな国際的枠組作りの動きに対して、これまでの経験や技術を最大限に活かし、積極的に協力・貢献を行う。

[5] 次世代を支える技術開発、人材育成

既設炉の本格的な建て替えが始まるまでの新規建設低迷期の間、原子力発電を支える原子力産業の技術、人材の厚みの維持・強化を図る。

また、核融合エネルギー技術(ITER計画)、高温ガス炉などを用いた水素製造技術、放射性廃棄物処分の負担軽減のための核変換技術など先進的エネルギーに関する研究開発についても、長期的視点から着実に推進する。

  • 20年ぶりの官民一体での次世代軽水炉開発プロジェクトの着手(国際競争力のある日本型軽水炉開発の事業化調査を2006年度開始)
  • 現場技能者の育成・技能承継への支援開始(個別企業の枠を超えた地域の取組への支援を2006年度開始)
  • 立地地域をはじめとする大学・大学院で原子力を学ぶ学生への支援や大学などにおける原子力教育の充実の検討

[6] 我が国原子力産業の国際展開支援

我が国原子力産業の技術・人材を維持するという観点に加え、世界的なエネルギー需給逼迫の緩和や地球温暖化防止に貢献する観点から、原子力産業の国際展開を積極的に支援する。

  • 政府としての支援スタンスの明確化
  • ベトナム、インドネシアなどへの制度整備のノウハウ支援の2006年度開始、人材育成協力の強化
  • 中国向け人材育成協力・金融面の支援
  • CDM(Clean Development Mechanism)スキームの対象に原子力を加えるよう国際枠組みに対する働きかけの強化

(注)CDM(Clean Development Mechanism)

先進国が開発途上国に技術・資金等の支援を行い温室効果ガス排出量を削減する事業を実施した結果、削減できた排出量の一定量を先進国の温室効果ガス排出量の削減分の一部に充当することができる制度。

[7] 放射性廃棄物対策の着実な推進

i) 最終処分地の候補地選定に向けた取組の強化

2030年代中頃の最終処分の開始を目指し、2006年度から、地域支援の充実、国の全国各地における重点広報の強化を行うなど、高レベル放射性廃棄物の最終処分地の候補地選定に向けた取組を早急に強化する。

ii) TRU廃棄物の地層処分事業の制度化

TRU廃棄物の地層処分事業の在り方を検討し、早期に制度化する。

(注)TRU廃棄物

再処理施設、MOX燃料加工施設等から発生する低レベル放射性廃棄物で、ウランより原子番号が大きいネプツニウム(Np)、プルトニウム(Pu)、アメリシウム(Am)等の超ウラン核種(TRU核種)を含むことから、通称「TRU廃棄物」と呼ばれている。本廃棄物は、発熱量は小さいが、半減期の長い放射性核種が含まれることから、原子力委員会は本廃棄物を「長半減期低発熱放射性廃棄物」と呼称することとした。

iii) 放射性廃棄物の安全規制制度の整備

高レベル放射性廃棄物を含む放射性廃棄物の安全規制制度の整備を進める。

iv) 地層処分技術に関する技術開発工程表の策定と技術開発の推進

地層処分技術の信頼性・安全性の向上を計画的に実現していくための長期的な技術開発工程表を2006年度中に策定するとともに、それに基づき国、関係機関など関係者が一体となって技術開発を推進する。

v) 研究開発等の活動に起因する低レベル放射性廃棄物の処分の推進

これまで処分が行われていない研究開発等の活動に起因する低レベル放射性廃棄物の処分事業の在り方を検討し、早期制度化を行う。

[8] 品質保証の充実・強化による安全水準高度化のための検査制度の見直し

原子力施設の安全確保の向上を図るため、品質保証を重視した検査制度を充実・強化する。また、現在、運転停止中に集中している検査から、運転中も含めた個別プラントの保安活動全体を的確に確認する検査への移行に取り組み、安全規制の実効性を高める。

[9] 高経年化対策、耐震安全対策等の充実

運転年数が長期にわたる原子力発電所の安全対策として、2005年末に、事業者に対し、以下を法令上義務付ける等の更なる充実を図っている。今後とも、この新制度を着実に運用する。

  • 総合的な技術評価の実施及び国への報告
  • 新たに追加した保守管理活動を実施するための長期保全計画の策定及び同計画の国への報告

また、改定される「耐震設計指針」による基準地震動の策定法の高度化を推進するとともに、耐震安全性に対する信頼性の一層の向上のために、「耐震設計指針」に照らして、全国に立地している原子力発電所の耐震安全性を確認する。

加えて、改正された核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(原子炉等規制法)に基づき、核物質防護対策等を確実に実施する。

[10] 国と地方の信頼関係の強化等

立地地域の実情に応じ、国の顔が見える形で、各レベルにおける真摯な取組を行い、日頃からの立地地域との信頼関係を強化する。

具体的には、立地地域の住民との直接対話の強化や、国と地方の各レベルによる信頼関係の構築、その上での国の責任者の考え方・方針の表明、地域振興に向けた継続的な支援、きめの細かい広聴・広報の実施などを進める。

【図29:原子力立国計画を巡る動向と課題】

2010年2020年2030年
軽水炉サイ
クルの確立
16〜18基のプルサーマ六ヶ所再処理工場稼動ル導入
新型遠心分
離機導入
軽水炉MOX燃料
加工工場操業
必要性・安全性等の理解推進活動
必要な技術開発の推進
移行シナリ
オの策定
高速増殖
炉サイクル
の実用化
実証炉及びサイクル施設稼動
研究開発側と導入者側の協議
導入技術の選定、開発を実施
設計、建設の実施
実証プロセスの実施主体の検討及
び体制整備
次世代軽水炉開
発プロジェクト
事業化調査実施
技術開発・
人材育成
現場技能者の育成・技能継承への支援
事業化調査結果を踏まえ
具体的な開発
次世代軽水炉商業ベースでの導入
原子力発電拡大と核不拡散の両立に向けた国際的な枠組み作りへの積極的貢献
我が国原子力産業の国際展開支援
品質保証の確立を中心とした効果的な安全規制の導入・定着/高経年化対策の充実
国と地方の信頼関係の強化
放射性廃棄
物対策
処分地決定処分開始
処分場操業
地層処分技術の信頼性・安全性向上のための技術開発
地域支援の充実、広報の強化など
候補地調査の実施処分施設建設
新・増設
・初期投資負担の平準化に向けた企業
会計の手当
・第二再処理向け企業会計の手当
・CO2排出係数の算定方法の統一
・連系線の建設・増強円滑化に向けた事
業者費用負担ルールの柔軟な取扱
などを実施
・官民によるリスク分散の対応策
などを検討
その後の事業環境の変化に応じてさらに検討
投資環境
の整備
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