核情報

2006.2.20

国際原子力パートナーシップ(GNEP)構想──米国核拡散防止政策と再処理推進の矛盾

米国政府は、2月6日、約30年ぶりに使用済み核燃料の再処理開発を復活させる「国際原子力パートナーシップ」(GNEP=Global Nuclear Energy Partnership)計画を発表し2億5000万ドル(約300億円)の予算案を連邦議会に提出しました。この計画は、核拡散につながる六ヶ所再処理工場型の技術に代わる「リサイクル技術」を開発し、濃縮・再処理施設の所有を放棄した国に対し、燃料供給保証をおこない、さらに原子炉の使用済燃料を引き取る姿勢を示すことによって、核不拡散体制の強化と市場の開拓をねらうというものです。背景には、国際問題としてのイランや北朝鮮問題、国内には行き詰まっているネバダ州ヤッカマウンテン高レベル廃棄物処分場計画があって、話は複雑です。重要な点は、今にも再処理が始まるかのような報道がありますが、計画は現時点で実証されていない計画の寄せ集めだということです。基本的な情報を簡単にまとめてみました。

  1. GNEPの背景は?
  2. GNEPを分解すると?
  3. 先進燃料サイクル・イニシアチブ(AFCI)との関係は?
  4. 米国の再処理政策の経緯は?
  5. 日本にとっての意味合いは?
  6. 日本の再処理は特別な抽出方法だから核兵器が作れないのでは?
  7. 「新しい」再処理だとすべてうまく行くのか。
  8. GNEPのホームページの挙げる利点は?
  9. さらなるうたい文句は?
  10. エネルギー省長官のとどめの言葉は?
  11. ピューレックスの問題点とは?
  12. GNEPでいう「新しい」再処理技術とは?
  13. UREX+とは?
  14. 計画の概要は?
  15. 乾式再処理とは?
  16. 再処理技術の開発が成功すればそれですべて解決か?
  17. 新型燃焼炉(Advanced Burner Reactor)とは
  18. 米国物理学会の意見は?
  19. 使用済燃料の「自己防衛」とは?
  20. UREX+1aで取り出されたプルトニウムは、「自己防衛的」か?
  21. 「自己防衛」力を高めれば良いのか
  22. 混ぜたままの超ウラン元素では核兵器は絶対できないか。
  23. 揺りかごから墓場まで?
  24. 参考

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GNEPの背景は?

2002年、議会がネバダ州ヤッカマウンテンを最終処分場とすることを決定した際、ここに持ち込む商業原子炉の使用済燃料の量に、最高6万3000トンという上限を設けた。既に各地に5万5000トン貯まっている。現在103基の原子炉から約2000トンの使用済燃料が発生しており、2010年までに、累積量は、この上限に達すると見られている。ヤッカマウンテンの処分場は、2012年の運転開始の予定だが、計画は難航している。また、エネルギー省長官は、2007年1月1日から2010年1月1日の間に第二処分場の必要性について議会に報告しなければならないことになっている。

処分場に対する拒否反応をイヤと言うほど味わった政府は、二つ目の処分場の場所を探し始めたくない。だが、使用済燃料は貯まる一方である。1973年以来建設につながった発注のない原子力産業の再生のためには使用済燃料問題を解消しなければならない。そこで高まっているのが、処分場の必要量を減らしてくれるという再処理に対する淡い期待である。昨年11月に、エネルギー・水資源予算案に関して上下両院協議会で達した合意は、エネルギー省長官が2006年3月31日までに再処理の詳細な計画を提出し、2010会計年度中に「一つ以上の統合的使用済み燃料再処理施設の建設」を始めることを義務づけている。技術開発ができていないのにとにかく数ヶ月で決定を下して、建設に進めというのである。パニック状態に陥った議会が、十分な議論もせずに行ってしまった無茶な決定としかいいようがない。

ブッシュ政権の登場とともに出された2001年5月国家エネルギー政策(NEP)は、米国は、「よりクリーンで、廃棄物が少なく、核拡散抵抗性の高い再処理・燃料処理技術を開発」すべきだと述べていた。9/11以後やカーン博士の闇市場の発覚などを背景に、核拡散防止のためにウラン濃縮・再処理技術の拡散を制限すべきだとの議論が強まる中で、いわゆるエルバラダイ構想など国際核管理構想の具体化、米国原子力産業の再生、新型原子炉の開発、途上国への小型原子炉輸出の希望などが一体となって、ヤッカマウンテンの状況についての危機感と融合する形ででてきたのが今回の政策である。

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GNEPを分解すると?

GNEPは次のようなさまざまな要素からなる。

  1. 核拡散防止のための安定的燃料供給計画(核燃料バンク構想)
  2. 核拡散防止と原子炉の売り込み用の使用済み燃料引き取り・再処理計画
  3. 途上国への売り込みのための小型原子炉開発計画
  4. パニック的に処分場問題の解消をねらった再処理推進計画
  5. 処分場問題の解消を前提とした国内原子力の推進計画
  6. 再処理における核拡散問題の解消をねらう新しい再処理技術の開発計画
  7. 再処理で分離するプルトニウムを含む超ウラン元素を燃やすための新型燃焼炉計画
  8. 新型燃焼炉の使用済燃料用の再処理技術開発計画

これらの相互矛盾を抱える要素を、国際的協力を得ながらやろうというわけである。協力する側の意図は必ずしも一致せず呉越同舟となりそうである。ロシアは、1.と2.については似たような提案をしている。2003年には既に核疑惑問題を抱えたイランのブシェール原発の使用済燃料の引き取り計画を出している。日本は、米国の政策が反対しているはずの現在のプルトニウム分離技術を使った六ヶ所再処理工場の運転開始を強行してプルトニウムのさらなる蓄積をしようとしながら、その一方で新型燃焼炉計画や新しい再処理技術の開発で供給国側に加わろうとしている。米国政府の側もそれをよしとしているようである。国際社会はこれにどう反応するだろうか。

現在の原子力発電を前提とする限り、1.は、条件付きにせよ、評価されるべきものであり、実現性もかなり高い。2.は、イランのような国の扱いや、引き取った燃料の再処理について議論が生じそうである。また、米国での引き取りは、4.の原因となった処分場問題と根本的に矛盾する要素を抱えている。

核拡散抵抗性や処分場問題の解消という面での効果が実証されていない再処理への道を一気に突き進もうとすることについては米国内で批判が強い。国内の処分場問題に関しては、中間貯蔵を当座の解決策として提案する専門家が多い。

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先進燃料サイクル・イニシアチブ(AFCI)との関係は?

以前からあった「先進燃料サイクル・イニシアチブ(Advanced Fuel Cycle Initiative)」というエネルギー省のプログラムは、2001年の国家エネルギー政策(NEP)によって強化された。AFCIは、今回のGNEPの重要な一環として位置づけられ、再処理技術や新型炉の計画を進めることになっている。

参考:AFCI Program Fact Sheet (pdf)

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米国の再処理政策の経緯は?

米国では、1974年のインドの核実験をきっかけに、再処理が核拡散に与える影響についての議論が高まり、最終的に1977年にカーター大統領の核不拡散政策に基づき、商業用再処理を無期延期することを決定した。その後レーガン政権は、この商業再処理禁止政策を解除したが、産業界の関心が低くなり、それ以降米国では商業規模の再処理活動は停止したままである。一方、研究開発活動はその後も継続されており、今回対象となっている「先進リサイクル技術」は1980年代に開発された技術がもとになっている。なお、クリントン政権になって、軍事用も含む「全ての再処理活動を停止する」政策が採用されたが、リサイクル技術は「廃棄物処理技術」として継続していた。ブッシュ政権はいまでも「プルトニウム分離」には反対している。

クリントン政権の1993年の声明は、次のようなものだった。

米国は、プルトニウムの民生用利用を奨励しない。従って、米国自身も、原子力用であれ、核爆発装置用であれ、プルトニウムの再処理を行わない。

説得力のある政策である。だが、今回の政策は、一般にはいっさいの再処理を認めないが、一部の国々においては、核拡散抵抗性の高いという再処理を行うことを認めようというものである。ここに根本的矛盾がある。

ワシントン・ポスト紙(1月26日付け)は、憂慮する科学者同盟(UCS)のエド・ライマンの次のような言葉を引用している。

核拡散抵抗性があると呼ぶことによって、また、これは本当の再処理ではないから、核拡散のリスクについての懸念は当たっていないと主張することで、イチジクの葉っぱを付けているだけだと思います。しかし、我々が核拡散抵抗性があると呼ぶものを開発して、それが実際はそうでない場合、他の国々がこの技術を使う権利を主張することになるでしょう。それが本当に核拡散抵抗性があるんだったら、それをイランに持たせますか。

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日本にとっての意味合いは?

要するにGNEPは、六ヶ所で使われているようなピューレックス(プルトニウム・ウラン抽出:PUREX=plutonium-uranium extraction)という再処理方式は、核拡散につながりやすいから「新しい」再処理が必要だとするものである。ピューレックスでは、核兵器の生産に使われるプルトニウムを分離するからである。米国が30年ぶりに再処理再開の動きを見せていることは日本の再処理政策の正しさを示すものであり、六ヶ所再処理工場の運転も早く始めるべきだというような主張がされているが、これは明らかに米国の主張と異なる。本当に米国の新政策が呼びかけている国際的協力に関心を持つのであれば、六ヶ所再処理工場の運転開始を延期し、新政策の有効性についての議論に参加すべきである。

また、後述の通り、再処理で取り出したプルトニウムを一度だけ軽水炉でMOX燃料として使うという方法では、必要な処分場スペースの低減やウランの有効利用の面での効果は少ないと、再処理推進派のアルゴンヌ国立研究所のフィリップ・フィンク博士らが指摘していることを忘れてはならない。

つまり、米国の現在の議論の流れで言えば、六ヶ所再処理工場の運転開始は、核拡散リスクを高めるが、それほどの処分場スペース削減にも資源の有効利用にもつながらない行為だということになる。新しい技術の必要性が議論されているときに、問題を抱えた古い技術を使った工場の運転開始を強行してはならない。

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日本の再処理は特別な抽出方法だから核兵器が作れないのでは?

日本政府は、六ヶ所では、酸化プルトニウムを酸化ウランと混ぜた混合酸化物粉末の形で抽出するから核拡散につながらないと主張するが、弱い放射能しかもたないこの粉末からプルトニウムを取り出すのは簡単な化学処理でできる。

日本政府は、六ヶ所再処理工場の運転開始が核拡散に与える影響についての懸念を表明した米国のマーキー議員らの書簡に対する返答の中で次のように述べている。

日本は、六ヶ所工場においては、純粋なプルトニウム酸化物単体が存在することがないように、ウランと混合したMOX粉末(混合酸化物粉末)を生成するという技術的措置を講じている。

2月14日付マーキー議員宛て加藤良三大使書簡(原文英語)

外務省に対しマーキー議員らへの迅速な返答するよう求めた日本のNGOの要請書(2月13日付け)は次のように述べている。議員らの書簡についての報道があった1月27日に政府が出した「見解」に触れたものである。

見解は、「六ヶ所工場においては、純粋なプルトニウム酸化物単体が存在することがないように、ウランと混合したMOX粉末(混合酸化物粉末)を生成するという技術的措置も講じられている」としていますが、これは、「テロリストたちによる核兵器の獲得」についての懸念に応えるものになっていません。強い放射能を持つ核分裂生成物から分離されてしまったウランとプルトニウムの混合酸化物(MOX)からプルトニウムを取り出すのは簡単であり、IAEAの規定でも、MOXは「特殊核分裂性物質であり、かつ直接利用核物質」と見なされ、「核爆発装置の金属構成部分に転換するのに要する時間」は、1‐3週間とされているからです。

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「新しい」再処理だとすべてうまく行くのか。

下に見るように再処理によって最終処分場の必要面積が激減するというのは、未だ実証されていない技術の開発がすべてうまく行った場合であり、また、「新しい」再処理方法の核拡散抵抗性は、それほど高くならず、使用済み燃料をそのままにしておくのが一番核拡散抵抗性が高いと専門家らが指摘している。

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GNEPのホームページの挙げる利点は?

Global Nuclear Energy Partnership

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さらなるうたい文句は?

Global Nuclear Energy Partnership ▲ページ先頭へ

エネルギー省長官のとどめの言葉は?

GNEPは、世界中の経済的発展途上国に対し──核拡散の脅威を減らす一方で環境に優しい形で──実質的に無限の(virtually limitless)エネルギーを約束するものである。GNEPを現実のものにできれば、世界を、よりよく、よりクリーンで、より安全な場所とすることができる。

2006年2月6日 エネルギー省プレスリリース

*故高木仁三郎原子力資料情報室代表(当時)は、その著『原子力神話からの解放』(光文社 2000年刊)のなかで、氏が昔見たことがあるというvirtually limitless source of energyという表現に触れ、「実質的に無限のエネルギー源」というのが普通の訳だが、「仮想現実(バーチャル・リアリティー)」などという最近の用法が連想させるように、「無限のエネルギー源」などというのは、実質的でなく、「仮想」だったというのが今日の多くの人の感じ方だと思うと述べている。氏はまた、この表現の出典について、「探してはみたのですが、未だにわからないでいます。誰か知っていたら教えてくれませんか。」と問いかけている。この長官の言葉を見たらなんと言うだろうか。

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ピューレックスの問題点とは?

GNEPのホームページは、次のように説明する。

  1. プルトニウム以外の超ウラン元素──ネプツニウム、アメリシウム、キュリウム──が廃棄物となる。これらは、エネルギー源となるが、毒性が強く、処分場の設計に悪影響を及ぼす。
  2. ピューレックスで取り出される純粋なプルトニウムは核兵器に使われうる。
  3. ピューレックスは、現在の原子炉で使われている酸化物燃料を溶かすことはできるが、GNEPの一環である先進燃焼炉(ABR)の候補となっている燃料など別のタイプの燃料は溶かすことができない。

Why do we need advanced fuel separation technology? (pdf)

*ピューレックス法でゴミの中に入るプルトニウム以外の超ウラン元素(マイナーアクチニドと呼ばれる)は、寿命が長く、毒性が高い上に、発熱量が大きい。必要な処分場の面積は、廃棄物の量だけでなく発熱量によって規定される。それで超ウラン元素をまとめて取り出して、必要な処分場の面積を減らすとともに、プルトニウムをマイナーアクチニドと混ぜることで核兵器用に使いにくくし、これで作った燃料をABRという特殊な炉で燃やして(中性子を当てて核変換させて)「消滅」させてしまおうというわけである。

プルサーマルの場合は、軽水炉でプルトニウムを燃やす過程で、プルトニウムに加えてマイナーアクチニドも大量に発生する。この使用済燃料をさらに再処理するのは技術的に困難である。この使用済燃料をそのまま処分すると、普通の使用済燃料より発熱量が大きいから、必要な面積は大きくなり、最初の再処理で節約できたスペースはご破算となる。

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GNEPでいう「新しい」再処理技術とは?

六ヶ所に使われている技術の延長上にあるユーレックスプラス(ウラン抽出プラス:UREX+=uranium extraction+ )と、これらとは全く異なるパイロリプロセシング(高温再処理=乾式再処理)の二つがある。ピューレックスやユーレックスプラスは、酸を用いた水溶液中で化学処理するのに対し、パイロプロセシングは、熱・高温を意味するパイロという言葉がついていることからも分かるとおり、高温で金属を溶かし、電極を使って分離する。後者は水溶液を使わないため乾式再処理ともばれる。

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UREX+とは?

GNEPのホームページは次のように説明している。

現在の国際的分離方法であるPUREXは、純粋なプルトニウム製品を生み出す。GNEPは、先進分離プロセス──たとえば、UREX+(ウラン抽出プラス)──を奨励する。これは、超ウラン元素──ネプツニウム、プルトニウム、アメリシウム、キュリウム──をひとまとまりのまま取り出すことを目指すものである。これによって、超ウラン元素の再利用が可能になり、廃棄物が最小限になり、また、純粋なプルトニウムが分離されないという点で、PUREXよりも核拡散抵抗性の高いものとなる。

GNEPは、UREX+だけでなく、先進リサイクル技術一般を追求する。しかし、UREX+は、実験室規模で、純粋なウランを分離し、すべての超ウラン元素をまとめて回収する試験に成功している。

開発プロセスにおける次のステップは、将来の商業的プラントの設計及び運転のための指針となるコスト及びパフォーマンス・データを得るために、「エンジニアリング規模の実証(ESD=Engineering-Scale Demonstration)」を実施することである。ESDは、また、新型燃焼炉(ABR)の燃料テストのために分離された超ウラン元素を提供することになる。)

Why do we need advanced fuel separation technology? (pdf)

*現在のUREX+はUREX+1aというタイプ。

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計画の概要は?

上の説明で「実験室規模で・・成功」とあることや、次のスケジュールが示すとおり、GENPは、新しい再処理技術をこれから10年計画で実証しようというもので、現段階では文字通り技術開発「計画」にすぎない。

2008年
先進シミュレーション研究所(ASL)運転開始
2010年
先進燃料サイクル施設(AFCF)設計
2011年
先進ESDリサイクル・プラント運転開始
2016年
最初のAFCFモジュールの運転開始

エネルギー省はさらに次のように説明している。

ESDの運転が成功すれば、毎年2000トンほどの使用済み燃料(現在103基の原子炉からでているのと同等の量)の処理を行える商業規模のプラントに進む。・・・

これらの技術の開発に当たっては、他の燃料提供国との協力を試みる。

Demonstrate More Proliferation-Resistant Recycling

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乾式再処理とは?

GNEPのホームページはつぎのように説明している。

パイロプロセシング(高温再処理=乾式再処理)は、上述の二つの問題を解決するが、対象は、UREX+が扱うのとは異なる燃料タイプである。乾式再処理は、酸の溶液ではなく、高温の溶融塩の中で使用済燃料を溶かす。これは、現在の原発の酸化物燃料には適していないが、新型燃焼炉(ABR)用燃料の主要候補である金属には適している。乾式再処理は、ウランを抽出すると同時に、他の超ウラン元素がすべて合わさったものも抽出できる。UREX+と同じく、乾式再処理は、プルトニウムだけを分けて分離することはしない。

Why do we need advanced fuel separation technology?(pdf, 乾式再処理の図もある)

参考

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再処理技術の開発が成功すればそれですべて解決か?

そう簡単にはいかない。推進派の論理によっても、取り出した超ウラン元素の処分技術の開発に成功しなければ意味がなくなる。2005年6月16日の下院科学委員会エネルギー小委員会再処理公聴会の計画文書は次のように説明する。

再処理は、核廃棄物問題に対処するのに使われうるいくつかの措置の一つにすぎない。アクチニド(超ウラン元素)を廃棄物ストリームから分離した後、核変換という過程を使ってさらに処理する。[現在の原発とは]異なるタイプの原子炉(たとえば高速炉)を必要とする核変換は、アクチニドの毒性を減らしながら発電をすることができる。核変換は、また、廃棄物の温度を下げる(放射性廃棄物は、文字通り、ホットである。)これは、重要な意味を持つ。なぜなら、ヤッカマウンテンのような処分場は、廃棄物の量に加えて、その熱によって容量が制限されるからである。(核変換技術は、核廃棄物ストリームの他の要素に関しては、開発されていない。)

米国が核変換技術を活用するのでない限り、再処理の利点は少なくなる。再処理は、核燃料の利用効率を上げ、廃棄物の量を減らすことができるが、核変換無しでは、廃棄物の温度(熱負荷)を十分に下げて、ヤッカマウンテンで受けいれられる原子力発電の副産物の発生年数を長くすることはできない。

U.S. HOUSE OF REPRESENTATIVES COMMITTEE ON SCIENCE ENERGY SUBCOMMITTEE HEARING CHARTER Nuclear Fuel Reprocessing Thursday, June 16, 2005 (pdf)

上の公聴会で、再処理推進派のアルゴンヌ国立研究所のフィリップ・フィンク博士は次のように述べている。

「再処理は・・・それだけでは、有益なものとはならない。益は、再処理された物質が、再利用され、部分的あるいは完全に消滅した場合である・・・

[フランスでやられているような現在の原子炉でプルトニウムを一度だけ利用するという方法は]電力のネット・コストを数パーセント上げることとなり、処分場のスペースの利用をそれほど改善することにはならず、天然ウランの利用をそれほど改善しない。

下の証言の際の質問に答えて(Nuclear News, Sept. 2005, p.10)

*これは日本が計画しているような再処理・プルサーマル利用に関する批判になっている。

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新型燃焼炉(Advanced Burner Reactor)とは

上の公聴会の文書にある超ウラン元素の処分に使われる炉。廃棄物処理の観点から問題の多い超ウラン元素をまとめて取り出した後、それを燃料にしたものを燃やすための炉。高速中性子を利用する。高速増殖炉は、ブランケットという部分にウラン238を置いて、プルトニウムをどんどん作るが、燃焼炉は、ネットで超ウラン元素の減少を目指す。

GNEPのホームページは、次のように説明している。

ABRは、原子力発電所で生じる使用済燃料の中にある超ウラン元素を破壊し、この放射能をもち、放射性毒性の高い、また、発熱量の大きい物質を、それが崩壊するまで、何十万年もの間、地層処分場で扱う必要をなくする。

この物質を「燃やす」ために、ABRは、高エネルギー・高速中性子ヲ使って長寿命の超ウラン元素を分裂させる。ここでは、「燃やす」というのは、普通の燃焼を意味するのではなく、超ウラン元素を短寿命のアイソトープに核変換させることを意味する。・・

軽水炉は、超ウラン元素のネットの生産炉であるのに対し、ABRは、超ウラン元素のネットの消費炉である。・・・

ABRは、経済的な生産を推進するためにモジュール型で作ることもできる。

http://www.gnep.energy.gov/pdfs/06-GA50035f_2-col.pdf

*計画はつぎのとおり

2014年
新型燃焼テスト炉(ABTR)運転開始 原発の10分の1程度の規模
2023年
ABRスタンダード・プラント運転開始 原発程度の発電容量
実証の後、商業用ABR展開
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米国物理学会の意見は?

焦って再処理を始める必要はなく、中間貯蔵しておいて、研究が進み、再処理が本当にいいとなったらそのときにやればいいし、いざとなれば、最終処分場から引っ張り出してくればいいというもの。

ヤッカマウンテンが相当遅れたとしても、乾式キャスクでの中間貯蔵は──現在の原子炉サイトにおいてであれ、いくつかの地域的施設においてであれ、あるいは、単一の全国的施設においてであれ──少なくとも50年間は、安全かつ経済的に可能な形で行うことできる。さらに、ヤッカマウンテンに置かれることになる使用済燃料は、何十年にも渡って再処理用に回収可能な形で維持される。・・・[米国]にとって、再処理を開始したり、つぎの国家処分場を開発する緊急の必要は存在しない。

Panel on Public Affairs, American Physical Society, Nuclear Power and Proliferation Resistance: Securing Benefits, Limiting Risk, May 2005,

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使用済燃料の「自己防衛」とは?

使用済燃料は、取り出してから何十年もたってからでも、人が1メートルほどのところにいれば1時間以内に死んでしまう。

使用済燃料は、1メートルの距離で100ラド/時以上の放射線を出すとき「自己防衛的」と見なされる。少なくとも、100年は、この状態にある。

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UREX+1aで取り出されたプルトニウムは、「自己防衛的」か?

エネルギー省AFCIのE・D・コリンズ博士は、UREX+1aでプルトニウムと他の超ウラン元素を一緒に取り出しても「自己防衛的」にはならないと述べている。

超ウラン元素の線量(1メートルの距離距離) 1ラド/時
上述の100ラド/時の基準の100分の1
取り出し後50年の使用済燃料の1000分の1

つまり、再処理で取り出した超ウラン元素の混合物を入手して、化学的処理でプルトニウムだけ分離するのは難しくないということである。

*E.D. Collins, Oak Ridge National Laboratory, "Closing the Fuel Cycle Can Extend the Lifetime of the High-Level-Waste Repository," American Nuclear Society 2005 Winter Meeting, (pdf) November 17, 2005, Washington, D.C

パイロプロセシングでは、核分裂生成物として生じるランタニドも取り出すが、ランタニドのなかでも放射能が強く比較的寿命の長いユーロピウム154を一緒に取り出さないため、核拡散抵抗性はそれほど高くならないと、プリンストン大学のフランク・フォンヒッペル教授と韓国の原子力専門家カン・ジョンミン博士がその共同論文のなかで分析している。

Jungmin Kang and Frank von Hippel, “Limited Proliferation-Resistance Benefits From Recycling Unseparated Transuranics and Lanthanides From Light-Water Reactor Spent Fuel,” Science & Global Security

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「自己防衛」力を高めれば良いのか

実質的な意味を持つまで「自己防衛」力を高めると、今度は、「燃料製造・輸送のコストが相当上がってしまう」とコリンズ博士は指摘している。

また、エネルギー省先進燃料サイクル・イニシアチブ・ディレクターのウイリアム・マグウッドは、2005年3月15日 下院エネルギー・水予算小委員会で次のように述べている。

プルトニウムを他のいくつかのものと合わせて分離するこの化学技術を、核拡散抵抗性のある形で、かつ、経済的に実行可能な形で活用することができるかどうか我々は確信が持てない。

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混ぜたままの超ウラン元素では核兵器は絶対できないか。

ほとんどの超ウラン元素は、核爆発を起こすことができるから、高度な技術が拡散するに従って、これらの混合物からでも核兵器ができるようになるとローレンス・リバモア国立研究所のブルース・グッドウィン博士はいう。

*"Proliferation-Resistant Nuclear Power Systems: A Workshop on New Ideas," (pdf) Center for Global Security Research, Lawrence Livermore National Laboratory, March 2000, p.7

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揺りかごから墓場まで?

GENPは、世界を「燃料供給国グループ」と「原子炉使用国グループ」に分け、後者は前者から供給された燃料を使用し、使用済み燃料は前者に戻すというリース・システムを提案する。後者は、核拡散につながりうるウラン濃縮と再処理の放棄と引き替えに、安定した燃料の供給を受け、また、使用済み燃料の処分という頭の痛い問題も扱わなくてすむというわけである。前者は、引き取った使用済燃料を再処理して作った「リサイクル」燃料を新型燃焼炉で使うという。ただし、先に見たとおり、この新型燃焼炉はできていない。ロシアは、「国際燃料バンク構想」の中で、すぐにでも使用済燃料の受け取りを始めそうな勢いである。だた、そもそも、処分場問題で困難に直面している米国は、引き受けた使用済燃料の有効利用、廃棄物の劇的少量化のめども立たないまま、使用済み燃料を引き受け始めることにはなりそうにない。日本はこのどちら側に立とうとしているのだろうか。供給国グループに入って、他国の使用済燃料を引き受けるのか。使用国側に入って、使用済み燃料の処理・処分を供給国グループにまかせてしまうのか。

GNEPのホームページは次のようにいう。

揺りかごから墓場までの燃料リーシング・アプローチにおいては、供給国側は、使用国側に置かれた通常型の原子力発電所に新しい燃料を提供する。典型的には、ウランを濃縮することによってこれを行う。これらの通常型原発というのは、既存の原子炉や次世代原子炉、あるいは、GNEPの下で開発される新しい小型原子炉となる。使用済燃料は、燃料サイクル国に戻され、分離プルトニウムを生み出さないプロセスを使ってリサイクルされる。リサイクルされた燃料は、燃料供給国側の先進燃焼炉で使われる。・・・・

リサイクル技術が完全に実証された段階で使用済燃料の引き取りの合意がなされれば、それは、相当の経済的インセンティブになる。なぜなら、原子炉使用国の側は、コスト、安全性、保障措置などの面での多くの重荷を避けることができるからである。・・・

「燃料バンク」に貢献することに関心を示した国々がある。GNEPの下で構想されている「揺りかごから墓場まで」の燃料リーシング・アプローチを支えるのに必要な技術を開発するには時間がかかるから、米国は、GNEPの目的に沿った暫定的な信頼できる燃料サービスを構築するために国際的パートナーに協力を求めている。

Reliable Fuel Services

日本の海外向けウラン濃縮プラント計画

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参考:

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