核セキュリティー・サミットに出席するためにソウルを訪れたオバマ大統領は、3月26日、韓国外国語大学で講演し、「我々がテロリストの手に渡らぬようにしようと試みているまさにその物質──分離済みプルトニウム──を大量に増やし続けることは、絶対にしてはならない」と述べました。六ヶ所再処理工場の運転を開始しないと宣言すれば、日本はこのサミットに大きく貢献できたはずです。日本は、再処理によって、使用済み燃料からプルトニウムを分離する政策を続けてきました。その結果、すでに英仏と国内とに合計約45トンもの分離済みプルトニウムを蓄積しています。
元々は、このプルトニウムは、消費したよりも多くのプルトニウムを生み出すという高速増殖炉の初期装荷燃料とするはずでした。ところが、原型炉のもんじゅが事故を起こすなど、この計画は頓挫し、また、蓄積してしまったプルトニウムを軽水炉で無理矢理燃やすプルサーマル計画も、遅れ続けています。福島第一原子力発電所の事故の後、このプルサーマル計画の続行はさらに難しくなっています。
以下、オバマ大統領の関連部分を抜粋して訳出するとともに、これに関連した発言類を載せました。
参考
- プルトニウム大量保有懸念 米大統領が表明 共同 2012年3月26日
- 日本は大量のプルトニウムを持っている──使い道はほとんどない ワシントンポスト 2012年3月27日(英文)
- 分離済みプルトニウムを大量に増やし続けることは、絶対にしてはならない──オバマ大統領
- 再処理は時代遅れで危険──ローラ・ホルゲイト:核セキュリティーサミット米国サブシェルパ、米国国家安全保障会議 WMDテロ・脅威削減担当上級部長
- プルトニウムを貯蔵する東海村施設では武装警備は必要でない──文部科学省
- 日本の核セキュリティーの態度は、ガラパゴス化──遠藤哲也(元原子力委員会 委員長代理 在ウィーン国際機関政府代表部初代大使)
- 言い訳に終始する日本──班目春樹原子力安全委員会委員長
- 核燃料サイクルは絵空事──馬淵澄夫元国土交通相
分離済みプルトニウムを大量に増やし続けることは、絶対にしてはならない──オバマ大統領
[各種の措置により]国際社会は、テロリスト達が核物質を入手するのをますます難しくした。これは各国を安全にした。しかし、我々は幻想を抱いてはいない。我々は、核物質ー何発もの核兵器に十分な量−が未だに適切な防護のないまま貯蔵されていることを知っている。我々は、テロリストや犯罪集団が、今も、核物質を、そして、ダーティーボム用に放射性物質を、手に入れようとしていることを知っている。そして、我々は、ごく少量のプルトニウム──リンゴほどの大きさ──が何十万人もを殺傷し、世界的危機をもたらしうることを知っている。核テロリズムの危険性は、世界の安全保障にとって最大の脅威の一つであり続けている。・・・
新しい世代の科学者や技術者が直面する最大のチャレンジの一つは、燃料サイクルそのものである。我々は、みんな、問題を理解している。原子力エネルギーを我々に与えてくれるプロセスそのものが、各国やテロリストによる核兵器入手を可能にしうるということだ。しかし、我々がテロリストの手に渡らぬようにしようと試みているまさにその物質──分離済みプルトニウム──を大量に増やし続けることは、絶対にしてはならない。
再処理は時代遅れで危険──ローラ・ホルゲイト:核セキュリティーサミット米国サブシェルパ、米国国家安全保障会議 WMDテロ・脅威削減担当上級部長
[ウラン資源の枯渇に備えて再処理によるウランの有効利用をするという]これら見方が意味をなしたのは3、40年前のことだ。当時は、世界にはあまりウランがないと我々は考えていた。だが、今では、我々は、ウラン不足という概念が時代遅れのものであることを知っている。また、我々は、分離済みプルトニウムがテロリストに狙われやすいということを知っている。
プルトニウムを貯蔵する東海村施設では武装警備は必要でない──文部科学省
プルトニウムの主要貯蔵施設のひとつである東海村施設に武装警備員が配置されていない点についての質問に対する文部科学省の答えは、現地の必要性とリソースに関して検討したところ、このサイトでの武装警官の配置を正当化するのに十分な脅威は存在しないとの結果が得られたというものだった
出典 2007年2月26日 米大使館公電(wikileaks)
*注
米国の原子力関連施設で警備に当たっている民間会社の警備員は武装している。そして、原子力規制委員会(NRC)が、1991年以来各原子力発電所で「武力対抗演習(FOF)」査察を実施してその警備体制を調べている。3月23日にソウルで開かれた「核セキュリティー・シンポジウム」で、米国「憂慮する科学者同盟(UCS)」のエドウィン・ライマン博士がこのような演習の重要性を指摘した。これに対し、原子力委員会原子力防護専門部会の内藤香部会長(核物質管理センター専務理事)は、米国ではスーパーマーケットで銃が手に入るような社会であり、日本とは事情が違うと主張。
参考
- 『我が国の核セキュリティ対策の強化について』 原子力委員会原子力防護専門部会 2012年3月9日(pdf)
日本の核セキュリティーの態度は、ガラパゴス化──遠藤哲也(元原子力委員会 委員長代理 在ウィーン国際機関政府代表部初代大使)
日本の原子力の平和利用、つまり安全あるいは核不拡散あるいは核テロ対策つまり核セキュリティー、そういった面に対する態度というのはどうもですね、ガラパゴス化しているのではないかということを非常に感じたわけでございます。つまり人の言うことをあまり聞かない。つまり自分がやっていることは一番いいんだとこういうことですね。
出典 福島原発事故独立検証委員会(民間事故調) 記者発表 2012年2月28日(ustream)
言い訳に終始する日本──班目春樹原子力安全委員会委員長
例えばアメリカなんかを見ると、ステーションブラックアウトと言いますけれども、これについてはしっかりとこういうふうな対応をしなさいという方針、文書をつくってございます。そういうのを横目に見ながら、何ら対応もしなかったというのは問題であったと思います。結局、この問題のさらに根っこにあるところは、諸外国でいろいろと検討されたときに、ややもすると、我が国ではそこまでやらなくてもいいよという、言いわけといいますか、やらなくてもいいということの説明にばかり時間をかけてしまって、幾ら抵抗があってもやるんだという意思決定がなかなかできにくいシステムになっている。このあたりに問題の根っこがあるのではないかというふうに私自身は考えてございます。
出典 国会 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会 第4回委員会(2012年2月15日)会議録(pdf)
核燃料サイクルは絵空事──馬淵澄夫元国土交通相
使用済み核燃料の再処理[による核燃料リサイクル]は何十年もやってきていまだ完成していない。関係者はいろいろ言い訳するが、これはもうフィクション(絵空事)だったと言わざるを得ない。・・・積み上げてきたものをスパッと変えるのは、政治しかできない。
出典 【核心】「核燃サイクルは絵空事〜撤退提言 馬淵元国交相に聞く」東京新聞 2012/02/26 (右に記事切り抜き表示)