六ヶ所村での使用済み燃料再処理工場を核拡散問題との関連で正当化する際によく使われる議論に、同工場では、核兵器の材料になるプルトニウムを単体では取り出さないから核拡散抵抗性が高いと言うのがあります。これは、六ヶ所工場ではウランとプルトニウムの酸化物を1:1の割合の「混合酸化物(MOX)」として取り出すことを指します。この方式は、1977年に始まる米国との交渉の結果採用されたものです。ところが、当時の米政府の内部文書を見ると、米国側が当初から混合処理の拡散抵抗性は高くないと認識していたことが分かります。
以下に示すのは、カーター図書館から入手した文書類及び関連文書の原文とその抜粋訳です。なお「1977年日米再処理交渉関係カーター図書館文書類1」(pdf 3.9Mb)は、プリンストン大学のフランク・フォンヒッペル教授がカーター図書館から入手したもので、「1977年日米再処理交渉関係カーター図書館文書類2」(pdf 287kb)は核情報が同図書館から入手したものです。また、「文書類1」の関連文書(pdf 269kb)は、米国「憂慮する科学者同盟(UCS)」のエドウィン・ライマンから送られて来たものです。
- 1977年日米再処理交渉関係カーター図書館文書類1
- ブレジンスキー大統領特別補佐官からカーター大統領に宛てたメモ 1977年8月13日
- バンス国務長官から大統領に宛てたメモ 1977年7月31日
- 東海再処理施設運転の計画通りの様式及び別の様式に関する米日研究チーム報告 1977年7月
- 「原子力規制委員会(NRC)」からブレジンスキーに宛てた書簡 1977年8月3日
- NRCギリンスキー委員の追加的見解 1977年8月3日
- 1977年日米再処理交渉関係カーター図書館文書類1の関連文書
- 1977年日米再処理交渉関係カーター図書館文書類2
抜粋訳は、文書類1及び文書類2で登場する順番に並べてありますが、時系列を示すと次のようになります。
- 6月28日〜7月11日
- 日米合同専門家グループが東海で現地調査
- 7月12日
- マンスフィード駐日大使、バンス国務長官に宛て電文送付
- 7月
- 日米合同専門家グループ報告書
- 7月15日
- カーター大統領から福田首相に宛て、書簡送付
- 7月31日
- バンス国務長官、カーター大統領にオプションズ・ペーパー提出
- 8月3日
- 「原子力規制委員会(NRC)」(Lee V. Gossick, Executive Director for Operations)、ブレジンスキー国家安全保障問題担当大統領補佐官に宛て、書簡送付(NRCギリンスキー委員の追加的見解付き)
- 8月13日
- ブレジンスキー補佐官、カーター大統領にメモ
なお、これらの文書にあるcoprocessingは、プルトニウムとウランを合わせて処理し、プルトニウムを分離した製品を作らないと言う意味で、共処理、混合処理、混合抽出などと訳されます。プルトニウム単体(二酸化プルトニウム)の製品、あるいは、少量のウランの混じった製品を、ウランと混ぜて薄めることをブレンディングと呼んでいます。
参考
- 「日本の再処理につきまとう亡霊──六ヶ所方式の「核拡散抵抗性」という認識の怪」岩波書店『科学』2011年4月号……核情報主宰 田窪雅文
- 青森県も驚いたMOX(混合酸化物)で核兵器ができるという事実 核情報
- ドン・オーバードーファー『マイク・マンスフィールド<下>』(共同通信社 2005年) 「東海村をめぐる葛藤」p.254─261
- 和泉圭紀(日本原子力研究開発機構)『日米再処理交渉における米国政策決定の分岐点について<米国公開資料に基づく一考察>』(第31回INMM日本支部年次大会(2010年12月2日〜3日)報告) (税金で運営されている機構の研究成果のはずだが、同機構のサイトには掲載されていない模様)
1.1977年日米再処理交渉関係カーター図書館文書類1
抜粋訳
ブレジンスキー大統領特別補佐官からカーター大統領に宛てたメモ 1977年8月13日
SUBJECT:
日本の再処理
東海決定
背景
マンスフィールド大使は、東海再処理プラントを米日間の最大の政治的問題としている。彼は、妥協──我が国の不拡散についての懸念と日本のエネルギーの必要のバランスをとるとともに、ヨーロッパ諸国と比べて日本が差別されていると受け取られる可能性を残さない形でのもの──が見いだされなければ米日関係の将来に深刻な悪影響をもたらすだろうと考えている。
これを日本の「死活(life and death」問題と公に呼んでいる福田首相は、貴方との間で、東海を2度取り上げ、「ホット」試験を早期に始めることが彼の政権にとって持つ政治的重要性を強調した。マンスフィールドは、既に、貴方が個人的にこの問題についての妥協的決定を促進するとの貴方のメッセージを福田に伝えてあり、福田は、これに謝意を表明している。
東海は、再処理に反対する我が国の全般的な立場の例外と映ることは必至である。従って、鍵になる問題は、如何にして我が国の不拡散の目的に対するダメージをできるだけ少なくする形で例外を作るかである。これらの目的からすると、技術的オプションのどれも、あまり良くない。最善のオプション──共処理(coprocessing)──は、不拡散の面で有望とみなされていない方向に進むよう日本に強要することになる。不拡散の目的に対するダメージが限定できるかどうかは、いかなる技術的解決策であろうとそれにどのような政治的処置が伴うかにかかっている。
・・・
技術的オプション
米日専門家チームが14の技術的選択肢alternativesについて検討した。その費用は2億5000万ドルから22億ドルに到るものである。貴方の決定のためにオプションを用意するに当たり、このグループは、非常に高いコスト(及び/あるいは)プラントの運転開始の長期的延期を伴うものをすべて除去した。
三つの全般的オプションが検討された(Tab A及びBのサイ・バンスのメモ)。どれも、東海において、本質的に実験的で、そして、生産量及び期間を限定した運転を行うものである。
オプション1:東海をIAEAの先進的保障措置プログラムの実験台として利用することを認める。東海プラントは限定的な量の米国起源の燃料を使って実験的に運転される。
・・・
オプション2:計画通りの様式での再処理のために東海施設の運転開始を認める。ただし、使用済み燃料の量を限定的なものとする。さらに、後に両国が同意できる形で本格的な共処理(Coprocessing)の実験を行うとの同意を日本から得る。
--このオプションは、日本が予定通りの様式で東海を運転することを可能にする。運用可能性を実証し、プラントの設計と安全性を検証し、これによって、[フランス側からの]契約上の保証を確保するためである。この段階の在来型の再処理は、使用済み燃料約70トンに限定する。
--東海プラントでの一つあるいはそれ以上の共処理方式に関する実験を行うため予備的な研究開発作業が「運転試験設備(OTL)」で即座になされることになる。米国チームは、技術的に実行可能と見られる幾つかの明確な共処理方式を見いだしている。
--日本は、コストと遅れが過度でない限り、恐らく、この案を受け入れ可能とみなすだろう。このオプションは、東海プラントの早期の運転開始を許可する。また、プラントの設計を実証し、西ドイツその他のEC諸国と比べた差別的扱いの感覚を最小限にすること、そして、新型炉の研究開発計画を中断なく続けることを可能にする。東海での共処理の実施は、「燃料サイクル評価(INFCE)」に貢献するだろう。
--しかし、日本は、さらなる研究やINFCEの結果に関係なく大幅な変更を実施するとの確実な約束をすることに抵抗するかもしれない。我々は、このような拘束力を持つ約束を日本側から取り付けることを追求するが、合意に達するためには、INFCEあるいは東海での予備的実験作業により共抽出が我が国の拡散防止上の懸念と関係なくなったと示された場合を想定して免責条項を入れる用意があるべきである。
--この案の採用は、もちろん、限定された期間、プルトニウムの分離を許可することを意味する。しかも、共抽出自体は、核拡散抵抗性を高める上で重大な追加的ステップとは広くみなされていない。
--選択されるプルトニウムとウランの割合によって、このオプションのコストは、債務コストを計算に入れると、2億4100万〜3億8000万ドル、除くと8700万ドル〜1億6800万ドルになる。このコストは、我々が日本にプルトニウムの輸入を助ける用意があれば、下がる(4900万ドル〜8500万ドルに)だろうが、このコースの影響についてはさらなる検討が必要である。
--このオプションは、プラントの運転開始前に、再処理と共抽出の保障措置の比較実験ができるように、新型保障措置器機が設置できれば、さらに強化できる。しかし、それは、追加的コスト(1500万ドル)を必要とし、オプション1と比べ、遅延(最高6ヵ月)をもたらす。このオプションが選ばれた場合には、これらの追加的要素を追求すべきだが、不可欠な要件としては提示すべきでない。
オプション3:米国起源の燃料を東海において、実験的な共処理(coprocessing)のためだけに使用することを許可する。
・・・
政治的検討事項
貴方がどの技術的オプションを選ぶかに関わらず、我が国の不拡散面での国益に対するダメージを限定するために以下に略述した6つの政治的措置が必要である。これらは、どのオプションをとるにせよ、我が国の立場の基礎を築くだろう。日本に以下を要請すべきである。
・・・
--東海でのプルトニウム分離に関連したいかなる作業も、最新型原子炉開発用の実際のプルトニウムの必要を満たすために行うこととし、これを回収プルトニウムの使用の唯一の目的とすること。
・・・
--我が国とINFCEの結果と、多国間のオルターナティブ及び使用済み燃料貯蔵の可能性についても協議すること
・・・
提言
私は、貴方がオプション2を選択されるよう提言する。
・・・
バンス国務長官から大統領に宛てたメモ 1977年7月31日
Subject: 日本の再処理施設に関するオプションズ・ペーパー
・・・
チーム訪問
最も近々の公式協議(6月2─6日)の米国交渉者達への我々の指示は、純粋な分離済みプルトニウムを生産しない修正方式でのみ東海プラントを運転する可能性を日本側との間で探求すると言うものである。
米日の合同専門家グループが日本で6月27日〜7月11日の間、両者が共有する不拡散面での国益と、日本側の原子力プログラムとに沿った形で東海を運転する様々な方法を探求するために会った。14の技術的オルターナティブが、技術的実行可能性、不拡散上の利点、安全性・規制上の特性、日本の研究開発プログラムへの影響などに照らして、評価された。このグループの報告書が添付してある。
大まかに言って3つの施設運転方法が検討された。
ウランとプルトニウムの混合製品を生産することによって純粋なプルトニウムの生産を避けるもの。
純粋なプルトニウムを避けるとともに高レベルの透過性放射線を提供するように作られた製品を生産するもの。
比較のために、在来型の様々な様式でのプラントの運転。最終製品をブレンドするものも含む。・・・
日本の原子力開発計画における東海の中核的役割を強調する日本側代表らは、設計された様式で東海の運転を開始することが以下の目的のために不可欠と主張した。
(a)プラントの設計と安全性を検証する
(b)フランスの契約者の契約上の保証をまもる
(c)必要な運転経験を得る
(d)日本の高速増殖炉及び新型発電炉の開発計画に必要なプルトニウムを生産する
オプション2:計画通りの様式での再処理のために東海施設の運転開始を認める。ただし、使用済み燃料の量を限定的なものとする。さらに、後に両国が同意できる形で本格的な共処理(coprocessing)の実験を行うとの同意を日本から得る。・・・
しかし、このオルターナティブの採用は、限定された期間、プルトニウムの分離を認めることになる。さらに、共抽出は、それ自体では、拡散抵抗性を高める重要なステップとは広くみなされていない。このオプションの不拡散価値は、日本にブレンド製品の貯蔵容量の拡大を促進するともにできるだけ早くブレンディングを始める用意があれば、高まる。
東海再処理施設運転の計画通りの様式及び別の様式に関する米日研究チーム報告 1977年7月
・・・
現在できていない一つの重要な施設が、硝酸プルトニウムを酸化物に転換する施設である。この施設の詳細な設計は完了しているが、建設が始まっていない。1980年に運転開始となる予定である。・・
原子炉開発の面では、日本は最近、高速炉常陽──熱出力50─100メガワットのナトリウム冷却高速実験炉──の臨界を達成した。
常陽の後には、電気出力300メガワットの原型高速炉もんじゅが続く。1978年度に建設、1984年度に臨界の予定である。実証高速炉は1990年代初頭に運転開始と見られている。日本はまた、ふげん──ATR(重水減速沸騰軽水冷却炉)──を完成させようとしている。同炉は、プルトニウム利用を実証するためのもので、来年の3月に臨界に達する予定である。
このような状況を背景に、日本は、ATRとFBRを含む研究開発計画のためのプルトニウムの累積的需要が1977年度(基準年)の約250kgから1985年度には約7500kg(分裂姓)に伸びると推定している。
・・・
1.東海再処理施設を現在の計画通りの様式あるいは、現在の様式だが保障措置の効果を改善することを目指したもっと精力的な研究開発プログラムを実施する形で運転する。
・・・
2.プルトニウム含有量を薄めるためにウランとプルニウムの様々な割合の混合物を生産するが、ホットなあるいは照射された製品の導入あるいは生産──その後の転換、製造、原子炉運転において強力な遮蔽と遠隔操作を必要とすることになる──を避ける様々な形で施設あるいは燃料サイクル運用を修正する。この広いオプションの下で検討されたケースには次のようなものがある。
(a)プルトニウムがプロセス全体を通してウランで薄められるケース。研究用に選ばれたプルトニウムとウランの割合は、2対1、1対100、1対3及び1対19だった。・・・(b)プルトニウムとウランが施設においての分離後にブレンドされるケース。これらのケースにおけるプルトニウムとウランの割合は、1対9、1対100だった。・・・
3.放射能入り製品を施設の生産物の段階で生産する、あるいは、後の段階で、国家より下位の集団による転用に対する抑止策として、放射能を導入する様々な様式を採用する。検討されたケースには次のようなものがある。
(a)プルトニウムのストリームの中に核分裂生成物を残す形の変更(ケース9)。
(b)同時に、施設のアウトプットのプルトニウム含有量を様々な程度にウランによって薄める形の変更(ケース5,6,8─1,8─2)
(c)純粋なプルトニウム製品に放射能を加える形の変更(ケース10)。
・・・
いかなる技術的アプローチも、それだけでは、不拡散の問題にフールプルーフの解決策を提供しないと言うことが認識された。
・・・
核分裂生成生物あるいは放射能を導入しない共抽出あるいはブレンディングを伴うケースの場合、通常の再処理で得られる量に相当するものを得るために、それより相当大きな量のものを転用する必要がある。このような方式は、理論的に、兵器利用可能物質の蓄積を抑止あるいは遅らせるのに役立つかもしれない。しかし、その場所の条件及び具体的なシナリオによっては、転用者にとって製品からプルトニウムを分離するのは比較的簡単でありうる。
「原子力規制委員会(NRC)」からブレジンスキーに宛てた書簡 1977年8月3日
NRC(Lee V. Gossick, Executive Director for Operations)
委員会は、国務長官から送られて来た東海再処理工場オプションズ・ペーパーを検討した。委員会として、次のようなコメントを提供したいと考える。
・・・
ペーパーが、次のように述べているのは正確である。すなわち、検討された案のどれも、転用の可能性という問題にフールプルーフの技術的解決策を提供するものではなく、また、他のケースの前例あるいはモデルとして推奨できるものではない。この点で、委員会は、技術的な観点から言って、共抽出あるいはブレンディングは、通常の様式と比べ、国家による転用に幾分かの追加的拡散抵抗性を提供すると言うことを指摘したい。しかし、国家による転用という点で、共抽出あるいはブレンディングから得られる不拡散面の利点は、プルトニウムを分離できる施設があるかどうかにかかっている。(実際、このような施設があれば、それほどの困難もなく、おそらくは数日で、分離できてしまう。)
・・・
共抽出あるいはブレンディングは、国家より下位のグループによる転用という点では、幾分の利点があるだろう。しかし、もし製品から放射能が除去されていれば、そのような利点も限られたものとなる。なぜなら、上述の通り、プルトニウムを数日で分離できるからである。
さらに、ペーパーが指摘している通り、東海は、主として、新型の増殖炉開発のための燃料を生産することを意図したものである。このような開発のために使うことのできる共抽出された、あるいは、ブレンドされた材料は、分離しなくても、兵器利用可能物質だと言うことが認識されなければならない。しかし、これは、このような使用のための最適な物質ではない。従って、国家による転用ではなく、国家より下位の集団による転用という点で懸念されるところが大きい。
このように、委員会は、共抽出やブレンディングは、実験として、研究・評価するのは価値があるが、通常の様式と比べて、より大きな拡散抵抗性を提供するという点でのその本質的限界を最初から認識しておくべきだと考える。
・・・
添付にあるように、ギリンスキー委員が、彼の追加的意見について別途ステートメントを出している。
NRCギリンスキー委員の追加的見解 1977年8月3日
・・・
このメモランダム[国務省オプションズ・ペーパー]は、最初から、東海施設における少なくとも限定的な量の再処理は許可されるだろうと言うことを受け入れているように見受けられる。メモランダムは、早期の再処理が日本にとって非常に重要だとの日本側交渉チームの見解に疑問を呈しておらず、プルトニウムの別のソースは利用できないと想定している。日本の研究開発のために米国がプルトニウムを提供する可能性があるにもかかわらずである。
諸オプション/共抽出
メモランダムは、共抽出を重要な目標とみなしているようである。諸オプションは、共抽出へのコミットメントの上がる順で並べられている。しかし、これは、他の場所(8ページ)での「共抽出は、それ自体では、拡散抵抗性を高める重要なステップとは広くみなされていない」とのステートメントや、何らかの量の核分裂生成物が中に残されていなければ「転用者にとって製品からプルトニウムを分離するのは比較的簡単でありうる」という米日合同報告書の12ページのステートメントと矛盾するように見える。実際、「軽水炉での混合酸化物燃料としてのリサイクル・プルトニウムの使用に関する環境影響評価(GESMO: Final generic environmental statement on the use of recycle plutonium in mixed oxide fuel in light water cooled reactors)」保障措置追補の最新ドラフトは、国家より下位のグループが、共抽出(MOX)燃料をわずか数日で兵器にすることができるとの立場をとっている。これに鑑み、日本に共抽出を受け入れるよう圧力をかける正当性についてさらなる説明が必要である。
- 核情報注:ギリンスキーの核情報宛てメール(2011年2月12日)の一部
未使用のMOXからプルトニウムを分離するのは、使用済み燃料からプルトニウムを分離するのよりずっと容易いのは、明らかだと思う。使用済み燃料の中の核分裂生成物こそが、使用済み燃料の再処理を特に難しくし、再処理工場というと我々が思い浮かべる強力な遮蔽や遠隔操作を必要としているのである。未使用のMOX燃料は、これらの放射性の核分裂生成物を含んでおらず、これがプルトニウムの分離プロセスを相当単純化するので、通常の再処理工場は必要ない。それでも、とりわけ、最小限の機器でやろうとするなら、専門知識がなければならない。必要な専門知識を持った人々は多くいる。
2.1977年日米再処理交渉関係カーター図書館文書類1の関連文書
『仮想の「国家より下位のグループ」の脅威に対し、国内の混合酸化物産業に保障措置を講じる』1978年5月 NRC
*NRC ギリンスキー委員が国務省宛てステートメント(1977年8月3日]で言及した文書](「軽水炉での混合酸化物燃料使用に関する環境影響評価(GESMO: Final generic environmental statement on the use of recycle plutonium in mixed oxide fuel in light water cooled reactors)」保障措置追補)
6.4.4 ブレンディングの保障措置上の利点
PuO2の分離は、一部の犯罪者の能力の範囲内にありうるから、MOXは、いかなる濃度のものであれ、自己防衛的とはみなすことができない。・・・
6.4.4.1 質量要件
プルトニウムの入った混合物から爆発装置を作るのに必要な量は、混合物が直接使われるか、処理をしてプルトニウムの含有率を高めるかによる。理論的に言って、プルトニウム含有率4%以下の場合、プルトニウム酸化物とウラン酸化物の混合物[MOX]から核爆発装置を直接作ることはできない。プルトニウムの含有率がもっと高ければ、MOXは、理論的に言って、直接、爆発装置に使うことができる。
中性子の減速を行わない状態での核物質の臨界量が、核爆発物のための直接使用可能性についての相対的物差しを提供する。MOXの臨界量は、様々な変数に依存する。例えば、同位体組成、不純物、外側の反射材、そして、最も重要なものとして密度(つまり、粉末か、ぎっしり詰まった固体か)がある。これらの要因によって、原子炉級の二酸化プルトニウムの裸の球状の臨界量は30─70kgとなる。二酸化プルトニウムの含有率が30%及び10%のMOXの裸の球状の臨界量は、それぞれ250─600kg、3,000-10,000kgとなる。上述の通り、二酸化プルトニウムの含有率が4%以下の場合、減速材を使わない状態での臨界量はあり得ない。(臨界量のデータは、ロバート・セルデン博士(ローレンス・リバモア国立研究所のBディビジョンのグループ・リーダー)によって提供されたもの。)
これらの臨界量は、二酸化プルトニウムの含有率が20─30%より低いMOXでは、非合法の核爆発物を直接製造するのに必要な量が非現実的に大きなものとなってしまう。不可欠ではないが、恐らく、二酸化プルトニウムの分離が好まれるだろう。いかなる分離プロセスも完全に効率良くは行かないが、分離を行えば、特に、含有量の小さな混合物の場合、[臨界量を形成するのに]必要な量を相当少なくする。表6.1は、様々な割合の混合物(分離する場合としない場合)について、裸の球状の臨界量を形成するのに十分なプルトニウムを得るために盗まなければならない量を示している。
・・・
裸の球状臨界量を形成するのに必要な重さ | ||
---|---|---|
混合物におけるPuO2の割合 | 分離なしの場合 kg | 分離する場合(a) kg |
純粋なPuO2 | 30-70 | 30-70 |
30% | 250ー600 | 100-230 |
10% | 3000ー10,000 | 300ー700 |
4% | 不可能 | 750ー1,750 |
原注(a)どの重量も、純粋なPu02 に分離すると、30-70kgとなる。 これらの数字は、分離中のロスや追加される容器の重さは考慮していない。 |
表6.1のデータは、混合物が保障措置上の重大な利点を持つには、プルトニウム含有率が10%程度の低さになる必要があることを示している。30%のものの場合、途方もなく多い量でなくても、直接、爆発装置の組み立てに使うことができる。10%の含有率だと、粗野な作りの爆発物での直接使用に必要な量は非常に大きく、非現実的となるようである。
6.4.4.2 分離に関する検討
・・・
困難が伴いはするが、相当のリスクを冒す用意のあるひたむきな犯罪者らがプルトニウムの入った混合物の分離(あるいは濃縮)を達成するのに必要な機器と技術的知識を得る可能性はある。このような仕事の規模は、ウランの含有率、分離すべきプルトニウムの量、使われるプロセスの効率などによる・・・まあまあの時間で分離を行うには、相当の作業スペース、良い化学処理機器、酸などの多量の供給、そして、少なくとも数人の作業集団が必要だろう。仕事は、ガレージ規模の作業となるかもしれない。
・・・犯人らが、相当の施設投資ができ、ハイリスクの事故を受け入れる用意があり、プルトニウムの仕事をした経験からの専門知識がある場合、20─30%程度の混合物とすると、少なくとも3日はかかるだろう。・・・
混合物を分離するのに必要な時間は、盗難が起きた場合に、その回収作業にとって、決定的に重要となりうる。この時間が、関係した個人の正体や、分離及び組み立ての場所についての手掛かりを追うのにつかうことができる。・・・
6.4.5 要約
・・・もし、混合物の分離が必要であれば、核爆発物質がまだ組み立てられていないとの高い確信の下に、盗まれたものを探し出すのに使える時間が、少なくとも3日間追加されることになる。
- 核情報注:エドウィン・ライマン(「憂慮する科学者同盟(UCS)」)から核情報へのメール(2011年2月17日)から
ここで言及されているのは、裸の臨界量であり、反射材を使った場合5以上で割ることができる。50:50の混合酸化物の場合、天然ウランを反射材とすると、100kg程度となる。同じ混合物を金属にすると、40kg程度となる。 - 「ウランとプルトニウムの混合酸化物のIAEA保障措置上の扱い」(IAEA保障措置用語集 [2001年版])
3.1977年日米再処理交渉関係カーター図書館文書類2
抜粋訳
カーター大統領から福田首相に宛てた書簡 1977年7月15日
・・・我が国の技術チームが帰国の専門家との間の東海問題に関する長時間の話し合いを終えて帰って来たところだ。彼らは、日本でのもてなしと日本側との間で確立した親密な協力関係について熱烈に語っている。チームの仕事を容易にするための日本政府の努力に感謝する。私は、両国の国益を守るための妥協点を見いだしうると信じており、また、それを達成するために努力する。・・・
マンスフィード駐日大使からバンス国務長官宛てた電文 1977年7月12日
再処理問題と将来の米日関係
1.私はこのポストについてから数週間にしかならないが、貴方に直接のメッセージを送るに足る一つの政治的問題が米日間にあることはいまや明らかだ。つまり、両政府の前にある核燃料再処理問題だ。この問題を解決しようとの試みは、極めて重要な局面に達していると私は考える。今後とられる行動は、妥協──核不拡散面での懸念とエネルギーの必要とのバランスをとり、再処理問題が両国の全体的な関係という文脈において対処されることを保証する妥協──を至急成立させようとしなければ、両国の将来の関係に重大な悪影響をもたらしうる。
2.日本政府は、その決定的国益(vital interests)に対して、現在の両国の経済面での相違などからは生じないような形での影響を与えるものと見ている。その理由は、大使館が過去数ヶ月に亘って分析・報告してきたとおりだ。日本の高官らが、米国は次のような点を理解していないと主張している──エネルギー面で日本が置かれた尋常ではない窮状、核エネルギーを平和利用のためだけに使うとの日本のコミットメント、それに、米日原子力協力協定に関連した西欧諸国との間の日本の差別扱い。私は、このような不協和音の一部は最近の選挙戦から来るものと見ているが、この問題については日本人の間に広範な合意が存在しており、さらに、そこには、政治的レベルでの次回交渉ラウンドが迫るなかで注意を払うべき、そして、注意深く、また、思慮深く対処すべき実際の根拠がある。
・・・
4.東海の将来に関する現在の交渉局面は、共同技術報告書という形で結論に到ろうとしている。この報告書は、7月12日頃両政府に提出される予定である。・・・日本は、元々の計画に何らかの変更を加える用意はあると私は確信している。ただし、繰り返して言う、ただし、プラントが機能し始める迄に数年間の延期をしたり多額の資金を支出したりするとの約束を日本がしないですむとしてである。・・・
6.・・・さらに、何十年もの間、日本人は、驚くほどほとんど例外なく、エネルギー供給の保証を、生き延びるために不可欠essential to survivalとみなしてきた。日本人は、現在、原子力と国内再処理を、彼らの将来のエネルギーの必要を満たすうえで、必須の要素indispensable elementsと見なしている。この基本的懸念に耳を貸さなければ、彼らは、我が国とのパートナーシップの性格について疑問を持つようになり、世界的な経済や北東アジアの安全保障に関する共通の目標に悪影響が及ぶことになると私は信じる。・・・
7.私は、貴方に、妥協についての技術的基礎を提供するような立場にはない。これは、両国の専門家らに任せたい。しかし、以下については、私はこれ以上ないほど強い意見を持っている。第一に、妥協は、日本側の疑心が続くような形でない二国間同盟を維持するためには必須であり、日本側のポジティブな支持を促すために最善である。第二に、妥協は早急に成立させなければならない──最大でも、極めて短い複数月のうちに。それより長くぐずぐずしていると、両国の立場を硬化させてしまうだろう。第三に、この妥協は、東海プラントができるだけ早く、何らかの形で運転されることを許すものでなければならない。第四に、米国がプルトニウムの再処理を世界中で止めることに成功しない場合にはこのプラントを商業的再処理目的のために運転するというオプションを維持することを日本に認めなければならない。・・・
*電文右肩にあるカーターによる手書きメモ
「Cy[サイラス・バンス]へ
マンスフィールドに、私が個人的に妥協的決定を促進すると伝えるように。そのことを彼が福田に伝えてもいい。早急に幾つかのオプションを私に提示するように。JC」