核情報

2014.10.27

核のない世界と一触即発の核ミサイル発射態勢解除──日本に協力求める米団体

米国のNGO「憂慮する科学者同盟(UCS)」が米国の核兵器を一触即発の発射態勢から外すことを提唱し、日本政府がこの政策を支持するように働きかけて欲しいと日本のNGOに訴えています。

  • UCSのグレゴリー・カラーキー(上級アナリスト:世界安全保障プログラム中国プロジェクト・マネジャー)の説明資料

参考




  1. 数分で発射可能の警戒態勢
  2. 核のない世界に向けた約束の一つ
  3. 必要なのは大統領の決定と日本の賛同
  4. 日本の運動は「核のない世界」実現に貢献できるか?

数分で発射可能の警戒態勢

米ロの大陸間弾道弾は30分ほどで相手国に到着します。核ミサイルをすべて破壊する目的で敵の攻撃が仕掛けられた場合、敵ミサイルの到着前に自国のミサイルを発射できなければ、報復できません。そのため、発射決定から数分で発射できる態勢が取られています。それは見方を変えると、先制攻撃の決定から数分で発射できることも意味するので、互いが疑心暗鬼に陥ってしまいます。「米国科学者同盟(FAS)」のハンス・クリステンセン氏らによると、現在、短時間の発射態勢に置かれた核弾頭が米ロ合わせて1800発ほどあるといいます。

核のない世界に向けた約束の一つ

2007年と08年に『ウォールストリート・ジャーナル』紙で「核のない世界」を提唱したジョージ・シュルツ元国務長官ら米国政界の4人の重鎮が07年に挙げた具体的措置の最初のものが「警戒態勢の解除」でした。物理的措置を講じて発射決定から発射までにかかる時間を長くする、つまりは、敵側にとっては発射に向けた動きの探知からミサイルの到着までの時間『警告時間』を長くするというものです。これにより「核兵器の偶発的使用や許可のない使用の危険性を減らす」という提言でした。

この影響を受けた米国民主党選挙綱領(08年8月25日)は「ロシアと協力して、できるだけ多くの核兵器を冷戦的な迅速発射態勢から外す」と述べています。(オバマ大統領候補は、07年10月2日のシカゴ市での選挙演説で「ロシアと協力して、米国とロシアの弾道ミサイルを一触即発の警戒態勢から外す」と宣言していました。)

「核のない世界」を提唱した4人の一人サム・ナン「核脅威イニシアチブ(NTI)」共同議長(元民主党上院議員)は軍縮問題専門誌(2008年3月号)で次のように述べています。「もし、米口の安全保障を改善するうえで最も役立つことは何か言わなければならないとしたら、『警告時間』を長くすることでしょう。米国の『警告時間』については長い間ブリーフィングを受けていません。機密なのです。しかし、いずれにしても、分単位です。まったくばかげています。冷戦後16年もたったいま、ロシアの大統領が、誤警報かもしれない情報が入った後、ロシアの報復戦力が実際にやられる前に報復措置を講じる必要があるのかどうか判断する時間が4、5分しかないなんて。これは根本的に米国の安全保障と矛盾します。ロシア側が間違いを犯す可能性があります。レーダーや衛星は狂うことがあります。」

この危険性を思い知らせたのが、1995年1月25日に起きた出来事です。ノルウェー沖のアンドヤ島から発射された米国航空宇宙局(NASA)のオーロラ現象観測用の4段式ロケットが、自国を狙ったミサイルかも知れないとロシア側に認識されたのです。大統領にも事態が知らされ、核攻撃の命令を伝達するためのブリーフケースが史上初めて起動し始めました。幸い謎の物体は、北に大きく外れて北海に落下することが判明し、ロシアからのミサイルの発射は免れることができました。

必要なのは大統領の決定と日本の賛同

UCS はまず、450基の陸上配備の大陸間弾道弾(ICBM)の警戒態勢を一方的に解除することを提案しています。1991年に旧ソ連の崩壊状態を前にしたブッシュ大統領(父)は一部のミサイルの警戒態勢解除を命じました。警戒態勢の解除は外国や議会との交渉なしに、大統領の命令でできます。UCSのキャンペーンは、オバマ政権の残された2年の内に「核のない世界」に向けた約束の一つを果たすよう迫るものです。

しかし、米国では核軍縮の提案に対しては、日本が不安を持つというのが反対理由として挙げられることが少なくありません。例えば、2013年退役予定の核付きトマホークの延命を図ろうという動きが09年にあった時がそうです。これらのミサイルは、1991年にブッシュ(父)大統領が水上艦船及び攻撃原潜から核兵器を撤退すると宣言したため、翌年以来、陸上で保管されていたものです。このトマホークを維持しないと日本が不安に感じ、核武装してしまうとの主張が米国内にありました。

日本の運動は「核のない世界」実現に貢献できるか?

この時は、状況を把握したクリステンセン氏の指摘を受けた日米の運動やマスコミ報道の結果、「日本の不安」という主張を覆すことができました。岡田克也外相(当時)が、2009年12月24日、米国務・国防両長官に書簡を送り、「我が国外交当局者が……貴国の核付き卜マホークの退役に反対したり、貴国による地中貫通型小型核(RNEP)の保有を求めたりしたと報じられて」いるが、そのようなことを「仮に述べたことがあったとすれば、それは核軍縮を目指す私の考えとは明らかに異なる」と伝えました。2010年「核態勢の見直し」は核付きトマホークの予定通りの退役を決めました。

2009年のキャンペーンでも日本の運動に働きかけたUCSのグレゴリー・カラキー氏がまた協力を要請しています。日本の運動、そして岸田文雄外務大臣の応えは?


グレゴリー・カラーキー(UCS)の説明資料

  1. NGO用
  2. 議員用説明(要約)
    1. 私がここにいる理由
    2. UCSとは? 私は?
    3. 核軍縮に関するUCSのアプローチ
    4. 警戒態勢の解除(ディアラーティング)の追加が次のステップ(措置)
    5. 日本の役割
    6. 米国のICBMの警戒態勢の解除が日本向け拡大抑止に与える影響
    7. 要約と結論

    民主党非核議連用スピーチ要約

    2014年11月12日
    グレゴリー・カラキ-
    憂慮する科学者同盟(UCS)
    Gregory Kulacki, Ph.D
    Senior Analyst & China Project Manager,
    Global Security Program
    Union of Concerned Scientists
    GKulacki@ucsusa.org

    核軍縮に向けた小さな一歩
    警戒態勢の解除(ディアラーティング)が米中の核の安定性に与える影響と日本の役割


    私がここにいる理由

    憂慮する科学者同盟(UCS)が開始しようとしているキャンペーンについてお知らせするため。このキャンペーンは、米国の大統領に対し、米国の陸上配備の大陸間弾道弾(ICBM)のすべての警戒態勢を解除するよう呼びかけるもの。

    米国の民主・共和両党の現職及び元議員、国務・国防両省の元長官・次官補、退役米軍高官、国立核兵器研究所の元所長、著名な科学者・市民がこの取り組みに参加することになる。

    このキャンペーンが本格的に始まるのは、来年春――NPT再検討会議を前にした時期。公式なステートメントがホワイトハウスに提出される。これらの有名な支持者の署名の入ったもの。ステートメントで要請するのは以下の通り。すなわち、米国の安全保障のために、大統領が、米国のすべてのICBMを発射準備の整った「警戒態勢」(アラート状態)から外すとともに、ロシアに対し、その陸上配備のミサイルに関して同様の措置を講じることを呼びかけるようにというもの。

    警戒レベルを下げれば、事故や無許可の、あるいは偶発的な核攻撃のリスクを減らすことができる。また、他の核兵器国、例えば中国に対し、そのミサイルを高い警戒態勢に置かないよう働きかける戦略的状況を作り出すことができる。さらに、非核兵器国に対し、NPT第6条の下での義務について米国が真剣であることを示すことになる。すなわち、「核軍備競争の早期の停止に関する効果的な措置」を講じるとの約束。

    UCSは、大統領を説得して、この核廃絶に向けた小さいが重要なステップを踏み出すようにすることができると考えている

    しかし、日本が反対すれば、大統領はこればできなくなる。だから、UCSは、日本の協力も必要としている。私たちは、皆さんの協力を必要としている。だから、私は、今日、ここにいる。

    UCSとは? 私は?

    UCS:

    UCSは、シンクタンクではない。UCSは、科学と政治が交わる領域で米国の政策に影響を与える。最も重要なのは、核軍縮と気候変動に関連した政策分野。

    UCSは、9万人の会員を抱え、半世紀近くの歴史を持つ。予算は、2500万ドル近く(約25億円)に達し、300人近くのスタッフを擁する。事務所は、ケンブリッジ、ワシントン、バークレイ、シカゴの4カ所にある。UCSは独立した組織で、企業や政府、外国からの資金を得ない、

    私:

    上級アナリスト。UCSの仕事を始めて13年目。中国でのプログラムの責任者。中国の核兵器・宇宙開発関連研究所の科学者・エンジニア・政策アナリスト等と交流。米国の側の同様の人々と核軍備管理・軍縮に関する対話を促進するため。

    また、中国の核兵器・宇宙開発計画に関する情報・分析を、米国政府の行政・立法府の政策決定者に提供している。

    核軍縮に関するUCSのアプローチ

    UCSは、核軍縮は長期的なプロセスであり、それは、小さな技術的ステップを積み重ねることにより安全保障政策における核兵器の影響を減らして行くかたちで達成するのがいいと考えている。この見方は、オバマ大統領がプラハ演説で述べた見方と符合している。

    UCSは、核兵器の及ぼす人道面での結果に焦点を当てる国際的な取り組み、そして、国際条約を通じて核兵器を禁止しようとする取り組みに賞賛を送る。このような条約を採択せよとの国際的な圧力は、これらの恐ろしい兵器の使用に対する道徳的タブーを維持するのに不可欠だと考える。また、このような圧力は、新型核兵器の開発の試みを防止する、最終的核軍備撤廃に向けた継続的核削減を求める人々を勇気づける、という役割も果たす。

    しかし、たとえ、世界の核兵器国が、核兵器禁止を支持したとしても、現実的で、安全かつ検証可能な形で核軍備撤廃の過程を進めるためには、同じような一連の技術的ステップを実施しなければならない。

    UCSは、どのような技術的措置を講じなければならないについて具体的に明らかにし、またどのようにそれが実施できるかを示すことが役に立つと考えている。核兵器国の指導者たち――そして核兵器国の提供する「拡大抑止」の下にある国々の指導者たちが――確信を持って、核兵器の最終的禁止を実現するために実施しなければならない諸措置を支持できるようにするためである。

    警戒態勢の解除(ディアラーティング)の追加が次のステップ(措置)

    核兵器廃絶に向けた最初のステップは、国家安全保障及び防衛計画における核の役割を減らすこと。核の役割低減に向けた最初のステップは、核兵器を警戒態勢から外すこと。

    1991年、ジョージ・H・W・ブッシュ(父)大統領は、陸上発射の戦場核・戦術核を廃棄すること、そして、艦船配備の戦場核・戦術核を船から引き上げることを発表。ペンをさっと走らせただけで、1300発の核砲弾、850発のランス核ミサイル用核弾頭、それに500発の艦船用核が引き上げられた。ブッシュ大統領はまた、米国の核兵器の3本柱の内の一つを警戒態勢から外した――戦略爆撃機。そして、米戦略空軍を廃止した。  

    これらは、米国の一方的措置で、大統領が米軍の最高司令官としての憲法上の権限を使って実施したもの。

    当時、「戦略家」とか「専門家」とか称する多くの人々が、ブッシュ大統領の決定は、米国の核兵器の持つ抑止効果を弱体化すると主張した。しかし、20年以上が経った現在明らかになっているのは、これらの劇的な一方的削減は、米国の核抑止の有効性に目に見える深刻な影響を何も与えず達成されたということ。

    この経験は、3本柱のもう一つを警戒態勢から外すときだと言うことを示唆している。つまり、陸上配備のICBM。これは、核軍備撤廃に向けてずっと昔に取られているべきステップ。米国のICBMはなぜ警戒態勢に置かれているか。現在の軍事的正当化の論理は、抑止のためではなく、核戦争を闘うためにICBMが使えるようにしておくというもの。

    そして、ICBMを高度の警戒態勢に置いておくことが必要される唯一の戦闘シナリオは、ロシアから大規模の突然の第一撃が掛けられるというものだ。なぜ高度の警戒態勢が必要か。このような攻撃がかけられているという警報があるとすぐに、つまり、飛んで来たロシアのミサイルによって破壊される前にICBMを発射して、ロシア国内の攻撃目標に向かわせ、これらを破壊できるようにするため。

    このような大規模な攻撃がロシアから掛けられる可能性は非常に低い。ロシアが第一撃をかけてくる可能性があるのは?ロシアの指導者らは、米国が報復しないとの確信を持てなければならない。つまり、ロシア内の攻撃目標に到達できる米国の核兵器をすべて破壊しなければならない。これには、米国の原子力潜水艦搭載のすべての核ミサイルが含まれる。

    常に、少なくとも8隻の、場合によっては9隻の米国の核搭載潜水艦がパトロールしている。これらはICBMと異なり、脆弱ではない。一隻に24基のミサイルが搭載され、そのそれぞれが4発の弾頭を持つ。合わせて1隻当たり96発となる。従って、ロシアの第一撃が米国のICBM 戦力のすべてを破壊したとしても、米国は極端な余剰破壊力により、報復することができる。報復をいつにするかについては丁寧に検討することができる。

    しかも、これらの潜水艦の4,5隻は、「ハード・アラート」という状況に置かれている。96基のトライデントⅡD5ミサイルが400発ほどの弾頭を数分内に発射できると言うことだ。「ハード・アラート」状態にない残りの潜水艦も、必要となれば比較的短時間で「ハード・アラート」にすることができる。

    米国科学者連合(FAS)のハンス・クリステンセンの言葉を借りると

    「戦略核兵器を数十発――すなわち、米ロの現在の警戒態勢下の核兵器うちのわずかな部分――を使うだけで、何億人もの人を殺すことができる。このような<余剰>を考えれば、核戦力の警戒態勢の解除は、安定した核抑止をまったく乱すことなく実施することができる。」

    情報公開法を使って入手した2012年5月の国防省の文書は、ここでお話した見方に、そしてFASの分析にペンタゴンが同意していることを示している。文書の結論はこうだ。陸上配備のICBMが第一撃による破壊に対して脆弱であるとしても、米国は、実際に攻撃があった場合、SLBM戦力――すなわち、米国の核の3本柱のうちの3番目の、そして、最も脆弱性の低い柱――を使って報復する十分な能力を維持できる

    ICBMを警戒態勢に置いておくことから来る安全性上のリスクの方が高いと言っていいだろう。1962年のキューバ・ミサイル危機は、比較的小さな予想外の政治的問題に起因する軍事的緊張が、国の指導者等に核兵器を使えという圧力をたちまちの内にもたらすことを示す最もよく知られた例だ。40年後、その生涯を終えようとしていたロバート・マクナマラ――危機の当時の米国の国防長官――が次のように告白している。

    「言っておきたいことがある。これは非常に重要なことだが、最終的には我々は幸運に見舞われたのだ。核戦争を防いだのは運なのだ。最終的に、我々は核戦争にそれほど近いところまで来ていたのだ。理性的な個人たち:ケネディーは理性的だった。フルシチョフも理性的だった。カストロも理性的だった。これらの理性的な個人たちが、彼らの社会の完全な破壊にそれほど近いところまで来ていたのだ。そして、その危険性は今日も存在している。」

    これまで、米ソ(ロ)の両方において、早期警戒システムにおけるいくつかの「誤警報」事件が起きている。例えば、1995年1月、ノルウェーで発射されたNASAの研究用ロケットが、クレムリンで、米国によるロシアに対する攻撃が始まったとの警報を発動させるに至った。ロシア軍部は、エリツィンの「核のブリーフケース」を作動させ、彼に使用方法を教えたが、数分後、ロシア側はこれが誤警報だと言うことを理解した。

    米国の「警報発射」態勢[飛んで来ているとの警報があれば、ミサイルの到達を待たず発射する]は、大統領の決定に同じようなプレッシャーを加えている。米戦略軍の2001年の報告書によると:

    「ミサイル攻撃の兆候が本物かどうかを評価するという――日常的に起きている状況――に責任を負う米国の早期警戒センターのチームがその結論を報告するのに与えられた時間はわずか3分しかないかもしれない。緊急事態においては、核攻撃オプションとそれがもたらす影響について大統領に説明するための電話会議に招集された上級核司令官等が、そのブリーフィングをするのに与えられた時間は30秒しかないかもしれない。」

    サンディア国立研究所で1973年~1991年まで副所長を務め、核兵器開発ディレクターとして新しい核安全機能を導入したボブ・ピューリフォイは、ミサイルを安全にしようという継続的な試みにもかかわらず、ICBMを警戒態勢に置くことを強要する「警報発射」政策は、「技術が無謀な政策を先導している例で、狂気の一つの形態」と言え、「いつ事故が起きても不思議でない」状態だと述べている。

    日本の役割

    日本は、米国の原子力政策におけるステークホールダーだ。現在、その関心事について、公式の2国間メカニズム「拡大抑止協議」を通じて表明している。この協議の詳細は秘密にされている。

    米国の核政策のいかなる変更であれ、これ対する米国内の反対派には、米国の核兵器政策のいかなる変更も日本の核武装をもたらすから危険だと主張するという歴史がある。

    これらの反対派の中で最も有名で、おそらく最も影響力を持っているのはカート・キャンベル元国務次官補(東アジア担当)だろう。彼は、ブルッキングズ研究所が出した2004年の報告書『核のティッピンブポイント』のために書いた日本と核兵器に関する文章の中でこの議論を初めて展開している。彼は次のように述べている。

    「日本の体制の中に広がっている、そして、強まりつつあるペシミズムは、将来の世代の日本の指導者等に、軽視状態と永続的な不安感とに対する最終的ヘッジ――核兵器――の取得を検討させることになるかもしれない。

    キャンベルは、続けて、日本を、「バーチュアルな核兵器国」と呼んでいる。その発展を続ける宇宙計画と大量の分離プルトニウムの貯蔵のためだ。

    この種の主張は、2009年の核態勢の見直しとTLAM/Nという核付きトマホークの廃棄処分に関する議論の際にもあった。TLAM/Nは、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領が、戦略爆撃機の警戒態勢の解除を行ったのと同時に撤去した核付き巡航ミサイルだ。

    UCSの専門家等は、大統領に対してICBMの警戒態勢を解除するよう求めるキャンペーンに対しても同様の主張がなされると予測している。

    日本が核開発をするというこれらの主張が本当かどうかを問うのは難しい。このような脅しをしたとされる日本の個人の名前が明らかにされず、彼らがしたというステートメントが公表されないからである。

    NPRを巡る議論においては、米国の安全保障政策における核兵器の役割を減らすというオバマ大統領の試みを支持する公式なステートメントが日本の首相、外務大臣、国会議員などからあったことが、TLAM/Nを永久的に退役させるとのオバマ大統領の決定において決定的な役割を話した。

    NPT再検討会議向けに日本の外務省が出したような警戒態勢の解除を支持する日本のステートメントは、ICBMの警戒態勢の解除を求めるUCSのキャンペーンについてオバマ大統領が検討する際に同じく重要な役割を果たすだろう。

    米国のICBMの警戒態勢の解除が日本向け拡大抑止に与える影響

    日本の二つの主要な安全保障上の懸念事項――北朝鮮及び中国――に対する米国の核抑止の有効性には何の軍事的影響もないだろう。

    北朝鮮の核能力はまだ実証されていない。北朝鮮に報復をし、北朝鮮の体制を崩壊させると言う点での米国の軍事的能力は、通常兵器によるものだけでも、疑いようがない。

    中国の核戦力は、極めて限られており、第一撃によって米国の核抑止力の小さな部分でさえ無効にすることはできない。米国議会の命令により1999年以来毎年出されている中国の軍事力の近代化に関する米国国防省の報告書によると、米国に到達できる中国の核ミサイルは50以下で、それぞれ弾頭を1個だけ搭載している。これらのミサイルはすべて陸上配備で警戒態勢から外されている。中国は、さらに、アジア太平洋地域にある米軍施設を攻撃できる中距離核ミサイルを50-60基持っている。搭載弾頭はそれぞれ1個である。これらも陸上配備のミサイルで、警戒態勢から外されている。

    中国はまた、核兵器搭載の潜水艦の実験を行っているが、まだ、信頼できる潜水艦発射弾道ミサイルの開発に苦労している。中国が建設を計画していると一部の中国高官が言っている6隻の潜水艦が完成すると、2隻による継続的パトロールを維持できるようになる可能性がある。ただし、大きな問題がないとしてのこと。これらの潜水艦は、それぞれ、単弾頭搭載で射程7~8000キロメートルのミサイルを12基搭載することができる。中国が潜水艦を最終的に継続的パトロール態勢に置くとすると、米国内の目標を攻撃できる核弾頭の総数は24発増えることになる。

    中国は、その核兵器の運搬手段の近代化と数の増強を実施している。中国は、固定箇所配備で液体燃料を使った古い世代のミサイルから、トラックに乗せ、地上及び地下の広範な道路網を動かすことのできる固体燃料の移動式ミサイルに向けた移行過程にある。

    しかし、中国はまた、二つの決定的な技術的制約に直面していることを理解するのが重要である。核兵器の量どれほど大きくし、核兵器をどれほど早く近代化できるかという問題。

    限られた核弾頭の種類

    包括的核実験禁止条約(CTBT)のため中国は45回しか核実験をしていない(米国は1054回)

    限られた数の実験は、限られた数の核弾頭設計

    移動式ミサイル用の小型化を急いだ結果、その設計ではプルトニウムを「過度」に使用したかもしれない。

    高度化されたコンピューター技術、モデル化、ストックパイル・スチュワードシップ(保有核の維持管理)などは、核実験なしで新しい設計をする理論的能力を生み出す

    しかし、米国でさえ、中国の核兵器設計者等が利用できるものよりずっと高度なものを使っても、既存の核弾頭にわずかな変更を加える能力に確信を持てないでいる

    限られた数の核弾頭

    中国は、非常に限られた量のプルトニウムしか生産していない

    生産は1980年代に中止。これは民生用の使用への移行の一環で、施設は、その後閉鎖。エネルギー生産に適さなかったため。

    中国は、核実験に約200kgを使用。

    現在の核弾頭製造数の推定は約250

    民生用再処理は、核兵器数拡大用の将来のプルトニウム源

    中国は、自主的にそのプルトニウム量をIAEAに報告。2013年現在、民生用プルトニウムは製造されていない

    現在発表されている再処理計画は、実現すれば、相当量の年間製造量をもたらし得る

    もし、日本と中国が、再処理禁止に合意できれば、中国はその核兵器量を拡大するのに使えるプルトニウムを抽出できなくなる。

    要約と結論

    ICBMの警戒態勢解除は、小さいステップではあるが、オバマ大統領がその任期中に核軍備撤廃に向けて取ることのできる重要で不可欠のステップである。

    ICBMの警戒態勢解除は、米国が日本に提供する拡大抑止の効果を弱めることはない。

    ICBMの警戒態勢解除は、日本の支持があって初めて可能となる。少なくとも、日本の反対がないことが必要。

    UCSは、私たちのキャンペーンにおいて皆様の支持を得られることを願っている。その支持は、公式なステートメントの形を取ることもできるが、日米拡大抑止協議において日本側が米国側に問題発言をしないようにするという形のものもあり得る。

    翻訳:田窪雅文(核情報 takubomasa@ybb.ne.jp )


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