核情報

2008.10.13

米国政界重鎮の「核のない世界」を支持するドイツ外相

4人の米国政界重鎮による『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)紙への投稿「核のない世界」(2007年1月4日)にいち早く反応した政治家の一人に、ドイツのフランク=ヴァルター・シュタインマイヤー外相がいます。外相は、2007年2月11日、世界各国の外務・国防大臣、軍部関係者、議員、マスコミなどを招いて開かれた第43回「安全保障政策に関するミュンヘン会議」において4人の提案に賛同を表明しました。

シュタインマイヤーは、キリスト教民主同盟・キリスト教社会同盟(CDU/CSU)とドイツ社会民主党(SPD)の間の大連立によるメルケル政権の副首相兼外相を務めていますが、2009年9月に予定されている総選挙でSDPの首相候補となることが決まっています。大連立のドイツの場合は、外務大臣の考えと首相・国防大臣の考えが異なる場合が多く事情は複雑です。「ずさんな保安体制の欧州配備の米国戦術核兵器──NPTにも違反」で触れたドイツ配備の米国の核兵器についても、野党全てとSDPが撤去支持の姿勢を取る一方、メルケル首相は配備維持の方針です。

外相は、実は、北朝鮮が核実験を行ってから約1か月後の2006年11月11日、ノルウェーのヨーナス=ガール・ストーレ外相と連名で、『フランクフルター・ルントゥシャウ』に「同じコインの両面:核不拡散と核軍縮」という文章を寄稿して、両面の行動の重要性を訴えていました。

外相は、2007年3月21日の議会での演説や2008年2月9日の第44回「安全保障政策に関するミュンヘン会議」の演説でも、4人の提案を取り上げ、支持を表明しています。

以下、外相のこれらの発言の抜粋訳を載せました。

  1. 2006年11月11日 「同じコインの両面:核不拡散と核軍縮」『フランクフルター・ルントゥシャウ』紙投稿
  2. 2007年2月11日 第43回「安全保障政策に関するミュンヘン会議」演説
  3. 2007年3月21日 議会での演説
  4. 2008年2月9日 第44回「安全保障政策に関するミュンヘン会議」演説



2006年11月11日 「同じコインの両面:核不拡散と核軍縮」

『フランクフルター・ルントゥシャウ』紙投稿 (ノルウェーのヨーナス=ガール・ストーレ外相と連名)

「ヨーロッパの安全保障状況は、過去20年間で劇的に変わった。冷戦時代を通して戦略思考を支配してきた核による破滅の危険は、幸運なことに軽減した。不幸なことに、軍備管理・軍縮の勢いも同じ道をたどったようである。そして、私たちは、国際的不拡散・軍縮体制に関する、以前とは異なる−−より複雑で予測しづらい−−一連の問題に直面している。」

2006年10月9日の北朝鮮の核実験、イランの野心的核計画、2001年の9・11の同時多発テロに触れた後、二人は、「核不拡散条約(NPT)」の重要性を強調します。

「NPTに署名することによって、国際社会は、重要な取引(バーゲン)をしたのだ。核兵器国による核軍縮の約束と引き換えに、非核兵器国は、核核兵器の取得・保有を放棄した。・・・この基本的取引の侵食を許してはならない。核不拡散と核軍縮は相互補完的な目標であって、分離可能なものではない。

 ノルウェーとドイツは、条約に基づく透明で検証可能な軍縮・軍備管理・不拡散体制の価値についての理解を共有している。我々の政府は、核不拡散の義務の履行を強化すると同時に、核軍縮のための新たな弾みを作り出すために共同で取り組むダブル・トラック・アプローチを提唱している。」

二人は、「核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)」の迅速な交渉妥結、「包括的核実験禁止条約(CTBT)」の発効、戦略兵器削減核交渉(2009年に失効する「戦略兵器削減条約(START)」に代わる協定の締結に至る)の必要性を訴えるとともに、非戦略核について扱うべき時だとしています。

2007年2月11日 第43回「安全保障政策に関するミュンヘン会議」演説

Speech at the 43rd Munich Conference on Security Policy

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我々欧州人が米国、ロシア、中国とともに、イランの核問題の解決を求めて大きなコミットメントを示しているとすれば、それは、中東におけるすでに困難な状況の悪化の可能性についての懸念からだけではありません。

これは我々の最初の懸念であり、向こう数日間、数週間、数ヶ月間の私の、私たちの取り組みを特徴づけることになります。我々は、この問題の解決を見出さなければなりません。しかし、我々の中核的な関心は、これにはとどまりません−−核不拡散体制そのものの将来、つまりは、我々の惑星の将来について考えるならば。はっきりと言っておきましょう−−とりわけこの安全保障会議においては。われわれは岐路に立たされています。向こう数年の間に、イランやその他の国が核のゲームをするのを防ぐのに成功するか、我々の安全保障にとって予測不能の結果を伴うことになる新たな軍拡競争を経験することになるかです。

ゲーツ長官、北朝鮮との難しい交渉で進展があったのは非常に勇気づけられることだと思います。あなたのコミットメント、そして米政権のコミットメントについて感謝します。

私は、おそらく皆さんの多くもそうだと思いますが、大いなる興味を持って『ウォール・ストリート・ジャーナル』のジョージ・シュルツ、ウイリアム・ペリー、ヘンリー・キッシンジャー、サム・ナンの記事を読みました。この中で、4人がみんな−−ロナルド・レーガンとミハイル・ゴルバチョフに倣い−−核軍縮のための新たな取り組みを呼びかけました。彼らはあの記事の中で、これらの取り組みには、潜在的核兵器国がその一歩を踏み出すこと、すなわち核武装することを防ぐことが明確に含まれるとの事実を強調しています。しかし、彼らは、また、核兵器国自身による措置、燃料サイクルの国際的コントロールに関するあらたなアイデアも、このパッケージの一部を形成すると指摘しています。

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2007年3月21日 議会での演説

Foreign Minister Steinmeier on the German Government’s Position on Missile Bases in Eastern European Countries

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世界は岐路に立たされているということを、もう一度強調したいと思います。核兵器を持った国の数は、冷戦の終焉以来増えています。核兵器を作ることのできる国が増えています。そして、テロリスト組織も、いわゆるダーティー・ボムを作るための物質を手に入れようとしている可能性が大いにあります。さらに、ヨーロッパ各国の首都を目標にできる運搬手段の開発に取り組んでいる国があります。冷戦時代と現在の決定的な違いは、あの当時は、基本的に米国とソ連だけがお互いをこのような兵器で脅しあっていたということです。状況は比較的簡単でした。近いうちにもっと多くの国が核保有国になってしまうかもしれません。ここに新たな核軍拡競争の危険性があり、誰かがどこかであの赤いボタンを押してしまう可能性が相当に高くなってしまうのです。

このような展開は、私を非常に不安にさせます。そして、これに対する私の反応は、新たな軍縮政策のためのあらたな弾みが緊急に必要だというものです。だから、私は、外務大臣に就任した最初の日からイランをめぐる紛争にあれほど多くのエネルギーを割いてきたのです。いつかイランが核兵器を持つことになれば、新たな危険が来るのはイランからだけではありません。いいえ。他の国々、あの地域の、そしてそれ以外の地域の他の国々も新たな状況に対処しなければならなくなるでしょう。それは、予測不能の結果をもたらすことになります。とりわけ、ヨーロッパにおける、そして、ドイツにおける安全保障にとって。

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今日までの我々の取り組みの主たる目的は、予防的外交という手段によって−−それには圧力をかけることも含まれますが−−関係国が大量破壊兵器とミサイル技術の開発を控えるような環境を作るということです。このような政策のためには、国際社会の側の賢明かつ断固とした行動が必要です−−イランで現在試みているように、そして、北朝鮮でいく分の初期的成功に至っているように。しかし、同時に、『ウォール・ストリート・ジャーナル』のジョージ・シュルツ、ウイリアム・ペリー、ヘンリー・キッシンジャー、サム・ナンによる先駆的記事で述べられているように、核兵器国側から核不拡散条約の下での軍縮の約束について自分たちが真剣だという明確なメッセージが必要です。これらの国々は、近視眼的に振舞うことによって既存の軍縮の枠組みをさらに傷つけるようなことをしてはなりません。

実際、冷戦は終わっています。しかし、それは、不信と意思疎通の断絶の長い影を投げかけています。ポーランドとチェコ共和国にミサイル防衛基地を作る計画に関する論争がよく示しているとおりです。この論争は、冷戦時代からの古い、浸みこんでいる反射反応を表面化させつつあります−−米国においても、また、ロシアやポーランドにおいても。今日の『ヘラルド・トリビューン』紙に載っているキッシンジャーの投稿を読まれるようお勧めします。米国とロシアが互いの安全保障上の関心事と、互いが直面していると見なす脅威の認識についてもっと理解するようにという賢明な呼びかけです。

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長距離ミサイルによる攻撃から自国を守りたいというアメリカの望みは理解できます。しかし、軍事的優越だけによって友好や平和を力づくで築くことはできません。ですから、米国に対し、ミサイル防衛基地について無理やり各国に賛成させようとした場合に払わなければならない代償について極めて慎重に考えるよう要請したいと思います。これらの基地がその攻撃から我々を守るはずのイランの長距離兵器はまだ存在していないことを考えればなおさらです。ヨーロッパ及びNATOに楔を打ち込む危険性、そして、ロシアにおける昔の反射反応を呼び覚ます危険性は、非常に高い代償だと思います。

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2008年2月9日 第44回「安全保障政策に関するミュンヘン会議」演説

"Leadership, Trust, Credibility" - The future of disarmament policy

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この過程において、核技術へのアクセス及び軍事的利用の可能性が議論の中心的課題になっています。冷戦終焉以来、核兵器保有国の数が増えています。核兵器を作ることのできる国の数が増えています。

向こう数年の間にこの危険な傾向を止めることができなければ、世界的な規模での新たな核軍拡競争の出現のリスクが生じます。その結果は予測できません。

したがって、軍縮と軍備管理は、この場で以前の数年間に論じてきた気候変動やエネルギーの安全保障などの主要な将来のトピックと並んで、新たな大西洋を挟んだアジェンダのトップに位置します。

なぜなら、軍縮と軍備管理は、昨日の問題ではなく、生存のための明日の問題だからです。

そして、世界は、50年前と同じく、大西洋を挟んだパートナーシップの形で我々が指導的な役割を果たすよう求めています。

私は、この考えが我々の議論において次第にまた地歩を得つつあることをうれしく思います。この安全保障政策に関するミュンヘン会議がその例です。また、米国の大統領候補のプログラムの中で、緊急の軍備管理政策問題の多くが大きく取り扱われているのを見るのは勇気づけられることです。

なぜなら、古典的核保有国がイニシアチブを取らなければ、核不拡散問題で真の進展は得られないからです。

ごく最近も、ヘンリー・キッシンジャー、ジョージ・シュルツ、ウイリアム・ペリー、サム・ナンが二つ目の共同執筆の文章を発表し、核軍縮に再度新たな弾みをもたらすために具体的な措置を提案しています。私は、これらのアイデアが進行中の核不拡散条約の再検討過程で非常に入念に吟味されるだろうと考えます。

何と言っても、はっきりしていることが一つあります。次回の再検討会議が前回のように実りのないものとなれば、核不拡散条約の将来にとって、壊滅的な打撃となるでしょう。

我々の、信用がかかっています。アイゼンハワーやNPTの他の創設者らが行った取引がまだ有効なのかと問うてみる必要があります。つまり、核兵器を持った国が核軍縮の道を真剣に追求するとの明確な約束と引き換えに、非核兵器国は核兵器を開発することを控えるというものです。

ところで、この問いを発してみなければならない理由の一つは、現在では以前よりも深刻な危険が生じているからです。核燃料サイクルを完成させようとしている国が増えています。これらの国々がそうしようとしている理由はさまざまです−−国の威信の追求、燃料供給の保障に関する懸念、そして、軍事的目標のために利用の隠された夢さえもあります。どの場合も、結果は同じでしょう−−拡散の脅威のさらなる拡大です。

だから、私は、この問題に、その根のところで取り組み、IAEAの独占的管理下に置かれた多国的濃縮センターを設立することを提案しているのです。

ドイツは、将来の協議において積極的な役割を果たします。なぜなら、時間は限られているからです

新たな原子力発電所の建設の市場におけるシェア―をめぐる競争が現在よりもさらに爆発的に燃え上がる前にこのような国際的濃縮センターが設立されれば、私の心は、ずっと穏やかでいられることでしょう。原子力の平和利用についての考えがどうであれ−−我が国の立場についてはご存じだと思います−−原発は冷蔵庫とは違い、相当の潜在的リスクを伴う極めて複雑な技術サイクルの一部です。この技術を輸出するものは、相当の責任を負わなければなりません。

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