核情報

2008.7.25

イタリアの政治家と科学者、米英両国の4人の核廃絶提唱を支持

7月24日、イタリアの主要紙の一つ『コリエーレ・デラ・セラ』紙に、「核のない世界のために」という投稿記事が掲載されました (原文: Per un mondo senza armi nucleari)。署名したのは、左右両派の元外相、国防大臣など4人の政治家と元パグウォッシュ会議事務局長です。5人は、「核のない世界」の実現を訴えたキッシンジャーら米国4人の政治家、それに答えた英国の4人などに続けと訴えています。

署名したのは、次の5人です。

  • マッシモ・ダレマ 元首相(1998-2000年)、外相(2006-2008年)
  • ジャンフランコ・フィーニ 元外相(2004-2006年)、現下院議長
  • ジョルジオ・ラ・マルファ 元欧州担当大臣(2005-2006年)
  • アルトゥロ・パリージ 元国防大臣(2006-2008年)
  • フランチェスコ・カロジェロ ローマ大学物理学部、元パグウォッシュ会議(1995年ノーベル平和賞受賞)事務局長(1989-1997年)

2004-2006年はベルルスコーニ首相の中道右派政権、2006-2008年はプローディ首相の中道左派政権だったことから分かる通り、彼らは、イタリアの両陣営を代表する政治家ら4人と、科学会の代表です。彼らは、『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』紙に2007年1月と2008年1月に掲載されたキッシンジャーら米国の4人の政治家による「核のない世界」の提唱の持つ意味は、それが、米国の核戦略に関わった民主・共和両党の政治家によるものであることにあると指摘しています。そして、これが核廃絶の提案をメインストリームのものしたことを強調し、イタリアでも同じ動きを作らねばならないと述べています。

この記事は、WSJ紙の投稿以後起きている世界の動きの一環であり、また、この動きを概説した啓蒙の文章ともなっています。

以下、粗訳を試みました。

核のない世界のために

『ウォールストリート・ジャーナル』紙で2007年1月に発表された投稿「核のない世界」が人類の将来にとって非常に重要な議論の口火を切った。署名したのは、ジョージ・シュルツ及びヘンリー・キッシンジャー(共和党のレーガン及びニクソン両大統領の下での国防長官)、ビル・ペリー及びサム・ナン(クリントン大統領の下での国防長官及び民主党の上院軍事委員会委員長)だ。この記事において、米国の4人の政治家は、核兵器の廃絶を提案した。2008年1月の二つ目の記事でも繰り返された彼らの主張は、核兵器保有国(現在は8ヶ国になっている)、とりわけ、二つの主要国である米ロ両国が、核廃絶に向けたプロセスを開始する上で先頭に立たない限り、他の国々が核兵器を取得するのを防ぐのがますます難しくなり、遅かれ早かれ、核兵器が使われてしまう危険性が高まり、世界に壊滅的な結果をもたらすことになるというものだ。

彼らの投稿記事の重要性は、核廃絶の問題が、米国において、米国の戦略政策の主流を代表する政治家によって――両党の側から――論じられており、この問題が米国と世界の双方の利益のために追求されるべき目標だという事実が強調されていることにある。彼らの投稿記事の後、いくつかの非常に重要な声明が続いた。米国の二人の大統領候補は、この分野において米国で大きな責任を負う地位にあった大多数の人々とともに、この目的に基本的に合意している。ロシアでは、ゴルバチョフから肯定的な反応があった。そして、政府自体からは、より慎重ではあるが、否定的ではない反応があった。英国では、ゴードン・ブラウン首相が支持の声を上げ、国防大臣が、核廃絶の検証手順を確立するために米、ロ、英、仏、中の専門家を英国の研究所に招くことを提案した。また、最近、『タイムズ』紙が、賛意を表明するもう一つの超党派4人組の投稿記事を掲載した。元外相3人と元NATO事務総長によるものだ。フランスでは、国防白書が、追及すべき目標は、核兵器の廃絶であることを示唆した。オーストラリアでは、政府が「専門家委員会」を組織した――その使命は核廃絶への道を計画することだ。また、非政府グループからは、数え切れないほどの肯定的な反応があった。

私たちは、イタリアもこれらの国々と同じ方向を示すことが重要だと考える。私たちの共同署名は、他の国々における投稿記事と同じく、主要な政治的陣営と科学の世界の両方において、この問題と目的の重要性について共通の意見が存在することを示す証拠だ。私たちは、この道に沿った主要な措置を提案したい。第一は、地下実験を含むあらゆる形態の核実験を禁止する条約の発効だ。これによって、現在の核実験モラトリアムを条約として確実なものにすることができる。第二は、ジュネーブでの「軍縮会議(CD)」で行き詰まっている「核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)」の交渉を進展させることだ。FMCTは、核兵器の生産に必要なアイソトープ組成の高濃縮ウランおよびプルトニウムの生産を禁じるものだ。ここでも、実質的なモラトリアムが存在するが、公式な協定が存在せず、また、検証措置も存在しない。これらの二つの条約が発効すれば、それは、非核保有国によって評価されるだろうし、また、2010年に開かれる定期的な「核不拡散条約(NPT)」の会議のために、より良い基礎を準備することになるだろう。それは、世界の不拡散体制を――NPTで想定されたコミットメントの(文言と精神の両方における)実際の遵守のモニタリングも含め――強化することになるだろう。

私たちは、核廃絶への道が長いことを承知している。いくつかの政治的条件が満たされなければならない。第一は、核超大国――米ロ――間の関係の実際の改善だ。両国は、最近の削減にも関わらず、未だに、世界の核兵器の9割以上を保有している。両国間の関係改善が進めば、NPTによって認められた他の核兵器国――英、仏、中――の貢献を引き出す助けになるだろう。さらに、核兵器が実際に――場合によってはテロリストにより――使われる――リスクがもっとも高い地域おける緊張を低めることも必要だ。つまり、南アジア(インドとパキスタン)や中東におけるイスラエル、パレスチナ、アラブの問題だ。この両方の文脈において、核兵器国が核兵器のない世界に向けて進んでいることを示す動きをすれば、それは、間違いなく良い効果をもたらすだろう。イタリアとヨーロッパは、核廃絶に向けた道を推進するためにできることがあるし、それをすべきである。この最終的な結果は、主要な対立国――米ロ――の、そして、他の核兵器国のコミットメントがあって初めて獲得できることは明確だ。しかし、新しい考え方――新しい「共有された知恵」――の普及は、この路に沿った基本的なステップであり、イタリアもこれに寄与しなければならない。人類のまさに生存のためのこれらの基本的な問題については、私たちの間の正当な――実際、必要な――政治的相違にも関わらず、それに優越する共通の利益を理解して、私たちが力をあわせることが必要だ。


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