核情報

2009.10.5

広島被爆者団体、日本が核廃絶の障害にならないよう要請
 17日から広島で開催の国際委員会(ICNND)に向けて

広島の被爆者団体が2日、日豪主導の「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」で、核兵器の目的を核攻撃の抑止に限定することに日本の委員が抵抗しているとの報道を問題にし、日本側共同議長の川口順子元外相、鳩山由紀夫首相、岡田克也外相に対し、要望書を送りました。要望書は、委員会の報告書が「生きている内に核兵器を廃絶して欲しいという私たちの悲願を具体的な形で盛り込んだ」内容になるよう努力することを3氏に求めています。

核以外の攻撃にも核で報復することを望んできた歴代政府の方針を批判

要望書は次のように述べています。

「また、先日、ICNNDの報告書草案に関する報道(9月14日付け中国新聞)がなされました。中でも問題なのは、核兵器の唯一の目的を核戦争阻止に限定すると共に、核の役割を低下させる新核戦略を採用するよう米国に促す勧告が盛り込まれていることについて、我が国の委員が、対通常兵器も含む核抑止力堅持、核兵器の先制使用にこだわる歴代政権の方針を反映し異論を表明しているとの内容です。

 私たちが目指す核兵器廃絶の中間段階として、一定期間は核兵器の存在を許すという方針を仮に私たちが認めたとしても、上記の「異論」については、私たちの声を代弁して頂くはずの委員に大きく期待を裏切られた思いです。・・・報道の通り我が国が核廃絶の流れに水を差し、核兵器廃絶を遠い将来の、実現できるかどうかさえ疑わしい究極の目標と位置づけるような報告書がまとめられることになれば、それは広島の名を利用して核兵器の存在を正当化することになります。・・・そのような結果になるのであれば、それを知りながらICNNDの広島開催を歓迎する気持ちには到底なれません。」

政府は、先制不使用を指示するメッセージを米国に

委員会は政府から独立したものですので、首相・外相はその結論に直接影響を及ぼすことはできませんが、元々先制不使用策を支持してきた両氏が、日本政府の政策としてこの立場を明確にし、米国に伝えることが重要です。

米国の核問題専門家ら、オバマ・鳩山両首脳に公開書簡──「核の役割限定を」で指摘したとおり

オバマ政権が遅くとも10月には骨格を固めるとされる「核態勢の見直し」で、「核の役割を他国の核使用の抑止に限定」する可能性が議論されています。ところが通常兵器や生物・化学兵器の攻撃も、米国の核で抑止して欲しいと望む日本がこれに反対していることが、この新政策採用の障害となっていると米国の活動家らが警告しています。日本の新政権は、この障害を早急に取り除かねばなりません。

時間は限られています。この意味でも、広島の被爆者団体の行動は重要です。

各紙の報道では、要望書が、「対通常兵器も含む」核抑止力堅持に固執している歴代政権の立場を問題視しているという点が明確になっていない嫌いがあります。日本政府が、核兵器以外の攻撃、すなわち、通常兵器、生物・化学兵器の攻撃にも核で報復するオプションを米国に維持して欲しいと願っきたことが分からなくなっています。

これは、とりわけ、「日本が「核の傘」弱体化に抵抗 米への賢人会議・新戦略勧告で」(9月14日付け中国新聞掲載)と言う記事が、被爆者団体の行動のきっかけの一つになっていることから考えると残念です。この記事は次のように指摘していました。

「核廃絶への道筋を探る賢人会議「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」の報告書草案で、米国に対し、核兵器の「唯一の目的」を核戦争阻止に限定し、核の役割を低下させる新核戦略を採るよう促す勧告が盛り込まれたことについて、「核の傘」の弱体化を恐れる日本の委員が異論を表明していることが13日分かった。

 草案は、来年5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議までにオバマ米大統領が新戦略を宣言するよう求めているが、北朝鮮の生物・化学兵器による攻撃に対する核抑止力堅持にこだわる日本側は、宣言の早期実現に抵抗しているという。複数の委員会関係者が明らかにした。」

「先制不使用に反対する日本は核兵器全廃の足かせになるのか」で指摘したとおり、

日本は、川口共同議長の他、3人の諮問委員を抱えています。佐藤行雄元国連大使、国際問題研究所軍縮・不拡散促進センターの阿部信泰所長、それに、原子力委員会の近藤俊介委員長。阿部・佐藤両氏は、先制不使用に強硬に反対してきた人々です。川口共同議長も、歴代自民党政権の政策を反映した動きをしているとのことです。

前述の通り、首相や外相は、川口元外相や諮問委員の行動に直接影響を与えることはできませんが、オバマ政権と共同で米国の核政策の変更を実現することはできます。民主党政権が、自民党政権の政策と決別し、「核の役割を他国の核使用の抑止に限定」することに賛成し、先制不使用をも支持するとの立場を早急に表明するようあらゆる手段を使って働きかけることが必要です。

参考




内閣総理大臣 鳩山由紀夫様
外務大臣 岡田克也様
参議院議員 川口順子様

「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」の広島会合に関するお願い

謹啓 日頃より核兵器廃絶の実現並びに被爆者援護の充実に向け御尽力くださり、心より感謝申し上げます。

 本日は、来年のNPT再検討会議の成功に向け、重要な役割を担っている「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」の最終会合が広島で今月開催されるにあたり、私たち被爆者の切なる願いとして、総理(外務大臣)のお力添えをいただきたく、不躾なお願いをする次第です。

(川口参議院議員へは以下のとおり)

謹啓 早秋の候、ますます御清栄のこととお喜び申し上げます。

本日は、来年のNPT再検討会議の成功に向け、重要な役割を担っている「核不拡散・核軍縮に関する員会(ICNND)」の最終会合が広島で今月開催されるにあたり、私たち被爆者の切なる願いと不躾なお願いをすることをお許しください。

私たちは日々、全身全霊を傾け核兵器の廃絶に向けた努力を続けております。それは、ICNNDが掲げる核不拡散・核軍縮ではなくその先にある核兵器廃絶であることを、先ず以て御理解頂きたく存じます。

 そうした意味で、オーストラリアならびに日本政府の肝煎りかつ予算で開催されるこの会議が、広島で開催される最大の意義は、(1) 委員の皆様に核兵器が如何に悲惨な人間的被害をもたらすかを理解して頂き、その理解を元に (2) 核兵器の廃絶こそ人類の最優先課題であると考える被爆者の悲願を共有して頂くことにあると、私たち被爆者は信じています。そのためには、被害の凄まじさを伝える平和記念資料館をはじめ慰霊碑や原爆ドームなど被爆の記憶が残る現地を自らの目で御覧頂いた後、今は亡き被爆者の思いが未だに残る場で、生き残った被爆者の体験証言、そして核兵器廃絶による人類の生存を願う私たちの訴えをお聴き頂くことが最小限必要だと愚考致しております。

 祈るにも似た思いでお願いしておりますのは、これが私たち余命短い被爆者だけの意思ではなく、広島市民、そして広島市、日本国民にも共有されているからであります。こうした理由で私たちは、ワシントンの会合での被爆体験証言に加えて、広島でも被爆体験をお聴き頂く時間こそ、核兵器のない世界実現のための最も効果的かつ生きた機会になることを再度強調させて頂きます。

 また、先日、ICNNDの報告書草案に関する報道(9月14日付け中国新聞)がなされました。中でも問題なのは、核兵器の唯一の目的を核戦争阻止に限定すると共に核の役割を低下させる新核戦略を採用するよう米国に促す勧告が盛り込まれたことについて、我が国の委員が、対通常兵器も含む核抑止力堅持、核兵器の先制使用にこだわる歴代政権の方針を反映し異論を表明しているとの内容です。

 私たちが目指す核兵器廃絶の中間段階として、一定期間は核兵器の存在を許すという方針を仮に私たちが認めたとしても、上記の「異論」については、私たちの声を代弁していただくはずの委員に大きく期待を裏切られた思いです。報道が事実であれば、人類史上最初の被爆都市である広島の名を借りて核兵器廃絶への途を長引かせ人類を滅亡に導くだけでなく、私たち被爆者や広島市をはじめ平和市長会議等が目指す2020年までの核兵器廃絶への努力を否定し、核兵器のない世界の実現を彼岸で待ち望む原爆の犠牲者たちに、「私たちの目で確認してきた」旨の報告をしたいという私たち被爆者の切なる願いさえ敢えて踏みにじるものであり、その非情さに怒りさえ感じております。

仮に広島で被爆者に証言の機会が与えられないまま議論が行われ、仮に機会が与えられたとしても、報道の通り我が国が核兵器廃絶への流れに水を差し、核兵器廃絶を遠い将来の、実現できるかどうかさえ疑わしい究極の目標と位置付けるような報告書がまとめられることになれば、それは広島の名を利用して核兵器の存在を正当化することになります。広島の名をそして被爆者の苦しみとこれまでの努力をこのような形で絶対悪である核兵器存続のために逆用することは、天に背く行為であるとさえ言いたい思いです。そのような結果になるのであれば、それを知りながらI CNNDの広島開催を歓迎する気持には到底なれません。

 先月24日、国連安全保障理事会の首脳級特別会合の場で、唯一の被爆国として核軍縮・核兵器廃絶の先頭に立つ決意を表明し、『核なき世界』決議の全会一致採択に導いた鳩山首相のリーダーシップの下(川口参議院議員へは次のとおり。「先月24日、国連安全保障理事会の首脳級特別会合の場で、唯一の被爆国として核軍縮・核兵器廃絶の先頭に立つ決意を表明し、「核なき世界」決議の全会一致採択に導いた新しい政府の下で」)、是非、私たちの願いをお聴きいただき、検討プロセス及び結論が、私たち被爆者の思いを反映したものになること、すなわち、私たちのこれまでの地獄の苦しみを御理解頂き、私たちが生きている内に核兵器を廃絶して欲しいという私たちの悲願を具体的な形で盛り込んだ報告書になるよう御努力頂きたく存じます。

以上、不躾なお願いとは存じますが、私たちの懸念が杞憂に終わることを心から願いつつ、格別の御高配を賜りますようお願い申し上げます。

謹白

2009年10月 2日

広島被爆者七団体(世話人代表 坪井直)

  • 財団法人広島市原爆被爆者協議会
  • 広島県原爆被害者団体協議会
  • 韓国原爆被害者対策特別委員会
  • 広島県朝鮮人被爆者協議会
  • 広島県原爆被害者団体協議会
  • 広島県労働組合会議被爆者団体連絡協議会
  • 広島被爆者団体連絡会議

連絡場所 広島市中区大手町3丁目13ー25


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