核情報

2005.6.15

日本の常識・世界の常識──核不拡散

核拡散防止条約(NPT)再検討会議を終えて──日本の課題

2005年6月15日(於:衆議院第一議員会館 第4会議室)
田窪雅文

日本の常識・世界の常識──核不拡散

「『核不拡散性』については、再処理を行う場合、核拡散や核テロの発生に対する国際社会の懸念を招かないよう国際社会で合意された厳格な保障措置・核物質防護措置を講じることが求められる。シナリオ1[全量再処理]では、再処理工場において純粋なプルトニウム酸化物単体が存在することがないように、硝酸ウラン溶液と硝酸プルトニウム溶液を混合させてMOX粉末(混合酸化物粉末)を生成するという、日米間で合意された技術的措置を講じた上で、これらの国際約束を誠実に実行するとしていること、他方シナリオ3[全量直接処分]では使用済燃料中のプルトニウムに対する転用誘引度が高まる処分後数百年から数万年の間における国際的に合意できる効果的で効率的なモニタリング手段と核物質防護措置を開発し、実施する必要があることを踏まえると、核不拡散性に関してこれらのシナリオ間に有意な差はない。」

『核燃料サイクル政策についての中間取りまとめ』 原子力委員会新計画策定会議
2004年11月12日

注:

「数百年あるいは数千年先のリスクを減らすために短期的な転用及び拡散のリスクを大幅に高めるというのは、愚の骨頂である。」

ハロルド・ファイブソン
プリンストン大学科学・世界安全保障プログラム上級研究政策科学者
2005年5月24日
 国連ビル内セミナー/記者会見での発言原文(英文)へ


『中間とりまとめ』vsスティーブ・フェター(メリーランド大学公共政策教授)

以下は、『中間とりまとめ』のいくつかのポイントに関するフェター教授のコメント

厳格な保障措置・核物質防護措置

フェター:

再処理においては、使用済み燃料集合体‐‐個々に正確に数えることのできるアイテム‐‐がその姿を変え、高い精度で分析することのできない大量の溶液・物質になる。元の使用済み燃料の中や、工程の中の様々な放射性溶液の中にあるプルトニウムは、非常に高い精度で計測することはできない。

従って、最善の保障措置、運用方法をもってしても、プラントの物質収支(工場に入ったものと、工場から出たものとの差)に関して、統計的不確実性が生じるのは避けられない。経験によると、このような統計的不確実性は、相当のもの‐‐大きな再処理工場においては、「有意量(SQ)」のレベル‐‐になり、そして、その不確実性の値は、負ではなく、正になる。使用済み燃料に含まれてプラントに入ったプルトニウムより少量のプルトニウムがプラントを出ていくことを示すという意味だ。この「在庫差」あるいは行方「不明物質」は、他の国において懸念と懐疑心を巻き起こす可能性がある。たとえ日本が、IAEAの保障措置にきちんと従っていたとしてもだ。

六ヶ所再処理工場が年間800トンの使用済み燃料を再処理すると、約8000kgのプルトニウムを分離することになる。1%の物質収支の不確実性ということは、年間80kg(10SQ/年、つまり1SQ/月)となる。1SQの転用の「タイムリーな探知」に関するIAEAの基準は、兵器への「直接利用可能物質」については、1ヶ月だ。問題は、在庫量の差をIAEAはどう解決することになるかだ。転用の明確な証拠がない場合には、IAEAは、おそらくは計量誤差と見なすだろう。使用済み燃料の中のプルトニウムの推定値が大きすぎたとされる可能性が高いのだ。

さらに、

1)韓国のような他の国が、日本が再処理をするのに、自分たちがしてはならない理由があろうかと正当な疑問を持つことになる。2)中国のような他の国が、日本は、分離されたプルトニウムの使い道がないのになぜ再処理をしようとするのかとの疑念を抱く。3)日本は、物理的防護措置についてひどく過信している(理由の一つは、盗難──特に内部者の関係したもの──はありそうにないと確信しているからだ。)テロリストグループにとって、米国の施設よりは、日本の施設に入って核物質を奪う方がずっと簡単だ。

数百年から数万年の間のモニタリング手段と核物質防護措置の必要

フェター:

プルトニウムは、何千年も先になると、現在よりも使用済み燃料から回収するのが簡単になる[注:放射能が減衰するから]。しかし、

  • 1)非常に長期的なリスクを減らすことの代価は、短期的なリスクを増大させることだ。向こう数十年のリスクにもっとずっと注意を払うべきだ。なぜなら、これが危険な時代だと言うことをわれわれが知っているからだ。千年先の人類の社会では、核拡散のリスクがずっと少なくなっているだろう。なぜかというと、でなければ、人類がそんなに先まで生き延びることはできないだろうからだ。
  • 2)地層処分場に置かれた使用済み燃料は、アクセスが非常に難しい。この使用済み燃料からプルトニウムを回収することが、将来の技術によって新しくプルトニウムやHEUを作ることより簡単あるいはより魅力的かどうかは疑わしい。
  • 3)いずれにせよ、将来の回収というリスクは、日本がすべての核分裂性物質(プルトニウムだけでなくネプツニウムやアメリシウムなども含め)を分離し、リサイクルし続ける場合にのみ、なくすことができるが、日本はそういうことを計画していない。
  • 4)もし、これが深刻な問題だというのなら、使用済み燃料や廃棄物のアクセスがずっと難しくなる処分方法を検討することもできる。沈み込み帯や深海底での処分などだ。

純粋なプルトニウム酸化物単体が存在することがない

フェター:
1)ウラン酸化物とプルトニム酸化物の混合物(MOX=混合酸化物)は、核爆弾の製造目的には、純粋なプルトニウム酸化物よりも若干魅力が劣る。しかし、爆縮装置を作ることのできるグループであれば、簡単に、MOXからプルトニウムを分離することができる。それに必要な化学処理は、再処理よりもずっと簡単だ。

詳しくはここを参照(英語)

2)MOXの使用はプルトニウムを無くすわけではない。使用前のMOXに含まれていたプルトニウムの多くは、燃やされるが、一部はそのまま残り、また、燃料の中にあるウラン238からプルトニウムが生み出される。使用済みMOX燃料の中のプルトニウムは、魅力に劣るが、やはり、核兵器に使うことができる。実際、使用済みMOX燃料の再処理を計画している国はない。使用済みMOX燃料は、貯蔵しておいて、最終処分するか、将来、増殖炉での使用のために再処理することになる。つまり、MOX使用は、明らかに、核拡散リスクを増やすことになる。なぜなら、MOX使用をしなければ、使用済み低濃縮ウラン燃料に含まれるプルトニウムが出回ることはないからだ。使用済み燃料は、そのまま貯蔵しておいて最終処分するか、貯蔵しておいて、後で再処理して増殖炉のスタート用燃料を提供するのに使われることになる。つまり、使用済みMOX燃料と同じ道だ。

参考:『IAEA保障措置用語集』(科学技術庁原子力財団法人核物質管理センター)p.48
表2 完成したプルトニウムまたはウラン金属構成要素への推定物質転換時間
混合酸化物  1‐3週間

軽水炉(プルサーマル)核燃料サイクルにより、1〜2割程度のウラン資源節約効果がある。

フェター:
再処理は、確かに幾分かのウランの節約になる。だがそれは、非常に高いコストを伴う。六ヶ所の場合は、節約されたウランは、現在の市場価格の40倍になるだろう。

プルトニウムがただだとしても、MOX燃料のコストは、低濃縮ウランより高いものとなる。

低濃縮ウラン燃料とMOX燃料のコスト比較

1)
低濃縮ウラン燃料 1200ドル/kg
内訳 低濃縮ウラン準備 950ドル/kg
 天然ウラン400ドル/kg *
 ガス状のウランへの転換 50ドル/kg
 濃縮500ドル/kg
   燃料製造(加工・組み立て)250ドル/kg

*低濃縮ウラン1kgを作るのに45ドル/kgUの天然ウラン8.5kgが使われたと想定

2)
MOX燃料5500ドル/kg 以上
内訳 プルトニウム4000ドル/kg
  燃料製造(加工・組み立て)1500ドル/kg

低濃縮ウラン燃料は、キログラム当たり約1200ドルだ。これは、天然ウランの費用(400ドル)、天然ウランの六フッ化ウランへの転換費用(50ドル)、六フッ化ウランの濃縮費用(500ドル)、燃料集合体の製造(加工・組み立て)費用(250ドル)などからなる。これに対し、MOX燃料の方は、製造費用だけでキログラム当たり、約1500ドルとなる。MOX燃料の製造は、低濃縮ウランの製造よりずっと高くつく。なぜなら、プルトニウムは、労働者にとって健康上の害が大きく、従って、遠隔操作機器が必要となるからだ。

このため、プルトニウムがただだとしても、MOX燃料のコストは、低濃縮ウランより高いものとなる。

しかし、プルトニウムはただではない。英国のソープ再処理工場の場合、700ドル/kgHMと推定されている(能力一杯で運転されたとして。でなければもっと高くなる)1kgの燃料を再処理すると、約10グラムのプルトニウムが得られる。従って、再処理の運転コストは、回収プルトニウム1グラム当たり70ドルとなる。1kgのMOX燃料を作るには、約60グラムのプルトニウムが必要だから、再処理は、MOX燃料のコストに、4000ドル/kgを追加することになる。

これには、工場の資本費用(六ケ所の場合には、これは、「埋没」費用とされる)、資本の利子、廃止措置、廃棄物処分などが入っていないことに留意されたい。これらをすべて合わせると、六ケ所の再処理コストは、4000ドル/kg以上となり、MOXはさらに非経済的となる。

これを相殺しうる一つの要素は、再処理ででてくる廃棄物の処分は、使用済み低濃縮ウラン燃料の処分より安くなるかもしれないというものだ。しかし、使用済み低濃縮ウラン燃料の処分コストは米国では400ドル/kgと推定されている。再処理が廃棄物処分コストを半分にしたとしても、この節約分は、MOXの大きなコストを相殺するなどといえるものではない。

○シナリオ1(全量再処理)の高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)を基準とすると、このシナリオでの高レベル放射性廃棄物(使用済燃料)の1000年後における放射能の潜在的な有害度は約8倍となる。

フェター:

そうだ。しかし、1)廃棄物は、人間から隔離される。2)「毒性」は、有用な尺度ではない。廃棄物が人間とどのように接触するようになるかというパスウェーを検討しなければならない。例えば、浸出だ。3)廃棄物の中のもっとも可溶性の高い物質は、(長寿命の)核分裂生成物だ。従って、ほとんどの場合、再処理は、人間の被曝線量を減らすことにはならない。


核情報ホーム | 連絡先 | ©2005 Kakujoho