核情報

2015. 9.24

米元政府高官ら原子炉での軍事用余剰プルトニウム処分計画中止要請
──日本の再処理計画中止の働きかけにも役立つと

9月8日、対日政策に大きな影響力を持ち、駐日大使候補にもなったジョセフ・ナイ元国防次官補を含む14人の元エネルギー・国家安全保障関係米政府高官・専門家らが、米エネルギー省長官に対し、軍事用余剰プルトニウムを発電用原子炉のプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料にして処分する計画を中止して別の処分方法を導入し、それによって、六ヶ所再処理工場の運転開始計画を延期するよう日本を説得する上で有利な立場に立つことを要請する書簡に署名しました。

参考


この書簡については、ワシントン・ポスト紙が9月9日の記事で大きく報じていますが(「エネルギー省長官、サバンナリバーにおける米国の核燃料プログラムを中止するようにと強く要請される」(英文))が、日本でも注目すべき文書です。


  1. 焦点の一つは六ヶ所再処理工場運転開始計画
  2. 軍事用余剰プルトニウム問題の背景
  3. MOX計画コスト高騰と計画見直しの流れ
  4. エネルギー省モニーツ長官宛て書簡
  5. 上記書簡の計画に関わった「不拡散政策教育センター(NPEC)」の関連提案(2015年7月16日)

焦点の一つは六ヶ所再処理工場運転開始計画

書簡は次のように述べて、米国の政策が日本、韓国、中国の使用済み燃料再処理計画・核拡散に与える影響を強調しています。

今MOXプログラムを中止することは米国の核不拡散目的にとって特に有益です。日本は六ヶ所の大型再処理工場の運転をまさに始めようとしています。米国のMOXプログラムを中止し、それにより、プルトニウムには経済的価値がないと明確に示すことは、運転開始の決定を延期するように日本を説得する上で、米国をずっと有利な立場に置くことになります。もっと広く言うと、日本だけでなく、韓国や中国にも、プルトニウムを使った燃料の商業的活動(商業的「実証」規模のプロジェクトも含め)を延期する決定に参加するよう呼びかける機会がここにあります。・・・来年春に開かれる次回の核セキュリティー・サミットでこのような[米日韓中の同時決定]発表をすれば、核不拡散体制を強化する上でまさに歴史的一歩となると私たちは、考えます。

書簡には、核兵器交渉者、大使、国防・国務省高官、ホワイトハウス軍備管理高官、国家情報会議議長、原子力規制委員会委員、テネシー川流域開発公社(TVA)理事会議長等を務めた人物、最初の水爆を設計した科学者(リチャード・ガーウィン)などが署名しています。日本の再処理問題がこのような人々の重大な関心事となっているということです。

軍事用余剰プルトニウム問題の背景

冷戦終焉に伴う核削減によっていらなくなったプルトニウムの処分に米国は手を焼いています。米国が1994年に兵器級プルトニウム38トンと非兵器級プルトニウムのすべてを「余剰」と宣言し、米科学アカデミーの同年の報告書『余剰核兵器プルトニウムの管理と処分(1994年)』(英文)が米ロの解体核のプルトニウムの転用を「今そこにある危機」と呼んでから20年以上が経過していますが、処分計画は進んでいません。下の年表にあるように米ロは2000年にそれぞれ34トンの軍事用余剰プルトニウムを処分することで合意しました。大半はMOX燃料にして発電用原子炉に入れ、運転によって生じた核分裂生成物の放射能でプルトニウムの再分離を難しくするという計画で、2008年から年間2トンの割合で余剰プルトニウムが原子炉に装荷されるはずでした。米国は、2007年にやっとサウスカロライナ州のサバンナリバー核施設でMOX燃料製造工場の建設を始め、現在約70%の進捗率となっていますが、計画中止を求める声が高まっています。これは、商業的なプルトニウムの利用を伴うMOX計画はテロリストによるプルトニウム入手可能性を高めてしまう上に、そのような活動が米国以外の国々で進むことを防ごうとする米国の核不拡散政策の推進を難しくしてしまうという懸念とMOX計画のコスト見積もりの高騰のためです。

軍事用余剰プルトニウム問題略年表

2000年
米ロ、「プルトニウム管理・処分協定(PMDA)」調印
対象 軍事用余剰プルトニウム34トン 処分開始2008年 年間照射量2トン
 米 26トン:軽水炉のMOX燃料として
    8トン 高レベル廃棄物と共に「固定化」
 ロ 34トン 主として軽水炉のMOX燃料として(一部BN600高速炉のMOX燃料)
2002年
米 34トンをすべてMOX燃料とする計画に変更
2007年
米 MOX燃料製造(MFFF)建設開始(サウスカロライナ州サバンナリバー核施設)
2010年
米ロ PMDA改訂 年間照射量1.3トン
 米  34トン全量を軽水炉のMOX燃料として
 ロ  BN600及びBN800高速炉のMOX燃料として


MOX計画コスト高騰と計画見直しの流れ

オバマ中止方針と議会の抵抗

オバマ政権は、2013年4月、14年度予算案において、MOX工場の建設費見積もりが2002年の11億ドルから約77億ドル、運転も入れた総費用は20億ドルから180億ドルに大幅に膨れあがったとして工場建設を中断して別の処分方法を探すと表明しました。ところが、サバンナリバー核施設を抱えるサウスカロライナ州と同施設に労働力を提供している隣のジョージア州の攻勢により、2014年及び2015年会計年度に建設続行のための予算約3億5千万ドルが確保されました。しかし、エネルギー省が委託したエアロスペース社による報告書(2015年4月 pdf)が、このレベルの建設予算では完成は2100年頃となり、今後必要な額は運転コストも入れて2115年までで1104億ドル、建設予算を年間5億ドルに増やすと2044年完成、運転終了が2059年、今後必要な額は475億ドルになると指摘しました。(岩波書店シリーズ日本の安全保障第7巻技術・環境・エネルギーの連動リスク所収拙稿「原子力施設の安全と核セキュリティ」参照。)

エネルギー省モニーツ長官、再調査指示

さまざまなコスト見積もりについて結論を下そうと、エネルギー省のモニーツ長官は6月25日、オークリッジ国立研究所のトーマス・メイソン所長に書簡を送り、MOX処分方法と代替案について評価する「レッド・チーム」を編成し、8月10日までに報告するよう要請しました。核兵器開発の国立研究所や原子力規制委員会の専門家らからなる同チームが8月13日に出した報告書の結論は、MOX計画を成功させるにはその予算を現在の年間約4億ドルから7億~8億ドルにし、そのレベルの支出を34トンの処分が終了するまで続ける必要があり、その場合、建設終了まで15年、その後運転開始作業に3年かかるというものでした(すでに投入されている50億ドル近くと合わせ、MOX計画の総費用は約300億ドルとなる計算になります)。報告書は、プルトニウムを他の物質で希釈してニューメキシコ州の岩塩層に設けられた「廃棄物隔離パイロット・プラント(WIPP)」で処分すれば年間4億ドルのレベルですむとし、MOX計画を中止してWIPPでの処分を採用するようにと勧めています。WIPPでは不純物の混ざったプルトニウムがすでに4トン処分されています。この報告書は公式には未公開ですが、8月20日に「憂慮する科学者同盟(UCS)」が公開しました。(UCSのプレスリリース(英文)、報告書Final Report of the Plutonium Disposition Red Team(13 August 2015)(英文 pdf)モニーツ長官への書簡が冒頭で触れている「レッドチーム」の結論というのはこの報告書のことです。

UCSは、「レッドチーム」報告書の分析は2015年1月のUCSの報告書『余剰プルトニウム処分』(英文)の結論と同様のものだと述べています。

エネルギー省モニーツ長官宛て書簡

(原文)

2015年9月8日

エネルギー省長官モニーツ様、

 私たちがこの書簡をお送りするのは、核兵器用余剰プルニウムを希釈化して廃棄物として処分する方が、「混合酸化物(MOX)」燃料にする方針を続けるよりも、コストとリスクを大幅に低減できるとのエネルギー省「レッド・チーム」の結論についてお話しするためです。私たちたちの多くは、過去に同じような結論に達していました。

 核不拡散問題に関わっている外部の専門家として、また、元政府担当者として、私たちは、この問題について詳細に検討してきました。エネルギー省は、MOX計画を実施しなくとも、この物質を安全に処分する義務を果たすことができます。さらに重要なのは、現在のMOX計画を中止すれば、資金が節約できるだけでなく、この国の国家安全保障に役立つということです。

 MOX計画とプルトニウム・リサイクリングの作業を続けることは、日本や中国、韓国その他の国々のプルトニウム・リサイクリング提唱者らがプルトニウムの分離とリサイクルは責任感のある非核兵器国が実施する活動だとの幻想を維持するのに手を貸すことになります。米国は、40年間にわたってこのような活動の拡散に一貫して反対し続けてきました。核兵器の爆発を起こす材料を商業経路に入れることが核拡散面で持つ明らかな危険性のためです。

 今MOXプログラムを中止することは米国の核不拡散目的にとって特に有益です。日本は六ヶ所の大型再処理工場の運転をまさに始めようとしています。米国のMOXプログラムを中止し、それにより、プルトニウムには経済的価値がないと明確に示すことは、運転開始の決定を延期するように日本を説得する上で、米国をずっと有利な立場に置くことになります。

 もっと広く言うと、日本だけでなく、韓国や中国にも、プルトニウムを使った燃料の商業的活動(商業的「実証」規模のプロジェクトも含め)を延期する決定に参加するよう呼びかける機会がここにあります。これらの活動はどれも経済的意味をなしません。

 このような決定が同時発表できれば、それは、これらの国々政府にとって、プルトニウム・リサイクリングに関連した国内の利益集団に対処する上で力になります。来年春に開かれる次回の核セキュリティー・サミットでこのような発表をすれば、核不拡散体制を強化する上でまさに歴史的一歩となると私たちは、考えます。

敬具

ピーター・ブラッドフォード バーモント法科大学 元米原子力規制委員会委員
ジョセフ・シリンシオーネ プラウシェア財団会長 元下院軍事委員会専門スタッフ
ロバート・アインホーン ブルッキングズ研究所 元国務次官補(核不拡散担当)
デイビッド・フリーマン 元テネシー川流域開発公社(TVA)理事会議長
ロバート・ガルーチ ジョージタウン大学 元国務次官補(政治・軍事問題担当)
リチャード・ガーウィン IBMトーマス・J・ワトソン研究センター名誉フェロー
ビクター・ギリンスキー エネルギー・コンサルタント 元原子力規制委員会委員
ジェシカ・マシューズ カーネギー国際平和財団名誉フェロー 元国家安全保障会議国際問題局長
ジョセフ・ナイ ハーバード大学ジョン・F・ケネディー行政大学院 元国家情報会議議長
トーマス・ピッカリング ブルッキングズ研究所名誉フェロー 元米国連大使
ヘンリー・S・ローウェン スタンフォード大学アジア・太平洋研究センター名誉教授 元国家情報会議議長
ゲイリー・セイモア ハーバード大学ベルファー・センター研究所長 元ホワイトハウス軍備管理・大量破壊兵器調整官
ヘンリー・ソコルスキー 不拡散政策・教育センター所長 元国防長官府不拡散政策担当次長
フランク・フォンヒッペル プリンストン大学公共政策・国際問題名誉教授、上級研究物理学者 元ホワイトハウス科学技術政策局国家安全保障担当次官

上記書簡の計画に関わった「不拡散政策教育センター(NPEC)」の関連提案(2015年7月16日)

(原文 pdf)

プルトニウム燃料に関する互いにとって利益となる政策

不拡散政策教育センター(Nonproliferation Policy Education Center=NPEC)

本ホワイト・ペーパー(提案書)の目的は、プルトニウム燃料の開発に関して中国、日本、韓国の互いにとって利益となる政策を提示することにある。これらの国々は、それぞれ、プルトニウム技術の最終的商業化に向けた措置を講じてきた。

本政策提言の作成に至った考え方の基礎にあるのは、いかなる商業的プルトニウム製造にもつきまとう安全保障面の問題である。商業的な意味で小さなプルトニウムの量は、安全保障の面においては非常に大きな意味を持ち得る。商業的な生産レベルはトン単位で測られる。核兵器に必要なプルトニウムの量はキログラム単位で測られる。これらの国々がそれぞれプルトニウムの商業化に向けた道を進み続け、プルトニウムを蓄積すれば、安全保障面での影響は深刻なものとなる。プルトニウムの急速な軍事転用を防ぐ体制は存在していない。

これらの国々はそれぞれ、プルトニウム燃料を追求することによって得られるということになっているエネルギー面の利点を獲得しようとしているが、同時に、他の国々が再処理の道を進むことが持ち得る安全保障上の意味合いについては理解しており、懸念を抱いている。それぞれ、理想的には、隣国には制限を掛けながら、自国のエネルギー・オプションについては自由に追求したいと考えている。しかし、これは、非現実的である。プルトニウム・プログラムは、三カ国のそれぞれすべてで進むか、三カ国とも――少なくとも当座は――自制するかである。これらの国々の上層部の個人の中には、これらの国々にとって唯一の現実的な解決策は、お互いに控えると三カ国で合意することだと理解している人々がいるようである。私たちが提案するのはまさにそれである:商業的なプルトニウム燃料施設の建設及び運転を――このような展開が軍事転用に繋がることを防ぐ適切な手段が整うまで――延期すること。

もちろん、これらの国々のそれぞれや米国では、プルトニウムを基礎とする燃料の商業化の提唱者らが、今前進することが絶対に必要だと主張している。しかし、現在の軽水炉におけるプルトニウム燃料の使用は経済的な意味をなさず、以前にも意味をなしたことはなかった。なぜなら、プルトニウムを抽出するための使用済み燃料の再処理のコストが高いからである。プルトニウム燃料の開発の元々の動機は、ウランの値段がウランを燃料とする現在の軽水炉の運転にとって高すぎるようになった時点で経済的になるはずの高速増殖炉の燃料を提供することにあった。米国では、この考え方は次のような時代状況を背景に出てきた。すなわち、当時ウランは後に判明するよりもずっと希少だと考えられており、再処理コストの想定は今日の現実のコストよりずっと低いものになっていたし、ウラン消費型の発電用原子炉の建設予測数は後に実現されたものの10倍ほどだった。現在の世界の原子炉建設の割合で行くと、急上昇している中国の発注を計算に入れても、手頃な値段のウランが枯渇する危険性は微塵もないし、軽水炉よりも値段の高い高速増殖炉が予見できる将来に競争力を持つ可能性もない。

様々な原子力研究所は、しばしば、プルトニウム燃料への移行は何十年もかかりうるから、今開始することを許可されるべきだと主張する。原子力技術者たちが予測するプルトニウム燃料への移行が実現するかどうかは保証の限りではない。原子力の将来に関する彼らの予測は何十年も外れ続けている。時期尚早なかたちの商業的コミットメントは、直接コストの面でも、時代遅れの技術から抜け出せなくなるという意味でも、遅すぎるコミットメントと同じぐらい高いものにつきうる。いずれにしても、ウランの価格が予想外のレベルにまで上がるようなことになったとしても、対応する時間は十分にあるだろう。

再処理はまた、どんな形のものにせよ――現在のものであれ、先端的なものであれ――核廃棄物処分の役には立たない。再処理推進派は、使用済み燃料から放射性の部分――全体の5%以下――を分離することによって得られる廃棄物量の低減を指摘する。この利点は幻想にしか過ぎない。なぜらな、再処理は、それ自体核廃棄物の「流れ」を作り出し、機器の汚染をもたらすことにより、廃棄物管理をいろいろな形で複雑にするからである。

さまざまな先端型の再処理の推進を許すべきだという主張がなされている。純粋なプルトニウムではないものを製品とするようになっているからだという。これに対する最善の答えは、米国においてそのような先端型再処理を提唱した前ブッシュ政権の『戦略報告書』にある。報告書は、つぎのように明確に述べている。そのような先端型の再処理はテロリスト・グループがこの物質を入手した場合の転用に対する予防を強化することになるかもしれないが、そのようなプラントの所有者や運転者によるプルトニウムの分離に対する大きな技術的バリアは提供しない。

要するに、現在の状況ではプルトニウムの商業化の安全保障上の意味合いから逃れる道はない。我々は、3カ国の政府関係者がこのような認識を持っていることを知っている。だが、彼らは、自国で商業化の延期を提案することをためらっている。なぜなら、そういう提案は「自国を不利な立場に置き、他国を利するもの」と見えると恐れているからである。この提案は米国から出されるのであるから、米国もサウスカロライナ州で建設中のいわゆるMOX燃料(プルトニウム燃料)製造施設をキャンセルすることによってこの取り決めに参加すべきだと我々は考える。このことを念頭に、全体的提案は、中国、日本、韓国におけるすべてのプルトニウム商業化を同時に延期するとともに、米国のMOX製造工場の建設を中止するというものである。この提案の一部として、我々は、これらの国々がプルトニウムのリサイクルを伴わない核廃棄物の貯蔵・処分のための中間的・長期的手段の開発について協力しあうよう提言する。

このような措置は非常に有益なものとなるだろう。それぞれの国に相当の節約をもたらす。もっと重要なのは、核兵器に使える物質の膨大な増大の可能性に蓋をすることによって北東アジアの安全保障と安定性を増すことになるという点である。このような措置は、どの国にとっても一国で実施するのは政治的に難しいかもしれないが、商業的プルトニウム計画を延期する政策をこれらすべての国が同時に非公式な形で採用すれば道が開けるだろう。



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