核情報

2022.12.29

水爆研究施設の実験成功をたたえる日本の報道

12月14日~15日にかけて、各紙が、一斉に米国のレーザー核融合施設での実験「成功」について大きく報じた。「核融合で投入以上のエネルギー獲得に成功」(毎日)、「今回は小規模で実用化まで多くの課題があるが、核融合発電に一歩近づいた」(朝日)、「核融合実験で世界初、エネルギー『純増』に成功」(読売)、「脱炭素につながる夢の技術の重要な一歩になる」(日経)、という具合だ。

12月5日の実験で成功を収めたローレンス・リバモア国立研究所は、米国の主要核兵器研究所の一つであり、レーザー核融合実験に使われた「国立点火施設(NIF)」は、水爆の爆発過程の研究のためとして建設されたもので、その建設予算の全額がエネルギー省の核兵器部門から来たという話がほとんど抜け落ちている。

これに対し、例えば、ニューヨーク・タイムズ紙(12月13日)は、「国立点火施設(NIF)の主要目的は、米国の核兵器維持に役立つ実験を行うことだ。このため、エネルギーの創出にとっての直接的意味合いは仮説的なものとなる」と述べている。

各紙の今後の報道に期待するという意味も込めて、NIFの役割について簡単にまとめた後、米政府の文書などを見ながら実験の実態について見ておこう。

<追記>本件、2023年4月11日原子力資料情報室連続ウェビナー「GX基本方針を徹底検証する」第3回:核融合と核開発(録画)で話させていただきました。


(目次)
  1. 「国立点火施設(NIF)」とは
  2. 未臨界実験との関係は?
  3. 水爆との関係について今回ヒントがなかった?
  4. エネルギー省は水爆との関係について隠してはいない
  5. 「点火」で何が起きたか──発電に向けての一歩?
  6. 点火の仕組みを説明するLLNLの画像
  7. NIFの起源──核実験禁止条約との交換条件
  8. 冷静な報道を
  • 背景資料
    1. 実は水爆研究に焦点を当てていたエネルギー省の成功発表記者会見イベント(2022年12月13日)
    2. 元国立研究所所長もNIFは水爆研究のためのものと──発電については、基本的にでたらめと
    3. NIFの役割についての公式説明
    4. 2001年4月10日にHOAYに提出の41団体抗議文書
    5. 2001年国会での議論
    6. 米国反核団体代表ら15人の書簡──2001年原水禁大会に寄せて
    7. 米国の専門家から送られてきたメッセージ
    8. 原子力資料情報室「GX基本方針を徹底検証する」第3回:核融合と核開発のパワポ資料(改訂版)米国「レーザー核融合実験成功」の意味

    参考:

    「国立点火施設(NIF)」とは

    サンフランシスコ郊外の「ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)」にある「国立点火施設(NIF)」は、レーザーのエネルギーを使って、水爆の爆発現象(核融合)を小規模で再現するために計画された。合わせて核兵器開発用のコンピューター・コードを開発し、核実験をしなくても、核兵器を設計・開発する能力を得ることを目指したものだ。幅八五メートル、長さ二〇〇メートルほどの大きさで、ドーム型のフットボールのスタジアムより一寸小さい程度だ。この巨大な施設の中で一九二本のレーザー・ビームを走らせながら、その過程でエネルギーを増幅していく。最後に直径一〇メートルのターゲット・チェンバーの中心部にこのエネルギーを集中させ、直径数ミリのカプセル内に封入された水素の同位体──二重水素と三重水素(トリチウム)──の核融合を起こさせようという装置だ。

    建設開始は1997年だ。米国連邦会計検査院の報告書(pdf)(2000年8月8日)は、NIFの実験の85%は、核兵器物理の研究のためのものになると述べている。残りの15%の中にも、核兵器の影響を調べるものが含まれるとの分析だ。NIFで実験研究は、核兵器の設計能力を持った集団を維持するという意味ももつ。

    2001年に、この水爆研究施設にメガネのHOYAの米国現地法人が、レーザー増幅用の特殊ガラス(施設の中核的部品)を納入していると報じられた(共同通信2月6日)結果、広島長崎両市長や被爆者団体・反核団体などの抗議の声が上がり、国会でも議論になった。また、米国の反核団体からもこの運動に対する支援の声が寄せられた米国専門家らからはNIFについての解説や資料の提供などもあった。報道後の当初の抗議の結果、一時納入が中止されたが、その後まもなく再開された。(この件についての情報は、ウィキペディアのHOYAの項目にも記載があるし、各紙のデータベースにもあるだろう。実は、1985年には、ローレンス・リバモアで建設されたNIFの前身のノバへの納入が問題化していた(朝日新聞1985年4月12日))。このような経緯を経て、NIFが完成したのは2009年だ。

    NIFの目標は、きわめて短時間ながら、自発的な反応の持続を起こすことだった。レーザー・エネルギーで起こした核融合自体のエネルギーで反応が持続するこの状況を「点火」という。ここから「国立点火施設」という名前がきている。要するに小規模の核融合「爆発」だ。実現すればNIFの核融合現象は、水爆でのものに近づくことになると頑張り、完成から13年で、やっと達成できたというので今回のニュースとなった。かかった費用の総額35億ドル(約4700億円)は、エネルギー省の中の核兵器部門「国家核安全保障局(NNSA))から来ている。同省科学局の核融合プログラムは関係していない。

    未臨界実験との関係は?

    日本で大きく取り上げられてきた未臨界実験は水爆の引き金となる原爆部分(第一段階=プライマリー)に関するものだ。NIFは、第二段階(=セカンダリー)を成す核融合の研究に使われる。しかも、これまで発表されている未臨界実験は、臨界どころか核分裂も伴わないものであり、高温・高圧にさらされたプルトニウムの振る舞いを調べる物性実験であるのに対し、NIFは実際の水爆の核融合爆発を小規模ながら起こすものだ。水爆研究にとっての重要度ははるかに高い。それが、今回、いよいよ、水爆での現象を再現する「点火」に成功したということだ。もっとも、これら二つの種類の実験が核兵器維持(開発)にとって謳い文句通りの役割を実際に果たせるかどうかは別の問題だ。ここで重要な点は、核兵器のために必要だとしてエネルギー省の核兵器部門からNIFに資金が出ているということだ。核兵器部門から切り離し、核融合発電用としてNIFのような施設を建てようとしたのなら、資金は出ていない。

    水爆との関係について今回ヒントがなかった?

    ブルームバーグが、12月12日に「米国立研、核融合で投入上回るエネルギー放出か-政府重大発表と報道」と題された記事で、英フィナンシャル・タイムズ紙の記事を紹介する形で次にように報じていた。「エネルギー省はグランホルム長官とハルビー・エネルギー次官(核安全保障担当)が13日、ローレンス・リバモア国立研で『重大な科学の画期的な成果』を発表する予定なっている。」背景を知らずとも同省核兵器部門の研究だと分かったはずだ。

    だが、水爆との関係に触れた日本での報道としては、共同通信の「核融合で投入以上のエネルギー 米研究所、発電実現には時間も」(12月14日)に次のような記述があるぐらいだろうか。「原理は水爆と共通している。研究所幹部は、地下核実験を排除しつつ核抑止力の維持のため研究を進めてきたと話した。」実は共同通信は、2014年の記事「レーザー核融合、投入量超すエネルギー放出 米チーム確認」(2014年2月13日)でも次のように述べていた。「核融合は水素爆弾のエネルギーにもなり、今回の実験は米核安全保障局の核弾頭管理プログラムの一環。チームの責任者は、長期保管する核弾頭が正常に作動することを、起爆させずに確かめるシミュレーション手法の高度化に役立つと説明している。」

    エネルギー省は水爆との関係について隠してはいない

    今回の成果に関する研究所のリリース「国立点火施設核融合点火を達成」(2022年12月14日)は「エネルギー省国家核安全保障局(NNSA)の核兵器維持管理プログラムを支え」「核実験なしで核抑止力を維持する」能力に明確に言及している。

    12月5日、ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)の国立点火施設(NIF)のチームは、歴史上初めての制御された核融合実験を実施し、「核融合点火」という一里塚に達した。これは、科学的エネルギー損益分岐点とも呼ばれるもので、核融合から、それを起こすのに使ったレーザー・エネルギー以上のエネルギーを得たということだ。この歴史的な、今までにない成功は、NNSAの「科学を基礎とする核兵器維持管理プログラム」(=サイエンス・ベイスト・ストックパイル・スチュワードシップ・プログラム)を支える新しい能力を提供するとともに、クリーンな核融合エネルギーの前途について貴重な知見を提供する。それは、バイデン大統領のネット・ゼロ・カーボン・エコノミーという目標の達成に向けた試みにとってゲーム・チェンジャーとなるだろう。・・・・
    グランホルム米エネルギー省長官は次のように述べている。「バイデン・ハリス政権は世界トップレベルの科学者──NIFのチームのような──をサポートすることにコミットしている。彼らの仕事は人類にとって最も複雑で差し迫った問題──気候変動と闘うためにクリーンな電力を提供すること、核実験なしで核抑止を維持することなど──を解決する助けとなる」

    また、LLNLのホームぺージの「NIFとストックパイル・スチュワードシップ」という項目には、次のようにある。

    NIFは、近代的核兵器の動作の理解に関連した[物理的]条件・状況を生み出すことのできる唯一の施設なので、「国家核安全保障局(NNSA)」のサイエンス・ベイスト・ストックパイル・スチュワードシップ・プログラムに欠くことのできない要素だ。

    「点火」で何が起きたか──発電に向けての一歩?

    まず、点火実験の成功について、カナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学M・V・ラマナ教授の説明を元に、簡単にまとめておこう。

    レーザーを使って、2.05メガジュールのエネルギーをカプセルに集中して起こした核融合反応で得られたのが3.15メガジュール。この反応の時間は、数ナノセカンド(ナノセカンドは10億分の1秒)

    (NNSAのマービン・アダムズ国防プログラム担当副局長の言葉を借りると、その時間は光が1インチ(2.54㎝)進む時間より短かいものだった)。

    この出力は、熱にすると0.875キロワット時。普通の発電の場合なら、電力にして0.3キロワット時。投入したエネルギーと出力との比率は1.5だが、実は、192本のレーザーを使って2.05メガジュールを投入するのに約400メガジュールが消費されている*。実際の比率の計算をしようとすると、さらに、施設全体を運転するのに必要なエネルギー、そして、施設・機器の建設にかかったエネルギーを考慮しなければならない。

    現在は、いろいろ準備して「点火」する作業は、1日に1回しかできない。シリンダーの中の絶妙な位置にカプセルをぶら下げ、そこに192本のレーザーのエネルギーを集中させる。実用化となると、この狙い撃ちが1秒間に何回も必要となる。毎秒6回として、24時間、365日間で、50万倍規模の改善が必要ということだ。発電装置をどうやって作るかはまた別の話となる。

    * これは、LLNLのサイトにある一般的説明で登場する数字だが、今回の成功に関してLLNLは、2.05メガジュールを投入するのに300メガジュールが送電線から消費されたと説明している。

    では、NIFは何のためのものか?ラマナ教授の説明から直接引用すると:

    「人類学者のヒュー・ガスターソンが、幹部職員にレーザー・プログラムの目的について尋ねたことがある。その幹部の答えはこうだった。『誰と話しているかによる・・・エネルギー・プログラムであることもあるし、兵器プログラムであることもある。要は聴衆によるということだ』」

    出典: Clean Energy or Weapons? What the ‘Breakthrough’ in Nuclear Fusion Really Means – The Wire Science 15/12/2022

    また、クリーンなエネルギー源という謳い文句が使われているが、核融合の際に発生する中性子が施設の構造物の放射化をもたらす点、発電規模となると大量のトリチウムが扱われることになる計画だが、この放射性物質が様々な過程で放出される点についての検討が今回の報道で見当たらないのも不思議だ。

    点火の仕組みを説明するLLNLの画像

    ここでLLNLの提供している画像を見ながら、実験の状況を確認しておこう。

    このような装置を使って192本のレーザー・ビームのエネルギーのレベルを上げていく。


    表面を金で覆ったシリンダー(上)の中に、直径数ミリメートルのカプセル(下)を設置して 192本のレーザー・ビームで狙い撃ち。



    実際は、シリンダーの両端から入ったレーザー・ビームがシリンダーの壁を撃ち、それにより発生したX線が球状のカプセルを押しつぶし、核融合をもたらす。

    LLNLの宣伝用映像(The Beamline to IgnitionHow NIF Works)は、施設の概観、各構成要素などのイメージをつかむ助けになる。


    シリンダー(ホーラム)の詳細図


    2021年8月8日の「画期的」実験で使用されたシリンダー
    劣化ウラン(DU)を金の膜で覆っている

    出典:Three peer-reviewed papers highlight scientific results of National Ignition Facility record yield shot LLNL Aug. 8, 2022

    参考:High-Quality Diamond Capsule Enhanced NIF’s Record-Energy Shot LLNS December 1, 2021


    NIFの起源──核実験禁止条約との交換条件

    プリンストン大学のフランク・フォンヒッペル名誉教授は、クリントン政権のホワイトハウス科学技術政策局次長となる前の1993年春に、核兵器研究所関係者らを招いた会合に招待された際にNIFの起源を目撃したという。当時、クリントン政権は、包括的核実験禁止条約について検討していた。会合はエネルギー省のオリアリー長官に核実験停止について情報を提供するためのものだった。研究所側は、あと15回必要だとの主張だった。議会は、核実験は必要ないとの立場だった。オリアリー長官も、同じ考えだった。状況を見て、サンディア研究所のアル・ナラス所長が長官にこう言ったとフォンヒッペルは記憶している。「核実験をするために我々に出しているのと同じ額を、核実験をしないために出してくれるなら、あなたたちの立場からものを見ることができるようになるかもしれない。」これが、サイエンス・ベイスト・ストックパイル・スチュワードシップの始まりだと、フォンヒッペル名誉教授は説明する。NIFや未臨界実験はその一部だ。

    出典:The Decision to End U.S. Nuclear Testing By Frank N. von Hippel ARMS CONTROL TODAY, December 2019

    この取り引きの提案は、1995年8月11日に、クリントン大統領がCTBTの下での米国の安全を保障するための措置として挙げた項目(pdf)に反映されることになる。

    1. サイエンス・ベイスト・ストックパイル・スチュワードシップの維持
    2. 研究施設・プログラムの維持
    3. 実験再開のための基本的能力の維持
    4. 条約違反の技術的モニタリング能力の改善
    5. 情報収集
    6. 核抑止にとって重要な核兵器システムの安全性及び信頼性が維持できないと判断される場合には「至高の国益」条項の下でCTBTから脱退できるとの理解。

    この安全保障措置は米国の保守派のCTBT反対の声を封じるという側面を持っているとともに、大きな政治的力を持つようになってきている核兵器開発研究所(ロスアラモス、ローレンス・リバモア、サンディアの国立研究所)との取り引きという側面も持っていた。つまり膨大な資金を各種新施設の建設に注ぎ込み、雇用も確保するからCTBTに反対しないようにして欲しい、というものだ。

    だが、これは、研究所の力を増す結果をももたらした。F条項の下では、核兵器システムの安全性及び信頼性について、エネルギー省と国防省の長官が判断することになっているが、その基礎になるのは3つの研究所の所長の判断だ。条約の生殺与奪の権を研究所が握っている格好だ。少なくとも、米国議会でのCTBT批准までは、クリントン政権は研究所を満足させておかなければならないという関係になってしまった。そして、この関係がその後も続くことになる。CTBT脱退という事態を招かないためには、研究所に資金や施設を与え続けなければならないというわけだ。

    NIFの「画期的成功」を大々的に宣伝するのは、LLNLにとって、この構造を維持するための資金獲得キャンペーンでもある。

    冷静な報道を

    米国の核兵器計画の中で中心的な位置にある核融合施設での「点火」実験を、「夢の核融合発電に一歩近づく画期的成功」と称えるだけでは、水爆研究礼賛となり、上述のような構造の固定化に貢献することになりはしまいか。各紙には、これまで行ってきた「核のない世界」、「未臨界実験」、「トリチウム放出」、「地球温暖化」などに関する報道との関係について考察した冷静な報道を望みたい。


    背景資料

    実は水爆研究に焦点を当てていたエネルギー省の成功発表記者会見イベント(2022年12月13日)

    記者会見イベントは2部に分かれており、第1部ではエネルギー省の高官らが話をし、第2部では実験に関わった技術者らのパネルが実験について具体的説明をするという構成だ。

    第一部の冒頭ではエネルギー省のグランホルム長官がクリーンなエネルギー源について話をしているが、実際に実験について説明した「国家核安全保障局(NNSA)」のマービン・アダムズ国防プログラム担当副局長は水爆研究の意味について語っている(11:53~15:31)。簡単に実験で起きた現象について描写した後、次のように述べている。

    核融合は、現在の核兵器に欠かすことのできないプロセスだ。また、豊富でクリーンなエネルギー源となる可能性を持っていて、これは、お聞きになった通りで、今後も聞くことになるだろう。NIFでのブレークスルーは、クリーンなエネルギーにとって影響を持つ。
    もっと即座な形では、この成功は、少なくとも三つの面で我が国の安全保障を促進する。
    第一に、NNSAの国防プログラムが、核爆発実験を伴うことなく、我が国の抑止力に対する信頼を維持する助けとなるような研究所での実験に繋がる
    第二に、核兵器に関連した技術における世界のトップレベルの専門的能力を──つまり我々が自分たちがやっていることを理解していると──示すことによって我が国の抑止力の信頼性を支えることになる。
    第三に、我々は自分たちがやっていることを理解していると、同盟国を安心させ続け、そして、核実験を避け続けることは、我が国の核不拡散の目的を推進し、我が国の安全保障を強化することになる。

    元国立研究所所長もNIFは水爆研究のためのものと──発電については、基本的にでたらめと

    ボブ・ロスナー元アルゴンヌ国立研究所所長(2005~2009年)は、米核問題専門誌『ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ』のインタビューで、NIFの実験は水爆研究用のものであることを強調している。

    12月5日に、点火と自立的核融合を達成する素晴らしい成功を収めた人々は、DOEの核融合プログラム(科学局の核融合部)に所属していない。彼らは、我が国の保有核兵器の管理をしているNNSAで仕事をしている。
    核実験をやめたとなると、明らかな問題は、この連中は、核兵器体制の全体がまだ機能するってどうやってわかるんだってことだ。これが、舌を噛みそうなサイエンス・ベイスト・ストックパイル・スチュワードシップ・プログラムの始まりだ。そこで約束されたのは、先進型のコンピューターを使い、一連の新しいコンピューター・コードと、新しい種類の実験──非・核実験と呼ぶものや爆発を伴わない未臨界実験など──を合わせて、これが保有核の認証に役立つようになるということだった。

    さっき言ったように、NNSAは、新しい実験施設を作ることにした。そのうちのひとつがNIFだ。NIFの建設が始まったのが1997年だ。

    これはNIFの使用方法のうちの一つに過ぎない。「なんで点火を選んだのか」って言うと:
    まず、科学が魅力的で、そして、「分かってる」って示して見せることができる。

    第二に、点火が達成できれば、膨大な、すごい量の放射線、それに、極度の温度・圧力が得られる。それを、例えば、核兵器に欠くことのできない様々な物質の特性をテストするのに使える。色々な問題に対する答えが得られる。「核兵器に、別の種類の材料を使ったらどうなる?この膨大な量の放射線にどう反応するか。このような温度や圧力に?」。こうして、温度、放射線環境、圧力に関する限り、そういう実験をNIFでやることができる。だから、この二番目の利用法は、核爆発の際の物理的条件を再現することができるという事実と関連している。

    そして、3番目の理由がある。核兵器は長期に亘って存在することになる。どれだけ廃絶したいと思っても。現在とは異なる国家間の信頼体制が出来上がるまでは、続く。どういうことかと言うと、遠い将来に亘って──50年、60年、あるいは100年──これらの兵器を維持したいとして、これを取り扱うことが必要となる。つまり、特別な集団が必要となる。ほとんど大祭司のような感じだ。自分たちが何をやっているか分かっていると我々が信じられる核兵器の大祭司だ。

    元の核兵器を作った人々の世代は、引退しているかもうこの世にいないか。・・・
    30代の人々を訓練しなければならない。・・・
    この施設は、新しい核兵器設計者世代を訓練するのに使える。この施設は、次世代用の教育施設とみなすことができる。・・・

    (「国家核安全保障局(NNSA)」のマービン・アダムズが言ったことだが)
    点火を達成し、燃焼を維持できれば、敵に対してシグナルを送ることになる。やれるといったことを実際にやる能力を持っていると。これは大変なことで、間違いなく、点火と「ゲイン」に向けて努力する4つ番目の動機となる。

    (実験についてまとめると)
    この施設は、一日に1回、撃てる。そのアウトプットは2メガジュール強だ。 エネルギー源とするなら、同じことを少なくとも1秒に10回やらなきゃいけなくなる。

    「これができるレーザーがあるか」と聞くなら、夢でもあり得ないって話だ。ペレット一個作るのに10万ドル強かかる。・・・これは、特注のペレットだ。 恐らく作るのに、1週間あるいは、それ以上かかっただろう。

    発電所なら、同じ基準で作られたそういうものが、毎日100万個を優に超える形で必要になる。技術的課題は、とんでもないものだと想像するだろう(その通りなのだ)。

    こういう施設からどうやって電力を取り出すかについては説明していない。これについて、あるいはコストについて、まだ、話し始めてさえいない。

    [核融合で発電?]

    基本的にでたらめ。でしょ? この会話の始まりはそういうことだった。

    ところで、エネルギー省の記者会見は、全体が二つの部分に分かれていた。まず、記者会見があってグランホルム長官と省指導部が話をする。そして、その後、リバモアの科学者らのパネルが続く。この実験に関わった科学者らだ。このパネルはちゃんとしている。パネルの発言を聞けば、これは発電に関するものじゃないとすぐにわかる。

    出典: The Energy Department’s fusion breakthrough: It’s not really about generating electricity Bulletin of the Atomic Scientists, December 16, 2022

    NIFの役割についての公式説明

    エネルギー省報告書 1995年12月19日

    「THE NATIONAL IGNITION FACILITY(NIF) AND THE ISSUE OF NONPROLIFERATION」 Final Study Prepared by the U.S. Department of Energy Office of Arms Control and Nonproliferation (December 19, 1995)

    「NIFの主たる目的は、核兵器に関連した物理学の専門家集団を米国で維持することにある。」 8ページ
    「核兵器維持管理計画におけるNIFの主たる役割は、もっと一般的な意味で核兵器に関連した物理に関する中核的な知的・技術的能力を維持することにあるが、セカンダリーやブースト型プライマリー過程の一部に関連したコンピューター・コードの予測能力の改善のための特定のデータを提供することもできる。」 14ページ

    2002年度予算書

    Weapons Activities Proposed Appropriation Language

    「NIFは将来に渡って核抑止力を維持する能力にとって欠くことのできない要素」

    エネルギー省国家核安全保障局報告書(2001年4月6日)

    「NIFは、研究所の科学者達が、これまでに研究できなかったような物理的状態における核兵器の振る舞いについて調べることを可能にする能力を大きく高める。」

    「[NIFの]点火という目標は、[エネルギー省の]「国防計画(DP)」にとって、いくつかの理由で重要である。第一に実験施設内における点火は、知られている限り、熱核燃焼に関連した兵器問題を研究する唯一の手段である。第二に、点火は、はっきりと目に見える形で、次世代の[核兵器]設計者達の能力を試す複雑で難しい実験を必要とする。ネバダ実験場で行われていたようなものである。第三に、点火という課題は、核兵器維持管理計画に最高レベルの才能を持った人々を引きつけるのに必要である。第四に、難しい総合的な問題として、高等なシミュレーション・ソフトにとって、重要な検証テストとなる。最後に、点火に関連した、いくつかの核兵器物理実験が提案されている。これらの特定の実験の有用性については、さらに研究が必要である。しかし、他の開発と同じく、点火は、未だ概念化もされていないが、核抑止の長期的維持に決定的となるような核兵器プログラムに貢献する可能性がある。」

    「点火は、重要な道具となる。なぜなら、[核兵器]設計者にとって設計・検証の課題を提供するからである。これは、核実験が行われていたときに存在していたようなものであり、高度な科学的な能力を維持し、「核兵器の認証者を認証する」手段となる。点火カプセルにおける条件は、核兵器におけるものと全く同じではないが、はっきりした総合的な難しい問題を解決するという課題は、確固とした核兵器設計プログラムを維持するのに重要である。」

    2001年4月10日にHOAYに提出の41団体抗議文書

    米国核兵器研究施設「国家点火施設(NIF)」へのガラスの納入を直ちに中止せよ

    HOYA株式会社 代表取締役 鈴木 洋 様

     貴社は、米国エネルギー省が同省の国防部門の予算を使って、核兵器の性能を維持・ 改善するために建設している施設「国家点火施設(NIF)」への納入を、NIFは、 「国防技術の維持・拡大を中心に据えたものではない」「核兵器をなくすのに資する」 などと支離滅裂なことを主張して正当化しようとしている。被爆国の企業として、許 しがたい暴挙と言わざるを得ない。

     また、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を拒否し、いつ核実験を再開するか わからない米国で、核兵器の設計能力を維持することを主要目的の一つとするNIF の建設に貴社が協力することは、日本が批准した同条約第1条2項で定められた次の 義務に違反する可能性が濃厚である。

     「締約国は、さらに、核兵器の実験的爆発又は他の核爆発の実施を実現させ、奨励し 又はいかなる態様によるかを問わずこれに参加することを差し控えることを約束する。」

     NIFへの納入は、この条文の精神に反していることは間違いなく、日本全体が国際 的批判に曝される可能性が高い。

     被爆国、日本の市民として、又、消費者として、私たちは、貴社が直ちにNIFへの 納入を中止するよう強く要望するものである。

    署名団体名:

    原水爆禁止日本国民会議
    原子力資料情報室
    グリーン・アクション
    日本消費者連盟
    グリーンピース・ジャパン
    地球の友ジャパン
    太平洋軍備撤廃運動(PCDS)国際事務所
    婦人民主クラブ
    原発を考える品川の女たち
    ストップ!核のゴミキャンペーン
    ストップ・ザ・もんじゅ東京
    埋めてはいけない!核のごみ 実行委員会みずなみ
    下北半島と神奈川を結ぶプロジェクト
    原子力行政を問い直す宗教者の会
    インド・パキスタン青少年と平和交流をすすめる会
    グローバル・ピースメーカーズ・アソシエーション
    ピースリンク広島・呉・岩国
    原発止めよう神戸行動実行委員会
    放射能のゴミはいらない!市民ネット・岐阜
    地球救出アクション97
    長崎県被爆者手帳友の会
    長崎原爆被災者協議会
    長崎県平和・労働センター単産被爆者協議会連絡会議
    全国被爆二世団体連絡協議会
    長崎県被爆二世の会
    チェルノブイリの子どものためのリサイクルグループ"カリーナ"
    チェルノブイリと核の大地写真展事務局
    東電と共に脱原発をめざす会
    プルサーマル公開討論会を実現する会
    第九条の会ヒロシマ
    ゆったり暮らす会
    原発あっていいん会(札幌)
    反原発町田ネットワーキング
    原水爆禁止調布市民会議
    原発を知るシガ連絡会
    ノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパン
    核兵器廃絶をめざすヒロシマの会
    反原子力茨城共同行動
    脱原発とうかい塾
    脱原発「かんそいも通信」
    東海原発・ 再処理に反対する市民の会
    進出企業問題を考える会
    A SEED JAPAN

    米国核兵器研究施設「国家点火施設(NIF)」へのガラスの納入を直ちに中止せよ

    2001年国会での議論

    第151回国会 衆議院安全保障委員会 第8号 2001年6月14日

    社民党今川政美衆議院議員 質問

    ○今川委員 時間の関係で、本来は、事前の通告では、宇宙条約に関する問題であるとか集団的自衛権のところもちょっと外務大臣の方にお聞きをしたかったんですが、途中、時間の関係でちょっと入れかえまして、三番目の、ガラスメーカーHOYAに関する問題を先にやらせていただきたいと思います。

    これは、光学ガラスの日本の大手メーカーであるHOYAという会社が、実はアメリカの水爆研究施設、国立点火施設、略称NIFというんですか、にその主要な部品となるレーザー光線増幅用の特殊ガラスを納入しているという問題です。これに対しては、市民団体や被爆者団体などがかなり厳しくHOYAに対しては抗議を申し入れて、そういうことをやめてほしいということを言っているわけですけれども、まずこの事実確認ですが、外務大臣、これは御承知ですね。

    ○宮本政府参考人 存じております。

    ○今川委員 これは核爆発を伴うような実験に直接かかわっているんじゃないんですけれども、少なくともこれは、現在米国が持っている核兵器の維持管理、あるいは、そこにとどまらずに新型の核兵器の開発にもつながりかねない、あるいはつながっているかもしれない、そういうところに、HOYAの現地法人ではありますから、直接的に、武器輸出禁止三原則に直接触れるわけじゃないんですけれども、そういう水爆開発という核開発にかかわるようなところに、少なくともこのHOYAの場合にはNIFが必要とする三千五百枚のガラス板のうちの約半分を納入し、残りの半分は米国にあるドイツのショット社というところが納入しているらしいんですけれども、少なくとも日本の民間企業がこのような形でかかわっていいのかという問題はどうですか。

    ○宮本政府参考人 NIFが実施しております計画でございますが、これは保有する核兵器の安全性と信頼性を核爆発を実施することなく確保するための保有核兵器の管理運営計画、その一環でやっているというふうに聞いておりますし、その種の行為、行動につきましては、CTBTが禁止しております核爆発には該当しないというのが国際社会の共通した理解でございますので、そのことをもって直ちに問題があるというふうには理解いたしておりません。

    ○今川委員 確かにCTBTは、今国内的にも問題になっているのは、核爆発を伴わなければそれでいいのか。よその国は別ですよ。我が国は少なくとも非核三原則もあり、特に被爆国ですから、そういう核の開発だとかという問題にはもっと厳しい姿勢でありたいと思うんですね。

    これは、少なくとも、ことしのたしか三月ぐらいでしたか、広島の市長などもやはり中止すべきだということでHOYAに申し入れて、ごく一時期ですけれども一たん見合わせているんですね。そういった意味では、日本の政府として責任を持って、HOYAの本体、本社に対して、これはやはり問題があるということで早急に中止を申し入れていただきたいと思うんですが、この点、田中大臣、いかがですか。

    ○田中国務大臣 この問題も私も関心を持っておりますけれども、今のところは確かにHOYAから直接詳しい情報はまだ得られておりませんので、詳細なコメントはできずにおりましたし、また、いろいろ調べてみても、核爆発につながるようなものではないというふうなことは間接的に聞いておりますけれども、今そういう御提案もありますので、今のような、もう少し事務方から、詳しい説明のお時間をいただけるのであればもう少し詳しいことを申し上げますが、いずれにしても、CTBTの早期発効に向けて努力をするということは大事であるというふうに思っております。

    あと、事務方からもう少し詳しいことを申し上げた方がいいと思いますので。

    ○宮本政府参考人 核軍縮を行えというのが日本国民の強いお気持ちであるということはわかっております。

    政府といいますか外務省としましても、そういうお気持ちに沿って政策を実施していくべきであるというふうには考えておりますが、本件に関しましては、先ほど申し上げましたように、核兵器国として、通常、これはアメリカ以外も類似の施設は持っておるというふうに聞いておりますけれども、そういうところで行われておる核兵器の管理運営計画ということでございますので、そのことに対して協力されることをもって一概に政府としてどうこうというのはなかなか難しいかなというふうに思っております。

    ○今川委員 そこのところは、もう少しはっきりさせたいんですね。今申し上げたように広島、いわゆる一地方公共団体が、その長が、特に広島は被爆県ですから、やはりそういう立場からHOYAに申し入れて、たとえ限定された一期間であれ、納入を見合わせたという実績がことしに入ってからあるわけですから、それをまた再開したから問題になって、被爆者団体などが一たん納入をストップしたのにまた再開するとは何事だという申し入れをしているわけです。

    ですから、これは外務大臣、もう一度、きょうあしたということじゃなくてもいいんですが、きちっともう一度事実関係を押さえて、核爆発に直接かかわるのでなければいいんだということではなくて、少なくとも被爆国日本が、一民間企業が現在米国が持っている核兵器の維持管理であるとか、場合によっては新型核兵器の開発にもつながりかねない、私はつながっていると思うんですが、その一番心臓部分のところに必要な特殊ガラスなんですね。それを現地法人を通した形で、ドイツの社と日本のHOYAと二社だけがそこに納入をしている。非常にそういった意味では、国際的にも関心を抱かれている問題でありますので、これは十分早急に調査した上で、申し入れるものは申し入れるというふうにおっしゃっていただきたいのです。いかがですか。

    ○田中国務大臣 民間のことでございますから、なかなか国が直接関与するということは難しいかと思いますけれども、検討に値するというふうに思います。

    ○今川委員 時間がもうちょっとしかありませんが、集団的自衛権の問題も今非常に大切な問題として話題になっておりますので、まずこれは外務大臣にお伺いしますけれども、これまでの日本政府が理解をしてきた従来の集団的自衛権にかかわる政府見解に変わりがあるのかないのか、そこをよろしくお願いします。

    ○田中国務大臣 このことはもう繰り返しいろいろな委員からあらゆるところで質問をされてきていることでございますけれども、集団的自衛権の研究というものは、仮定の状況を個々に検討するということよりも、日米安保体制というものの強化、国連の平和のための活動、そうしたことのために日本としてもっとなし得ることはないのかということを本当は私たちは考えていかなければいけないというふうにも思っております。

    そして、これは毎回お経のように同じことを申し上げて恐縮なんですけれども、日本は国際法上は集団的自衛権というものはあるということでありますけれども、きょう午前中の議論でもございましたけれども、憲法第九条のもとにおいては、やはり許容されている自衛権の行使というものは、日本を防衛するための最小限度のもの、最小限度の範囲に限るというふうな、とどめるべきであるというふうなことでありますので、集団的自衛権を行使するということは憲法上許されないということになっておりますが、そのほかいろいろと議論がされて、今特にこの内閣になってから活発になっておりますので、そういういろいろな御意見を研究するということがこの小泉内閣の命題でありますし、総理大臣もそういうふうにおっしゃっておられますので、ぜひ活発な御意見の開陳をしていただきたい、そのように思っております。

    ○今川委員 もう時間が参ってしまいましたので、この問題に関しては、田中外務大臣が、四日後ですか、訪米されるということもお聞きしていますので、その後、またこの国会の会期の中で許されれば引き続き議論をしてみたいと思っています。

    第151回国会 衆議院外務委員会 第8号 2001年5月18日

    民主党桑原豊衆議院議員質問

    110 桑原豊
    ○桑原委員 ぜひ検討してほしいと思いますし、官房長が答えられた所掌事務や精算事務等についても、ちゃんと文書を出して、そのときからきちっとした説明をすれば、私のような誤解をだれもしないのですよ。ちゃんと説明をしないから要らぬ疑いをいろいろなところにかけられるのです。ちゃんと反省してもらわなきゃならぬと思います。
     それでは、時間も大変迫ってまいりましたので、最後に、二月の六日の共同の配信で、HOYA株式会社のアメリカ現地法人HOYAコーポレーションUSAが、アメリカの核兵器研究所の核融合施設、NIFに、国立点火施設というのですけれども、レーザー光線増幅用の特殊ガラスを納入している、こういう問題が報道されました。これについて、日本のいろいろな方々もさまざまな反応を示しております。原水禁を初め多くの団体もいろいろな意味で抗議をいたしております。
     なぜそうなるのかといいますと、NIFと言われるこの施設の主たる目的は、米国のエネルギー省の資料によりましても、核兵器に関連した物理学の専門家集団をアメリカで維持することにある、こういうことが言われておりますし、また、HOYAの製造能力に関するニュースリリースというのがございまして、この説明によりましても、NIFはエネルギー省の核兵器維持管理計画、SSPと言われるこの計画のかなめの一つである云々というふうな説明がなされております。
     この施設はそういった核関連の施設だということは、もうアメリカでは常識になっているわけですけれども、いわゆるHOYAの方は、会社側の方はそれを否定しております。
     その根拠は、大阪大学レーザー核融合研究センター所長の山中教授の一九九八年におけるあるシンポジウムでの報告書で、NIF計画というのは国防技術の維持、拡大を中心に据えたものではない、こういう論述がございまして、それを論拠にしてその施設は違うんだというふうに否定をしておるわけですけれども、いろいろな面から見て、これは間違いなく核関連の施設ではないか、こういうふうに言われているわけです。
     それで、一たんHOYAの方はこの製品の納入を中止いたしましたけれども、その後、反論しまして、先ほど言ったような論拠をもとにして納入を再開するということを宣言いたしております。現実にはまだ納入しているかどうかということはよくわかりませんけれども、そういう状況にございます。
     そして、先ほど申し上げた大阪大学のこの先生は、原水禁の方からそうじゃないんではないかというふうな質問状に対する回答で、実は、この施設は国防技術の維持管理を目的とし、拡大を目的としたものではないというふうに、拡大を目的としたものではないけれども維持管理は目的だというふうに訂正いたしております。そういうふうに訂正いたしております。
     そういったことで、結局、HOYA側の論拠も大きく揺らいでいる、崩れた、こういうふうに言わざるを得ないわけでして、原水禁の方からも外務省に対して、ぜひHOYAのそういった製品の納入は中止をすべきではないか、こういう申し入れをいたしております。このことについては担当の審議官がお受けになって、いろいろ検討するというふうに言われたそうなので、その検討についてはどうなっているのかということをお聞きしたいと思います。
    111 田中眞紀子
    ○田中国務大臣 このHOYAコーポレーションのレーザー増幅用特製ガラスの納入の件ですけれども、これは基本的には民間のことですから細かい情報は現在得てはおりませんけれども、NIFの実験を初めとするいわゆる核融合、ニュークリアフュージョンに係る研究は、包括的ないわゆるCTBTがありますけれども、CTBTの禁止する核爆発には該当しないということが報告されている、それが今の社会的な通念、国際社会の通念でありますという報告を受けております。
    112 桑原豊
    ○桑原委員 この施設の大半の業務というのは、八五%と言われていますけれども、核兵器関連の維持管理、そういったものを中心にやっているということはもう常識であります。そういう意味では、私は、CTBTに直接触れるかどうかは別にして、非常に触れる可能性がある、あるいは武器の輸出三原則、禁輸の三原則、そういったものにも触れる可能性があるというふうに思います。
     ぜひこれらについては、今、余り深く検討していないのでというようなお話もございましたけれども、十分に検討していただいて、さらに見解というものを明らかにしていただきたい、これは申し上げておきたいと思います。
     以上で終わります。

    米国反核団体代表ら15人の書簡──2001年原水禁大会に寄せて

    原水禁国際会議にあてた米国のNGOの書簡
    (HOYAの核兵器協力について)

    会議にご参加の皆様へ
    下に署名した米国の市民団体の代表として、皆様の注意を喚起したいことがあります。それは、日本の大企業、HOYAが現在、米国の核兵器計画の中で最大のプロジェクトの開発と建設に手を貸しているという事実です。このプロジェクトというのは、米国の二つの核兵器設計研究所の一つ、ローレンス・リバモア国立研究所で建設中の「国立点火施設(NIF)」です。総費用42億ドルのプロジェクトです。米国の核兵器研究所の何百もの文書が次のような事実を示しています。すなわち、米国核兵器研究所は、核兵器の設計の変更をした場合に、それが核爆発の性能にどのような影響を与えるかをシミュレートすることのできる核兵器設計コードを開発しようとしており、NIFがこの試みに深く関係しているということです。これらの文書の一部は原水禁にもお送りしています。

    ある程度の客観性を持った人なら、これらの文書を検討すれば、NIFの明言された主たる目的は米国の核兵器研究所の核兵器設計能力を維持し、さらには改善さえすることにあり、それは、包括的核実験禁止条約(CTBT)の主要目的に反するものだと結論づけざるを得ないでしょう。HOYAのようなNIF計画に深く関わっている会社の重役がそうでないと主張するのは、信じがたく、そのような人々は、意図的に自己欺瞞に陥っているか、もっと悪質だといわなければなりません。

    「包括的核実験禁止条約(CTBT)」の前文は、「核兵器のすべての実験的爆発及び他のすべての核爆発を停止することは、核兵器の開発及び質的な改善を抑制し並びに高度な新型の核兵器の開発を終了させることによって核軍備の縮小及びすべての側面における核不拡散のための効果的な措置となる」としています。CTBTの重要な目的の一つは、まさに、NIF計画が米国に提供することを目指しているような種類の核兵器設計データや専門能力を、加盟国が入手することを抑制することにあります。ですから、NIF計画をHOYAが支援するというのは、すくなくとも、CTBTの下における約束の精神と目的に反するものであります。

    しかし、NIF計画へのHOYAの援助は、CTBTの下における日本の法的義務に関する問題も提起しています。CTBTの第一条第2項は、次のように述べています。「締約国は、更に、核兵器の実験的爆発又は他の核爆発の実施を実現させること、奨励すること、又はいかなる態様によるかを問わずこれに参加することを差し控えることを約束する。」

    米国はCTBTを批准しておらず、米国の現政権は、そうする意向はないと明言していますから、日本は、次のような前提に立たなければなりません。すなわち、米国はCTBTの非締約国として、いつでも核兵器の実験的爆発を再開する可能性があるというものです。この可能性、それに、NIF計画が、米国の核兵器設計コードの改善や、米国の核兵器設計者の訓練と密接に関係しているという事実に照らしてみれば、NIF計画においてHOYAが重要な役割を果たすということは、後に米国が実験的爆発を実施した場合、それを日本が「奨励」し、何らかの「態様」において「参加」したと理解することができます。

    NIF計画を日本のCTBTの下での約束と違わないものにするには、厳密で、立ち入りを含む国際的保障措置を適用することによって、この施設における核兵器関連の実験──計画されているすべての実験の大半──の実施を実質的に禁止し、NIFの研究員のだれも核兵器の設計活動に参加できないようにするしかありません。お送りした文書から明らかな通り、NIFに対するこのような「平和利用」保障措置は、NIF計画の基本的目的と明言された存在理由とに矛盾することになります。NIFが、米国エネルギー省の核兵器計画部門「国家安全保障局」から何十億ドルも得ているのは、まさに、核兵器計画に役に立つと宣言されているからなのです。

    会議のすべての参加者にお願いします。日本のマスコミに、そして、他の市民や、光学製品の消費者に、HOYAが、米国の現在の核兵器計画の中で最大の要素であり、また、最も多額の資金を要するNIF計画に関わっているということを伝えてください。さらに、国会の外交委員会において、この問題について日本政府の公式な検討・調査を実施されるよう訴えます。すなわち、日本が国内外において一貫して示してきた核兵器に反対する立場、そして、包括的核実験禁止条約(CTBT)の下における政治的・法的約束とHOYAの活動とが矛盾しないかという問題です。

    ブッシュ政権は、CTBTを葬り去ろうとしています。日本は、米国の核兵器計画のために無駄に費やされ続けている何十億ドルもの資金から日本の企業が利潤を得ることを黙認することによって、ブッシュ政権のこの策動における物言わぬパートナーとなってしまってはなりません。

    平和と連帯のために、

    • クリストファー・ペイン  ─ 自然資源防護協議会(NRDC)
    • メリーリア・ケリー  ─ トライバレー・ケアーズ(リバモア現地の環境団体)
    • アージュン・マキジャニ  ─ エネルギー・環境研究所(IEER)
    • ジャッキー・カバソ  ─ 西部諸州法律協会
    • アリス・スレイター  ─ 環境のための地球資源行動センター(GRACE)
    • ロバート・M・グールド  ─ 社会的責任を考える医師の会(PSR) サンフランシスコ・ベイエリア支部長
    • メアリー・B・デイビス  ─ Ygdrasil研究所
    • ジョニ・アレンズ  ─ 核の安全性のための憂慮する市民
    • ジェイ・コグラン  ─ ニューメキシコ核監視
    • グレグ・メロー  ─ ロスアラモス研究グループ
    • スーザン・シェア  ─ 新方向のための女性のアクション(WAND)
    • スーザン・ゴードン  ─ 核の説明責任のための同盟(ANA)
    • トレィシー・モベロ  ─ ピースアクション教育基金
    • ゴードン・クラーク  ─ グリーンピース・アメリカ
    • マーチン・ブッチャー  ─ 社会的責任を考える医師の会(PSR)

    原水禁国際会議にあてた米国のNGOの書簡
    (HOYAの核兵器協力について)

    米国の専門家から送られてきたメッセージ

    NIFと包括的核実験禁止条約(CTBT)の関係について 自然資源防護協議会(NRDC)クリストファー・ペイン氏 2001年3月16日

    (大量資料ととともに送られてきた書簡)

    [文書のリストに続いて]

    ある程度客観性を持った人なら、これらの文書を検討すれば、NIFの主たる目的は米国の核兵器研究所の核兵器設計能力を維持し、改善することにあると結論づけざるを得ないだろう。HOYAのようなNIF計画に深く関わっている会社の重役がそうでないと主張するのは、信じがたい。

    「包括的核実験禁止条約(CTBT)」の前文は、「核兵器のすべての実験的爆発及び他のすべての核爆発を停止することは、核兵器の開発及び質的な改善を抑制し並びに高度な新型の核兵器の開発を終了させることによって核軍備の縮小及びすべての側面における核不拡散のための効果的な措置となる」としている。

    CTBTの重要な目的の一つは、まさに、NIF計画が米国に提供することを目指しているような種類の核兵器設計データや専門能力を、すべての加盟国が入手することを抑制することにあるから、NIF計画をHOYAが支援するというのは、すくなくとも、日本のCTBTに対するコミットメントの精神と目的に反するものといえる。

    CTBTの下における日本の法的な約束との関連で、CTBTの下における「慣性閉じ込め核融合(ICF)」爆発の法的な地位は、確定していないという点に留意されたい。レーザーあるいは素粒子によって生じる実験室内の完全に閉じこめられた爆発は、核拡散防止条約(NPT)の中の「核爆発装置」には当たらないとする不確かな国際的理解がある。これは、米国が、1975年の第一回NPT再検討会議の際に一方的に宣言したことに端を発するものである。

    しかし、CTBTの方は、「核爆発装置」ではなく、「核爆発」に関するものであり、条約の明白な文言は、「核兵器のすべての実験的爆発又は他のすべての核爆発」を禁止しているが、禁止された爆発とは何かを定義していない。米国、ドイツ、日本などの一部の国は、それぞれ、CTBTは、レーザーを使った、あるいは他の形態の「制御された核融合」の追求を抑制するものと理解されるべきではないと宣言しているが、それに同意しない国もあるかもしれない。そして、一部のコンパクトなかたちのICF──たとえば、高性能爆薬を使った核融合(注1)──は、現在、法的に灰色の領域に属している。なぜなら、これは、NPTでいうところの軍事的に有用な「核爆発装置」となる可能性を持っているかもしれないからである。

    しかし、CTBTの下における日本の義務として、ここでの問題にもっと関連のある部分がある。CTBTの第一条第2項は、次のように述べている。「締約国は、更に、核兵器の実験的爆発又は他の核爆発の実施を実現させ、奨励し、又はいかなる態様によるかを問わずこれに参加することを差し控えることを約束する。」

    米国はCTBTを批准しておらず、ブッシュ政権は、そうする意向はないと明言しているから、日本は、ことを進めるに当たって次のような前提に立たなければならない。すなわち、米国はCTBTの非締約国として、いつでも核兵器の実験的爆発を再開する可能性があるのである。この可能性、それに、NIF計画が、米国の核兵器設計コードの改善や、米国の核兵器設計者の訓練と密接に関係しているという事実に照らしてみれば、NIF計画におけるHOYAの重要な役割は、後の米国による実験的爆発を日本が「奨励」し、何らかの「態様」において「参加」するものと理解することもできる。

    NIF計画を日本のCTBTの下での約束と違わないものにするには、厳密で、立ち入りを含む国際的保障措置を適用することによって、この施設における核兵器関連の実験──計画されているすべての実験の大半──の実施を実質的に禁止し、NIFの研究員のすべてが核兵器の設計活動に参加できないようにするしかない。同封した書類から明らかな通り、このような「平和利用」保障措置は、NIF計画の基本的目的及び存在理由と矛盾することになる。NIFが、米国エネルギー省の核兵器計画から何十億ドルも得ているのは、まさに、核兵器の設計との密接な関係の故なのである。

    注1:磁場を化学爆薬で圧縮(爆縮)して得られるエネルギーで核融合を達成しようとするもの。この研究は米ソで行われており、冷戦後、米ロの研究者がロスアラモスで共同実験を行っている。成功すればプライマリーを必要としない純粋核融合兵器につながる可能性がある。NIFで得られた知見が、この種の装置の開発に使われる可能性がある。簡単にできるかどうかは別問題である。

    出典:GENSUIKIN INFORMATION “HOYA FILES 1” HOYAの回答は事実誤認―NIFは核兵器と関係ないか──HOYAは、CTBT批准を拒否した国の核兵器計画に協力するのか


    国立点火施設(NIF)の目的 プリンストン大学フランク・フォンヒッペル公共・国際問題教授 2001年4月16日

    (1993〜94年、ホワイトハウス「科学・技術政策局」国家安全保障担当次官)

     日本のHOYAの米国子会社が「国立点火施設(NIF)」と呼ばれる米国のレーザー核融合施設へのレーザー用高品質ガラスの供給に関わっていることについて日本で論争が起きていると聞きました。NIFは、米国の二つの核兵器設計研究所の一つであるローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)で建設されており、その資金を出しているのは、米国の核兵器プログラムです。
     論争の焦点の一つは、NIFの目的が核兵器技術の「維持・拡大」にあるかどうかということのようです。
     私は、NIFの予算を出すべきか否かについて米国政府の決定が行われていた1993年から94年まで、ホワイトハウス科学技術政策局の国家安全保障担当副局長として、この議論に関わっていました。私は、また、95年には、エネルギー省の報告書『国立点火施設と核拡散防止問題』の部外査読委員会の委員となりました。
     ですから、私は、米国の『核兵器維持管理計画(ストックパイル・スチュワードシップ・プログラム=SSP)』の中におけるNIFの役割について説明する知識と責任の両方を持っております。SSPというのは、核爆発実験を行わないで核兵器の設計変更を評価検討すること、そして、米国の新しい世代の核兵器科学者を訓練することを目指している計画です。
     1994年以来、米国の核兵器設計計画の指導者達は、核実験ができない状態では、NIFは、核兵器物理についての理解を「維持・拡大」するために欠かすことのできないものだと主張してきました。
     これが、NIFの最も重要な目的です。ほかの目的ではありません。たとえば、米国の核兵器の安全性を確認したり改善したりするためには使うことはできません。偶発的な核爆発を防ぐ「安全性」を確保するためには、事故の際に、核兵器のプルトニウムが核分裂連鎖反応が起こりうる形状にならないようにしなければなりません。これに関連した実験は、化学爆薬を使って行われます。核爆発における状態を作り出す必要はありません。リバモア研究所でも、NIFが安全性の作業のために使われるとはいっていません。
     さらに、リバモアの主張に反して、NIFは、米国の核兵器の「信頼性」を維持するために直接的な貢献をすることはありません。核爆発実験を実施するか否かに関わらず、信頼性というのは、核兵器の中からサンプルを選んで分解し、その部品を検査して、劣化した部分については新しいものに交換するという形で維持されるのです。
     1994年に出された米国国防省の『核態勢見直し』という報告書がSSPにいくつかの要件を課しました。それ以来、NIFの予算要求は、主として、核実験を伴わずに「新しい核弾頭を設計・製造・認証する能力」を核兵器研究所は維持しなければならないとする国防省の要求に基づくものとなっています。
     NIFは、核爆発の際に達成される温度と圧力に近いものを達成するために設計されています。したがって、リバモア研究所とロスアラモス国立研究所(LANL)が現在開発中の最新の核兵器用コンピュータ・プログラムが、NIFによって点火される小さな核爆発の振る舞いを正しく予測することができれば、実際の核兵器に関する予測の正しさについての確信が高まります。
     私はコンピューターの計算に基づいて核兵器の設計を変更することに反対するものの一人です。実をいうと、核兵器研究所の側が新しいコンピュータ・プログラムを根拠にして、新しい核兵器、あるいは設計変更を施した核兵器の提案をするのを私は心配しています。このような提案は、すでに出されています。もし、軍部がこのような提案を受け入れ、そして、その後、コンピューターの予測を核実験によって実証するよう主張すれば、核実験禁止条約は崩壊してしまいます。
     NIFについて、正当化の議論としてもうひとつ出されているのは、NIFが新しいエネルギー源を提供するかもしれないというものです。しかし、リバモア研究所がNIF用に選んだガラス・レーザーは経済的な核融合エネルギーをもたらすことにはならないだろうと一般に理解されています。米国のエネルギー計画の方の予算からは、これまでレーザー核融合に数千万ドル程度の額しか出そうとしてきていないのはそのためです。[*NIFには資金を提供していない]NIFの建設とその後の20年間の運用にかかる約100億ドルと比べてみてください。[*完成まで費用+(運転費用3億ドル/年)X25年で、ほぼこの額となる]
     最後に、米国の核兵器計画と日本との関係の性格について真摯な議論が行われていることに敬意を表します。この文章が事実に基づく議論に貢献することになれば幸いです。

    原子力資料情報室「GX基本方針を徹底検証する」第3回:核融合と核開発のパワポ資料(改訂版)米国「レーザー核融合実験成功」の意味


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