核情報

2017. 7. 25

100mSv当たり0.5%増か1%増か
大洗研究開発センター作業員被曝ガン死リスク

6月6日に日本原子力研究開発機構「大洗研究開発センター」(茨城県大洗町)で放射性物質貯蔵容器の点検中に貯蔵物が飛散した事故で被曝した作業員5人を受け入れた「放射線医学総合研究所」(千葉県千葉市)が7月10日に被曝線量評価結果を公表し、5人のうち1人について「100mSv以上200mSv未満」とし、「100mSvで増加するがん死亡のリスクは0.5%」と説明しました。米国のNGO「憂慮する科学者同盟(UCS)」のエドウィン・ライマン博士は、アルファ線を出すプルトニウムによる被曝に関しては1%という数字を使うべきだと核情報への連絡で述べています。


  1. 関連資料抜粋引用
  2. 参考

放医研の記者会見資料(pdf)には次のようにあります。

100mSv以上  200mSv未満:1名
  10mSv以上  50mSv未満:2名
  10mSv未満:2名

これらの値は預託実効線量(注1)であり、今後50年間に亘って内部被ばくが継続するという仮定に基づき算定した値です。

……

(注1)預託実効線量:放射性物質接種後、体内からなくなるまでの総被ばく線量を体内摂取時に被曝したものと見なす線量を預託線量と言い、公衆の成人に対しては摂取後の50年間、子供や乳幼児に対しては摂取時から70歳までとする。実効線量とは、放射性物質の体内摂取から受ける臓器または組織の等価線量のおのおのに、その臓器または組織の組織加重係数を乗じて加え合わせたもの。

放医研のプレスリリースには次のような注記があります。

*「記者会見において「100mSvで増加するリスクは0.5%」である旨説明しておりますが、正確には「100mSvで増加するがん死亡のリスクは0.5%」となります。

0.5%という数字は、「国際放射線防護委員会(ICRP)」(英文)のものですが、これは、線量・線量率効果係数(DDREF)[Dose and dose-rate effectiveness factor]を使って算出したものです。DDREFは、広島・長崎の原爆投下による高線量・高線量率被曝と比べ、低線量・低線量率での放射線被曝では、単位線量当たりの生物学的効果が弱くなることを一般化するための数字だとICRPは説明しています。広島・長崎のような場合だと、ガン死リスクの増加分は100mSV当たり1%なりますが、低線量・低線量率の場合はこれを2で割ることを勧告しています。長期にわたる被曝の途中で細胞の損傷が修復される効果を計算に入れようというわけです。この結果得られた数字が0.5%です。

ただし、この効果はガンマ線やX線のような単位長さ当たりの「線エネルギー付与(LET=linear energy transfer)」(細胞に与える影響)の小さな放射線に関するものです。このような「低LET」放射線の場合と違い、アルファ線や中性子線のような高LET放射線では修復効果が期待されないとされ、DDREFは使用されません。

ライマン博士は、このことから今回の被曝に関しては0.5%ではなく、1%という数字を使うべきだと指摘しています。これは、低線量・低線量率被曝のリスクは不確実性が大きく、この数字から単純に1000人の人がこれだけの被曝をすれば5人あるいは10人の追加的ガン死が発生するというような予測をすべきではないという話とは別です。ライマン博士は、被曝線量の推定に伴う不確実性の大きさからすれば、0.5%と1%の間の2倍の差は大したものでないかもしれないが、今回の評価として0.5%という数字を使うのはやはり気になると言います。

関連資料抜粋引用

米原子力規制委員会資料Late (Delayed) Effects of Radiation 10/25/2010(『放射線の晩発(遅発)効果』, pdf)(ライマン博士が参考として挙げたもの)より

p.46

線量・線量率効果係数(DDREF)

DDREFは、低LET放射線(例:ガンマ線、X線、ベータ粒子、電子)などについて意図されたものであって、高LET放射性(例:中性子)用ではない。

DDREFが適用される低線量と低線量率とは?

ICRPは、0.2Gy(20ラド)未満の線量を低線量とみなし、0.1Gy/hr(毎時10ラド)未満の線量率を低線量率とみなしている。

BEIR Ⅶ報告書は、0.1Sv(10レム)未満の線量を低線量とみなしている

p.62

BEIR Ⅴ

混合集団及び急性被曝に関して、BEIR Ⅴは、放射線誘発ガンによる死亡リスクは約8x10-4/レム(0.8%/0.1Sv)と推定した。

「しかし、低LET放射線に関しては、同じ線量が何週間もあるいは何か月もにわたって蓄積される場合、生涯リスクを相当、おそらくは2倍またはそれ以上、低減すると予測される。」

BEIR Ⅴ=『電離放射線の生物学的影響(Biological Effects of Ionizing Radiation)第5版』(米科学アカデミー(英文))

p.70

ICRP60は、UNSCEAR及びBEIR Ⅴの推定を、丸めて、高線量・高線量率の場合について10x10-4/レム(10%/Sv)とした。

低線量・低線量率による一般公衆のリスクを計算するに当たってICRP60は、DDREFとして2を使った。

この結果、5x10-4/レム(5x10-2/Sv)が得られた。

UNSCEAR=「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation)」

**ICRP60=ICRP1990年勧告(日本語版、pdf)

p.72

ICRP103リスク推定

「従って、現行の国際放射線安全基準の基礎となっているシーベルト当たり5%という全体的な近似的死亡リスク係数は、放射線防護目的のためのものとして、引き続き、適切であるというのが委員会の勧告である。」(核情報訳)

ICRP103=ICRP2007年勧告(日本語版, pdf)

文部科学省の委託で「一般財団法人 高度情報科学技術研究機構」が運営する
原子力百科事典ATOMICAより

ICRP1990年勧告によるリスク評価

ICRPの1990年勧告による放射線リスク評価は、次のように要約される。

 「確率的影響」:低線量低LET放射線の全身均等照射による放射線誘発癌(身体的影響)の生涯死亡リスクは、線量-線量率効果係数を2とすると、一般公衆の場合、男女、全年齢平均でSv当り、約5×10-2である。……

低線量、低線量率での放射線影響は、高線量、高線量率での影響に比べ、単位線量当りのリスク(リスク係数)が小さいことも知られている。ICRPでは線量-線量率効果係数(DDREF)として2を採用し、放射線防護のための一般公衆、職業人についてそれぞれのリスク係数(生涯リスク)を与えている。

線量率と生物学的効果

高線量率で短時間に照射したときに得られる生物効果に比べて、線量率を下げて時間をかけて照射すると生物効果は減弱する。これを線量率効果という。このとき、同じ効果を得るのに要する線量の逆比を線量・線量率効果係数(DDREF)という。……

一般に、線量率効果がもっとも顕著にみられるのは低LET放射線であるエックス線やガンマー線による生物効果であるが、これは低線量率にすると放射線によって生じた細胞の障害が照射中に回復するためと考えられている。しかし、高LET放射線(中性子線、アルファ線など)では回復はおこらず、このような線量率効果はみとめられない。

参考


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