核情報

2009.3.25

日本政府、先制不使用に反対する立場を明示

3月19日、辻元清美議員の質問主意書に回答

回答で政府は、「日米安保体制の下、米国が有する核戦力と通常戦力の総和としての軍事力が、我が国に対する核兵器によるものを含む攻撃を抑止するものと考えて」おり、「いわゆる核兵器の先制不使用については、現時点では核兵器国間での見解の一致がみられていないと承知しているが、国際社会には、核戦力を含む大規模な軍事力が存在し、また、核兵器を始めとする大量破壊兵器等の拡散といった危険が増大するなど、引き続き不透明・不確実な要素が存在する中で」、上記の日米安保に頼ると述べました。

社民党の辻元清美議員が2009年3月11日に提出した「核兵器問題等に関する質問主意書」に対して、日本政府が麻生太郎首相の名前で3月19日に答えたものです。ワシントンで開かれた日豪主導国際有識者会議「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」第2回会合後の記者会見(2008年2月15日)で、川口共同議長(元外相)は、「ノーファーストユース(先制不使用)を言ってくれないか」と米政府要人らに訴えたと発言していますが、核以外の攻撃に対しても、核兵器で反撃する可能性を米国が持っていて欲しいとする日本のこれまでの立場に変化がないことを首相の名前で明らかにしたものです。

以下、主意書の中の質問事項の要約とそれに対する回答を並べる形で、やりとりが分かりやすいようにしました。主意書の全文と、回答の全文は、その後に載せてあります。



  1. 防衛計画の大綱の解釈
  2. 先制不使用政策(核攻撃を受けない限り核を使わないという政策)
  3. 核兵器の大幅削減
  4. 自衛のための核兵器
  5. 主意書全文
  6. 回答全文 


参考




質問主意書の質問要約と回答

防衛計画の大綱の解釈

  • 1.2005年度以降に係る「防衛計画の大綱」で核兵器の脅威に対しては、米国の核抑止力に依存する。」とだけ述べているのは、「核兵器以外の生物兵器、化学兵器、通常兵器による攻撃に対しては、米国の核兵器による報復のオプションを米国が維持することを日本は期待していないということを表明したものか。」

答え

 政府としては、日米安保体制の下、米国が有する核戦力と通常戦力の総和としての軍事力が、我が国に対する核兵器によるものを含む攻撃を抑止するものと考えている。

先制不使用政策(核攻撃を受けない限り核を使わないという政策)

  • 2.「米国が、米国またはその軍隊および同盟国が核兵器による攻撃を受けた場合以外は、核兵器を使用しないという先制不使用政策(ノー・ファースト・ユース政策)を明確に表明することを日本政府は積極的に支持するか。」

答え

 いわゆる核兵器の先制不使用については、現時点では核兵器国間での見解の一致がみられていないと承知しているが、国際社会には、核戦力を含む大規模な軍事力が存在し、また、核兵器を始めとする大量破壊兵器等の拡散といった危険が増大するなど、引き続き不透明・不確実な要素が存在する中で、我が国としては、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(昭和三十五年条約第六号)を堅持し、その抑止力の下で自国の安全を確保する必要があると考えている。また、核兵器を含む軍備削減、国際的な核不拡散体制の堅持・強化等の努力を重ねて、核兵器を必要としないような平和な国際社会を作っていくことが重要と考えている。

核兵器の大幅削減

  • 3.米露の大幅削減と他の核保有国による削減との関係に関する日本政府の立場について

答え

 我が国は、米国、ロシア連邦を始めとするすべての核兵器国に対して、核軍縮を呼び掛けており、米国、ロシア連邦等による核兵器削減に向けた努力は、核兵器の不拡散に関する条約(昭和五十一年条約第六号)を基礎とする国際的な核軍縮・不拡散体制の維持及び強化に貢献するものとして、歓迎されるものと考える。具体的な核弾頭の削減数に関するお尋ねについては、我が国としての立場を一概にお答えすることは困難であるが、かかる核兵器の削減は、我が国を含め、米国の同盟国に対する安全保障上のコミットメントに整合する形で行われるものと考えている。

自衛のための核兵器

  • 4.日本政府は、これまで、憲法上は自衛のためなら核兵器を持ち得るとの解釈を示しているが、具体的にどのような核兵器なら自衛のための核兵器と呼び得ると考えるのか。核地雷や単射程の核砲弾など、領土内で核爆発の危険性を想定したものを指すのか。

答え

我が国には固有の自衛権があり、自衛のための必要最小限度の実力を保持することは、憲法第九条第二項によっても禁止されているわけではない。したがって、核兵器であっても、仮にそのような限度にとどまるものがあるとすれば、それを保有することは、必ずしも憲法の禁止するところではない。他方、右の限度を超える兵器の保有は、憲法上許されないものである。政府は、憲法の問題としては、従来からこのように解釈しており、この解釈は、現在も変わっていない。
 憲法と核兵器の保有との関係は右に述べたとおりであるが、我が国は、いわゆる非核三原則により、憲法上は保有することを禁ぜられていないものを含めて政策上の方針として一切の核兵器を保有しないという原則を堅持し、また、原子力基本法(昭和三十年法律第百八十六号)及び核兵器の不拡散に関する条約により一切の核兵器を保有し得ないこととしているところであり、お尋ねにお答えすることは困難である。




主意書全文

 核兵器問題等に関する質問主意書

 平成二十一年 三月十一日

提出者 辻元 清美

 衆議院議長 河野洋平 殿

核兵器問題等に関する質問主意書

 ヒロシマ・ナガサキの被爆体験を持ち、核兵器廃絶を国是として取り組んでいるわが国にとって、核兵器に関する認識や立場は極めて重大な問題である。従って、核兵器等に関して次の事項について質問する。

 二〇〇四年十月に発表された『安全保障と防衛力に関する懇談会報告書』─未来への安全保障・防衛力ビジョン ─は、その2.統合的安全保障戦略(1)日本防衛イ「同盟国との協力」の項で次のように述べている。

 「日本防衛のための第二のアプローチは、同盟国との連帯行動である。日米安全保障条約に基づく日米同盟こそ、このための恒常的制度である。日本周辺の国際環境は、すでに述べたとおり、依然として不安定性に満ちており、核兵器などの大量破壊兵器による紛争の可能性も完全には否定できない。弾道ミサイルによる脅威も存在する。その意味で、今後とも日米同盟の信頼性を相互に高めつつ、抑止力の維持を図る必要がある。とりわけ核兵器などの大量破壊兵器による脅威については、引き続き、米国による拡大抑止が必要不可欠である。」 

この報告書の表現は、核兵器以外の大量破壊兵器である生物・化学兵器による攻撃に対しても、米国の核による報復があり得ることを示している。

 これに対し、二〇〇四年策定の「平成十七年度以降に係る防衛計画の大綱」では、「核兵器の脅威に対しては、米国の核抑止力に依存する。」とだけ述べている。このことは、日本政府が懇談会報告書とは異なる立場をとり、核兵器以外の攻撃に対しては、核兵器による報復を日本は望んでいないことを明確に示したものだとも解釈できるが、一方で、一九九五年策定の「平成八年度以降に係る防衛計画の大綱」の「核兵器の脅威に対しては、核兵器のない世界を目指した現実的かつ着実な核軍縮の国際的努力の中で積極的な役割を果たしつつ、米国の核抑止力に依存するものとする。」と基本的に同じ内容であり、単に、前回の内容を踏襲しただけとの解釈もできる。

一、「平成十七年度以降に係る防衛計画の大綱」の解釈について

二〇〇四年策定の「平成十七年度以降に係る防衛計画の大綱」は、「核兵器の脅威に対しては、米国の核抑止力に依存する。」とだけ述べている。この表現は、日本に対し核兵器による攻撃があった場合は、米国の核兵器で報復する可能性を表明することによって、そのような攻撃を抑止することを意図すると同時に、核兵器以外の生物兵器、化学兵器、通常兵器による攻撃に対しては、米国の核兵器による報復のオプションを米国が維持することを日本は期待していないということを表明したものか。

 オーストラリアのケビン・ラッド首相と福田康夫前首相との合意によって設立された「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」の共同議長を務める川口順子元外相とギャレス・エバンス元オーストラリア外相が、平成二十一年二月十五日午前にワシントンで第二回の同委員会会合後の記者会見を開いた際、エバンス元外相は、両議長らが米国政府の要人ら─ジョセフ・バイデン副大統領、ジム・ジョーンズ大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、ジム・ケリー上院外交問題委員会委員長、ハワード・バーマン下院外交問題委員会委員長、ブラッド・シャーマン下院テロリズム・不拡散・貿易小委員会委員長、ジェームズ・スタインバーグ米国務副長官─に会ったことに触れて、次のように述べている。

 「最後に、[米]政権に私たちが訴えている第五のポイントは、米国の核ドクトリンに目に見える変化があることが非常に重要だということです。私たちは、米国の核兵器の唯一の目的は、米国およびその同盟国を、他国による核兵器の使用から守ることであるべきだということ、そして、核兵器の関わらない他の脅威に対して、核兵器の使用の威嚇をしたり、使用を認めたりするのは米国のドクトリンの一部であってはならないということを明確に主張しました。もちろん、現在拡大抑止を享受している同盟国のための安全の保証が必要ですが、このような変化は、国際的に心理的状況を変え、軍縮と拡散防止の両方のための弾みを強化する上で、他のものと同様、非常に重要な一歩だと信じています。」 このエバンス元外相の発言内容に関し、川口元外相は、 「核のドクトリン、核兵器の役割を核兵器に対する抑止に限定をするという姿勢で。もちろん、核抑止という傘の下に日本はあるわけですから、その場合も日本への安全保障あるいは、非核国への安全保障、拡大抑止の下にあるのは日本だけではありませんから、そういった国への安全保障をきちんと保証するということは前提なのですが、という話をしました。」と同日の記者会見の中で述べている。

二、核兵器先制不使用政策に関する立場について

 米国が、米国またはその軍隊および同盟国が核兵器による攻撃を受けた場合以外は、核兵器を使用しないという先制不使用政策(ノー・ファースト・ユース政策)を明確に表明することを日本政府は積極的に支持するか。

三、核兵器の大幅削減に関する立場について

  1. 平成二十年八月に採択された米国民主党の選挙綱領は、「我が国の安全を高めると同時にNPT(核兵器不拡散条約)の下での約束の履行に役立てるため、米ロの核兵器の検証可能な大幅削減を追求し、また、世界全体の核兵器を劇的に減らすために他の核兵器保有国と協力する」と述べており、バラク・オバマ米大統領は、この方針に従った政策を遂行することを表明しているが、日本政府は、米露の大幅核削減を支持するか。
  2. まず米露の配備核弾頭の合計を千発ずつにすべきだとの提案がなされているが、日本政府は、このような削減を支持するか。支持しないとすればなぜか。
  3. 他の核兵器保有国の核弾頭数が現状のままにとどまった場合、米露の核弾頭数は、何発ぐらいまで下げてよいと日本政府は考えるか。
  4. 米露の核弾頭数を、例えば、それぞれ二百発にするためには、他の核兵器保有国の核弾頭数をどの程度に下げる必要があると考えるか。

四、自衛のための核兵器について

  1. 日本政府は、これまで、憲法上は自衛のためなら核兵器を持ち得るとの解釈を示しているが、具体的にどのような核兵器なら自衛のための核兵器と呼び得ると考えるか。
  2. NATO(北大西洋条約機構)諸国には、核地雷や単射程の核砲弾などが配備されていたことがある。このような核兵器を日本が保有した場合、領土内で核爆発の危険性を想定することになるが、日本政府の言う自衛のための核兵器というのはこのようなものを指すのか。そうでないとすると、どのような核兵器が自衛のための核兵器になり得るのか。

右質問する。




回答全文 

内閣衆質一七一第二〇二号

平成二十一年三月十九日

内閣総理大臣 麻生太郎

衆議院議長 河野洋平殿

衆議院議員辻元清美君提出

核兵器問題等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

衆議院議員辻元清美君提出核兵器問題等に関する質問に対する別紙答弁書

一について

 政府としては、日米安保体制の下、米国が有する核戦力と通常戦力の総和としての軍事力が、我が国に対する核兵器によるものを含む攻撃を抑止するものと考えている。

二について

 いわゆる核兵器の先制不使用については、現時点では核兵器国間での見解の一致がみられていないと承知しているが、国際社会には、核戦力を含む大規模な軍事力が存在し、また、核兵器を始めとする大量破壊兵器等の拡散といった危険が増大するなど、引き続き不透明・不確実な要素が存在する中で、我が国としては、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(昭和三十五年条約第六号)を堅持し、その抑止力の下で自国の安全を確保する必要があると考えている。また、核兵器を含む軍備削減、国際的な核不拡散体制の堅持・強化等の努力を重ねて、核兵器を必要としないような平和な国際社会を作っていくことが重要と考えている。

三について

 我が国は、米国、ロシア連邦を始めとするすべての核兵器国に対して、核軍縮を呼び掛けており、米国、ロシア連邦等による核兵器削減に向けた努力は、核兵器の不拡散に関する条約(昭和五十一年条約第六号)を基礎とする国際的な核軍縮・不拡散体制の維持及び強化に貢献するものとして、歓迎されるものと考える。具体的な核弾頭の削減数に関するお尋ねについては、我が国としての立場を一概にお答えすることは困難であるが、かかる核兵器の削減は、我が国を含め、米国の同盟国に対する安全保障上のコミットメントに整合する形で行われるものと考えている。

四について

 我が国には固有の自衛権があり、自衛のための必要最小限度の実力を保持することは、憲法第九条第二項によっても禁止されているわけではない。したがって、核兵器であっても、仮にそのような限度にとどまるものがあるとすれば、それを保有することは、必ずしも憲法の禁止するところではない。他方、右の限度を超える兵器の保有は、憲法上許されないものである。政府は、憲法の問題としては、従来からこのように解釈しており、この解釈は、現在も変わっていない。
 憲法と核兵器の保有との関係は右に述べたとおりであるが、我が国は、いわゆる非核三原則により、憲法上は保有することを禁ぜられていないものを含めて政策上の方針として一切の核兵器を保有しないという原則を堅持し、また、原子力基本法(昭和三十年法律第百八十六号)及び核兵器の不拡散に関する条約により一切の核兵器を保有し得ないこととしているところであり、お尋ねにお答えすることは困難である。


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