核情報

2017. 8.24

米国に向けたミサイルを日本のミサイル防衛システムで迎撃?
永田町の都市伝説2

北朝鮮の「人工衛星」発射問題や集団的自衛権の関係で、米国に向けたミサイルを日本は撃ち落とすべきか否かという議論がされてきました。第一次安倍政権時代の2007年、「技術的な問題は別として、仮に米国に向かうかもしれない弾道ミサイルをレーダーで捕捉した場合でも、我が国は迎撃できないという状況が生じてよいのか」という検討課題が「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)に与えられました。

首相辞任後の08年6月に出された同懇談報告書(pdf)も、第二次安倍政権で復活した懇談会による14年5月の報告書(pdf)も、集団的自衛権を容認する憲法解釈変更により迎撃を可能にすべきだというものでした。しかし、北朝鮮から発射された米国向けミサイルは「技術的な問題」により、現在の日本のシステムでは迎撃不能であるということがなぜかあまり知られていないようです。

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  1. 脅しの応酬
  2. 学校や報道で見る地図だと米本土向けミサイルは日本上空を通過
  3. 実際の北朝鮮発射の米本土向け弾道ミサイルのコース
  4. 日本配備のシステムは日本向けミサイルの迎撃を目指すもの
  5. SM3ブロックIAとSM3ブロックⅡ
  6. 日本近海に配備したSM3で米国向け弾道ミサイルを撃ち落とす?
  7. 能力向上型だと撃ち落とせるか?
  8. グアム向けやハワイ向けのミサイルなら撃ち落とせるか?
  9. ブロックⅡAならどうか?
  10. ハワイ向けミサイルはどうか?
  11. 絶対当たらないと言っていた日本政府
  12. ブロックⅡAでICBM迎撃なら下降段階で
  13. グアム近海へのミサイル発射は存立危機事態に当たるか?
  14. 都市伝説検証隊
  • 資料編
    1. 技術的問題
    2. 安保法制
    3. 法制懇
    4. 存立危機事態

    また、現在イージス艦に配備されているSM3ブロックIAという迎撃ミサイルでは、グアムやハワイに向けた北朝鮮のミサイルについても、その日本上空通過時の高度に届くことができず、迎撃できません。

    脅しの応酬

    8月8日、トランプ大統領が北朝鮮に対し、脅しをやめなければ「世界がこれまで目にしたことのないような炎と怒りに直面することになる」と威嚇する。北朝鮮の朝鮮中央通信社の9日と10日の記事が、それぞれ前日に北朝鮮軍部がグアム周辺に向けて「火星12」の発射検討を発表したと報じる。

    参考:朝鮮中央通信
    U.S. Should Be Prudent under Present Acute Situation: Spokesman for KPA Strategic Force Pyongyang, August 9 (KCNA)及びKPA Will Take Practical Action: Commander of Strategic Force Pyongyang, August 10 (KCNA)

    続いて小野寺五典防衛相が、実際に発射すれば、集団的自衛権行使が可能となる「存立危機事態」に当たりうると言う。読売新聞がこれを受けて11日の記事防衛相「集団的自衛権行使し迎撃も」…上空通過 で「小野寺防衛相は10日、北朝鮮が日本上空を通過して弾道ミサイルを発射した場合、安全保障関連法に基づき、集団的自衛権を行使して迎撃する可能性に言及した」と報じる。一方、安倍政権に批判的な論客が朝日新聞の『AERA.dot』で「グアムへの北朝鮮ミサイル迎撃すれば、戦争状態 日米安保に殺される日本」と警鐘を鳴らす。三者は、日本が現在保有するシステムではグアムに向かう北朝鮮のミサイルは迎撃できないという事実を明らかにしてから法解釈について語るべきではなかったか。このままだと、現在の日本のシステムでグアムやハワイのみならず米国本土向けのミサイルも迎撃できるという都市伝説が広まり続ける。それじゃ、今の世の中「右」も「左」も真っ暗闇じゃござんせんか。

    以下、米国のミサイル防衛問題専門家の説明を中心に「都市伝説」の解明を試みてみましょう。説明してくれるのは、「憂慮する科学者同盟(UCS)」のデイビッド・ライト博士とコーネル大学のジョージ・ルイス博士の二人です。(基にしたのは2017年5月に台湾で開かれたInternational School on Disarmament and Research on Conflicts (ISODARCO)のセミナーで核情報主宰が発表した際に使った資料。二人とのやり取りは、発表の準備のためのもの)。

    学校や報道で見る地図だと米本土向けミサイルは日本上空を通過

    下のような地図を見ると、北朝鮮から発射された弾道ミサイルは日本上空を通過して米本土に到達しそうに思われます。


    http://matomame.jp/user/bohetiku/3aa54065bc3ce74f499f

    出典:フジテレビ、メルカトル図法で北朝鮮ミサイル射程距離の解説をし炎上…一方21日には再び北朝鮮が弾道ミサイル発射、日本海に落下か


    出典:北の新型ミサイル、アラスカも射程? 米本土狙う大陸間弾道ミサイルに匹敵か

    下の防衛省の地図は少し違いますが、これでもやはり西海岸向けは日本上空を通過しそうに見えます。

    図表I-2-2-2 北朝鮮の弾道ミサイルの射程

    出典:防衛省・自衛隊|平成28年版防衛白書|1 北朝鮮 図表I-2-2-2 北朝鮮の弾道ミサイルの射程

    実際の北朝鮮発射の米本土向け弾道ミサイルのコース

    実際は、北朝鮮から発射された弾道ミサイルは下の図にあるように「大圏(大円)コース」を飛ぶため、日本上空を通過しません。

    飛翔コース

    飛翔コース


     距離
    グアム3,400km
    アラスカ5,000 - 6,000km
    ハワイ7,000km
    シアトル7,900km
    シカゴ10,000km
    ワシントンD.C.10,700km

    出典: http://www.ucsusa.org/sites/default/files/legacy/assets/documents/nwgs/north-koreas-missile-program.pdf 5/20

    *詳細は、能力向上型だと撃ち落とせるか?の図を参照

    日本配備のシステムは日本向けミサイルの迎撃を目指すもの

    日本に配備されているのはイージス艦搭載のSM(スタンダード・ミサイル)3と陸上配備のPAC3です。SM3を使って大気圏外での迎撃を試み、撃ち落とし損ねたものをPAC3で狙う2段構えと政府は説明しています。


    出典:http://www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/seisaku/results/19/sougou/sankou/02.pdf

    SM3ブロックIAとSM3ブロックⅡ

    日本が配備しているイージス艦搭載のシステムはSM3ブロックIAと呼ばれるもので、日本はその能力向上型のSM3ブロックⅡの日米共同開発に参加してきました。後者は、今年2月4日に最初の迎撃実験に成功したばかりのものです。6月21日の2度目の実験は失敗しました。

    参考:日米、迎撃ミサイル試験に失敗 ハワイで実施 CNN 2017.06.23

    SM3ブロック I
    速度:3㎞/秒
    高度:400㎞~500㎞
    SM3 ブロックⅡA
    速度 : 4.5km/s
    高度:1300~400km
    ICBM
    速度:7㎞/秒


    出典:http://www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/seisaku/results/19/sougou/sankou/02.pdf

    SM3の改良

    SM3の改良


    出典:http://www.mod.go.jp/e/d_act/bmd/bmd.pdf

    米国は、これを陸に上げたバージョン(イージス・アショア)を2018年末までにポーランドに配備する予定です。こちらは、イランのミサイルが対象ということです。現在の予定だと、うまくいってもそれまでに後1回しか迎撃実験はできないという状態です。8月17日に米国で小野寺防衛相がマティス国防長官に導入方針を伝えたというのもこの2回しか実験をしていないイージスアショアです。

    日本近海に配備したSM3で米国向け弾道ミサイルを撃ち落とす?

    デイビッド・ライトが作成した図を基にした下の図は、2012年の人工衛星打ち上げに使われた銀河3号と射程1万2000kmの液体燃料大陸間弾道弾(ICBM)の初期の軌道の違いを示したものです。ここでは、ICBMの軌道に着目して、ライトの説明に耳を傾けましょう。


    出典 Trajectory of Satellite Launch vs. ICBM Launch - Union of Concerned Scientists


    [日本に配備されているタイプの]SM3はブースト(加速)段階での迎撃を目指すものではない。加速する標的を追うだけの機動性を持っていないからだ。だから、SM3が発射地点の近くに配備されている場合、相手のミサイルの燃料燃焼終了まで待ってから、上昇段階で迎撃を試みることになる。ICBMは、燃焼終了(バーンアウト)頃には、高度も発射地点からの距離も数百キロメートルに達している。そしてSM3よりもずっと速い速度で飛んでいる(7㎞/秒 vs 3㎞/秒)。だから、SM3は追いつくことができない。発射地点からずっと離れた地点で待ち構えて、迎撃ミサイルを発射し、横から弾頭を狙い撃ちしようと試みても、弾頭に到達できそうにない。3㎞/秒の迎撃ミサイルは、高度400-500㎞以上には到達できないからだ。つまり、弾頭は瞬く間に迎撃ミサイルの射程外に飛んで行ってしまう。

    出典:核情報へのメール 2017年4月25日

    要するに、目の前で飛び立った雉が自分の後ろに向かって飛んでいくのを振り向きざまにおもちゃの鉄砲で狙っても、コルクの弾は届かないということです。

    能力向上型だと撃ち落とせるか?

    下の図は、米国向けミサイルの日本付近のコースを示しています。ライトの説明は続きます。


    出典:核情報へのメール 2017年4月29日

    もっと速い速度、例えば4.5㎞/秒の迎撃ミサイルがあれば、高度1400㎞ほどに達することができる。だから、発射地点から十分に下がって迎撃ミサイルを発射すれば上昇段階での迎撃の可能性が高まってくる。だが、これは米国中央部あるいは北部に向けて北朝鮮から発射された弾道ミサイルの場合には難しい。なぜなら、ミサイルは中国やロシアの領土の上を飛んでいくからだ。ちょうどいい場所に迎撃ミサイル用の艦船を置けるかどうか定かではない。西海岸向けは海岸線に近いから撃てる距離にあるようだ。だが、中国・ロシアに向けて迎撃ミサイルを発射すれば陸上に破片が落下することになるだろう。これは歓迎されないかもしれない。

    そもそも、日本が米国西海岸向けミサイルを迎撃するために中国・ロシアに向けてミサイルを撃てばどんなことになりうるか議論されたことがあるのでしょうか。

    オスマン帝国のメフメト2世に倣いロシアでイージス艦の山越えを試みるべきか。

    参考:オスマン艦隊山越え

    グアム向けやハワイ向けのミサイルなら撃ち落とせるか?

    下の図は、グアムとハワイを狙ったミサイルについて示している。

    日本は、約1000㎞の距離にある。これを見ると、どちらの場合も、この時点で弾頭が高度600~700㎞にあることが分かる。この時点での弾頭の速度は
     グアムに向かう弾頭が3.9㎞/秒
     ハワイに向かう弾頭が5.7㎞/秒
    に達している。

    ハワイ、グアムへの飛行高度

    ハワイ、グアムへの飛行高度


    出典:ライトから核情報へのメール 2017年5月24日 (以下同様)

    日本のイージス艦が韓国の東北部の海岸にへばりつくのでなく、日本を防衛すべく日本沿岸にいるとすると、速度:3㎞/秒、真上に打ち上げた場合の高度:400㎞~500㎞というSMブロックIAでは、撃ち落とせないことは図から見て取れます。

    ブロックⅡAならどうか?


    グアム向けミサイル
    燃焼終了高度:150㎞
    (発射地点からの距離:150㎞)
    速度:4.8㎞/秒
    日本上空の最大高度:650㎞
    大阪を攻撃するミサイル
    日本付近の高度100~200㎞

    ブロックⅡAなら、例えば大阪の防衛も任務としながらグアム向けミサイルの軌道の下で構えている船から撃つことによって、上昇段階のミサイル迎撃が機能するかもしれない。……しかし、グアムに向けた発射があるかもしれない、それを迎撃したい、と私が考えたとしたら、迎撃ミサイルを載せた自分の船をグアム近くに動かし、下降段階で迎え撃とうとするだろう。その方が何度も撃つことができる。

    ハワイ向けミサイルはどうか?


    日本近くのハワイ向けミサイル
    発射地点からの距離:1000㎞
    高度:500-600km (ブロックⅠには高すぎる)

    船が軌道の真下でなければ、ブロックⅡでもミサイルの高さに到達するのは難しいかもしれない。迎撃ミサイルは上に向かってだけでなく、水平にも移動しなければならなくなるからだ

    なお、日経新聞は昨年3月28日、グアム向けミサイルに関する次のようなシナリオについて論じています。

    「ミサイルを発射したぞ」。赤外線レーダーを搭載した米軍の早期警戒衛星が熱源を察知し、その1分後に航空総隊司令官に連絡があった。自衛隊のイージス艦のセンサーでも探知したとの報告が入ってきた。スクリーンに映し出された着弾予想地点は「グアム」。航空総隊司令官は「発射せよ」と命じた。海自イージス艦から新型迎撃ミサイル「SM3 ブロック2A」が発射され、北朝鮮の弾道ミサイルを撃ち落とした。

    出典:自衛隊、未知の領域に 安保関連法施行 日経新聞 2016/3/28

    現在配備されているブロックIAではなく、共同開発版を使う内容です

    絶対当たらないと言っていた日本政府

    ここで忘れてならないのは、以前、日本政府は共同開発版でもそんなことはできないと主張していたということです。例えば2001年8月10日に開かれた「市民と外務省との対話集会」で外務省の担当者は、次のように述べています。「日本がアメリカとやっている研究というのは、あくまでも米本土防衛用ではない……技術的にぜんぜんちがうんですね。そこは、簡単に転用されちゃうんじゃないかというような心配はない」。

    共同開発版が米国沿岸に配備されて米国本土を守るために使われる可能性があるのではないかという質問に答えたものです(質問は現「核情報」主宰)。当時は、海上配備の米国本土防衛システムの開発は、米ロ間の「弾道弾迎撃ミサイル(ABM)」制限条約で禁止されていました。質問の趣旨は、日米協力の結果、SM3の能力が上がれば、日本が条約違反に巻き込まれることになるのではないかということです。ブロックⅠの速度は秒速約3㎞、ブロックⅡは4.5㎞あるいはそれ以上とされていました。

    出典:集団的自衛権と米国向けミサイル 絶対当たらないと言っていた外務省 核情報 2009.5.1

    ブロックⅡAでICBM迎撃なら下降段階で

    米コーネル大学のミサイル防衛専門家ジョージ・ルイスは、米ミサイル防衛庁(MDA)の2008年のスライドを使って説明します。

    迎撃が可能な範囲

    迎撃が可能な範囲


    出典:Strategic Capabilities of SM-3 Block IIA Interceptors (June 30, 2016)

    *上の図を含むMDAのブリーフィング資料 Missile Defense Agency, “Aegis Ballistic Missile Defense: Status, Integration and Interoperability,” May 6, 2008 (pdf)はMDAのサイトから姿を消している。

    この資料を含むルイス収集のMDAブリーフィング集がこちらに
    Aegis BMD and Related Briefings (September 12, 2013)


    MDAのこの図は、SM3ブロックⅡAが射程1万キロのICBMをその上昇段階(Ascent)と下降段階(Descent)の両方で迎撃することを示している。だが、上昇段階での迎撃が可能になる範囲はかなり限られているだろう。さらに、ICBMが通常より高いロフテッド軌道で飛ばされた場合、上昇段階での迎撃は不可能になるかもしれない。ブロックⅡAの能力は下降段階での方がずっと高くなる。

    出典:核情報へのメール 2017年4月26日

    *2001年8月の外務省に対する質問は、米国がまさにこのICBMの下降段階迎撃用に日米共同開発バージョンを使おうとして、米国沿岸に配備した艦船に搭載した場合、当時のIBM条約に違反する行為に日本が加担することになるのではないかというものだった。

    グアム近海へのミサイル発射は存立危機事態に当たるか?

    最後に法解釈について見ておきましょう。集団的自衛権を認めるよう憲法解釈を変えるべきとする安保法制懇の2014年5月の報告に従う形で、安倍政権は2014年7月1日、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」(存立危機事態)においては集団的自衛権の行使を認めるべきとする閣議決定を行います。続いて、2015年5月14日、安全保障関連法案(安保法案)(「平和安全法制整備法案」及び「国際平和支援法案」)を閣議決定。これらの法案は2015年9月19日に参議院で可決・成立しました。

    冒頭で触れた威嚇の応酬の中で、「火星12」4発をグアム周辺に同時発射することを検討していると朝鮮人民軍戦略軍司令官が発表したとの報道がありました。朝鮮中央日報が8月10日、前日の出来事として報じました。記事は、グアム向けミサイルは島根、広島、高知の各県を通過し、3356.7㎞を1065秒飛んでグアムから30~40㎞の海域に突入すると述べています。問題の小野寺外相の発言は、実際に発射されたらそれは「存立危機事態」に当たるか否かに関するものです。10日午前の衆院安全保障委員会の閉会中審査で外相が当たりうると答弁したと各紙が報じました。

    実は、2015年6月に安保法制が国会で議論された際に内閣法制局長官がこのようなケースは集団的安全保障が可能となる存立危機事態には該当しないと答えています。

    長島昭久議員 まだ半島で武力衝突は勃発をしていない、したがって重要影響事態でもない、つまりは平時です。この平時でいきなりミサイルが上がってきた・・・着弾地点が大体グアムだという表示が出た場合、現状の法律、そしてまたこれから改正されるであろう法案の中で、我が国としてはどういう対応ができるんでしょうか。……

    横畠裕介政府特別補佐人(内閣法制局長官) 今回の法案の中身ということでございますけれども、御指摘の点についての手当てはしてございませんで、いわゆるミサイル防衛については、我が国に向かうミサイルについての措置のみでございます。

    出典:第189回国会 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第15号(平成27年6月29日(月曜日))

    改訂された自衛隊法76条でも集団的自衛権行使の自衛隊出動の条件として「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」であることが規定されています。内閣法制局長官の答弁は、いまだ「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し」ていない段階では存立危機事態が生じていないという自然な解釈から来たものでしょう。この議論は、上述の技術的問題点を明確にしたうえで行うべきものです。

    都市伝説検証隊

    蛇口からみかんジュース? 坊ちゃんの町の都市伝説

    検証前

    検証前

    検証前

    検証中

    検証中

    検証中



    資料編


    技術的問題

    • 元海将によるBMD問題入門書からの抜粋
      金田秀昭『BMD〈弾道ミサイル防衛〉がわかる 増補改訂版(いま、すぐそこにある最大の脅威に備えよ)』イカロス出版 2016/12/6

       米国本土に向かう弾道ミサイルは大圏航法を取るため、朝鮮半島や中国大陸方面から発射された場合、日本上空を飛翔する軌道を通る可能性は高くない。しかし、ハワイやグァム島に向かって朝鮮半島から弾道ミサイルが打ち込まれるような状況下では、日本の上空を通過する可能性は高い。

       また、将来はともかく、現状では日本が配備する防空ミサイル防衛システムの一部であるBMD関連システムは、ICBMのような長射程弾道ミサイルを迎撃する能力を有していないため、集団的自衛権の行使になり得るような態様でBMDを含む防空ミサイル防衛システムが使用されるとは考えにくい。

      p.184-185

    • 今回の「存立危機論争」についての元空将による論評
      グアムを狙ったミサイルより日本向けを真剣議論せよ
      北朝鮮の核の脅威に「虚空に吠える」議論は有害無益
       2017.8.18(金) 織田 邦男
    • 日本が導入しているSM3では米国向け弾道ミサイル迎撃は不能との質問主意書答弁(2007年)
      第166回国会  質問第四七九号政府の「日本のミサイル防衛計画」に関する質問主意書
      平成十九年七月三日提出
      提出者  辻元清美
      答弁 内閣衆質一六六第四七九号  平成十九年七月十日

      三の2について

       我が国が今般導入する迎撃ミサイルであるSM-三については、射程約千キロメートル級の弾道ミサイルに対処し得るよう設計されており、我が国から遠距離にある他国へ向かうような弾道ミサイルは、高々度を高速度で飛翔するため、このような弾道ミサイルを撃墜することは技術的に極めて困難である。

      三の3から5までについて

       現在、我が国が導入を進めている弾道ミサイル防衛システムは、あくまでも我が国を防衛することを目的とするものであり、弾道ミサイル等が我が国に向けて飛来することを確認した上で、迎撃することとしている。

    • 法制懇報告書とこれまでの政府説明をまとめた質問主意書と答弁(2014年)
      第186回国会(常会)
      質問主意書 第八八号集団的自衛権並びに安保法制懇に関する質問主意書
      平成二十六年五月一日 福島 みずほ

      五 報告書は、「同盟国である米国が弾道ミサイルによって甚大な被害を被るようなことがあれば、我が国自身の防衛に深刻な影響を及ぼすことも間違いない。それにもかかわらず、技術的な問題は別として、仮に米国に向かうかもしれない弾道ミサイルをレーダーで捕捉した場合でも、我が国は迎撃できないという状況が生じてよいのか」としている。

       しかし、一方で政府は、ミサイル迎撃に関する技術的実現性について、「我が国のミサイル防衛システム、これは、あくまでも我が国の領域に飛来する弾道ミサイルに対処し得るように整備をしているものでございます。我が国の領域に飛来しない弾道ミサイルを迎撃することを想定して整備しているものではございません。我が国のミサイル防衛システム、これは基本的に、SM3搭載のイージス艦による上層防衛、宇宙空間における迎撃と、それから、拠点防衛のためのペトリオット、PAC3による下層防衛、この二層から成っております。これによりまして、我が国に飛来する、射程でいいますと、大体千キロから千三百キロ級の弾道ミサイルに対処し得るように整備をしてきているところでございます。したがいまして、御質問のような、アメリカの本土に飛んでいくような長距離の弾道ミサイルを迎撃するということにつきましては、これは、まさにそのようなミサイルでありますと、飛翔の経路、高度を考えましても、千キロなり千三百キロの射程のものと比べますと、極めてより高いところを飛びます、それから極めて速度も速くなります、このようなものと、今我が方が持っております迎撃ミサイルの能力というものを踏まえますと、そのようなものを撃ち落とすということにつきましては、技術的に極めて困難であると考えております。」(二〇一三年五月二十三日の衆議院安全保障委員会における徳地政府参考人)と答弁している。

       実現が不可能ないし極めて困難な事例を基にして集団的自衛権必要論の根拠としており、甚だ不適切と考えるが、いかがか。

      答弁書第八八号

      三から五までについて

       御指摘の報告書は、平成十九年に開催された「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」における有識者の意見を取りまとめたものであり、その記述の根拠等について、政府としてお答えする立場にない。

       米国艦艇の能力の詳細について、政府としてお答えすることは困難であるが、一般に、イージス・システムを搭載した艦艇が弾道ミサイルを追尾している場合には、弾道ミサイル以外の対艦ミサイルから自艦を防御するための能力が相対的に低下するものと承知している。

    • 2016年版防衛白書 弾道ミサイル攻撃などへの対応(含:BMD整備構想・運用構想図)
    • 弾道ミサイル防衛 平成20年3月 防衛省(pdf)
    • 弾道ミサイル防衛(BMD)について 防衛省

    安保法制

    2016年版防衛白書

    第II部 わが国の安全保障・防衛政策と日米同盟 > 第3章 平和安全法制などの整備

    1 法整備の背景

    2 法整備の経緯・意義

    第2節 平和安全法制などの概要 1 平和安全法制整備法の概要

    法制懇

    • 第1次安倍内閣
      「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」2007年2月~8月
      報告書(pdf) 平成20年6月24日

      安倍前総理は、このような安全保障環境の変化や法解釈の適切性に留意し、以下の四つの事例を問題意識として提示され、本懇談会で検討するよう指示された。

      ① 共同訓練などで公海上において、我が国自衛隊の艦船が米軍の艦船と近くで行動している場合に、米軍の艦船が攻撃されても我が国自衛隊の艦船は何もできないという状況が生じてよいのか。

      ② 同盟国である米国が弾道ミサイルによって甚大な被害を被るようなことがあれば、我が国自身の防衛に深刻な影響を及ぼすことも間違いない。それにもかかわらず、技術的な問題は別として、仮に米国に向かうかもしれない弾道ミサイルをレーダーで捕捉した場合でも、我が国は迎撃できないという状況が生じてよいのか。

      ③ 国際的な平和活動における武器使用の問題である。例えば、同じPKO等の活動に従事している他国の部隊又は隊員が攻撃を受けている場合に、その部隊又は隊員を救援するため、その場所まで駆け付けて、要すれば武器を使用して仲間を助けることは当然可能とされている。我が国の要員だけそれはできないという状況が生じてよいのか。

      ④ 同じPKO等に参加している他国の活動を支援するためのいわゆる「後方支援」の問題がある。補給、輸送、医療等、それ自体は武力の行使に当たらない活動については、「武力の行使と一体化」しないという条件が課されてきた。このような「後方支援」のあり方についてもこれまでどおりでよいのか。

      ……

      本懇談会は、この四つの類型に関して、我が国が適切な行動がとれないとすれば、それは我が国の安全を著しく脅かす可能性があるものであると判断し、しかも、憲法解釈を変更することによって、この4類型に適切な対処をすることが十分可能であると判断した。

      ……

      (2)問題に対する政策目標

      設問にもあるとおり、同盟国である米国が弾道ミサイル攻撃によって甚大な被害を被るようになれば、我が国自身の防衛に深刻な影響を及ぼすこととなり、また、我が国の安全保障の基盤たる日米同盟を根幹から揺るがすことになる。

      弾道ミサイル防衛は、日米共同で成り立ち、かつ、情報、核抑止力等の面で我が国が米国に大幅に依存しており、従来以上に日米の緊密な連携関係を前提としている。したがって、このような連携関係を離れて我が国のミサイル防衛だけを考えることはできない。

      さらに、我が国に飛来する弾道ミサイルは個別的自衛権で撃ち落せるが、米国に向かうミサイルを撃ち落すことは集団的自衛権の行使に当たるのでできないとの立場、あるいは、いずれの場合か判断できないため対応が遅れるという状況は、弾道ミサイルに対する抑止力を阻害する。

      以上にかんがみ、米国に向かうかもしれない弾道ミサイルを我が国が撃ち落す能力を有するにもかかわらず撃ち落さないという選択はあり得ない。・・・

      前記(2)で述べたように、米国に向かう弾道ミサイルを我が国が撃ち落せる場合には撃ち落すべきであるということが我が国の政策目標である以上、この目標達成を法制的に可能にする方法としては、集団的自衛権の行使を認める以外にないと思われる。

    • 第2次安倍内閣
      「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」 2013年2月~2014年5月
      報告書(pdf) 平成26年5月15日

      (2)集団的自衛権とは、国際法上、一般に、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていない場合にも、実力をもって阻止する権利と解されている。また、集団的自衛権の行使は、武力攻撃の発生(注:着手も含まれる 21。)、被攻撃国の要請又は同意という要件が満たされている場合に、必要性、均衡性という要件を満たしつつ行うことが求められる。

      我が国においては、この集団的自衛権について、我が国と密接な関係にある外国に対して武力攻撃が行われ、その事態が我が国の安全に重大な影響を及ぼす可能性があるときには、我が国が直接攻撃されていない場合でも、その国の明示の要請又は同意を得て、必要最小限の実力を行使してこの攻撃の排除に参加し、国際の平和及び安全の維持・回復に貢献することができることとすべきである。そのような場合に該当するかについては、我が国への直接攻撃に結びつく蓋然性が高いか、日米同盟の信頼が著しく傷つきその抑止力が大きく損なわれ得るか、国際秩序そのものが大きく揺らぎ得るか、国民の生命や権利が著しく害されるか、その他我が国へ深刻な影響が及び得るかといった諸点を政府が総合的に勘案しつつ責任を持って判断すべきである。また、我が国が集団的自衛権を行使するに当たり第三国の領域を通過する場合には、我が国の方針として、その国の同意を得るものとすべきである。さらに、集団的自衛権を行使するに当たっては、個別的自衛権を行使する場合と同様に、事前又は事後に国会の承認を得る必要があるものとすべきである。

    • 2014年7月1日
      閣議決定(pdf)

      現在の安全保障環境に照らして慎重に検討した結果、我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使することは、従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として、憲法上許容されると考えるべきであると判断するに至った。

    存立危機事態

    • 中谷防衛相(当時)及び内閣法制局説明 2015年6月
      第189回国会 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第15号(平成27年6月29日(月曜日))
      長島(昭)委員 …

       まだ半島で武力衝突は勃発をしていない、したがって重要影響事態でもない、つまりは平時です。この平時でいきなりミサイルが上がってきた、連射された。SEWの情報、早期警戒衛星の情報によれば、数分後には大体着弾地点がわかるわけですね。これは平時ですよ、平時。着弾地点が大体グアムだという表示が出た場合、現状の法律、そしてまたこれから改正されるであろう法案の中で、我が国としてはどういう対応ができるんでしょうか。

      中谷国務大臣 現状におきましては、他国において武力紛争が行われているが我が国に対する武力攻撃の発生には至っていない段階で、他国に対する武力攻撃の一環として発射された弾道ミサイルを迎撃する行為は、国際法上、一般に集団的自衛権の行使と評価をされて、警察権による正当化をすることは困難でございます。

       また、他国において武力紛争が行われておらず、我が国に対する武力攻撃の発生にも至らない段階で、武力行使の一環として発射されたものでない他国に向けた弾道ミサイルを迎撃する行為は、警察権による正当化も排除されているわけではありませんが、現行の自衛隊法第八十二条三に基づく措置は、他国に飛来するミサイル等を対象としていないということでございます。

      長島(昭)委員 これは、法案が仮にここで成立したとしても、状況は同じですか。

      横畠政府特別補佐人 今回の法案の中身ということでございますけれども、御指摘の点についての手当てはしてございませんで、いわゆるミサイル防衛については、我が国に向かうミサイルについての措置のみでございます。

      長島(昭)委員 残念ながら、これも今回の法案の大きな欠陥です。ここが埋まらない限りは万全な体制がとれないんですよ。

       まさにそれは、あさっての方向に行くからいいだろうというんですけれども、これは安保法制懇でこういうふうに言っているわけですよ。「米国に向かう弾道ミサイルを我が国が撃ち落す能力を有するにもかかわらず撃ち落さないことは、我が国の安全保障の基盤たる日米同盟を根幹から揺るがすことになるので、絶対に避けなければならない。」

       絶対に避けなければならないケースなんですよ。こういうケースに対応できないで今回の法案を通してくれと言っても、これはなかなか私たちも通すことができないし、先日私が指摘しました領域警備の法体制も完璧ではないですね。

       その二つをあわせて、私は、この点を修正しない限りは、なかなかこの法案に対して議論することは難しい、このことを申し上げて、質疑といたします。

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