核情報

2018.12. 2

未臨界実験、トランプ政権の意志の表れ?

時事通信が、10月9日、「米国が昨年12月、西部ネバダ州で核爆発を伴わない臨界前核実験を行っていたことが9日、米エネルギー省国家核安全保障局(NNSA)の報告書で明らかになった」と報じ、各社が同様の内容で続きました。核の役割を拡大する政策を出したトランプ政権の姿勢と実験を結びつける報道がほとんどでしたが、実際はオバマ政権時代から計画されていたものでした。実験の情報源はNNSAが年4回発行している『ストックパイル・ステュワードシップ(核兵器維持管理)クオータリー』というニュースレターの2018年3月号。この号は10ページ仕立てで、関係者の集合写真も含めて2ページ弱の記事が実験について説明しています。背景を概観したうえで、今回の実験について見てみましょう。(下の図は同誌6ページより引用)

  1. 包括的核実験禁止条約との関係
  2. 新しい爆薬の影響に関する実験ベガ
  3. 未臨界実験の問題点と水爆部分の実験装置

包括的核実験禁止条約との関係

ネバダ核実験場の地下で行われたこの実験は、プルトニウムを使ったサブクリティカル・エクスペリメント(SCE)と呼ばれるものです。核分裂の連鎖反応が続く臨界(クリティカル)状態にはならないようにして行う実験で、ここでは未臨界実験と訳しておきます。1996年の包括的核実験禁止条約(CTBT)締結を推進したクリントン政権は、条約署名の前年に、条約発効後も未臨界実験は行うことを発表しています。プルトニウムの老朽化問題を含め、核兵器についての科学的な理解を深め、核兵器の安全性・信頼性を将来に渡って維持するために各種研究施設や未臨界実験が必要だとの立場です。安全性・信頼性が維持できない場合には条約脱退の権利を行使するとし、核実験再開準備態勢維持の方針を明確にしました。

これには、大きな政治的力を持つ核兵器開発研究所(ロスアラモス、ローレンスリバモア、サンディアの国立研究所)との取り引きの意味がありました。膨大な資金を各種新施設の建設に注ぎ込み、雇用も確保するからCTBTに反対しないようにというものです。三つの研究所は研究に基づき毎年、核実験の再開が必要でないと大統領に告げる仕組みになっていて、条約の生殺与奪の権を研究所が握っている格好です。

現在の水爆の引き金となる原爆部分では、中空のプルトニウムの塊(ピット=芯)がこれを取り囲む化学爆薬の爆発によって圧縮(爆縮)されて臨界状態に達したところに中性子が投入され、核分裂爆発が起きます。未臨界実験は、この「爆縮」の際に高温・高圧下でプルトニウムがどのように振る舞うかを調べるものです。中性子の投入もなく、また、「自発的核分裂」で自然に発生する中性子による核分裂の連鎖反応「臨界」も起きないように、使用するプルトニウムの量を制限します。

新しい爆薬の影響に関する実験ベガ

昨年12月13日に実施された28番目の未臨界実験は、ピットの縮尺版を使って実際の爆縮の際と似た状況を再現し、その様子を各種装置で観察・分析するものでした。上の図の右側のボックスにあるライラ(琴座)シリーズのVega(ベガ)です(一番下の赤の四角)。これは、実は前回の未臨界実験(27番目:2012年12月実施)と対をなすものです。左下側ボックスにあるジェミニ(双子座)シリーズの最後の実験Pollux(ポルックス)です(ベガの左側の赤の四角)。こちらは従来型(コンベンショナル)の高性能爆薬(CHE)と特殊核物質(SNM)、つまりはプルトニウムを使った実験でした(プルトニウムの代わりの物質(Surrogate)を使った他の実験の後に未臨界実験という順序)。ベガでは同じ高性能爆薬(HE)でも、事故の衝撃などで爆発に至りにくい低感度(インセンシティブ)のもの(IHE)が使われました。二つの実験は全く同じ寸法の部品を使い、違うのはHEの種類だけにして、観測に変化があればそれはHEの差から来ることを確実に保証しようとするものでした。この流れからするとだいぶ前に実験が構想されたことが分かります。遅くとも冒頭で触れたニュースレターの2015年3月号がベガに言及しています。

未臨界実験の問題点と水爆部分の実験装置

最後に未臨界実験の問題点をいくつか見ておきましょう。

  • 核実験とは異なるが、地下で行われるため見分けがつきにくく、条約上の検証問題を発生させる。
  • 2015年3月号がベガは「ネバダ核実験場でのこれらの実験は、核実験の穏当なレベルの準備態勢の維持に貢献するものだ」と述べている通り、未臨界実験は地下核実験場維持の機能を果たす。これらの実験で分かったつもりになって微修正を核弾頭に加えていくと、いつか過去の実証版と離れすぎて核実験で確認したくなるという危険が存在する。
  • 老朽化については科学諮問グループ「ジェイソン」がプルトニウム・ピットは100年は持つと報告しており、古くなった他の部品は元の設計通りに取り替えるといいとの指摘がある。

なお、2018年3月号は水爆部分の実験装置についても触れています。その一つ、サンフランシスコの近くにある巨大なレーザー核融合装置(NIF)にメガネのHOYAの現地法人が主要部品を提供しています。

参考


初出:原水禁/平和フォーラム ニュースペーパー 2018年11月号


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