カン・ジョンミン前韓国原子力安全委員会委員長が京郷新聞への寄稿で、福島の汚染水放出問題に触れ、フル操業となれば福島の総量の約10倍のトリチウムを毎年放出することになる六ヶ所再処理工場運転計画の中止を訴えました。了解を得て、全文訳を掲載します。
翻訳(核情報)
日本は、放射性廃棄物の放出と六ヶ所村の再処理工場稼働計画中止を
カン・ジョンミン
前原子力安全委員会委員長
2020年3月3日去る2月11日の日本のNHKニュースによると、日本経済産業省の小委員会はその前日の10日に、事故を起こした福島第一原発から排出され蓄積されているトリチウムなどを含む汚染水の処分方法に関して、海洋放出を推奨する内容の正式報告書を日本政府に提出した。経済産業省は、これ基づいて、地域の関係者の意見を聴取した後、海洋放出の時期などを最終的に決定する方針だ。
日本の放射能汚染水の海洋放出について、福島県と隣接した茨城県の知事は正式に反対の立場を表明した。日本の漁業関係者も漁業被害のために反対を表明しており、日本の有権者の半分以上も反対しているというのが最近の世論調査の結果だ。
韓国国内でも先月14日、市民環境団体で構成される「脱原子力市民行動」が記者会見を開き、日本政府に放射能汚染水の海洋放出計画撤回を強く要求した。
現在、福島第一原発では、トリチウムとストロンチウムなどの放射性物質を含有した汚染水が毎日約170tずつ発生しており、2019年10月31日現在、タンク保管量は約117万tに達している。この中に含まれているトリチウムの放射能は、約856兆ベクレル(Bq)と推定されている。
ところが、国内外の反対にもかかわらず国際的な環境犯罪に該当する福島の放射能汚染水の海洋放出を計画している日本政府は、さらに、それ以上の高いレベルの放射能の常時海洋・大気中放出を計画している。2022年に本格稼働開始予定の日本の本州北端の青森県六ヶ所村にある大規模な再処理工場がそれだ。再処理工場というのは、原発で発生した高レベル放射性廃棄物である使用済み核燃料を酸に溶かして化学的に処理し、含有物のうち1%に相当するプルトニウムを、燃料として使用するために(または核兵器製造のために)分離し、残りは高レベル、中レベル、低レベル放射性廃棄物に分離して保存するところだ。
再処理過程では使用済み核燃料内の放射性物質が放出されるが、トリチウムもこの過程で放出される。六ヶ所村の工場が年間800tの使用済み核燃料を再処理すると、他の放射性物質に加えて、年間約9700兆Bqのトリチウムが海洋に放出される。これは、現在、福島第一原発の汚染水に含まれるトリチウムの総量の10倍以上である。さらに、大気中にも、他の放射性物質と一緒に福島のトリチウムの総量と同量のトリチウムが毎年放出される。2022年に六ヶ所村の再処理工場が稼動し始めると、環境面で見ると、災害に近い大量の放射能を六ヶ所村周辺の海洋と大気中に常時放出することになるだろう。
六ヶ所再処理工場の稼動は、日本の核武装の可能性やテログループによるプルトニウム奪取の可能性のため、この間、国際社会の懸念の種となってきている。年間800tの使用済み核燃料を再処理すると8tのプルトニウムが分離されるが、これは国際原子力機関(IAEA)の基準によれば、核兵器1000発分に相当するからだ。ところがこの工場は、それに加えて、環境面でも、災害レベルの放射能を常時海洋と大気中に放出する放射性廃棄物放出工場でもある。六ヶ所再処理工場の稼働が中止されなければならない理由である。
参考:
六ヶ所再処理工場から放射性物質の予定される放出「目標値」
【せん断処理までの期間15年以上の放出管理目標値】
(気体) 核種 放出管理目標値 (Bq/y) Kr-85 1.6×1017 H-3 1.0×1015 C-14 5.1×1013 I-129 1.1×1010 I-131 1.0×1010 その他核種 α線を放出する核種 3.1×108 α線を放出しない核種 7.5×109
(液体) 核種 放出管理目標値 (Bq/y) H-3 9.7×1015 毎年9700兆Bqの
トリチウム(H-3)放出I-129 4.3×1010 I-131 1.0×1011 その他核種 α線を放出する核種 3.6×109 α線を放出しない核種 9.5×1010
出典:『六ヶ所再処理施設及びMOX燃料加工施設における新規制基準に対する適合性─放出管理目標値の変更』(pdf) 日本原燃株式会社 2018年5月9日 より作成
福島第一原子力発電所における2019年10月31日までのタンク内のトリチウム量の総量
処理水中に含まれるトリチウムの総量について
タンク水位 実測or推定 貯蔵量 トリチウム量 ALPS処理水タンク(実測値) 実測 約83万m3 約506兆Bq ALPS処理水タンク等*1(推定値) 推定 約34万m3 約350兆Bq*2 合計 約117万m3 約856兆Bq *1:測定未実施・移送中のALPS処理水タンク及びストロンチウム処理水タンクを含む。
*2:推定値であるため、今後、実測の結果によって値を見直す可能性がある。
出典:第15回 多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会
多核種除去設備等処理水の貯蔵・処分の時間軸 2019年11月18日
東京電力ホールディングズ株式会社(pdf) p.1 処理水中に含まれるトリチウムの総量について
写真出典:東京電力ホールディングス
写真出典:多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会 説明・公聴会資料(pdf:5518KB)