日本政府は、2012年9月、2011年末の国内保有分離済みプルトニウムの量を9.3トンとして国内外に向けて報告し、翌2013年9月にも同様の数字を2012年末のものとして使いましたが、2011年3月に九州電力玄海3号機の原子炉に装荷し、使わないまま2年後に取り出した「ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)」燃料を計算に入れていません。この燃料に含まれるプルトニウムは640kg。8kg行方不明なら1発核兵器ができているかもしれないとするIAEAの「有意量(SQ)」で計算すると80発分です。これを加えると、2011年末の日本の国内保有量は9.9トン、英仏に保管中のものも入れた総保有量は、約44.3トンから約44.9トンに増えます。
日本のプルトニウム保有量及びMOX輸送・使用に関する核情報のまとめはこちら
- IAEA年次報告の概念との混同──核兵器物質保有の重大性に関する認識の欠如
- IAEA年次報告の概念とは?
- 未照射のまま2年後に取り出した玄海3号機のMOX燃料
- 「未照射」と「使用済み」しかない日本の報告書の概念
- 二つの概念の詳細な比較
- 使用レベルの低いものは未照射と報告するドイツ
- 正しい報告:国内保有量9.9トン、総保有量約45トン──透明性の欠如と混乱
- 再処理工場を運転する資格などない日本
- 『我が国のプルトニウムの管理状況』の報告方法─詳細な解読
- 参考
IAEA年次報告の概念との混同──核兵器物質保有の重大性に関する認識の欠如
日本は、毎年、原子力委員会の会議で同委員会の事務局を務める内閣府原子力政策担当室が『我が国のプルトニウムの管理状況』という文書を発表し、これに「国際原子力機関(IAEA)」への報告書を含む参考資料を添付するという形で、日本のプルトニウム保有量を報告・説明しています。
問題の1つは、IAEAが核物質の軍事転用防止のための「保障措置」の関係で使っている区分方法と、『我が国のプルトニウムの管理状況』やIAEAへの報告で使う区分方法の混同にあるようです。不注意のミスといえばそれまでですが、非核兵器国として唯一工業規模の再処理工場を持ち、すでに溜め込んでしまった核兵器5000発分以上のプルトニウムの消費の目処も立たないまま六ヶ所再処理工場を動かそうとしている国として、透明性の面からだけ言っても余りにもお粗末です。プルトニウムが核兵器利用可能物質であり、厳重に保管・管理しなければならないという点についての認識が政府に欠けていることを示しているといわれても仕方ないでしょう。
IAEA年次報告の概念とは?
IAEAは、その年次報告書でプルトニウムを
- 1)「照射済み燃料及び原子炉内の燃料要素に含まれるプルトニウム」
- 2)「原子炉の外にある分離済みプルトニウム」
に分けています。
照射済み燃料とは中性子の照射によって核分裂を経た燃料ということです。つまり使用された燃料です。これと、原子炉内に装荷したMOX燃料が1)に入ります。使用済み燃料からは強い放射線が出るので、簡単には中にあるプルトニウムを取り出せません。また、原子炉に装荷し蓋をしてしまえば、未使用のMOX燃料の中のプルトニウムも軍事転用できません。
原子炉の敷地に運び込まれたMOX燃料は、その発熱量と放射線のレベルの高さのため、使用済み燃料プールに保管されます。この段階では、MOX燃料内のプルトニウムは2)に入りますが、原子炉に装荷して蓋をしてしまうと1)に入ります。普通は、原子炉は燃料を装荷した後、間もなく起動、通常運転と移り、MOX燃料は照射されます。その後は、定期検査の際の短期間を除けば、炉内に留まり、最終的には「使用済み」となって取り出されます。今回は、福島原発事故のために炉が運転されず、「普通」でない事態が発生してしまいました。
未照射のまま2年後に取り出した玄海3号機のMOX燃料
2010年12月11日に発電を停止して第13回定期検査に入った玄海3号機では、2011年3月8日〜12日に燃料装荷を行った際、プルトニウム640kgを含有する新しいMOX燃料も原子炉に装荷しました。しかし、この期間に起きた福島第一原子力発電所の事故の影響で原子炉の運転を再開できないまま、2年後の2013年3月6日〜11日に取り出して使用済み燃料プールに戻しました。現在は、新燃料が最初から使用済み燃料プールに置かれていたのと同じ状態にあります。640kgのプルトニウムは、「炉内には装荷されたが照射されていないプルトニウム」として1)の範疇に入った後、炉外にそのまま出てしまったのです。2)に戻ったことになります。MOX燃料からプルトニウムを取り出すのは簡単なため、MOX燃料は保障措置上、核兵器に直接利用できる物質として扱われています。
IAEAの『保障措置用語集』によるとMOX燃料の核兵器への転用時間は1〜3週間です。盗取防止のためのセキュリティー対策もそれに応じてなされる必要があります。
「未照射」と「使用済み」しかない日本の報告書の概念
一方、内閣府の原子力委員会事務局担当室が2012年9月11日の原子力委員会定例会議で報告した『平成23年末における我が国の分離プルトニウム管理状況』にあるのは、
- 国内にある保管中の分離プルトニウム量
- 海外に保管中の分離プルトニウム量
だけです。前者は保管場所により「再処理施設」、「燃料加工施設」、「原子炉施設等」の3つの範疇に分かれます。保管中のMOX燃料内のプルトニウムは「原子炉施設等」に入ります。玄海3号に装荷したことを理由にこの範疇から外された 640kgの未照射分離プルトニウムの行方は、この表からは分かりません。
二つの概念の詳細な比較
少し詳しく見てみましょう。2012年9月11日の原子力委員会定例会議(第39回原子力委員会定例会議議事録(PDF:517 KB))で内閣府の担当者は、次のように説明しています。
ここで取りまとめておりますプルトニウムは再処理施設で、分離されてから原子炉に装荷されるまでの状態のプルトニウムを指します。これを分離プルトニウムと称しております。具体的には再処理施設の分離・精製工程中の硝酸プルトニウム、燃料加工施設の原料として貯蔵されている酸化プルトニウム。あと、原子炉施設では新燃料として保管されているもの。そして、海外保管につきましては、分離されてから返還されずに当該国に置いてあるものを指します。
つまり、「国内に保管中の分離プルトニウム量」とは、「再処理施設で、分離されてから原子炉に装荷されるまでの状態のプルトニウム」だとのことです。
続けてこう言っています。
原子炉施設等につきましては、玄海原子力発電所3号機におきまして新燃料貯蔵庫に保管されておりましたMOX燃料を炉心に装荷したことにより、640kgの減少となっております。なお、このいわゆる棚卸しは東日本大震災前に行われたものです。結果として計で1,568kg、このうち核分裂性のものが1,136kgとなっております。以上により、国内で保管されております分離プルトニウムの量は、合計で9,925kg、このうち核分裂性のものが6,316kgとなります。
「定義」に従って、装荷したMOX燃料の640kgを「国内に保管中の分離プルトニウム」から外した結果、国内の量は9925kgとなったとの説明です。装荷しただけで未照射の640kgが国内保有量でなくなってしまったわけです。ではこの640kgは何でしょう。実態が国内保有の分離済み未照射プルトニウムであることは間違いありません。
日本がIAEAに提出した報告書にある区分は、
- 民生未照射プルトニウムの年次保有量
- 使用済民生原子炉燃料に含まれるプルトニウム推定量
の2つだけです。つまり、「未照射」と「使用済み」の二者択一です。そして、使用済み燃料は、1)原発で原子炉から出して保管中のもの、2)再処理工場にあるもの、3)その他の場所にあるものとに分かれます。日本は、実際は原子炉に「装荷しただけで照射していないプルトニウム」640kgを「未照射」から外して報告しました。 しかし、これは明らかに未照射の内の「原子炉又はその他の場所での未照射MOX燃料又はその他の加工製品に含まれるプルトニウム」に入れるべきですものです。しかも外された640kgが何処へ行ったかは明記されていません。「使用済み」の方に入れて報告しているとすると、IAEAの年次報告の方の「照射済み燃料及び原子炉内の燃料要素に含まれるプルトニウム」の量がそのまま、単なる「使用済み」に化けてしまったことになります。しかしこれは、「使用済み」の3つの分類から言って明らかに間違いです。一方、「未照射」と「使用済み」のどちらにも入れていないとすると、核兵器80発分の640kgが帳簿上行方不明、未申告になっているということになります。
定例会議で出された各種資料の詳細は、後で見ますが、問題の640kgのプルトニウムの入っているMOX燃料は実際は「使用済み燃料」ではありません。報告書が作成された2012年9月の段階では、原子炉が直ぐに運転となりそうにないことは明らかでした。報告方法についての混乱があったか否かにかかわらず、透明性の観点からだけで言っても、日本政府は、国民や国際社会に対し640kgのプルトニウムの状況について明確に説明すべきだったでしょう。『我が国のプルトニウムの管理状況』(2011年末、pdf)で2011年末の状況を説明した内閣府の担当者は「原子炉施設等につきましては、玄海原子力発電所3号機におきまして新燃料貯蔵庫に保管されておりましたMOX燃料を炉心に装荷したことにより、640kgの減少となっております」とだけ述べて、炉外に保管されていたプルトニウムが減ったことを説明していますが、この640kgがどういう扱いになったかについては説明していません。また、2013年9月11日の原子力委員会(第34回原子力委員会臨時会議議事録(pdf))『我が国のプルトニウムの管理状況』(2012年末, pdf)でも国内未照射プルトニウム保有量について約9.3トンという2011年末と同じ数字が使われています。上述の通り、2013年3月には、640kgは未照射のまま炉から取り出されて使用済み燃料プールに戻されていました。その6カ月後に作成された報告では、640kgは2012年末段階でも未照射であることを明確にすべきだったことは間違いありません。
*プール貯蔵のMOX燃料
内閣府の担当者は、「新燃料貯蔵庫」に保管されていたMOX燃料(640kgのプルトニウムを含む)が炉心に装荷されたと言っていますが、実際は、このMOX燃料は玄海原発に搬入した後、使用済み燃料プールに保管されていました。放射線及び発熱量のレベルの高さのため使用済み燃料プールに貯蔵されるというのは前述の通りです。2009年のMOX燃料輸送に関する九州電力の文書『玄海原子力発電所3号機で使用するMOX燃料の到着について』(2009年6月, pdf)も「D輸送容器(MOX燃料)の保管」「輸送容器からMOX燃料を取り出し、使用済燃料ピットで保管する」としています。
使用レベルの低いものは未照射と報告するドイツ
ここで注目されるのがドイツの報告の仕方との差です。日本のIAEAに対する「民生未照射プルトニウム」の報告は、1997年に米、露、英、仏、中、日、独、ベルギー、スイスの9ヶ国が、IAEAに共通の書式で行うことを決め、自発的に実施しているものです。これらの国々が合意した「プルトニウム管理指針」は、1998年3月16日、IAEAによってINFCIRC/549(英文pdf)、(2009年修正英文pdf)として発表されました。以後、これらの国々のプルトニウム保有量は、INFCIRC/549文書として毎年IAEAに報告されています(Information Circulars Documents Numbers 501 - 550のINFCIRC/549/Addというのが頭に付いた文書が参加各国の各年の報告)。
ドイツは、原子炉にMOX燃料を入れて運転を開始した後も、核分裂により燃料内の放射能がある一定のレベルに高まるまで、「未照射」として報告しているようです。下の表は、日独両国の「民生未照射プルトニウム年次報告」の量と、IAEAの年次報告(Annual Report)の表A4に記載された非核兵器国の「原子炉の外にある分離済みプルトニウム」の量を比較したものです。IAEAの年次報告書にある数字は、「有意量(SQ)= 8kg」で示してあるので8kgを掛けて算出したトン数を示しています。
独・日による「民生未照射プルトニウム」報告量と
IAEA年次報告書の「原子炉の外にある分離済みプルトニウム」の量(単位:トン)
年 | 独 | 日本 | 独日合計 | IAEA |
---|---|---|---|---|
2012 | 2.4 | 9.3 | 11.7 | 11.7 (1466 SQ) |
2011 | 2.1 | 9.3 | 11.4 | 10.5 (1311 SQ) |
2010 | 5.1 | 9.9 | 15.0 | 11.9 (1489 SQ) |
2009 | 5.4 | 10.0 | 15.4 | 12.2 (1521 SQ) |
「国際核分裂性物質パネル(IPFM)」共同議長を務めるプリンストン大学のフランク・フォンヒッペル公共・国際問題名誉教授が指摘する通り、2009年〜2011年までは、独・日の「民生未照射プルトニウム」の合計の方が、IAEA年次報告書の「原子炉の外にある分離済みプルトニウム」(=原子炉外の未照射プルトニウム)の量より大きくなっていることが分かります。これは、ドイツが、原子炉に装荷したMOX燃料に含まれるプルトニウムの一部を未照射プルトニウムとして報告していることを示していると見られます。MOX燃料を炉に装荷して運転を始めても、少しだけ照射しただけでは、放射能のレベルが低く、大規模な遮蔽装置を備えた再処理施設でなくても中のプルトニウムを簡単に取り出せるから照射済みと見なすべきでないと考えているようです。IAEAは、1メートルの距離で毎時1シーベルトの線量を出すものを「自己防衛的」としています。プルトニウムが回りの放射性物質により、自らを侵入者から守っているという意味です。4時間これを浴びると4シーベルトとなります。半数の人々が死亡する被曝線量です。ドイツはMOX燃料がこのレベルになるまで使用済みと見なさないのかもしれません。
いずれにせよ、日本がMOX燃料を原子炉に装荷した瞬間、その中にあるプルトニウムを「民生未照射プルトニウムの量」から外しているのと大きく異なる報告方法です。報告方法が違う、日本の640kgはどこに行ったか不明、という混乱状態では、IAEAに対するこの報告はそもそも意味のない行為ということになってしまいます。日本は、混乱を招かないような報告方法について「プルトニウム管理指針」関係国及びIAEAと協議すべきです。
IAEAの年次報告書該当箇所は以下(pdf)を参照:
正しい報告:国内保有量9.9トン、総保有量約45トン──透明性の欠如と混乱
関係者は、『我が国のプルトニウムの管理状況』やIAEAへの報告では保障措置関係の特殊な用語の定義に従っただけだというかもしれませんが、そもそもこのような報告は、透明性拡大のために行っているはずのものです。2012年9月11日の原子力委員会定例会議(第39回原子力委員会定例会議議事録(PDF:517 KB))でも、担当者は『我が国のプルトニウムの管理状況』についての説明の冒頭でこう言っています。
プルトニウムの利用につきましては、その利用の透明性の向上を図ることにより、国内外の理解を得ることが重要であるとの認識に基づきまして、平成6年よりプルトニウムの管理状況の公表を行っております。今回は平成23年末における管理状況につきまして取りまとめました。
『我が国のプルトニウムの管理状況』は、IAEAへの報告書を含む参考資料と共に英文でもCurrent Situation of Plutonium Management in Japanとして原子力委員会のホームページに掲載されています。
このような報告書で、炉に装荷しただけの未照射MOX内のプルトニウムを「未照射」から外しておいてそのことについての明確な説明をしなければ、国内保有量9.3トンという数字が一人歩きしてしまうのは予測できたはずです。このような報告で「国内外の理解を得ること」は不可能です。まるで「プルトニウム・ロンダリング」だと諸外国から言われても仕方ないでしょう。玄海3号の640kgは、2013年3月に炉から出されて使用済み燃料プールに置かれています。2014年9月頃に発表する2013年末についての報告ではどうするのでしょう。未照射から外されままでしょうか。現在、問題の640kgの他に、約1880kgのプルトニウムを含む新燃料が各地の原子力発電所の使用済み燃料プールに置かれています(柏崎3号205kg、浜岡4号213kg、高浜3号920kg、高浜4号184kg、伊方3号198kg、玄海3号 160kg)。日本の報告方法だと、これらも一度原子炉に装荷すれば、炉を運転しなくても、「未照射の分離プルトニウム」でなくなります。他の国が意図的か否かに関わらずに同様のことをして保有プルトニウムを過小報告すれば混乱を招くことは必至です。
注を使うとするなら、2011年末国内保有量約9.9トン、総保有量約45トンとした上で、「国内保有量の内、640kgは玄海3号に2011年3月に装荷されたMOX燃料中のものだが同炉は福島第一原子力発電所における事故の影響で運転再開となっていない」とすべきだったでしょう。また、2012年末国内保有量では、やはり9.9トンとし、注で「国内保有量の内、640kgは玄海3号に2011年3月に装荷されたMOX燃料中のものだが同炉は福島第一原子力発電所における事故の影響で運転再開されず、このMOX燃料2013年3月に未照射のまま炉から取り出されて使用済み燃料プールに保管中。運転再開の目処は立っていない」とでもすべきだったでしょう。
原子力委員会の事務局の報告は、国内外で誤解を招いただけでなく、委員諸氏も状況を理解できていないという結果を招いていると思われます。2012年9月11日の原子力委員会定例会議(第39回原子力委員会定例会議議事録(PDF:517 KB))及び2013年9月11日の臨時会議(第34回原子力委員会臨時会議議事録(pdf))の議事録を見る限り、委員が報告方法について理解をした様子は窺われません。理解をしていれば、それでは「国内外の理解を得られない」とコメントしたはずです。理解をしていてコメントしなかったとすれば大問題です。さらには、こんな報告の仕方をしていれば、委員会の事務局を務める内閣府原子力政策担当室内でも誤解・混乱があることは想像に難くありません。同室のスタッフは各省庁や研究所などから出向の形で出たり入ったりと言う状況ですから、どの数字がどのような意味で何処に入っているか明確に理解している人々がどれほど事務局にいるのか疑わしい限りです。
再処理工場を運転する資格などない日本
今回の問題の教訓は、この程度の管理しかできない態勢で、再処理工場を動かしてこれ以上のプルトニウムを分離するなどもってのほかと言うことでしょう。
もう一つの教訓として、残念ながら、プルトニウム関係のデータに関する国会やNGOのチェック体制も不十分であったと言わざるを得ません。1つには、まさか日本政府がこのレベルの間違いを冒すとは予想しがたかったという点がありますが、もう一つの問題は、原子力委員会のホームページなどで、時系列に添った表・グラフなどを含め、情報をまとめて分かりやすく提示するということがなされていないことです。国会議員が質問主意書などで個々の問題について聞くと内閣の責任で答えますが、自発的にデータを分かりやすく、整理して見せるという姿勢がありません。NGOは、断片的な情報の整理を試みるだけでも時間を取られてしまいます。今回の問題の発覚を転換点とし、自発的に分かりやすい情報公開を進めるよう国会議員からも政府に働きかける必要があります。
参考 日本のプルトニウム保有量 核情報(MOX輸送・使用をまとめた表も)
『我が国のプルトニウムの管理状況』の報告方法─詳細な解読
以下、念のために『我が国のプルトニウムの管理状況』(2011年末、pdf)における報告の仕方を整理しておきましょう。(以下に四角く囲む形で引用、文字強調は核情報)
原子炉施設装荷量と定義
3ページの「分離プルトニウムの使用状況」では、「原子炉施設装荷量」の項目で「装荷量(注6)」を640kgとし、注6には、「『装荷量』とは、実際に燃料として使用された分離プルトニウムという観点から、原子炉施設に装荷された量と定義している」とあります。「実際に使用」されたわけではなく、保管場所がプールから原子炉に移っただけなのに、炉がそのまま運転に入って照射の進んだMOX燃料と区別していないということです。
2. 分離プルトニウムの使用状況等(平成23年1月~12月)
( )内は平成22年1月~12月の報告値を示す。
(1)酸化プルトニウムの回収量 《単位:kgPu》
回
収
量
(注4)(独)日本原子力研究開発機構
再処理施設日本原燃株式会社
再処理施設合計 0
(0)0
(0)0
(0)(2)燃料加工工程での使用量 《単位:kgPu》
使
用
量
(注5)もんじゅ・常陽等 0
(412)(3)原子炉施設装荷量 《単位:kgPu》
装
荷
量
(注6)原子炉施設 640
(1,462)
- (注1) 再処理施設内に保管されているプルトニウム量については、核的損耗(参考2(注3)参照。)を考慮した値としている。(注4)の「回収量」のほかに、分析試料の採取や査察等のため転換工程の区域と酸化プルトニウムの貯蔵区域の間で酸化プルトニウムの移動を行うことがある。
- (注2) (注5)の「使用量」のほかに、分析試料の採取や査察のための原料貯蔵区域と加工工程区域間の酸化プルトニウムの移動、再利用するために加工工程区域で回収した酸化プルトニウムの原料貯蔵区域への移動、加工工程区域で完成した新燃料製品等の保管区域への移動を行うことがある。
- (注3)「研究開発施設」とは臨界実験装置等を指す。
- (注4)「回収量」とは、再処理施設において硝酸プルトニウムから酸化プルトニウム(MOX粉)に転換された量と定義している。
- (注5)「使用量」とは、新燃料の加工等のため燃料加工施設の原料貯蔵区域から加工工程区域への正味の払出し量と定義している。
- (注6)「装荷量」とは、実際に燃料として使用された分離プルトニウムの量という観点から、原子炉施設に装荷された量と定義している。
- (注7) 数値は、四捨五入の関係により、合計が合わない場合がある。
3
国内に保管中の分離プルトニウムの内訳
2ページの(1)「国内に保管中の分離プルトニウム」のうち、「原子炉施設等」の所にある「実用原子炉」(軽水炉)サイトで保管中のものを959kgとしています。前年の2010年の量は、1600kgでした。四捨五入の関係でぴったりとは合いませんが、1600kgから玄海3号の640kgが引かれた結果が959kgです。640kgは「国内に保管中の分離プルトニウム」ではなくなったということです。そして、常陽、もんじゅ、研究開発施設の分と959kgを足した結果が1568kg。約1.6トン。前年は約2.2トンでした。差は、玄海の640kgです。この1.6トンという数字が8ページのIAEAへの報告で使われます。本来は、2011年末も前年と同じ、実用原子炉サイト保管中1600kg、原子炉施設保管中2.2トンとすべきでした。
1. 分離プルトニウムの保管状況
( )内は平成22年末の報告値を示す。
(1)国内に保管中の分離プルトニウム量 《単位:kgPu》
……
原
子
炉
施
設
等原子炉名等 常陽 もんじゅ 実用発電炉 研究開発施設
(注3)原子炉施設に保管されている新燃料製品等 134
(134)31
(31)959
(1,600)444
(444)合計
うち、核分裂性プルトニウム量1,568 (2,208)
1,136 (1,549)……
2
原子炉施設等のプルトニウムを「保管プルトニウム」と「装荷プルトニウム」に分類
4ページ「参考1」の「原子炉施設等における保管プルトニウム・装荷プルトニウムの内訳」には、「保管プルトニウム」と「装荷プルトニウム(注2)」という欄があり、注2は、2011年「1月〜12月に新たに装荷された量」とあります。ここに玄海3号の640kgが記入されています。これは、装荷したという事実だけを記載していると考えれば、それ自体は問題ではありません。しかし、それは保管プルトニウム量の方にも入れるべきものです。
【参考 1】
原子炉施設等における保管プルトニウム・装荷プルトニウムの内訳
原子炉名等 保管プルトニウム(注1) 装荷プルトニウム(注2) (参考)炉内挿入済みの分離プルトニウム−
炉外取出済みの照射済みプルトニウム(注3)分離プルトニウム量 分離プルトニウム量 (kgPu) うち核分裂性
プルトニウム量
(kgPuf)(kgPu) うち核分裂性
プルトニウム量
(kgPuf)(kgPu) うち、核分裂性
プルトニウム量
(kgPuf)日本原子力研究開発機構 常陽 134 98 − − 261 184 もんじゅ 31 21 − − 1,533 1,069 東京電力(株) 福島第一原子力発電所3 号機 − − − − 210 143 柏崎刈羽原子力発電所3号機 205 138 − − − − 中部電力(株) 浜岡原子力発電所4 号炉 213 145 − − − − 関西電力(株) 高浜発電所3 号炉 − − − − 368 221 高浜発電所4 号炉 184 110 − − − − 四国電力(株) 伊方発電所3 号機 198 136 − − 633 436 九州電力(株) 玄海原子力発電所3 号機 160 103 640 413 1,317 880 研究開発施設 日本原子力研究開発機構
東海研究開発センター原子力科学研究所
高速炉臨界実験装置331 293 日本原子力研究開発機構
大洗研究開発センター 重水臨界実験装置87 72 日本原子力研究開発機構
東海研究開発センター原子力科学研究所
定常臨界実験装置及び過渡臨界実験装置15 11 その他の研究開発施設 11 9
- (注1)平成23年末の量。
- (注2)平成23年1月〜12月に新たに装荷された量。
- (注3)MOX燃料について、平成23年末までに炉内に挿入した分離プルトニウムの総量から炉外へ取出した照射済みプルトニウムの総量を差し引いたもの。平成23年末時点で、炉内に挿入中のMOX燃料の新燃料時点でのプルトニウム重量に相当。
参考データ(平成23年末) 原子炉施設等に貯蔵されている使用済燃料等に含まれるプルトニウム 132,908kgPu
再処理施設に貯蔵されている使用済燃料に含まれるプルトニウム 25,723kgPu
放射性廃棄物に微量含まれるプルトニウム等、当面回収できないと認められているプルトニウム 145kgPu4
なお、2012年末に関するバージョンでは、上の注3)の最後に「定期検査のため、炉外に一時移動し保管されている場合もある」と付け加えられています。これは、2012年2月20日に定期検査に入った高浜3号のMOX燃料と、問題の玄海3号のMOX燃料が運転の見通しが立たないまま、炉から出されて使用済み燃料プールに置かれていることを意味しているのでしょう。玄海3号の合計1317kgのうち、640kgは未照射であることは説明されていません。2013年末に関する報告では、伊方3号のMOX燃料がこの範疇に入ることになります。
- * 「(参考)炉内挿入済みの分離プルトニウム−炉外取出済みの照射済みプルトニウム」と注3の部分は、日本語自体が難解ですが、原子力委員会のホームページにある英訳は、外国人にとって理解不能のようです。
IAEAへの報告──「未照射」と「使用済み」の二者択一
8ページの『国際プルトニウム指針に基づきIAEAに報告する平成23年末における我が国のプルトニウム保有量』では、「民生未照射プルトニウムの年次保有量」の中の「原子炉またはその他の場所での未照射MOX燃料又はその他加工製品に含まれるプルトニウム」として、2ページで見た1.6トンを報告しています。前年は2.2トンでしたから、640kgが「未照射」から消えてしまったわけです。先に見たとおり、IAEAの年次報告書では「照射済み燃料及び原子炉内の燃料要素に含まれるプルトニウム」と「原子炉の外にある分離済みプルトニウム」という分け方をしていますが、日本のIAEAへの報告では「未照射」か「使用済み」かの2者択一です。当然、640kgは「未照射」に入れるべきです。使用済みは、1)原子炉施設、2)再処理工場、あるいは、3)その他の場所に保管されているものに分かれています。(*注) この二者択一で640kgを「使用済み」に入れていれば、明らかな虚偽申告であり、どちらにも入れていないとすると核兵器80発分の帳簿上の紛失事件ということになります。
国際プルトニウム指針に基づきIAEA に報告する
平成23年末における我が国のプルトニウム保有量( )内は平成22年末の報告値を示す。
民生未照射プルトニウム年次保有量 (単位:tPu*1)
1. 再処理工場製品貯蔵庫中の未照射分離プルトニウム 4.4 ( 4.4 ) 2. 燃料加工又はその他製造工場又はその他の場所での製造又は加工中未照射分離プルトニウム及び未照射半加工又は未完成製品に含まれるプルトニウム 2.9 ( 2.9 ) 3. 原子炉又はその他の場所での未照射MOX燃料又はその他加工製品に含まれるプルトニウム 1.6 ( 2.2 ) 4. その他の場所で保管される未照射分離プルトニウム 0.4 ( 0.4 ) [上記1-4 の合計値]*2 [ 9.3 ( 9.9) ] ()上記1-4 のプルトニウムのうち所有権が他国であるもの 0 ( 0 ) ()上記1-4 のいずれかの形態のプルトニウムであって他国に存在し、上記1-4 には含まれないもの 35.0*3 (35.0*3) ()上記1-4 のいずれかの形態のプルトニウムであって、国際輸送中で受領国へ到着前のものであり、上記1-4 には含まれないもの 0 ( 0 )
使用済民生原子炉燃料に含まれるプルトニウム推定量 (単位:tPu*4)
1. 民生原子炉施設における使用済燃料に含まれるプルトニウム 133 ( 127 ) 2. 再処理工場における使用済燃料に含まれるプルトニウム 26 ( 25 ) 3. その他の場所で保有される使用済燃料に含まれるプルトニウム <0.5 ( <0.5 ) [上記1-3 の合計値]*5 [ 159 ( 152 ) ] (定義) 1:民生原子炉施設から取り出された燃料に含まれるプルトニウムの推定量 2:再処理工場で受け入れた燃料のうち、未だ再処理されていない燃料に含まれているプルトニウムの推定量
- *1;四捨五入により100kg単位に丸めた値。
- *2,*5;合計値はいずれも便宜上算出したものであり、報告対象外。
- *3;再処理施設に保管されているプルトニウムについては、Pu241の核的損耗を考慮した値。
- *4;四捨五入により1000kg単位に丸めた値。
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- *注: 「民生原子炉施設における使用済燃料に含まれるプルトニウム」の定義が「民生原子炉施設から取り出された燃料に含まれるプルトニウムの推定量」となっているが、これは不注意の誤訳で実際は、「民生原子炉から取り出された燃料に含まれるプルトニウムの推定量」と言う意味。
参考
- 玄海3号機の定期検査実施状況 【玄海3号機 第13回定期検査】
発電停止 平成22年12月11日(土曜日)1時00分
燃料装荷:平成23年3月8日〜3月12日
- 玄海及び川内原子力発電所の定期検査中の取り組みについて 九州電力 2012年12月5日
今後、原子力規制委員会において、再稼働のための新しい安全基準を策定される予定であり、当面、定期検査の状況が続くものと考えられます。
この状況を踏まえ、当社の全プラントについて、原子炉に装荷した燃料を一旦取り出した状態で、安全対策や入念な点検を実施するなど、再稼働に向けて万全を期すこととしました。
なお、取り出した燃料は、使用済燃料ピットに保管します。
- 九州電力株式会社 玄海原子力発電所3号機 第13回定期検査における安全確保上重要な行為の保安検査報告書(平成24年度第4四半期, pdf) 原子力規制委員会 2013年3月
平成25年3月6日から平成25年3月11日にかけて、燃料取替えの操作が行われたことから、「燃料取替計画立案の実施状況」及び「燃料取替え作業の実施状況」について確認することとし、検査を実施した。
- 九電原発、6基から燃料取り出しへ 佐賀新聞 2012年12月06日
九州電力は5日、定期検査で停止中の玄海原発(東松浦郡玄海町)と川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の計6基の原子炉から燃料集合体を取り出し、使用済み燃料の貯蔵プールで保管すると発表した。原子力規制委員会が来年7月までに新たな安全基準を策定する予定で、再稼働のめどが当面立たないため、取り出して機器を点検する。
- 玄海原発3号機、燃料取り出しを公開 佐賀新聞 2013年03月08日
九州電力は7日、定期検査に入って2年以上停止している玄海原発3号機(東松浦郡玄海町)の原子炉から核燃料を取り出す作業を報道陣に公開した。作業は6日から始まり、11日まで24時間態勢で行い、プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料32体を含む計193体を使用済み核燃料の貯蔵プール(ピット)に移して保管する。・・・未使用燃料は80体(MOX未使用は16体)。未使用燃料の取り出しは異例。
- 国際プルトニウム指針の公表について 科学技術庁 1997/12/10