核情報

2006.11.10

核実験は失敗か小型化過程の一環か

反原発新聞11月号用原稿より
田窪雅文

 北朝鮮が10月9日に行った核実験は失敗だったのか。その判断は、北朝鮮が何を目指していたと考えるかによって異なる。

 地震波の測定値のばらつきや地質についての想定の不確実性などから実験の威力の推定はさまざまだが、TNT火薬換算で1キロトン以下だったとするのが一般的だ。米ソ英仏中の最初の核実験の威力は、20〜70キロトンだった。

 大きな爆発の政治的メッセージを狙ったものなら、今回の実験は失敗だ。核弾頭小型化を目指した学習課程の一つであったなら、相当のことを学んだ「半ば成功」とも考えられる。米国の専門家には後者の可能性を指摘するものがいる。

 例えば、軍縮問題の専門誌『アームズ・コントロール・トゥデー』のサイトで共同執筆論文(『世界』12月号掲載)を発表したリチャード・L・ガーウィンとフランク・N・フォンヒッペルだ。2人は、北朝鮮が中国に対し事前に4キロトンの実験を通告していたことに触れ、長崎原爆のレベル(約20キロトン)ではなく、ミサイル搭載を目指し、もっと小型で低威力の設計を実験していた可能性を指摘する。それでも、計画通りにはいかなかったようであり、そのために北朝鮮はまた核実験を試みる可能性があると見る。ガーウィンは、1950年以来、核兵器の開発・実験に関わり、最初の水爆の設計にも携わった。フォンヒッペルは、クリントン政権でホワイトハウス科学技術政策局の国家安全保障担当補佐官として米ロの核拡散防止協力に関わった。

 ローレンス・リバモア国立研究所の核実験担当ディレクターだったフィリップ・コイルは、ニューヨーク・タイムズのインタビューで、同じような可能性に触れ、「型破りに最初からフェラーリを欲しがって、結果的に[昔のフォード]モデルTに終わってしまったということかもしれない。」と述べている。

 ロスアラモス国立研究所名誉所長のジークフリード・ヘッカーも、4キロトン通告についての報道が流れる前のインタビュー(英文)で、小型化のための実験をした可能性を指摘している。

 1キロトンでは脅威にならないのだろうか。ガーウィンらは、1キロトンの原爆は、1平方マイル(約2.6平方km)の広さの地域の人々を殺し、それよりずっと広い地域の建物を部分的に破壊することができると強調する。ヘッカーも「何千人もが即死するだろう。そして、放射能のために、時間が経ってから多くの人が死ぬだろう。」と述べる。メリーランド大学公共政策学部長でクリントン政権時代に国防省で核態勢の見直しや北朝鮮問題に関わったスティーブ・フェターは、私信で、1キロトンの核爆弾は、米国最大の通常兵器100発分、もっと典型的な通常兵器の1000発分の人を殺す能力を持つと指摘する。実際に使うだろうとの主張ではない。

 2004年1月に寧辺を、03年8月に平壌を訪れたヘッカーは、北朝鮮は「40〜50kgの兵器級プルトニウムを所有すると推定する。一般的に言って一発に6〜8kgが必要だ。現在の再処理のペースから言って、毎年一発分ずつのプルトニウムを製造できるだろう。」と述べる。「科学・国際安全保障研究所(ISIS)」のデイビッド・オルブライトは、20〜53kgが分離済みと推定し、1発4〜5kgとすると4〜13発分になると分析して、そのほとんどあるいはすべてが03年以後に分離されたことを強調する。ブッシュ政権の「強硬策」が許したものだ。ヘッカーも03年を分岐点と見る。

 実験で一発分は減った。これ以上のプルトニウムの蓄積と二度目の核実験を阻止する行動と交渉が急務だ。



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