核情報

2007.12.11

米国国家情報評価、イランの核兵器計画2003年から停止

12月3日、米国の情報機関が、イランの核兵器設計・製造計画が2003年から停止していたとの判断を示す『国家情報評価』の要約(英文, pdf)を発表して、話題になっています。公表された要約部分の粗訳を載せました。米国『アームズ・コントロール・トゥデー』誌巻頭コラム「米国の対イラン戦略再考の時」(2007年11月号)の翻訳と合わせてご覧いだだければ、ブッシュ政権とアフマディネジャド政権の両方の問題が見えてきます。

参考:

イラン:核の意図と能力

2007年11月

主要判断

A.我々は、高い程度の確信を持って、2003年秋にテヘランはその核兵器計画(注)を停止したと判断する――我々は、また、中程度のあるいは高い程度の確信を持って、テヘランは、少なくとも、核兵器を開発するオプションを維持していると判定する。我々は、高い確信を持って、この停止と、申告済みのウラン濃縮計画を停止し、核不拡散条約(NPT)保障措置協定の追加議定書に署名するとのテヘランの発表は、主として、イランの過去の未申告の核関連作業の曝露から生じた国際的な監視と圧力の増大に対応してなされたものと判断する。

  • 我々は、高い程度の確信を持って、2003年秋まで、イランの軍事機関は政府の指示の下に核兵器の開発を行っていたと判定する。
  • 我々は、高い程度の確信を持って、停止は、少なくとも、数年間続いたと判断する。(しかし、この『評価』の他の場所で論じられている通り、インテリジェンス・ギャップのために、DOE(エネルギー省)及びNIC(国家情報会議)は、中程度の確信でのみ、これらの行動の停止がイランのすべての核兵器計画の停止を意味すると判定する。)
  • 我々は、中程度の確信を持って、2007年年央現在、テヘランはその核兵器計画を再開していないと判定するが、我々には、テヘランが現在核兵器の開発を意図しているかどうかは分からない。
  • 我々は、中程度から高い程度の確信を持って、イランは現在核兵器を持っていないとの判定を維持する。
  • 核兵器計画を中止するとのテヘランの決定は、我々が2005年以来判断していたほど、核兵器を開発するとの決意が強くないことを示唆している。計画が停止されたのは主として国際的な圧力に対応するものだったとの我々の判定は、イランは、我々が以前判断していたより、この問題に関して、影響を受けやすいのかもしれないということを示唆している。
  • 注: この『評価』においては、「核兵器計画」という言葉によって、我々は、イランの核兵器設計及び核兵器製造作業と秘密裏のウラン転換関連及びウラン濃縮関連作業を意味する。我々は、イランのウラン転換及び濃縮に関連した申告済みの民生用作業を意味しない。

B.我々は、低い程度の確信を持って、イランは少なくとも何らかの量の核兵器利用可能な核分裂性物質を輸入しただだろうとの判定を維持するが、現在も、中程度から高い程度の確信を持って、核兵器1個に十分な量を取得していないと判断する。我々は、イランが核兵器を1個あるいは核兵器1個に十分な核分裂性物質を外国から取得した――あるいは将来取得する――可能性を排除できない。このような取得を別とすれば、イランが核兵器を持ちたいと思えば、国内で十分な量の核分裂性物質を製造しなければならない――これについては、我々は、高い確信を持って、イランはできていないと判断する。

C.我々は、遠心分離濃縮が、イランが核兵器1個に必要な核分裂性物質を最初に製造することができるようになる道だろう――イランがそうすることを決めたとして――と判定する。イランは、その核兵器計画の停止の継続に関わらず、その申告済み遠心分離濃縮活動を2006年1月に再開した。イランは、2007年にナタンツに遠心分離器を設置して相当な進展を見せたが、我々は、中程度の確信を持って、イランはまだその運転に関して相当の技術的問題に直面していると判断する。

  • 我々は、中程度の確信を持って、イランが核兵器1個に十分なHEU(高濃縮ウラン)を製造する技術的能力をもつ最も早い時期は、2009年末だが、そうなる可能性は非常に低いと判断する。
  • 我々は、中程度の確信を持って、イランは、恐らく、2010−2015年の時間的枠のいずれかの時点で核兵器1個に十分なHEUを製造する技術的能力を持つと判断する(INR(国務省情報調査局)は、予見できる技術・計画面での問題のために、2013年前にこの能力を獲得することはありそうにないと判断する。)すべての機関は、この能力が2015年より後まで獲得されない可能性を認識している。

D.イランの機関は、核兵器を製造するために――その決定がなされた場合に――適用できるさまざまな技術的能力を開発し続けている。例えば、イランの民生用ウラン濃縮計画は継続している。我々は、また、高い確信を持って2003年秋以来、イランは民生及び通常軍事の用途を持つ研究・開発計画――その一部は核兵器用の限定的使用価値を持つ――を続けていると判定する。

E.我々は、テヘランが、そのオプションを検討する一方で無期限にその核兵器計画の停止を維持する用意があるのか、あるいは、その計画の再開を促す特定の締め切りあるいは基準を定めるのか、または、すでに定めているのかを確信を持って判断する十分なインテリジェンスを持っていない。

  • イランが、主として国際的圧力に対応して、2003年に計画を停止したとの我々の評価は、テヘランの決定が、政治的・経済的・軍事的コストに関係なく核兵器に向けた急進によってではなく、コスト・ベネフィット・アプローチによって導かれていることを示唆している。これは、国際的監視及び圧力の強化の脅しと、イランが安全保障と威信、地域での影響力に向けたゴールなどを他の方法によって獲得する機会とを組み合わせれば――イランの指導者らが、信頼できるとみなした場合――テヘランに対して、その核兵器計画の現在の停止を延長するよう促すことになるかもしれないことを示唆する。このような組み合わせがどのようなものであるかを特定することは難しい。
  • 我々は、中程度の確信を持って、イランの指導部に対し、最終的核兵器開発をあきらめるよう説得するのは――核兵器開発とイランの主要な国家安全保障及び外交目標との間に指導部の多くが恐らく見ているであろう関連、また、少なくとも1980年代末から2003年までの間、核兵器開発のためになされたイランによる相当の努力からすると――難しいと判断する。我々の判断では、核兵器の目標を放棄するとのイランの政治的判断のみが、イランが最終的に核兵器を製造しないようにできるのだろう――そして、このような決定は、その性質上、可逆的である。

F.我々は、中程度の確信を持って、イランは恐らく、核兵器1個分の高濃縮ウランの生産のために秘密施設を――その申告済みのサイトではなく――使うだろうと判定する。イランは秘密のウラン転換及びウラン濃縮活動を行っていたと示唆するインテリジェンスが増えているが、我々は、これらの努力は恐らく2003年秋の停止に対応して停止され、また、これらの努力は恐らく少なくとも2007年年央まで再開されていないと判断する。

G.我々は、高い程度の確信を持って、イランは2015年頃までは、核兵器1個に十分な量のプルトニウムを製造・再処理する技術的能力を持たないだろうと判断する。

H.我々は、高い程度の確信を持って、イランは、最終的に核兵器を製造する――イランがそう決定した場合――のに必要な科学的・技術的・産業的能力を持っていると判定する。



イランの核兵器計画に関するこの『評価』と2005年5月の評価の主要判断の主要な相違
2005年IC(情報機関共同体)評価 2007年国家情報評価(NIE)
高い程度の確信を持って、イランは、現在、国際的義務と国際的圧力に関わらず、核兵器を開発する決意を持っていると判定するが、我々は、イランが不動とは判定しない。我々は、高い程度の確信を持って、2003年秋にテヘランはその核兵器計画(注)を停止したと判断する。DOE(エネルギー省)及びNIC(国家情報会議)は、これらの行動の停止がイランのすべての核兵器計画の停止を意味すると判定する中程度の確信を持っている。我々は、中程度の確信を持って、2007年年央現在、テヘランはその核兵器計画を再開していないと判定するが、我々には、テヘランが現在核兵器の開発を意図しているかどうかは分からない。高い確信を持って、この停止は、主として、イランの過去の未申告の核関連作業の曝露から生じた国際的な監視と圧力の増大に対応してなされたものと判断する。中程度のあるいは高い程度の確信を持って、テヘランは、少なくとも、核兵器を開発するオプションを維持していると判定する。
我々は、イランがいつ核兵器1個を作りそうかを予測するに当たって、中程度の確信を持っている。我々は、2010年代の初頭から半ば以前にはありそうにないと判定する。我々は、中程度の確信を持って、イランが核兵器1個に十分なHEU(高濃縮ウラン)を製造する技術的能力をもつ最も早い時期は、2009年末だが、そうなる可能性は非常に低いと判断する。我々は、中程度の確信を持って、イランは、恐らく、2010−2015年の時間的枠のいずれかの時点で核兵器1個に十分なHEUを製造する技術的能力を持つと判断する(INR(国務省情報調査局)は、予見できる技術・計画面での問題のために、2013年前にこの能力を獲得することはありそうにないと判断する。)
イランは、今日までよりも急速で成功裏の進展を達成することができれば、2009年末までに核兵器1個に十分な核分裂性物質を製造することができる。我々は、中程度の確信を持って、イランが核兵器1個に十分なHEU(高濃縮ウラン)を製造する技術的能力をもつ最も早い時期は、2009年末だが、そうなる可能性は非常に低いと判断する。

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