核情報

2005.10.14

年末にミサイル防衛共同開発決定か──能力に関する議論もなく

年末に迫った二つの課題
 ミサイル防衛共同開発と六ヶ所再処理工場運転開始

 この年末に、核兵器に関係した重要な事態が日本で発生しようとしている。どちらも日本の、そして世界の将来に大きな影響を与えるものであるにもかかわらず、選挙の争点にならなかっただけでなく、国会でも真剣な議論がされていない。

 ひとつは、1999年から米国と進められてきた海上配備用ミサイル防衛システムの共同技術研究を2006年度から、量産・配備を前提にした開発段階に移行させる決定がなされようとしていることである。政府は、年末の来年度予算の確定の前に閣議と安全保障会議でこの方針を決定しようとしている。

 もうひとつは、青森県の六ヶ所再処理工場で実際の原発の使用済み燃料を使ったプルトニウム分離実験が始まろうとしていることである。試験という名前だが、07年の操業開始までにこの核兵器に利用可能な物質を約4トン(長崎型原爆500発分以上)抽出しようというものである。

 兵器は無から生じるわけではない。研究・開発や、製造能力・施設があって作られる。「唯一の被爆国」において上記二つの問題に関する議論があまりないことを外国の反核活動家らはいぶかしがる。

 海上配備ミサイル防衛システムは、特殊なレーダーを備えたイージス艦に搭載した迎撃ミサイルSM3を使って、飛んでくる弾道ミサイルを打ち落とすというもの。07年度末から導入が決まっている型の改善を試みるものである。8月31日に発表された防衛庁のミサイル防衛(MD)用予算案(1500億円)には、すでに開発段階の費用30億円が計上されている。またMDを武器輸出三原則の対象から外すことも昨年末に発表されている。だが新型システムの研究状況やすでに導入の決まっているシステムの能力についての技術的議論もほとんどなされていない。

 1998年に米国との共同技術研究を決めたときは、開発への移行・配備等については別途検討するということだった。日本政府は、2003年に、日本が研究に関わっているものより能力の劣るシステム(ブロック1)の導入を決めた。そもそもブロック1の技術的問題の解決を目指し、速度や機動性、敵弾頭の識別能力などを上げるためにブロック2の共同研究をしていたはずである。劣悪品を買わされる格好である。このときも、共同研究の開発への移行については別途検討となった。今回、この開発への移行が決定されようとしている。ブロック2の要素を組み込んだ迎撃実験は来年にならないと始まらないにも関わらずである。なし崩し的にことは進んでいる。

 現実的な実験も行われていないのに、日本では、もう能力が実証されているかのような主張が横行している。たとえば、石破茂元防衛庁長官は、その新著『国防』で次のように述べている。「実際のところ北朝鮮からミサイルが飛んできたとき、MDが迎撃できる可能性は、現時点でも6〜7割以上になると思います。」イージス艦の「段階で落とせる確率は非常に高いのですが、それでも撃ち漏らすことはあります。」「撃ち漏らしたものについては、地上に設置してあるPAC−3で落とします。これも落とせる確率が非常に高いので、二重の防衛システムによって、確率は相当に高くなります。」「アメリカは、ここにくるまで、MD開発に日本円にして約10兆円費やしています。納税者のお金を使って、そこまでやっているわけです。実際にハワイにイージス艦を浮かべてみて、弾道ミサイルを撃ち、そこからSM−3という迎撃ミサイルを撃つといった実験をしていました。何度か失敗していましたが、いまや9割以上の成功率になっています。」

 どこからこんな数字がでてくるのだろうか。約10兆円というのは、1983年のレーガン大統領のスターウォーズ構想以来米国がミサイル防衛研究開発全体に費やしてきた金額である。壮大な夢を追って多額の資金を投入したが、それに見合うものが何もできていないということである。

 レーガンの「夢」のような計画は変遷を遂げ、現在の計画の中心となっているのは、陸上配備のシステム(GMD)である。2002年12月、ブッシュ大統領は、04年にGMDを配備するようにとの指令を出した。同年11月の大統領選挙用だと見るのが一般的だ。能力は問わず、04年の9月段階で配備できるものを配備するようにとの命令である。当面の対象は、北朝鮮のミサイルである。この命令の結果、迎撃ミサイルがアラスカ州フォート・グリーリーに6基、カリフォルニア州バンデンバーグ空軍基地に2基配備されている。年末までにフォート・グリーリーにさらに10基配備する予定である。ただし、技術的問題のため、GMDの運用開始の宣言はされていない。

 そもそも訳に立たないものを今配備するのは無駄遣いだとして、元統合参謀本部議長(1985〜89年)のウイリアム・クロー大将を含む49人の退役将官グループが、2004年3月26日、GMDの配備延期を訴える大統領宛書簡を発表している。

 GMDの迎撃ミサイルは、ブースター・ロケットで「大気圏外迎撃体(EKV=体当たり装置)」を大気圏外に運び、EKVがロケットから分離して、EKVに装備された赤外線センサーを使って敵の弾頭を判別し、体当たりして破壊するという仕組みになっている。この際、さまざまな探知・追尾システムの情報を使って敵の弾頭の位置を特定する。ところが「ペンタゴンは、この非常に複雑なシステムが効果的で適切であるか否かを判断するのに欠かすことのできない運用実験」をちゃんとやっていないと書簡は指摘している。実際に配備されているシステムのロケットとEKVを組み合わせた実験は、まだ行われていない。現実とは非常に異なる「当たりやすい」条件の下での迎撃実験でも10回のうち5回しか当たっていない。しかも最後の成功は、2002年の7月のものである。同年12月の実験では、EKVがロケットから分離しなかった。昨年12月と今年2月の実験では、迎撃ミサイルがサイロから出ていくこともなかった。昨年12月の失敗原因は、コンピューターに送られた情報が多すぎたため、今年2月の場合は、サイロのアームが迎撃ミサイルを離してくれなかったためとされている。次の迎撃実験は、来年秋の予定である。

 2月の実験失敗のあと国防省によって任命された「独立検討チーム」が3月31日に出した報告書は、現在配備されているGMDは、「能力の基準にではなく、ホワイトハウスのスケジュールに合わせたもの」だと述べている。2003年3月、ピート・アルドリッジ国防次官は、石破元防衛庁長官と同じく、「有効性は、90%程度だ。」と述べている。実験の失敗を受けてか、今年7月、オーバリング・ミサイル防衛局長は、GMDは「ゼロよりいい確率で、向かってくる弾頭の迎撃に成功すると思う」と控えめだった。

 GMDが米国本土を長距離ミサイルから守ることを目指すものであるのに対し、海上配備ミサイル防衛システムは、イージス艦に搭載された迎撃ミサイルSM3を使って米国の海外の部隊や同盟国を短・中距離ミサイルから守るためのものである。原理的にはGMDと同じである。大気圏外では空気抵抗がないため、囮の風船も弾頭も同じように飛ぶから見分けがつきにくいという根本的問題もGMDと同様である。米国は、2004年10月から現在までに5基を取得しており、年末までに計8基になる予定である。07年末までに28基のSM3をイージス型巡洋艦3隻と駆逐艦8隻に搭載する。監視・追尾用イージス艦がさらに6隻使われ、ミサイル防衛用のイージス艦は計17隻となる。昨年から日本海に配備されている米国のイージス艦は、後者の目的のもので、GMD補完用である。日本は、保有している4隻のイージス艦を改修してSM3を搭載できるようにする計画である。

 SM3ブロック1の迎撃実験は、これまで6回行われ、5回成功したということになっているが、囮などの問題を無視しても、実際の「脅威」を想定した現実的な実験とは言い難い。標的になっているのは、宇宙空間でミサイル本体から分離されて飛んでくるはずの弾頭に似せたものではなく、弾頭の分離しないままのミサイルである。主として標的に使われているアリーズと北朝鮮のノドンの仕様の比較は次の通りである。射程(700km:1300km)。ロケット燃料が燃え尽きたときのスピード (約2.4km/秒:3km/秒)。長さ(10.5m以上:2m(弾頭長さ推定))。直径(最大1.3m:弾頭1m)。今年2月に行われた実験もやはりアリーズを使った同様の実験である。

 一方、PAC3は、イラク戦争で活躍したことになっているが、撃ち落としたのは射程150〜200キロメートル程度のミサイルである。それに、「犯人」がPAC3かその前身のPAC2か不明だが、イラク戦争では、PACシステムは、英国軍の飛行機を撃墜したり、米軍機に照準を合わせて発射態勢に入ったために、その米軍機から攻撃を受けたりしている。また、一つのユニットで半径30キロメートルほどの地域しかカバーない。こういうシステムを配備して、安全になったつもりになるのは危険である。

 石破元長官は、前述の著書で次のように述べている。「例えば、東京に弾道ミサイルが飛んできたとします。そのミサイルを撃ち落とす確立を9割としたとき、MDの『効果』はどう算定するのでしょう。」何百兆という金や数多くの人命が失われる。「そんなときに『費用対効果』なんて議論をするのはどうかしているのではないかと思います。」勝手に9割という数字を使っての恫喝である。しかし「国の財政が厳しい中で多額の予算を注ぐからには、共同開発の必要性や費用対効果の見通しなど、よほど丁寧に国民に示さなければならない。」という神戸新聞(05年6月8日)の社説の方が説得力がある。

 MDは防衛のみを目的とする盾だと日本は主張するが、外国は米国の矛と合わせてみる。また、敵ミサイルの発射の情報をいち早く得るには、米国の早期警戒衛星の情報に頼るしかない。つまり米国のシステムと一体化するということである。また、米国では、他国の軍事用衛星を破壊する技術を開発して宇宙の軍事利用の優位を保つべきだとの議論もある。日本はMDの導入によって米国のこのような政策に巻き込まれるのか。これらの問題、MDの導入が他国に与える影響、上述の有効性の問題など議論すべきことは多い。

 六ヶ所再処理工場は、非核保有国としては初めての商業用規模で、年間8トンもプルトニウムを原発の使用済み燃料から取り出す計画だ。長崎型原爆1000発分に当たる。政府自身が経済性が無いと認めているこの施設が運転を開始してしまえば、核武装の意図を持った他の国が平和利用の名の下に同様の施設をつくる際の口実になってしまう。生産量の1%ぐらいは、「行方不明」になっても、計算・計測上の問題なのか、国家が隠しているのか、テロリストが盗んでいるのか分からない。また、核物質の製造能力を持ってしまった国が、突然、核不拡散条約(NPT)を脱退して核武装に向かう可能性がでてくる。つまり、六ヶ所工場が世界的核拡散の扉を開く可能性があるということだ。

 2000年のNPT再検討会議以後に起きた北朝鮮やイランの核疑惑問題、闇市場の発覚、米中枢同時テロなどを背景に、核兵器の材料を作ることができるウラン濃縮工場や再処理工場の建設凍結を求める声が高まっている。今年5月の再検討会議でも原子力推進と核拡散防止の番人の両方の役目を担う国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長やアナン国連事務総長が、ウラン濃縮と再処理のモラトリアムや規制の強化の必要性を訴えた。5月5日には、アメリカのNGO「憂慮する科学者同盟(UCS)」が、日本に対して六ヶ所再処理工場の稼動の無期限延期を求める要請文を発表した。要請文には、4人のノーベル賞受賞者やウイリアム・ペリー元国防長官を含む米国の専門家ら27人が署名している。5月24日には、世界各国の平和団体の代表者など約150人(現在約180人)が署名した同様の要請書が発表された。後者には、先日亡くなったロートブラット・パグウォッシュ名誉会長も6月13日に署名している。氏の遺言となった。残された時間は少ない。六ヶ所再処理工場についても国会内外での活発な議論が必要である。

(『軍縮問題資料』2005年11月号用原稿)


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