核情報

2009.10.13

東欧ミサイル防衛計画変更は平和への道か?
 新計画で推進のイージス艦システムも問題──米専門家ら指摘

オバマ政権は、9月17日、東欧におけるミサイル防衛システムの配備計画を変更すると発表しました。ポーランドに地上配備の2段式の迎撃ミサイルを10基、チェコ共和国にミサイル防衛用のレーダーを早期に配備すると言う当初計画の代わりにイージス艦配備のSM3を基礎とするミサイル防衛システムを導入するとしています。この新しい計画の問題点を米国の憂慮する科学者同盟(UCS)の二人の専門家が核問題の専門誌のサイトで論じています。

ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツのサイトに載ったこの記事(英文)で二人は、この決定は「米国のミサイル防衛政策が、技術的現実ではなく、国内政治に基づき続けていると言うことを示すものである」と論じています。日本がすでに配備しているSM3ブロック1や、共同開発を進めているSM3ブロック2に関わる話ですので、筆者らの許可を得て、全文を翻訳しました。

記事を見る前に、国防省の記者会見(9月17日)の説明を簡単にまとめておきましょう。

ロバート・ゲーツ国防長官は、計画の変更は、2006年12月にブッシュ大統領に決定を進言したときの根拠となったイランの脅威についての評価が変わってきたからだと強調しました。米国に届く大陸間弾道ミサイルの開発は遅れている一方、短・中距離ミサイルの開発が予想より速く進んでいるという説明です。それで後者に対処するためにSM3配備計画を急速に進めるということです。

米国が東欧2国との間に結んだ協定の批准がこれらの国々で遅れていることもあり、力点をSM3システムの早期配備に移す一方、当初計画のシステムの開発は進めると国防長官とジェイムズ・カートライト米統合参謀本部副議長は記者会見で述べています。北朝鮮やイランから3ー5発程度飛んで来るという話ではなく、数百発に対処しなければならなくなったと言います。二人によると開発・配備計画は次のようなものです。

参考




オバマのミサイル防衛計画における技術的欠陥


デイビッド・ライト及びリズベス・グロンランド 2009年9月23日

9月17日、オバマ政権は、潜在的なイランの弾道ミサイルの脅威に対処するヨーロッパ・ミサイル防衛システムに関し、待ち望まれていた決定を発表した。要するに、ブッシュ政権の大陸間弾道ミサイルに対する防衛計画を棚上げにし、その代わりに、もっと射程の短いミサイルを迎撃するためのシステムを配備するというものである。イランがこれらのミサイルの開発で、より迅速に進展を見せているからである。

ホワイト・ハウスは、ブッシュの計画をキャンセルすると言う点では正しい決定を行った。この計画は、数々の技術的・政治的問題を抱えていた。コースを変えたという点でホワイト・ハウスの決定は評価に値する。しかし、新しい計画の方も相当の問題を抱えているものであり、この発表は、米国のミサイル防衛政策が、技術的現実ではなく、国内政治に基づき続けていると言うことを示すものである。

ブッシュ政権が計画したシステムの配備を正当化する技術的な根拠は、間違いなく、何もなかった。ポーランドに地上配備の迎撃ミサイルを置き、チェコ共和国に巨大なレーダーを置くというものである。ポーランドに配備することを計画されていた迎撃ミサイルは、長距離ミサイルの攻撃から米国を守るためと言うことで現在アラスカとカリフォルニアに配備されている3段式のミサイルを2段式にした修正バージョンである。しかし、2段式の迎撃ミサイルは、まったく飛翔実験を行っていないものである。実は、3段式バージョンの方も、厳密な、現実的飛翔実験を経ていない。これまで行われた実験は、手順を詳細に決めたもので、現実世界の攻撃において迎撃システムが直面すると予想される現実的な「対抗手段」その他の面倒な問題を含んでいない。どちらのバージョンの迎撃ミサイルも、宇宙の真空状態でミサイルを迎撃することになっている。真空状態では、囮その他の対抗手段が極めて有効に働くだろう。

言い換えると、7月に科学会の重鎮らがバラク・オバマ大統領への書簡(英文)で述べたとおり、東欧に配備予定のシステムは、「実証されておらず、配備するメリットがない。防衛能力をほとんどあるいはまったく提供しないだろう。理論的レベルでさえそうである。」

それで、オバマ政権は、ヨーロッパに既存の艦船搭載のイージス防衛ステムを配備する計画である。これは、射程2000kmまでの短・中距離ミサイルを迎撃するために設計されたものである。計画によると、米国は、将来もっと長い射程のミサイルに対する迎撃ミサイルを開発・配備する予定である。

このアプローチの主要な技術的問題の一つは、イージスの迎撃ミサイルは(現在のものも計画中のものも)大気圏外でミサイルを迎撃するように設計されており、従って、囮その他の「対抗手段」に対して脆弱だということである。現在の地上配備の迎撃ミサイルと同じである。

ミサイル防衛についての決定を発表した記者会見において、ジェイムズ・カートライト海兵隊大将(米統合参謀本部副議長)は、「比較的確かだと思っている一つの点は、脅威は変わると言うことだ。私たちが相手にしているのは、ものを考える敵だ。そのことを認めなければならない。」と述べた。しかし、ペンタゴンは、ミサイル防衛に直面した「ものを考える敵」ならどれも、どんなミサイルを作るにしても囮を載せるだろうと言うことも認めなければならない。

オバマ大統領は、ミサイル防衛システムは、配備する前に「実証」されていなければならないと繰り返し述べている。そして、大統領が先週述べたところによると、イージス艦配備迎撃ミサイルを実証されたものと見なしている。しかし、大統領の「実証されたシステム」についての基準は、残念なことに、弱いものである。イージス配備の迎撃ミサイルは、最近の実験ではうまく行っている。しかし、対抗手段や、現実世界の条件の下では実験されていない。システムが効果的と見なすことができるようになるには、このような実験をまずしなければならない。

ヨーロッパにおけるミサイル防衛に関するオバマの転換は、短期的には、重要なものを達成した。安全保障面での協力の強化の前に立ちはだかっていた米ロ関係の大きな障害を取り除いたからである。その意味で、イランの潜在的脅威に対処する上での協力、それに、両国間の軍縮合意をロシア側から得やすくなったかもしれない。一方、イージス計画は、それ自身、安全保障上のマイナス面を抱えており、向こう10年、そしてその後に及ぶ重要な戦略問題を提起することになる。

2011年から、米国は、イージス艦をヨーロッパ海域に配備し、地上配備型の迎撃ミサイルの開発をする予定である。新しいシステムでは、ブッシュの計画の下でチェコ共和国に提案されていた大型の固定式レーダーを配備するのではなく、イージス艦のレーダーや移動型のXバンド・レーダーを含め、センサーのネットワークを使うことになる。

向こう10年から15年の間に、軍部は、イージス艦に、より大きく、より速い迎撃ミサイルを装備しようと考えている。米国が日本と協力して開発しているものである。推定によると、迎撃ミサイルの速度は──理論的には──大陸間の射程を持つミサイルを迎撃することのできるレベルに達する。ミサイル防衛に関する決定を発表した記者会見においてロバート・ゲイツ国防長官やカートライト大将が何度も述べた通り、長期的な目標は、移動式迎撃ミサイル及びセンサーの地球大的ネットワークを配備することにある。米国は、「この能力を常時継続する形で世界全体に配備し、どの戦域でも1度に1カ所なら急増するのに十分な数の艦船」を造るつもりだとカートライトは明確に述べている。

ブッシュ政権は、その地上配備のミサイル防衛システム、それに、計画していたヨーロッパのシステムは、登場しつつあるミサイル国家からの小規模の攻撃に対する防衛を意図したものであり、ロシアや中国は、心配することはないと主張していた。少数の迎撃ミサイルしか配備されないからと言う訳である。しかし、今や、何百ものイージス型の迎撃ミサイルが計画されていて、これに次世代の改良型迎撃ミサイルが続くということであるから、ロシア・中国の懸念を呼び起こすことになりそうである。

核弾頭を搭載した長距離弾道ミサイルが、核抑止に根本的に影響を与えるほど効果的になり、軍部がこれを信頼すると言うことには将来も決してならない。しかし、ロシアや中国の政策決定者らは──米国の政策決定者らの多くと同様──このような防衛の効果を過大評価したり、技術の現実を無視することを選択したりするかもしれない。従って、イージス迎撃ミサイルの数と能力が将来、相当な形で増大すれば、ロシアのタカ派は、ロシアの核兵器の意味のある削減や、核の脅威を減らすための他の措置に反対するために米国のシステムを利用するかもしれない。中国のタカ派は、さらに説得力を持って同様に論じることができるだろう。中国の核兵器の数はずっと小さいからである。従って、オバマのミサイル防衛計画が本当に米国とヨーロッパの安全保障にとって改善をもたらしたのかどうかは、時間が経ってみなければ分からない。


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